科学・政策と社会ニュースクリップ

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研究者の「能力」をどう測る?

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★発行部数 2,517部(9月15日現在)
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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.938 2021年9月15日号 巻頭言
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【巻頭言】
★科学者の「能力」とは何か?
2021年9月8日〜9月15日
カセイケン代表 榎木英介

 カセイケン代表榎木のコメントが毎日新聞に掲載されました。9月15日の1面に掲載されていますが、ウェブでも一部読めます。

大学教授ら「研究スキル売買」 サイトに118人、能力偽装の恐れ
https://mainichi.jp/articles/20210911/k00/00m/040/093000c

大学教授ら「研究スキル売買」 サイトに118人、能力偽装の恐れ
https://news.yahoo.co.jp/articles/8019a485805ec23bb5109f7b245c61d836fef305

研究スキル売買 8万円で購入した私立大教員の不安と背景
https://mainichi.jp/articles/20210911/k00/00m/040/097000c

 本来ならば研究室内で行われていた論文や研究の指導が「外部化」しており、金銭の授受もあるというものです。

 この記事が出たのち、ウェブでは様々な意見が聞かれました。意見の「振れ幅」はかなり広い感じです。

 ゴーストオーサーシップだろう、という声もある一方で、論文校正や研究室内での指導などすでにあったわけで、何が悪いのか、という声も聞かれます。

A ghost author speaks up
https://www.science.org/doi/10.1126/science.acx9027

Don’t make early career researchers ‘ghost authors.’ Give us the credit we deserve
https://www.science.org/content/article/don-t-make-early-career-researchers-ghost-authors-give-us-credit-we-deserve

 ゴーストオーサーシップは近年大きな問題になっていますが、グレーゾーンでもあり、これは大いに議論すべきだと思いますし、簡単な問題ではないと思います。

 日本のみならず、今世界で研究者のスキル売買は広がっており、「ギグエコノミー」として肯定的な部分もあれば、論文代行のように問題化しているものもあります。

米国人大学生の論文をケニアで書く 論文代筆ビジネス、いまやグローバル産業に
https://globe.asahi.com/article/12813245

フリーランス科学者の台頭
https://www.editage.jp/insights/the-rise-of-the-freelance-scientist

 私のコメントである「能力偽装」が記事のタイトルにも使われていますが、問題は食品偽装と同じトレーサビリティだと思っています。

 研究室内での指導は、研究室のメンバーに聞けば分かるかもしれませんし、論文の謝辞等に掲載されることもあり、どの程度がその人の貢献か分からなくはありません。

 しかしそれを無記名で外部化してしまうと、誰がどこまでやったか分からなくなって、「能力偽装」が起きてしまいます。

 とはいえ、実は研究室内でどれくら自分でやったかというのも、これまで「偽装」されてきたのではないかとも思います。

 指導がほとんどなされない「放置、放牧研究室」と、学生はデータ出すだけで、あとは周りがやってしまう「ブロイラー研究室」があることは、かつてここでも書いたことがあったかと思います。

 放置放牧されて頑張って出した論文と、システマティックに「サクっと」出された論文が同じように評価され、「サクっと」書いて論文量産した人がポジションを得ていく、といったことはこれまであった訳です。

 採用後、「サクっと」業績を量産してきた研究者がさっぱり、ということもあったでしょう。

 この問題は、研究者の「能力」をどう評価すべきかという大きな問題を問うていると思います。しっかりと議論していく必要があるでしょう。

Why science needs strong mentors
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02440-7

 放置放牧ラボにおける「メンター」とはなんでしょうか…。

コロナ専門家の五輪提言 科学的助言者の独立守って=原田啓之(くらし医療部)
https://mainichi.jp/articles/20210909/ddm/005/070/007000c

 かつてサイコムジャパンのメンバーであった旧知の流通経済大の尾内隆之教授や、科学技術社会論平川秀幸・大阪大教授のコメントあり。

 尾内教授は

政府は結論ありきで、結論に合う評価や助言だけを科学者に期待している

 平川教授は

日本は聞きたい専門家の声だけつまみぐいする政府の姿勢が問題だ。政府に都合の悪い助言も取り入れなければ、感染症対策を誤り国民は被害をこうむる

 と指摘。非常に重い課題です。結局それが日本学術会議潰しに繋がっているように思います。

日本学術会議の在り方に関する政策討議(第4回)
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20210909_2.html

任命拒否につながる首相の「説明しない」体質 元会長が語る舞台裏
https://mainichi.jp/articles/20210908/k00/00m/010/101000c

行き過ぎた「煽り記事」から距離を、新型コロナ報道の読み方
https://www.technologyreview.jp/s/255358/how-to-navigate-covid-news-without-spiraling/

「医師の発言」で接種不安拡散、有料サロンで誤情報…[虚実のはざま]第4部 深まる断絶<3>
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210912-OYT1T50076/

温厚だった妻、陰謀論の動画にはまり「まるで別人に」…[虚実のはざま]第4部 深まる断絶<4>
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210914-OYT1T50051/

真偽不明の情報・陰謀論の拡散、どう対処?専門家に聞く…[虚実のはざま]第4部 深まる断絶<5>
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210915-OYT1T50039/

 報道の姿勢や陰謀論の問題は大きな課題です。なお、読売新聞の指摘はその通りなのですが、部署は違えど「千人計画」陰謀論をなんとかしていただけたら。

留学生帰国時、6割の大学が技術持ち出し禁止の注意喚起せず…リスク意識の低さ明らかに
https://www.yomiuri.co.jp/national/20210914-OYT1T50334/

[あすへの考]【経済安全保障とインテリジェンス】先端技術は狙われている…前国家安全保障局長 北村滋氏 64
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20210911-OYT1T50180/

 北村氏は千人計画に言及し、中国の大学で研究すると「たちまち」軍事転用されるとしています。

 読売新聞の報道は、「規制寄り」と言いますか、デュアルユースをきつめに取りすぎるのと、仮定であれこれ言っているのが気になります。

 本来ならばもっと注意すべき先端技術を持った企業の問題ではなく、叩きやすい大学や基礎研究者を狙うというのは、いわば「やってる感」とでも言いますか、ついでに日本学術会議を「イエス」としか言わない組織に改組するネタに使っているのかなとも思ったりします。

 その先にはデュアルユース研究をもっと大学でやってほしいという意図があると思いますが、大学ではなく管轄の研究所に予算と人員を配分するといったやり方はあるはずなので、どうも「やってる感」、保守層アピール感が漂います。

中国への技術流出「3ルートで取り組み」 井上科技相
https://www.sankei.com/article/20210913-LMZYT6IHAVJ7ZD572OL2JRRUK4/

 井上大臣は比較的バランスの取れた意見。評価します。

正義のミカタ
https://www.asahi.co.jp/mikata/archive/

 9月11日にカセイケン代表榎木が出演させていただき、「技術流出」についてお話ししました。技術流出というより、人材流出で「若手研究者の絶望」がその背景にあるという話をしました。

ノーベル賞候補を中国の大学がスカウト、「日本の頭脳」漏洩が止まらないワケ
https://www.excite.co.jp/news/article/Asageibiz_33211/
https://asagei.biz/excerpt/33211

 なんとアサヒ芸能が私の考えそのままの記事を掲載しています。今やタブロイド誌の方が「忖度」しない分正しいことを言えるということでしょうか。

中国へ行きます
https://note.com/shigekomura/n/nd79139237bef

 安定した職を持っている研究者も中国に。これは大きい…。

日本の科学者が中国に流出するのは「日本に原因がある」=中国報道
https://www.excite.co.jp/news/article/Searchina_1701998/

 こちらは中国の報道。

 よく勘違いされ叩かれるのですが、私は決して「親中」のために千人計画参加の若手研究者叩きに反対している訳ではありません。その点が誤解されたままなのは辛いです。

科学技術政策担当大臣等政務三役と総合科学技術・イノベーション会議有識者議員との会合(令和3年度) > 議事次第 令和3年9月2日
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20210902.html

議題
1.女性研究者の活躍促進に向けた取組について

成績・所得不問。メルカリ山田氏創設の奨学金が女子中学生と保護者に伝えたいこと「理系を選ばないのはもったいない」
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6136b9fee4b05f53edab9921

Women less likely to win major research awards
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02497-4

Q&A: ‘Well-behaved women rarely make history
https://www.scidev.net/global/role-models/qa-well-behaved-women-rarely-make-history/

 女性の活躍をめぐる動きです。

科学技術関係概算要求 全体で8%増の4兆4704億円 文科省は16%増額要求
https://sci-news.co.jp/topics/5306/

世界と肩を並べる研究大学へ、政府が10兆円ファンドで支援する「特定研究大学」制度とは?
https://newswitch.jp/p/28764

世界と伍する研究大学の実現に向けた制度改正等のための検討会議(第1回) 配布資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/065/siryo/000017833.html

 10兆円ファンドは「正義のミカタ」で共演した高橋洋一氏が関わったようです。このファンドでしっかりとお金を出すようにした、とおっしゃっていましたが、「毒饅頭」のように、改革を強要されないことを願います。

日大本部など捜索 病院建設めぐり大学関係者の背任容疑 特捜部
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210908/k10013249571000.html

日大理事が不正に2億円超流出か 病院工事巡る背任容疑
https://www.chunichi.co.jp/article/327243

日大の背任事件、大阪でも捜索 医療法人グループの関係先 東京地検
https://www.asahi.com/articles/ASP996F6NP99UTIL02K.html

大学や理事長宅、係官らが次々と:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75580250Y1A900C2CM0000/

下関市立大学、暴走する経営執行部を教授が提訴…内部混乱で学生にも不利益及ぶ
https://biz-journal.jp/2021/09/post_249816.html

 これは私立大学のガバナンスをめぐる事件です。国立大学における執行部の「暴走」が起きないことを願いますが…。

イノベーション・ジャパン2021~大学見本市 Online
JST研究開発戦略センター(CRDS)セミナー
「日本と世界の研究開発は今どうなっているのか? ~激動の科学技術動向と日本の活路~」
https://www.jst.go.jp/crds/sympo/20210823_IJ/index.html

セミナー動画配信期間 2021年8月31日(火)~9月17日(金)

「医薬品産業ビジョン2021」の策定について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_20785.html

Preprint advocates must also fight for research integrity
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02481-y

5C 長崎大学の白楽ブログ盗用事件
https://haklak.com/page_kawai_plagiarism.html

 白楽さんのブログ記事のコピペが使われた問題。盗用なしとのこと。ちょっと甘すぎるのではないかと思いました。

大学生へのハラスメント 文科省、学内の第三者相談体制巡り初の調査
https://mainichi.jp/articles/20210907/k00/00m/040/165000c

 これは大学学部生の問題ではありますが、院生のハラスメントも問題です。

授業任すなら「直接雇用」に 大阪大の非常勤講師訴え 文科省も調査
https://www.asahi.com/articles/ASP995TRCP98PTIL031.html

 これは非常勤の是非ではなくて、労働者ではない業務委託契約にして責任回避しているというものです。非常勤講師が業務委託契約でなんの保証もないケースは最近問題になっています。

ペルー極左ゲリラの指導者死去 テロ繰り返し過去に日本人も犠牲に
https://news.yahoo.co.jp/articles/76cc703c017b835aeb63c7c74583e31d5a6fb9d3

 大学教授がゲリラに。「不遇」な知識人の暴走というのは、いつの時代も不安定化の要因ではあります。

学歴のない殺人犯の数学の能力が開花。刑務所内で超難問を解いてしまう
https://karapaia.com/archives/52305719.html

 映画「グッドウィルハンティング 旅立ち」を思わせます。

「食べていけない」 東京の難関大学で“博士号”を取った女性が、いまも派遣社員を続ける現状
https://urbanlife.tokyo/post/66599/

 博士号取得者の苦境。

 最近博士号取得者の苦境を訴えるときに、「東大を出たのに不遇」とか、「こんなに役に立つ人を不遇にしておくのはもったいない」、あるいは「不遇なエリートはゲリラや革命家になる」といったことをいうことの問題点と限界を強く感じています。

 確かに私自身も「博士漂流時代」でそのように述べた訳ですが、博士の苦悩の一部は「エリートの苦悩」でもあります。

 社会の様々な立場で苦しむ方々と連携するためにはどうすれば良いのか。

 能力主義を打ち出しすぎるると「能力がない人」「頑張っていない、頑張ることができない状況の人」を切り捨てることになります。

 どんな立場の人でも幸せに生きる権利はあり、その中で博士号取得者もその権利を行使したい、という形の連携が模索できないかと思っています。

 まあ、前から思い続けていることで、だからこそ18年前にNPO法人を立ち上げるとき、研究者の利益団体にはしなかった訳ですが。

Afghanistan: conflict risks local and global health
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02468-9

 タリバン政権の方向性が見えてきましたが…。

大望遠鏡TMT計画、許可が無効に 第2候補地スペインの裁判所
https://www.asahi.com/articles/ASP9946BHP97ULBJ00S.html

イグ・ノーベル賞公式サイト
https://www.improbable.com/

「歩きスマホ」は通行の流れをどう乱すのか…日本チームがイグ・ノーベル賞受賞
https://www.yomiuri.co.jp/science/20210910-OYT1T50056/

歩行者同士がぶつかる原因は? 日本の研究グループにイグ・ノーベル賞
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20210914_n01/

イグ・ノーベル賞 日本人15年連続受賞 「歩行者なぜ衝突」研究
https://www.sankei.com/article/20210910-YLBNL3DYJBK3NNTQCBUGDVCHF4/

WINNERS OF THE 2022 BREAKTHROUGH PRIZES IN LIFE SCIENCES, FUNDAMENTAL PHYSICS AND MATHEMATICS ANNOUNCED
https://breakthroughprize.org/News/65

COVID advances win US$3-million Breakthrough prizes
https://www.nature.com/articles/d41586-021-02449-y

ブレークスルー賞に日本人2人 京大の望月氏、東大の香取氏
https://mainichi.jp/articles/20210910/k00/00m/040/094000c

ブレークスルー賞に望月京大教授と香取東大教授
https://www.sankei.com/article/20210909-36J34VGU3ZKHVJ2CFIB64HJNYI/

 大きな賞に日本人。素晴らしいですが、日本スゴイに済ませてはいけませんよね。

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.938 2021年9月15日号 巻頭言
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