科学・政策と社会ニュースクリップ

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2つの「スクープ」から見えるもの

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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.975 2022年6月15日号 巻頭言
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【巻頭言】
★2つの「スクープ」から見えるもの

2022年6月7日〜14日
カセイケン代表 榎木英介

 最近科学関連のスクープを連発している毎日新聞の鳥井真平記者(科学ジャーナリスト賞受賞者)らが、今回もスクープを。

福井大教授が「査読偽装」の疑い 論文審査に自ら関与か
https://mainichi.jp/articles/20220610/k00/00m/040/114000c

 毎日の報道ののち、各社も報道しています。

「簡単なコメント頂けたら…」 査読偽装、指示はメールで
https://mainichi.jp/articles/20220610/k00/00m/040/119000c

査読偽装の疑い、さらに論文4本にも 福井大教授ら、不正が常態化か
https://mainichi.jp/articles/20220614/k00/00m/040/170000c

 すでにウェブでは出ていますが、問題の教授はメディアにもよく登場しており、私もテレビ番組を見たことがあります。査読という本来厳正であるべき行為が杜撰であれば、研究の妥当性が揺らぎます。

福井大・査読偽装「科学への信頼を揺るがす」文科相が批判
https://mainichi.jp/articles/20220614/k00/00m/040/078000c

 文科相、科学技術担当相も「もし本当ならば」とただしがき付きで批判。

 これに対し、一部ではなんでわざわざ記者はこういう質問をしたのだ、アカデミア内部の規範の問題で、内部で処理すべきものではないかという批判も耳にしました。

 その批判は分からない訳ではないですが、アカデミア内部の自浄作用には私自身あまり期待できないのではないかと思っており、難しい問題です。

 ところで、この偽装査読ですが、日本国内でなかった訳ではなく、最近問題になりつつあります。

https://blog.goo.ne.jp/lemon-stoism/e/e2d910b9b021ff7489e940194f05de11

 によれば、2012年の事件以来大きな問題になっているとのこと

https://blog.goo.ne.jp/lemon-stoism/e/bc13b0d5ecd701096779a30b0b2f42fc

 深刻な問題であり、無視するわけにはいきません。

 こうした不正が、アカデミアへの信頼を失わせていくことを、関係者は自覚すべきでしょう。

令和4年版 科学技術・イノベーション白書:文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa202201/1421221_00001.html

日本の研究力、国の強化策を読み解く 科技イノベ白書を公表 | Science Portal - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20220614_n01/

“科学技術立国実現へ投資推進”科学技術・イノベーション白書 | NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220614/amp/k10013670721000.html

論文数、日本は過去最低10位に 「状況は深刻」科学技術白書 - 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20220614/k00/00m/010/032000c

 長いので略しますが、科技イノベ白書が出ました。日本の研究の問題点を分析しています。

 Twitter上にもさまざまな意見が飛び交いましたが、現状分析が正しくても、果たして「10兆円ファンド」という「選択と集中」で良いのか、という声が聞かれます。

 私もまさに同意なのですが、こうした声が、いわゆる「アカデミア」の外には広がっていかないのが残念です。

3M、科学に対する意識調査 「ステート・オブ・サイエンス・インデックス」2022年版の結果を発表:時事ドットコム
https://www.jiji.com/jc/article?k=000000043.000040477&g=prt

調査結果の主なポイント(日本)
1. 日本での科学・科学者への信頼度が過去最高値に
2. STEM分野におけるジェンダー課題の実状と意識との間に差も環境問題への意識は高い一方で、環境に配慮した行動を「一切していない」と回答した人の割合は調査対象国中で最高値に
3. 環境問題への意識は高い一方で、環境に配慮した行動を「一切していない」と回答した人の割合は調査対象国中で最高値に

 科学、科学者は信頼しているけれど、その環境には興味がないということでしょうか。

 野球は好きで選手は応援しているけど、球団内部のドロドロはやめてくれ、みたいな感じでしょうか。

 アカデミアの問題を熱心に報じているのが朝日新聞なのですが、先週ある「スクープ」記事をめぐって批判が研究者サイドから噴出しました。

小惑星探査機「はやぶさ2」が持ち帰った砂から20種以上のアミノ酸
https://www.asahi.com/articles/ASQ6572ZQQ65TIPE002.html

 この記事ですが、2022年6月6日 5時00分に公表されています。関係者からの取材で分かったとされています。

 しかし、Science誌に掲載されたのが6月10日、いわゆるエンバーゴの前だったのではないかという指摘があり、エンバーゴ破りになっているのではないかと言われています。

 例えば岡山大学のプレスリリースを見てみます。

https://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id971.html
https://www.okayama-u.ac.jp/up_load_files/press_r4/press20220610-1.pdf

「報道解禁:令和 4 年 6 月 10 日(金)午前 0 時(新聞は 10 日朝刊より)」と書いてあります。

 エンバーゴに是非はあり、プレプリント時代に果たして意味があるのか、という指摘がありますが、一方、エンバーゴ破りは論文掲載取り消しにもつながり、決してメディアと雑誌社の問題ではないという意見も強いです。

 私自身、これはエンバーゴ破りで、誰かが売り込んだとしても、かつてのiPS細胞移植事件のように、前のめりな報道姿勢が業績偽装や株価操作につながるのではないかと懸念しています。

 ただ、Twitter上で、朝日新聞が悪い、とあたかもアカデミアの朝日新聞叩きになっているのはどうかなと思ってもいます。

 難しい問題ですね。メディアとアカデミアは良い意味での緊張関係が必要で、メディアは広報であってはいけないわけです。

 論文が掲載されたとしても、研究不正で撤回されることはあるわけで、要は論文レベルの新規性の時点で大々的に報道することの難しさという、科学報道が抱える問題にも行き着きます。

 今回の件で、一方的に「叩く」のではなく、良い対話ができればと思うのですが…。

 馴れ合いとも敵対とも違う緊張感もある健全な関係を作る…。なかなか難しいですが…。

QS World University Rankings 2023 : Top Global Universities | Top Universities
https://www.topuniversities.com/university-rankings/world-university-rankings/2023

世界大学ランク 日本は100位以内に5大学 東大23位(毎日新聞) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/eecb08a89e6b2d626b499be0c98143abb510dba1

 3大大学ランキングの一つ、QSのランキング。あまり気にしてはいけないものの、イギリスが高度人材呼び込みに使っているので無視もできません…。

 そのイギリスですが、Brexit以来の苦境を脱出するために、ああした人材呼び込みをおこなっているわけですが…。

UK scientists fear they will be locked out of e100 billion EU research programme
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01637-8

 ユーロ記号が出ないのでeとしていますが、EUから外れるということはこういうことですね…。

令和4年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書の公表について
https://www.env.go.jp/press/111155.html

「令和3年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書)」 が閣議決定されました
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220607002/20220607002.html

 白書のシーズンです。

「経済的困窮」よりも…コロナ禍で大学中退者が続出、その意外な理由
https://biz-journal.jp/2022/06/post_300516.html

 若い世代への負担は深刻です。親世代としてもなんとかしなければと思います。

感染症危機管理庁」新設、対応一元化 首相表明へ:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA141GX0U2A610C2000000/

「内閣感染症危機管理庁」設置など政府の危機管理強化策案判明 | NHK | 新型コロナウイルス
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220614/k10013671871000.html

「健康危機管理庁」の創設、岸田首相があす表明…感染症対策強化へ首相直属組織 : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20220614-OYT1T50032/

 入れ物を作って、果たして中身が伴うか…。そこはしっかりとみていきましょう。

尾身 茂 我々専門家は、言うべきことは言う「オネストブローカー」(中央公論) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/c9f53e48342c150127b3a86ca20f77e58d72e493

 専門家と政治家の関係も整理されていけばと思います。

No Reduction in COVID-19 Hospitalizations, Deaths with Ivermectin
https://www.the-scientist.com/news-opinion/no-reduction-in-covid-19-hospitalizations-deaths-with-ivermectin-70119

ノーベル賞受賞者が言ったから、イベルメクチンを「盲信」していいのか?(ニューズウィーク日本版) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/f1591f4274bd626e1c662e45c11f081a3500be68

 イベルメクチンが宗教のようになってしまい、非常に残念です。

厚労省データ 心筋炎リスク情報も不適格~新型コロナワクチン未接種扱い問題だけじゃない!2つの不適格データ問題を独自検証~
https://news.yahoo.co.jp/articles/0cf1122ab31210e8f5fd8bb14e8eec53e58e50e6

「十分な説明できず」厚労相が陳謝 ワクチン接種歴のデータ計上問題
https://www.asahi.com/articles/ASQ6G3VKZQ6GUTFL00K.html

 データの問題は大きな問題ですが、これも陰謀論に飲み込まれることなく、あるいは忖度することなく、冷静に論じるべき問題です。

サル痘感染者 世界で1000人超 追跡調査強化求める WHO | NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220609/k10013663791000.html

 WHOも緊急会議を行うようです。

サル痘巡り WHOが23日に緊急委 - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6429486

令和4年度公開プロセス特設ページ
https://www.gyoukaku.go.jp/review/kokai/R4/process_r4.html

文科省
https://www.mext.go.jp/a_menu/kouritsu/detail/block30_00055.htm

 現在進行中です。科学技術関連の事業もとりあげられています。あまり報道がないのが気になりますが…。

令和4年度公開プロセス配布資料
https://www.mext.go.jp/a_menu/kouritsu/detail/1417520_00002.htm

 6月7日に以下が行われています。

持続的な産学共同人材育成システム構築事業
イノベーションシステム整備事業

半導体の高度人材、九州は手薄 「弱い大学」返上なるか:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC026GU0S2A600C2000000/

シリコンアイランド 争奪1200人(中) 高度人材、育成力見劣り:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO61547850Y2A600C2LX0000/

初任給「月額28万円」も…関係者は驚き 人材争奪戦の半導体業界(西日本新聞) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/ec499bc5f5ff79d39bf641d6a63d245148a304be

 九州がいまホットな状況です。半導体人材は世界的に需要があり、人材の取り合いになっています。

京大への寄付金100億円突破 「研究力強化に」創立125周年(毎日新聞) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/e3a7eb4ad28ad9704a7a1bd3255fa5a09bdb8d09

 さすが京大くらいになると、という数字です。

サイエンス+エンタメで新境地
https://project.nikkeibp.co.jp/onestep/keyperson/00017/

 サイエンスコミュニケーションは「車輪の再発明」を繰り返している、という指摘があります。なんとか先人たちの残したものを次世代につなげていけばいいのですが。

Science must overcome its racist legacy: Nature’s guest editors speak
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01527-z

Chile’s Indigenous peoples seek fairer partnerships with scientists https://www.science.org/content/article/chiles-indigenous-peoples-seek-fairer-partnerships-with-scientists

‘Helicopter research’ comes under fire at Cape Town conference https://www.science.org/content/article/helicopter-research-comes-under-fire-cape-town-conference

若手研究者の環境整備で先鞭付けた産総研、理事長が明かす「博士型任期付研究員制度」廃止の背景|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社 https://newswitch.jp/p/32457

 最初から無期雇用にした産総研。セレクションをどこでするかの問題ですね。

「ブルシット・ジョブ」との決別 大学をやめた学者が語る学びの作法
https://www.asahi.com/articles/ASQ6661FHQ5TULEI00G.html

 在野研究者の在り方。

博士号取得でも人文系は2割の人が年収200万円未満?悲観論の嘘と現実
https://biz-journal.jp/2022/06/post_301284.html

 博士課程進学者が減っているのは日本だけではないといった指摘もあり、楽観でもなく悲観でもない、現実的な対応が必要ですね。

As professors struggle to recruit postdocs, calls for structural change in academia intensify
https://www.science.org/content/article/professors-struggle-recruit-postdocs-calls-structural-change-academia-intensify

Industry versus academia - a mid-life career switch
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01624-z

 日本でもミドルエイジ以降のキャリアチェンジは大きな課題で、メンバーシップ型ではない雇用を中心に、具体例を積み重ねていかなければなりません。

研究者 刺激し合って知恵を…理化学研究所 五神真・新理事長 : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/science/20220611-OYT8T50062/

 どうも雇い止め問題を解決しようとする姿勢が見えません…。

そこが聞きたい:日本の基礎研究 ノーベル医学生理学賞受賞者・大隅良典氏 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20220614/ddm/005/070/007000c

 教授が楽しく研究していなければ、若い世代も進まないだろうという指摘。

 ただ、研究以外を「雑用」と称し馬鹿にしていても、問題は解決しません。

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.975 2022年6月15日号 巻頭言
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