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安倍政権の科学技術政策を振り返る

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         No.979 2022年7月13日号 巻頭言
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【巻頭言】
★安倍政権の科学技術政策を振り返る

2022年7月6日〜7月13日
カセイケン代表 榎木英介

 まだショックが治まりません。

日本学術会議会長談話「安倍晋三内閣総理大臣に対する銃撃事件について」(PDF形式:105KB)
https://www.scj.go.jp/ja/head/pdf/20220709.pdf

 先週金曜日に発生した安倍晋三元首相銃撃事件。民主国家で政治家が白昼堂々殺害されるという事件の衝撃は、世界にも広がりました。

 犯人の背景についていろいろ報道もされていますが、ここでは触れません。

 殺害を肯定することは一切できないということははっきりと言っておきたいと思います。

 一方で批判を一切許さないというのもおかしい話ですし、逆に功績に触れるのもいけないというのも問題があります。人には功罪があるのは当然です。

 SNSではその辺りがぐちゃぐちゃになっている感じがして、残念です。

 ここでは、追悼の意味も込めて、安倍政権の科学技術政策を考えてみます。

 すでに安倍首相退陣の時にこのメルマガでも触れています。

https://clip.kaseiken.info/entry/2020/09/01/204145

 最初の安倍政権のことは上記記事では触れませんでしたが、同じ高校出身の黒川清氏をアドバイザーにして「イノベーション25」を作ったことは記憶にあります。
https://www.cao.go.jp/innovation/

基調講演
「長期戦略指針『イノベーション25』これからの日本と世界」
https://www.jst.go.jp/crds/sympo/gies2007/symposium/materials/summary/Summary_Kurokawa_ja.pdf

 この「イノベーション」へのこだわりが、2012年からの2度目の安倍政権に引き継がれたということでしょうか。

 この「イノベーション」とは何か。イノベーション25には以下のように記されています。

イノベーションとは、技術の革新にとどまらず、これまでとは全く違った新たな考え方、 仕組みを取り入れて、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことである。

 そして安倍政権末期の2020年、科学技術基本法は科学技術・イノベーション基本法に改正されました。

https://www8.cao.go.jp/cstp/cst/kihonhou/mokuji.html

 総合科学技術会議も頻回に開催され、科学技術政策に関心が高かったのは間違いないところです。

 しかし、問題は「司令塔機能の強化」によるトップダウン

ImPACT
https://www8.cao.go.jp/cstp/sentan/about-kakushin.html

PRISM
https://www8.cao.go.jp/cstp/prism/index.html

SIP
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/index.html

ムーンショット
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html

 といったトップダウン、課題解決型の大型予算がいくつも走りましたが、国立大学の運営費交付金の配分にインセンティブを設けるなど、大学や研究機関、そして研究者が常に競争にさらされ、疲弊していきました。

 総合科学技術会議(のちに総合科学技術・イノベーション会議)の議員も産業界寄りの人が多く、基礎研究を中心とした現場の声を聴くという感じではなかったように思います。

 決してトップダウンが全て悪いというわけではありませんが、もう少し裾野を広げる方向にも目配りしていたらと思わざるを得ません。

 産業政策の下部構造としての科学技術政策ですね。それはそれで一つの方向だとは思いますが、途上国型の開発重視の科学技術という感じでした。

 デュアルユース研究に関しては、防衛設備庁の

安全保障技術研究推進制度
https://www.mod.go.jp/atla/funding.html

 が開始されたことが大きいですね。これに伴い、日本学術会議が声明を出し、さらに任命拒否問題につながっていったことが記憶に新しいところです。

 任命拒否もそうですが、「反日的」とされる研究に対する批判といった、アカデミアの自律に手を突っ込んできた、あるいは時に乱暴な非難が起こるようになったのも、トップダウン重視の間接的影響のように思います。

 こうした流れの中に今の日本の研究が置かれた状況があるわけです。もちろん、必ずしも安倍首相だけがイニシアチブをとったわけではありません。その辺りはしっかりと区別していくべきではありますが、全否定でも全肯定でもないリアルで地に足のついた評価が不可欠だと思います。

Mass layoff looms for Japanese researchers
https://www.science.org/content/article/mass-layoff-looms-japanese-researchers

 サイエンス誌が理研などの雇い止め問題を取り上げました。私(榎木)のコメントも出ています。

日本の研究者雇い止め「深刻」/『サイエンス』誌が報道/田村智子議員の質問を紹介
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik22/2022-07-13/2022071314_01_0.html

 こうした中、日本学術会議が幹事会声明を出しました。

日本学術会議幹事会声明「有期雇用研究者・大学教員等のいわゆる「雇止め」問題の解決を目指して」(PDF形式:263KB)
https://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-25-kanji-3.pdf

 ちょっと遅いし、これからやります、という声明ではありますが、是非これからしっかりと取り組んでいただけたらと思います。

「科学技術立国」(5) 榎木英介・一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事 2022.7.13
https://youtu.be/rlwXp1LfJfM

 雇い止め問題に関しては、昨日(7月13日)日本記者クラブでお話しさせていただきました。よろしければご覧ください。

 この問題を曖昧なまま放置してはいけません。立場を問わず、解決を目指して動いていきましょう。

揺らぐ「科学技術立国」 不安定雇用の若手研究者が増加 参院選でも振興策が論点に:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/amp/article/187902

「科学技術立国」掲げるのに研究者の雇用不安定 「学生に勧められない」:中日新聞Web
https://www.chunichi.co.jp/article/503520

中国に流出する日本の頭脳、研究環境求め 人材・資金難で大学は疲弊(京都新聞) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/0f3262eab5dfcbfb63777eef070addf09da4a008

中国へ、米国へ…流出する頭脳、資金力なく見放される日本
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00478/062900004/

 参院選終了。直前にはYahoo!ニュース個人に記事を書いて各党の政策を比較しました。

参院選直前~各党の科学技術政策は?(榎木英介) - 個人 - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/20220709-00304734

 昨日の日本記者クラブの会見で、どうして各党とも研究者支援をいうのに実現しないのか、という質問を受けました。

 それは研究者支援という大きな部分では一致しても、誰を支援するかで意見が分かれるからではないかと思います。

 しかしながら、合意の形成の余地はあるわけで、希望の光の一筋だと思います。

<社説>研究論文の不正 学術界は再発防止急げ:北海道新聞 どうしん電子版
https://www.hokkaido-np.co.jp/sp/article/702618

記者の目:福井大教授の学術論文「偽装」疑い 査読不正防ぐ国の指針を=鳥井真平(東京科学環境部) | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20220706/ddm/005/070/005000c

 鳥井記者のスクープで査読偽装が広く認知されるようになりました。

 アカデミアの自律に期待したいところですが…。

御嶽山噴火で夫亡くした女性 気象庁に「責任感も力もなかった」(毎日新聞) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/e7aeac3a61b9e9c9f375383715f6fef4ad52a88e

 気象庁の判断が問われた裁判。火山の専門家の育成や、気象庁の予算といった部分の問題でもあり、科学が問われた裁判でもあります。

佐賀県みやき町におけるヒアリの確認について
https://www.env.go.jp/press/press_00224.html

本件は、中国南沙港を出港し、博多港で陸揚げされ、陸路で佐賀県みやき町の事業者敷地に搬入されたコンテナ内において、ヒアリ約100個体が発見されたものです。なお、荷下ろし中に作業員2名に刺傷被害がありましたが、健康上の支障は生じていません。

 とのことです。刺された作業員の方々がご無事でなによりです。

【ザ・インタビュー】理系人間よ、メディアに来たれ 同志社大助教 桝太一さん著『桝太一が聞く 科学の伝え方』
https://www.sankei.com/article/20220710-LE2IBJORNFPHZDR73BOKRQNN3U/

 桝さんが科学コミュニケーションに軸足を置いたことは大きく、まさに「マス」対象に声が届きやすいでしょう。

小学6年生の「将来就きたい職業」 | kuraray
https://www.kuraray.co.jp/news/2022/220707

小6「将来就きたい職業」 1位は「スポーツ選手」 男女とも人気上昇 =クラレ調べ=
https://ict-enews.net/2022/07/11kuraray/

 研究者もそこそこ上位に。

Bullying in science: largest-ever national survey reveals bleak reality
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01837-2

 アカデミアのいじめ問題を取り上げた調査。女性、大学院生が被害に遭っています。この問題の直視を。

Inclusion doesn’t lower standards
https://www.science.org/doi/10.1126/science.add7259

 サイエンス誌の巻頭言。

Biden reveals Webb telescope’s reach with first picture of thousands of galaxies
https://www.science.org/content/article/biden-reveals-webb-telescopes-reach-with-first-picture-of-thousands-of-galaxies

 大統領自らが歴史的研究成果を発表。

Draft bill would ban CDC, NIH from funding lab research in China
https://www.science.org/content/article/draft-bill-would-ban-cdc-nih-funding-lab-research-china

 中国との関係に苦慮するアメリカ。

Scientific conferences mull relocating over abortion access
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01884-9

 先ほどの判決の余波。

Memo to Boris Johnson’s successor: tell the truth, respect evidence and restore trust
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01894-7

 ジョンソン首相辞任表明。そのイギリスですが、EUとの離別で研究環境が悪化。

EU Cancels Funding for UK Researchers in Ongoing Brexit Fallout
https://www.the-scientist.com/news-opinion/eu-cancels-funding-for-uk-researchers-in-ongoing-brexit-fallout-70200

Why the party is over for Britain’s Research Excellence Framework
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01881-y

We built a science institute from scratch
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01902-w

Russia’s war in Ukraine forces Arctic climate projects to pivot
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01868-9

 戦争は続いています。研究への影響もじわじわと。

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.979 2022年7月13日号 巻頭言
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