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研究者大量雇い止めの論点

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★発行部数 2,519部(5月25日現在)
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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.972 2022年5月25日号 巻頭言
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【巻頭言】
★研究者大量雇い止めの論点

2022年5月18日〜25日
カセイケン代表 榎木英介

 これまでお伝えしている通り、労働契約法の特例による雇い止め問題は、4500人という対象者の人数も明らかになり、非常に深刻な問題であることが次第に明らかになってきました。

国立大など 4500人雇い止めの恐れ/非正規研究者 田村智子議員の追及で判明/参院内閣委| 「しんぶん赤旗
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik22/2022-05-18/2022051801_02_0.html

 報道もされるようになってきています。

国立大研究者、広がる雇い止めの不安 有期→無期雇用の節目に:朝日新聞デジタル
https://digital.asahi.com/sp/articles/ASQ5K6JY1Q5KUTIL02J.html

研究者ら大量雇い止め恐れ 非正規、令和5年3月契約終了
https://www.sankei.com/article/20220521-JEMOM3IQN5N7ZFMVKXDBPGD3L4/

「研究職600人雇い止め」理化学研究所に走る衝撃 | 動画 | 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/list/video/DredhGf_KdI

 文科省もこの点は認識しており、末松大臣も言及しています。

末松信介文部科学大臣記者会見録(令和4年3月29日):文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00255.html

一般論として申し上げますけれども、無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的で雇止めをしたとしたならばですね、これは、労働契約法の趣旨に照らして全く望ましくないという、私はそのように考えております。

 末松大臣が言われるように、まず大前提として、雇い止めは労働契約法の趣旨に反しています。

大学等及び研究開発法人の研究者、教員等に対する労働契約法の特例(無期転換申込権発生までの期間)に関する経過措置について:文部科学省
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/1410626.htm

無期転換ルールを避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではありません。また、有期労働契約の満了前に使用者が更新年限や更新回数の上限などを一方的に設けたとしても、雇止めをすることは許されない場合もありますので、慎重な対応が必要です。

 国立大学や国立の研究機関でこのような法の趣旨に反した行為が行われることは、非常に問題であると言わざるを得ません。

 その上で、もう一点指摘しなければならないのは、無期転換権が生じて申し出し、任期の定めのない雇用になったとしても、それは「終身雇用」ではないということです。

無期労働契約...無期労働契約の労働条件(職務、勤務地、賃金、労働時間など)は、別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一となります。別段の定めをすることにより、変更可能です。 「別段の定め」とは 、労働協約就業規則、個々の労働契約(無期転換に当たり労働条件を変更することについての労働者と使用者との個別の合意)が該当します。

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/h240829-01.pdf

より。

 いわゆるメンバーシップ型の「終身雇用」は、企業と労働者の契約上の問題で、定年まで雇い続けるという契約です。福利厚生の充実や年功序列的な給与体系とセットになっています。

 配置転換等に企業側の裁量がかなり強く入りますし、配置転換してでも雇用を作らないといけないので、解雇は簡単ではありません。

 任期の定めがないということと、終身雇用は似ているようで異なるわけです。

 一方、一旦任期の定めのない雇用に転換すると、解雇は簡単にされなくなります。

https://partners.en-japan.com/qanda/desc_977
https://kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201903297777.html

 それが法の趣旨ですから、当然ではあります。

 おそらく大学や研究機関は、簡単には辞めさせられなくなることを恐れているのだと思います。

 しかし、ここでなぜ研究者が10年の特例を付与されたかに立ち返って考えてみます。

 同じ研究施設に10年以上雇われているということは、5年のプロジェクト等の範囲を超えて重要な役割をになっているということになるわけで、それはその施設にとってエッセンシャルな存在であるということです。

 そうした10年雇用されているエッセンシャルな存在を、都合が悪ければ簡単に解雇して良いのですか、ということが問われるわけです。

 流動化と安定化は、研究者にとって常に論争であり続けています。

 たしかに「大した成果も出さずに雇用されている存在」の人を切って、次の人にチャンスを与えるべき、という声は根強くあります。

 しかし、10年も有期雇用を繰り返し、同じ施設で雇われ続けた人たちは、このカテゴリーには当てはまらないのではないでしょうか。ある種のセレクションに合格した人たちではないかと思います。

 まずは法の趣旨に反する雇い止めをやめ、法に沿った無期転換権の付与を求めます。

 これと同時に、さまざまな能力を持った人たちは、アカデミアを超えてさまざまな場でその才能を発揮してもらうのが、社会にとっても有益であると思います。

 私が残念に思うのは、労働契約法の特例ができて10年、今に至るまで、多様なキャリアの促進など、キャリア問題に冷淡でいた大学や研究機関の存在です。10年間何をやっていたのでしょう。

 残念ながらポジティブな形で社会に人材を送り出すという意識が乏しい施設がまだまだ多いように思います。それでいて、解雇できないのは困るといった組織の論理のみを押し出して「法の被害者」ぶったとしても納得いきません。

 4500人の雇い止めはなんとか阻止しなければなりませんが、アカデミアや政府は、その先を見据えて、当事者意識を持ってことに当たらなければなりません。

 正直私はアカデミアに不信を抱いており、自分でできることをやらなければと思っています。

 最近さまざまなスタートアップが、博士号取得者の人材活用サービスをローンチしていますが、それも同じ意識だと思います。

 もちろんアカデミアや若手の官僚の方々の有志の言動に希望も感じており、完全に絶望しているわけではありません。

 どうかこの問題を、自分ごととして考えていただけたらと思います。

 6月4日土曜日の夕方、日本共産党の田村智子参議院議員が、雇い止め問題の懇談会を開催します。

 雇い止め当事者に加え、私も発言の機会を得ました。

国立大学・研究機関における大量雇い止めについての Online 懇談会 参加登録フォーム
https://ptv.jcp.or.jp/survey/187352

 ご関心のある方はご参加ください。

岩手:ブラックホール次は動画 地域、大学連携にも意欲 国立天文台水沢VLBI観測所 本間所長に聞く : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/local/iwate/news/20220519-OYTNT50197/amp/

立民・原口氏「国立天文台応援ツイート」が大炎上、“事業仕分けブーメラン”炸裂! – SAKISIRU(サキシル)
https://sakisiru.jp/27820?s=09

「水沢観測所」が寄付目標突破 1千万円超、若手研究員の雇用へ | 岩手日報 IWATE NIPPO
https://www.iwate-np.co.jp/article/2022/5/20/116312/amp

ブラックホール撮影後押し 研究員雇用寄付1千万円超 水沢観測所 - 産経ニュース
https://www.sankei.com/article/20220520-6VO6M5J33ZLJLOTLQASJPY4ZKY/

ブラックホール撮影の国立天文台、若手「二刀流」に活路:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD13BGX0T10C22A5000000/

 国の政策に翻弄されている研究機関ですが、若手の雇用のために頑張っています。

 もちろん国の政策に意見を言うのは重要ですし、やり続けるべきですが、こうした当事者意識を持った研究機関が増えてほしいと思います。

教育未来創造会議「第一次提言」を受けたこれからの大学について(進学者のニーズや人材需要に対応するための学部再編と理系女子学生の活躍促進について):文部科学省
https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00270.html

 末松大臣。各方面に対する要望が書かれています。重要です。

理系に進む女性増へ、国が支援強化 偏見の排除・ハラスメント防止…具体策取
りまとめ
https://www.asahi.com/articles/DA3S15303436.html

詳細はこちらから。

統合イノベーション戦略推進会議(第11回) - 総合科学技術・イノベーション会議 - 内閣府
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/11kai/11kai.html

資料3-1Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ(案)(概要抜粋)(PDF形式:567KB)
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/11kai/siryo3_1.pdf

資料3-2Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ(案)(概要)(PDF形式:1500KB)
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/11kai/siryo3_2.pdf

資料3-3Society 5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ(案)印刷用一括版(PDF形式:2249KB)
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/11kai/siryo3_3print.pdf

分割版1(PDF形式:1977KB)
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/11kai/siryo3_3_1.pdf

2(PDF形式:1313KB)
https://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/11kai/siryo3_3_2.pdf

COVID lessons from Japan: the right messaging empowers citizens
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01385-9

天然痘に似た症状の「サル痘」が欧米などで拡大 厚労省、国内流入を警戒 | Science Portal - 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20220524_n01/

 サル痘の感染拡大が続いています。要注意です。

What’s sending kids to hospitals with hepatitis-coronavirus, adenovirus, or both?
https://www.science.org/content/article/what-s-sending-kids-hospitals-hepatitis-coronavirus-adenovirus-or-both

 小児の肝炎も要警戒です。

Tuberculosis Is the Oldest Pandemic, and Poverty Makes It Continue
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01348-0

 結核は病理医として診断することもまだまだ多く、重要な感染症です。

被爆者スライド標本データベース」を公開しました
https://www.hiroshima-u.ac.jp/rbm/news/70706

被爆者スライド標本データベース - 広島大学原爆放射線医科学研究所
https://rbm.hiroshima-u.ac.jp/

被爆直後の臓器標本を公開 広島大の研究所:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF20AP40Q2A520C2000000/

 被爆者の組織標本。貴重な資料です。

首相、防衛費「国防」の視点重視 科学技術など総合的に:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA20CCR0Q2A520C2000000/

クアッド4か国、5Gやバイオ技術で官民連携へ…「軍民融合」の中国に対抗 : 読売新聞オンライン
https://www.yomiuri.co.jp/world/20220522-OYT1T50237/

 やはり軍事、デュアルユース研究が政府の関心のようです。

「国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律」が成立
https://www.mext.go.jp/b_menu/activity/detail/2022/20220520.html

 文科省のページ。

論点:「大学ファンド」の是非 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20220520/ddm/004/070/006000c

 必読記事。

新しい資本主義実現会議(第7回)|内閣官房ホームページ
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/atarashii_sihonsyugi/kaigi/dai7/gijisidai.html

議事
(1)人への投資
   (賃金、人材育成、兼業・副業、男女間格差 等)

大学院部会(第105回) 配付資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/004/gijiroku/1422801_00005.html

議題

大学設置基準等の改正について
人文科学・社会科学系の大学院教育等について
「大学院における教育改革の実態把握・分析等に関する調査研究」及び「産業界における博士人材の活躍実態調査」の結果について
その他

議事次第 令和4年5月19日 - 総合科学技術・イノベーション会議 - 内閣府
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20220519.html

議題

研究に専念できる時間の確保について:URAの活用

大学発ベンチャー実態等調査の結果を取りまとめました
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220517001/20220517001.html

日本学術会議会長談話「アフマドレザ・ジャラリ博士の状況に対する深刻な懸念について」を公表しました。(令和4年5月18日)
>President’s Statement on “Grave concern about the situation of Dr. Ahmadreza Djalali”(PDF形式:96KB)
https://www.scj.go.jp/ja/head/pdf/20220518e.pdf

>日本学術会議会長談話「アフマドレザ・ジャラリ博士の状況に対する深刻な懸念について」(PDF形式:121KB)
https://www.scj.go.jp/ja/head/pdf/20220518.pdf

 全文引用しますが、非常に大きな問題です。

日本学術会議会長談話
「アフマドレザ・ジャラリ博士の状況に対する深刻な懸念について」
死刑執行が差し迫っていると伝えられる災害医学研究者であるアフマドレザ・ジ ャラリ博士の状況について国際学術会議(ISC)が表明した重大な懸念を共有し ます。国連の恣意的拘禁に関する作業部会がこの問題について採択した 2017 年 の意見を考慮し、ISC とともにジャラリ博士の死刑執行の停止を求めます。
令和4年5月 18 日 日本学術会議会長 梶田 隆章

 関連

アフマドレザジャラリ博士の処刑を停止する-国際科学会議
https://council.science/ja/current/news/halt-the-execution-of-dr-ahmadreza-djalali/

President Metsola calls on Iran to set Ahmadreza Djalali free | News | European Parliament
https://www.europarl.europa.eu/news/en/press-room/20220510IPR29210/president-metsola-calls-on-iran-to-set-ahmadreza-djalali-free

元司書が語る! 国立国会図書館の絶版本「読み放題解禁」がスゴい
https://diamond.jp/articles/-/303076

国立国会図書館の絶版資料などがネット経由で見れるサービス、本日提供開始(Impress Watch) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/757c1e973ba23f5c976a8993635f6355f1535302

 注目です。

Open access in low-income countries - open letter on equity
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01414-7

Nature journals raise the bar on sex and gender reporting in research
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01218-9

そこが聞きたい:広がる研究スキル売買 京都薬科大教授・田中智之氏
https://mainichi.jp/articles/20220524/ddm/005/070/007000c

Law, policy, biology, and sex: Critical issues for researcher
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abo1102

The Court is ignoring science
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adc9968

Australians vote for stronger climate action
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01445-0

 政権が交代したオーストラリア。

「復興のために学問を」 オンライン講義を再開したキーウの大学 | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20220523/k00/00m/030/213000c.amp

 復興を見据えています。

Frustration builds over lengthy delay in revamping Mexico’s science law
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01408-5

女性医師の3割「ワンオペ育児」経験 男性は1割未満 大学病院など(毎日新聞) - Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/eea76105274506ed3a007faec9bd746565fdd563

AJMC 一般社団法人 全国医学部長病院長会議
記者会見 2022(令和4)年5月17日(火)15:00~
男女共同参画に対する意識調査」結果及び「男女共同参画に向けての提言」について
https://ajmc.jp/news/2022/05/17/4354/

日米豪印フェローシップ創設記念行事の開催
https://www.mofa.go.jp/mofaj/p_pd/ep/page1_001191.html

このフェローシップは、昨年9月に開催された第2回日米豪印首脳会合において、これら4か国の教育及び人的交流に係る協力として発表され、今回その創設が正式に宣言されました。フェローシップは、日米豪印のSTEM分野(科学、技術、工学及び数学)の優れた人材各国25名(計100名)に対し、米国で修士・博士号を取得するための奨学金を授与するもので、シュミット財団が運営・管理を行います。

クアッド、安保色薄め共同声明へ 奨学金創設で合意:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA19C8Z0Z10C22A5000000/

クアッド4か国の大学院生対象の奨学金制度 官邸で創設記念行事 | NHK | 教育
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220524/k10013641691000.html

PhD students face cash crisis with wages that don’t cover living costs
https://www.nature.com/articles/d41586-022-01392-w

Ph.D. students demand wage increases amid rising cost of living
https://www.science.org/content/article/ph-d-students-demand-wage-increases-amid-rising-cost-living

 アメリカの大学院生が経済的苦境に。

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.972 2022年5月25日号 巻頭言
【発行】一般社団法人科学・政策と社会研究室
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