科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

「サイエンス・コミュニケーター」の課題

※Science Communication Newsは科学技術政策や科学技術コミュニケーションの動向を
ウォッチするメールマガジンで、毎週1回程度配信されます。
※詳しくは以下のサイトをごらんください。
http://www.kaseiken.org/活動/

※購読の登録、解除も上記サイトよりお願いします。こちらで代行はいたしませんので
※ご了承ください。
※以下でも随時情報を提供しています。
はてなブックマーク http://b.hatena.ne.jp/scicom/
twitter http://twitter.com/kaseikenorg
科学・政策と社会ニュースクリップ https://clip.kaseiken.info/
Yahoo!ニュース個人 https://news.yahoo.co.jp/byline/enokieisuke/

★発行部数 2,556部(2月23日現在)
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.910 2021年2月23日号 巻頭言
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【巻頭言】
★「サイエンス・コミュニケーター」の課題
2021年2月16日〜2月23日
カセイケン代表 榎木英介

 この15年ほど、科学コミュニケーションは注目されると同時に批判も受けてきました。

 私達がカセイケンの前身であるNPO法人サイエンス・コミュニケーションをたちあげたのが2003年。そのころは、科学コミュニケーションとは何か、説明しないと理解してもらえませんでした。

 このNPO法人は、私のように研究者のキャリアパスを考えてきた人間と、岩波書店の「科学」編集者だった林衛氏、そしてSTS科学技術社会論)に関わっていた文化人類学の春日匠氏、民間企業出身のT氏、アカデミアでポジションを得ていたD氏などが集まってできました。それぞれの出自が合わさったユニークな団体だったと思います。

 2005年に北大、東大、早稲田大が科学コミュニケーションに関する講座を開講します。この3校はそれぞれ特徴があって、ざっくりいうと(あくまでざっくりですが)、在野の科学コミュニケーターを育てる北大、科学者の科学コミュニケーション能力を高める東大、科学ジャーナリズムを担う人材を作る早大という感じでした。

 私たちはそれぞれの講座の関係者とのコミュニケーションを取りつつも独立して、科学コミュニケーションのあり方を考え、実践してきました。

 その後NPO法人サイエンス・コミュニケーションは分裂し、私達は任意団体サイエンス・サポート・アソシエーションを作ります。法人格を持たないので、単なるネット上のグループでした。アウトリーチ的な科学コミュニケーションの実践よりは、科学技術政策ウォッチや若手研究者のキャリアパス問題に重点を置いた活動が主体となりました。

 その中で出たのが「博士漂流時代」です。

 こうしたなか、2011年、東日本大震災が起こります。

 震災や原発事故を前に、北大などが育成した「サイエンスコミュニケーター」は全く役立っていないという批判を受けることになります。とくに低線量被曝の問題で割れた意見のなかで、厳しい批判を受けたわけです。

 あれから10年。新型コロナウイルスの感染拡大において科学コミュニケーションが再び脚光を浴びることになります。

★詫摩雅子×川端裕人 リスク対策の鍵・科学コミュニケーションの体制整備を急げ
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20210222-00010000-chuokou-pol

震災や原発事故の時はサイエンス自体が割れてしまって、一般には専門家に見える中で喧嘩っぱやい人たちがむしろ科学不信を広げてしまった。でもコロナでは少なくともコアな専門家たちも、未来館のようなボトムアップの側も、その轍を踏まなかった。それは長い目で見て、一つの希望の種です。

 新型コロナウイルスの科学コミュニケーションにおいて、早稲田大学の科学コミュニケーション教育を担った田中幹人さんが内部に入ったことは、ある種の連続性を感じます。

 一方で、震災でも今回の新型コロナウイルスでも、情報発信をするのは専門家ばかりで、「サイエンス・コミュニケーター」の存在感がない、という意見もあります。低線量被曝、HPVウイルスのワクチン問題も含め、厳しい論争の現場に「サイエンス・コミュニケーター」が入っていかないではないか、という不満の声が聞こえます。

外岡秀俊の「コロナ 21世紀の問い」(34)科学ジャーナリスト尾関章さんと考える「科学報道」の落とし穴
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20210220-00000002-jct-soci
https://news.yahoo.co.jp/articles/1204bec7dcd32dd3c75396bcf225c4c421c8b949

 科学報道に対する研究者サイドの不満もよく聞きます。科学をわかっていない、正しい情報を伝えていない、不安を煽っている…。

 博士号を持ったジャーナリストが必要だ、という声も聞きます。

 ただ、震災当初から思っているのですが、未来館にしても「サイエンス・コミュニケーター」と呼ばれる職は有期雇用の不安定な職が多く、あるいは在野やボランティアも多いわけです。

 仕事の内容もアウトリーチが中心であり、クライシスコミュニケーションやリスクコミュニケーションの専門家ではありません。

 そういう状況で、殺害予告さえ受けるような意見の分かれる「トランスサイエンス」、激しいコミュニケーションの場面に乗り込んでいかないと不満を述べるのはあまりに酷ではないでしょうか。

 博士号を持ったジャーナリストが必要と言っても、報道機関はメンバーシップ型雇用が多く、新聞社では科学部の力は弱いわけです。ではフリーランスになればよい、と言われそうですが、今フリーランスで生活していくことがどれだけ大変か、私は実際フリーランスになりましたので、よく分かります。マネタイズの問題があるわけです。

 口ではいくらでもいいこと言えますが、コミットもせず、具体的にどうするかを欠いたままの批判は、あまり建設的ではありません。

 金も地位も評価も与える気がないのに、成果だけ求めるというのは都合がよすぎやしないかと思います。

 記者の方のなかには、研究歴を持った修士号取得者などはいますが、メンバーシップ型の雇用のなかで、十分に能力を発揮することができず、また、出身の指導教員から敵扱いされるという苦しい状態になっている方もいます。

 「ダメ出し」だけでなく、よい事例を評価する「ポジ出し」だって必要なのではないでしょうか。

 記者の方のなかには、仕事のかたわら博士号を取得する人がいます。

 また、一部の分野では、報道関係者と研究者や医療関係者との懇談などを行なっているグループがあります。

研究者と市民の災害科学情報コミュニケーション
-特に学術とメディアの連携による社会発信に着目して-
https://irides.tohoku.ac.jp/media/files/earthquake/nankai_trough/IRIDeS_NankaiTroughReport_Apr2018_05.pdf

一般社団法人 メディカルジャーナリズム勉強会
https://medicaljournalism.jp

 こうしたいわば「身銭を切る」活動も重要ではないかと思います。

 また、サイエンス・コミュニケーターも報道も、研究者に都合のよいことだけを流す「広報」とは別物です。

 ときに厳しい批判だってあり得るわけで、そういう状況のときに「飼い犬に手を噛まれる」と思ったとしたら、それは違っていると言わざるを得ません。

★科学認識をめぐる論争とその裁定プロセスの問題について
https://blog.talktank.net/2021/02/blog-post.html

 意見が分かれる論争での合意を得るというのは、非常に難しい問題ですが、名誉を損なったり、心身に危険を及ぼすといった行為は言語道断です。SNS、とくにTwitter上ではどうしても厳しい言い合いになります。

 相互の尊厳は尊重した上で、それでも合意点を見つけていくことを諦めないでやっていきたいと思います。

鳥インフルエンザH5N8型 世界初のトリ→ヒト感染確認 ロシア
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210221/k10012878851000.html

鳥インフル「ヒトへの感染限定的も感染防止徹底図る」官房長官
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210222/k10012880151000.html

鳥インフルエンザH5N8型、初のヒト感染 ロシアがWHOに報告
https://jp.reuters.com/article/health-birdflu-russia-idJPKBN2AL0O7

鳥インフルH5N8亜型、ヒトへの感染を初確認。養鶏場の職員、軽い症状で全員回復(ロシア)
https://m.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_6033074fc5b67c32961e9ea9

 気になるニュースです。今のところ、ヒトヒト感染はまだないようですが、警戒は怠らないようにしたいと思います。

★「次期科学技術・イノベーション基本計画」の注目ポイントはここだ!
https://newswitch.jp/p/26038

DX・脱炭素が柱 6期科技計画、研究力高まるか
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGG142UN0U1A210C2000000/

★総合科学技術・イノベーション会議(第51回)議事次第 - 総合科学技術・イノベーション会議
https://www8.cao.go.jp/cstp/siryo/haihui051/haihu-051.html

★論文・特許のテキストデータを使った科学と技術の連関分析[DISCUSSION PAPER No.192]の公表について
https://www.nistep.go.jp/archives/46755

★Involve citizens in climate-policy modelling
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00283-w

九州大学高専に在籍しながら編入可能に
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC187OT0Y1A210C2000000/

★‘All my art is curiosity-driven’: the garden studio where art and physics collide
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00399-z

★新たな調査により、研究者が選好する論文のバージョンに関する知見を得る
https://www.natureasia.com/ja-jp/info/press-releases/detail/8832

★グーグル、有名なAI研究者をまたも解雇「私は完全に消され、チームは奪われてしまった」
https://ledge.ai/google0222/

GoogleがAI倫理研究チームを率いるマーガレット・ミッチェル氏を解雇
https://jp.techcrunch.com/2021/02/20/2021-02-19-google-fires-top-ai-ethics-researcher-margaret-mitchell/

三重大学 | 医学部附属病院におけるパワハラ事案について
https://www.mie-u.ac.jp/topics/university/2021/02/post-876.html

三重大病院の元教授を再逮捕 「オノアクト」の使用装って診療報酬受け取った疑い
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20210217-00000018-nbnv-l24

元教授、診療報酬詐取容疑 三重大病院汚職、3回目の逮捕
https://www.chunichi.co.jp/article/203955

汚職パワハラ・一斉退職…三重大病院に日本麻酔科学会が緊急立ち入り
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20210219-00020662-cbcv-soci

 三重大学旭川医大など、医学部のガバナンスが問われる事態が連発しています。

★<今 教育を考える> 大学院生のメンタルヘルス問題 日本学術振興会特別研究員・横路佳幸さん
https://www.chunichi.co.jp/article/203249/

 研究室の問題を指摘しています。

−精神面の支援で当事者が声を上げづらい点は。
 大学院の特殊な構造があります。「指導教員と院生」の関係は「会社の上司と部下」より、はるかに強い上下関係です。教員の判断次第で学位を取得できるか決まります。取得できないと勤め先も見つかりにくい。「こいつはダメだ」と烙印(らくいん)を押されると思うと言い出せません。懸念なく、指導教員の支援をいつでも求められる環境づくりが必要です。大学運営業務なども重なって多忙な指導教員の労働環境の改善も欠かせません。

★「給料ゼロ」コロナ診療担う大学病院の深い闇 タダ働きを強いられる医師たちの切実な声
https://news.yahoo.co.jp/articles/ca9eb4d0ca9ec3ded2e89291024d8756a378e94a

★横浜国立大 不正行為の男性教授を懲戒解雇
https://news.yahoo.co.jp/articles/ed6297f0081337b19ffd4da9f90261e841af7a3d

横浜国立大が教授を懲戒解雇 不当な成績評価などで
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20210219-00000581-san-soci

「多様な国籍の学生を入学させたかった」留学生入試で他の教員の評価点改ざん
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20210220-00050092-yom-soci

★医学部不正入試問う曲、未解読のメッセージ 35歳男性、つかんだ幸せと残る疑問
https://this.kiji.is/734671323197259776?c=39546741839462401

 話題になった動画の方のインタビュー。

★(ご講演)世界大学ランキングと研究力を測る指標(小泉周)
https://www.ruconsortium.jp/site/tf/479.html

★A year of virtual science conferences: how are you managing?
https://www.nature.com/articles/d41586-021-00447-8

★Mentors, don’t neglect scientific trainees. Treat them as you’d like to be treated
https://www.sciencemag.org/careers/2021/02/mentors-don-t-neglect-scientific-trainees-treat-them-you-d-be-treated

 良きメンターになることについて、日本では議論が足りないのかもしれませんね。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
“Science Communication News”
[SciCom News] No.910 2021年2月23日号 巻頭言
【発行者】一般社団法人科学・政策と社会研究室(担当 榎木英介)
【編集者】Science Communication News編集部
【E-Mail】 office@kaseiken.org
【Web Site】 https://www.kaseiken.org/
Facebookhttp://www.facebook.com/kaseikenorg
メルマガの登録解除、イベント告知依頼などは以下のページからお願いします。
https://www.kaseiken.org/活動/
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━