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No.1051 2023年12月20日号 巻頭言
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【巻頭言】
★アカデミアの自律性の危機
カセイケン代表 榎木英介
メルマガ本誌で鳥インフルエンザの政府発表をまとめ忘れましたので、貼っておきます。申し訳ありません。
野鳥における高病原性鳥インフルエンザ発生状況について (疑い事例、福岡県福岡市)
https://www.env.go.jp/press/111118_00143.html
野鳥における高病原性鳥インフルエンザ発生状況について (陽性確定、滋賀県米原市(野鳥国内66例目))
https://www.env.go.jp/press/111118_00142.html
野鳥における高病原性鳥インフルエンザ発生状況について (疑い事例、北海道広尾町)
https://www.env.go.jp/press/111118_00141.html
野鳥における高病原性鳥インフルエンザ発生状況について (疑い事例、北海道根室市)
https://www.env.go.jp/press/111118_00140.html
野鳥における高病原性鳥インフルエンザ発生状況について (陽性確定 佐賀県佐賀市(野鳥国内61例目))
https://www.env.go.jp/press/111118_00139.html
さて本題です。
国立大学法人法改正案は、政権が混乱する中止まることはなく成立しました。
国立大学法人法の一部を改正する法律が参議院本会議で可決、成立しました https://www.mext.go.jp/b_menu/activity/detail/2023/20231213.html
十六の附帯決議の内容が公開されていました。
どれも重要なことですが、吹けば飛ぶような附帯決議であることは極めて残念です。
以下に全文を紹介します。
特設国立大学法人法改正
参議院 文教科学委員会
• 国立大学法人法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(令和5年12月12日)(PDF)
https://www.sangiin.go.jp/japanese/gianjoho/ketsugi/212/f068_121201-1.pdf
国立大学法人法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
一、特定国立大学法人の指定については、恣意的な運用を防ぐため、理事の員数以外に、指標となる客観的 ・具体的基準を設定した上で、公正性・透明性を確保するため、その指定に至る過程を公開すること。
二、新設される運営方針会議について、学長選考・監察会議や経営協議会などの既存の組織との役割の違いや責任の所在を明確にし、現場に混乱を生じさせることなく、国立大学の競争力強化に資するガバナンス体制となるよう、制度の周知徹底を図ること。
三、運営方針会議の審議事項が、大学における教育・研究の内容や方法などのマイクロマネジメントにわたることがないように運用するとともに、教育・研究分野に係る組織の再編に関わる審議に当たっては、現場の教職員や学生等の意見を十分に反映させるよう努めること。また、議事録を公開するなど、審議における透明性の確保に努めること。
四、運営方針会議が国立大学法人の運営に関する重要事項を決定する権限を有する組織であることを踏まえ、 運営方針委員の選任において、ジェンダーバランスを始めとする委員の構成の多様性に留意し、その選定過程の透明性・公正性が担保される選任の在り方について検討を行うこと。また、政府職員の新たな天下り先とならないよう留意すること。
五、学外者を運営方針委員として選任する際には、運営方針委員が、高度な専門性のみならず、大学の自治や学問の自由に対する理解も求められることに留意するとともに、経営面が過度に重視され、大学における教育研究活動が軽視されることのないように留意すること。
六、運営方針委員の任命に係る文部科学大臣の承認に当たっては、これまでと同様大学の自治を尊重するための制度的担保の重要性に鑑み、当該国立大学法人からの申出に基づいた者について承認することとし、例えば、過去に政府の意に沿わない言動があった者等について、言論活動や思想信条を理由に恣意的に承認を拒否することのないよう、大学の自主性・自律性に十分に留意すること。万一、承認を拒否する場合 には、その理由について、当該国立大学法人及び広く国民に対し、丁寧に説明を行うよう努めること。
七、運営方針委員及び学長が忠実義務や損害賠償責任を負っていることの趣旨を周知すること。
八、長期借入金等の対象拡大及び土地等の貸付けの規制緩和については、大学の規模、立地、信用力の違いによって、国立大学法人間での資金面における格差が必要以上に広がることがないよう十分に留意するこ と。また、長期借入金の借入れ等に当たっては、その効果及びリスクを適切に評価し、国立大学法人としての財務状況の健全性を損なうことのないよう留意するとともに、土地の貸付けについては、不適切な利 用による土地の占有が長期化しないこと、大学における輸出管理体制を整備していることを文部科学大臣の認可の際に確認すること。
九、国立大学法人に特定、準特定、その他の大学等、新たな区分が創設されることによって、国立大学法人 間の分断を生じさせないこと。特に、運営方針会議の設置の有無によって、国立大学法人運営費交付金等の基盤的経費の配分に差を設けるなどの取扱いは行わないこと。
十、国立大学法人全体の自主性・自律性の更なる向上及び競争力強化を図る観点から、国立大学法人の運営 に必要な財源の確保については、本法で措置されることとなる資金調達方法の拡大等のための規制緩和に とどまることなく、更なる収益力の強化に積極的に取り組むこと。また、大学等の教育機関への寄附を促 進するため、寄附文化の醸成を図るとともに、税制の見直し等の環境整備を行うこと。
十一、高等教育の果たす役割の重要性に鑑み、大学ファンドによる国際卓越研究大学に対する助成のみならず、基礎研究をおろそかにすることのないよう、これまで措置されてきた国立大学法人運営費交付金等の基盤的経費が確実に措置されるとともに、競争的研究費を含む大学への資金が十分に確保されるよう、引き続き大学の長期的、安定的な運営及び研究基盤構築のための財政措置を講ずること。
十二、国際卓越研究大学の目的である世界最高水準の研究大学の実現を図るため、明確な数値目標を設定するなど、我が国の大学における国際競争力強化及びイノベーション創出に向けたビジョンの明確化、可視化を図ること。
十三、国立大学法人東京医科歯科大学と国立大学法人東京工業大学の統合による国立大学法人東京科学大学の新設に当たっては、統合に伴う負の影響を最小限にとどめるとともに、その効果を最大化できるよう、在籍する学生や研究者、受験生などの関係者への情報提供を適時適切に行うこと。
十四、我が国の研究力の強化を図る観点から、研究人材の育成を図る取組を促進すること。特に、研究人材 の門戸を広げるため、高等学校段階において文系・理系の選択が迫られる現状を改善し、文理融合に向け た総合的な教育課程の編成の支援に努めるとともに、多様性の確保に資するため、理系分野の学生、研究者等に占める女性の割合を向上させる取組を充実させること。
十五、地方創生の観点から大学の地域間格差を考慮することを前提に、世界的・地域的な課題解決や最先端 研究、イノベーションが起こる多様な大学を支援し、高等教育全体の規模の適正化を図ること。
十六、文部科学省は、公文書等の管理に関する法律に基づき、法令の制定・改廃及びその経緯等に係る公文 書を適切に作成・整理・保存する等により、現在及び将来の国民への説明責任を十分に果たすことができるようにすること。
右決議する。
国立大学法人法の一部を改正する法律案:参議院
https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/212/meisai/m212080212010.htm
閣法 第212回国会 10 国立大学法人法の一部を改正する法律案
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1DDA842.htm
せめてこの附帯決議をことあるたびに参照し、広めていくことが必要なのではないかと思います。
以下報道。
「日本が死んでいくのを感じる」裏金問題の陰で国立大学法人法が成立…説明不足するなか強引採決で高まる批判(女性自身) - Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/2b6c741f1a4a6ca9056a69d3a42706df5a012f1d
「運営方針会議」5法人に設置へ 国立大新制度、予算決定権(共同通信) - Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/356c3664fb3c6f2b56b0cd426210316a7456c5fd
稼げる大学はだめなのか 科学研究に「楽園」なく:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK111HO0R11C23A2000000/
「稼げる大学」批判は、すでに産学連携に勤しむ分野には響かなかったのかもしれません。
声明なども出ています。
国立大学法人法の改正に抗議し、改正案の廃案を求める声明 https://yoshidaryo.org/archives/seimei/3026/
声明文:大学私物化に立ちはだかる人垣をつくるために https://transuniversitynetwork.blogspot.com/2023/12/blog-post_15.html
これと同時に、日本学術会議の独立がほぼ決定しました。
第8回日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会資料 - 内閣府 https://www.cao.go.jp/scjarikata/kondankai/20231213shiryo.html
第9回日本学術会議の在り方に関する有識者懇談会資料 - 内閣府 https://www.cao.go.jp/scjarikata/kondankai/20231218shiryo.html
2回の会合が立て続けに行われ、独立方針が決定しています。
中間報告案
https://www.cao.go.jp/scjarikata/kondankai/20231218/shiryo3.pdf
本懇談会では、ブダペスト宣言の掲げる「社会における科学と社会のための科学」をどのように推進するかについて、学術会議がより積極的な役割を果たすべきという意見が多く聞かれた。
ブダペスト会議をここに出してくるのか、という感じではあります。
多様なステークホルダーとの連携・協働の拡大強化を可能とするような学術会議の取組が求められるところであり、現在の組織形態おいて運用上又は制度上の制約があるのではあれば、可能な限り除去されるべきである。
事務局機能を抜本的に強化するためには、博士号の学位取得者をはじめ、組織戦略の立案や政府・社会との調整等もサポートできるような人材をエキスパートとして高い能力や幅広い経験を有する者を積極的・弾力的に登用できることが望ましい。
本懇談会としては、学術会議の使命・目的を踏まえると、独立した立場から政府の方針と一致しない見解も含めて政府等に学術的・科学的助言を行う機能を十分に果たすためには、そもそも政府の機関であることは不適切であると考えられるし、会員選考の自律性の観点からも、海外諸国のように学術会議が選考した候補者が手続き上もそのまま会員になる仕組みの方が望ましいと考える。
学術会議の問題点の指摘には同意する部分がありますが、結論は独立です。
我が国の科学者を内外に代表するという他の団体にはない責務と特権を与えられ、現行法上その経費が国庫の負担とされている組織であることにかんがみれば、活動・運営を担う会員の選考を組織内だけに閉じたものとせず
そして…
学術会議の特殊法人化、政府が週内にも表明…会員選考の「独立化」明記 : 読売新聞 https://www.yomiuri.co.jp/politics/20231219-OYT1T50035/
年内、というか今週にも政府が方針を決定しようとしています。
国立大学法人法といい、学術会議といい、どうしてこうも急ぐのか。ヒントは以下の記事にありました。
「独立法人化」も日本学術会議に残る懸念 年間10億円の税金 軍事・防衛研究に反対の人文系に「不要な国費を流すな」(夕刊フジ) - Yahoo!ニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/6695c5bde364a5ee3e6eb5bdf121501903b1583d
経済安全保障アナリストの平井宏治氏は「国から独立させること自体は評価していいが、方法が問題だ。軍事・防衛研究に反対している『悪の巣窟』は人文系のグループで、ここに不要な国費が流れないようにしないといけない。日本の科学技術発達のため、生物学系や工学系のグループには適切な研究費を与える必要があり、それぞれ独立させるのがいいのではないか」と話した。
軍事研究に反対することを「悪」と述べるなど厳しい批判。
産経新聞本体も以下のように述べています。
学術会議法人化案 反省なき税金投入だめだ
https://www.sankei.com/article/20231218-D2KE5AU725IV3AGF4HEDWX2OOU/
学術会議は東西冷戦期に「軍事目的のための科学研究を行わない声明」などを出し、平成29年にその継承を宣言した。これらが、防衛力の充実に関する研究を妨害する動きに利用されてきた。「ナショナルアカデミー」として存続したいなら、過去の間違った言動の反省と声明の撤回は最低限必要だ。
軍事研究忌避を「間違った」ものとし「反省しろ」と批判。
政府の本音もこのあたりにあるのでしょう。
ただ、「解像度」が悪い主張ではあります。
軍事研究を大学にやらせる国は一部のみです。アメリカとて、あくまで「デュアルユース研究」なわけで、産経の主張は雑です。
研究の場は「普通の大学の中には置かない」,「キャンパスから離れたところでやる」というのが一般的なやり方で,セキュリティもかなり厳しくコントロールされています。
https://rihe.hiroshima-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2022/04/f53efee7c1f02162a29556629bf89b22.pdf
上記文章で小林氏は以下のようにも述べています。
もう一つ大きい問題として,政府には大学に対する過剰な期待があると思います。日本の大学は,ここ 20 年ぐらい,物的・人的に非常に疲弊しています。とても「組織的に安全保障研究ができる」状況にはない。要するに,軍事用途の研究ができるものではないという現実があります。
国立大学法人法を変え、日本学術会議を変え、軍事研究に道を開いたとしても、現実問題として現状とさほど変わらないとしたら、いったいどうなるのか。
残されるのは、外部に介入され、自律性を失った大学だけになるのではないかという気がしないではありません。
タイミングよく、COP28にあわせて国際科学会議(ISC)とインターアカデミーパートナーシップ(IAP)から声明が出ました。
Global Science Leaders ISC and IAP Issue Joint Statement on Protecting the Autonomy of National Academies of Science
https://council.science/current/news/joint-isc-iap-statement-academies/
国際科学会議(ISC)とインターアカデミーパートナーシップ(IAP)は本日、共同声明を発表し、各国の科学アカデミーの自治に国家が干渉する傾向が強まっていることに深い懸念を表明した。