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理研の雇い止め問題、ノーベル賞雑感

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         No.991 2022年10月5日号 巻頭言
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【巻頭言】
理研の雇い止め問題、ノーベル賞雑感

2022年9月28日〜10月5日
カセイケン代表 榎木英介

 雇い止め問題で揺れる理研。新方針を発表しました。

新しい人事施策の導入について | 理化学研究所
https://www.riken.jp/pr/news/2022/20220930_1/index.html

 報道などを見ると、これで解決するようにも見えますが…。

理研、研究者の雇用上限撤廃へ 通算10年超可能に:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO64745910Z20C22A9CT0000/

理研、研究者の通算雇用期間の上限撤廃へ 2023年4月に | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20220930/k00/00m/040/198000c

理化学研究所 任期付きの研究者の雇用継続めぐり対応策公表 | NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220930/k10013844491000.html

ジョブ型雇用と博士の問題は深く関連している : のとみいの日記
http://blog.livedoor.jp/shinkozo/archives/59776635.html

理研に迫る大量リストラは日本の雇用問題の縮図か
https://agora-web.jp/archives/221002020345.html

 しかし、以下の東洋経済オンラインの記事が示す通り、これは10年経ったというだけで一律に首を切ったあと、わずかな人だけ別のプロジェクトに再雇用するものであり、原則雇い止めの方向は変わっていません。

理研、大量リストラまで半年「4月1日」巡る攻防 | 教育 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
https://toyokeizai.net/articles/-/622546

迫る大量リストラ、理研研究者が募らせる危機感 | 教育 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
https://toyokeizai.net/articles/-/622563

 繰り返しになりますが、10年雇用され続けた人は、時間という厳しいセレクションを乗り越えた人たちであり、研究費を取得している人たちもいます。決して「無能な人が辞めなくなる」みたいな問題ではありません。

 人材を活かせない日本の問題です。

 もちろん研究者の流動性は重要ですし、理研の方針には評価できる部分もありますが、理研の場合は2016年に2013年に遡ってルール改正という問題もあります。それゆえ、研究費もあるのに首切りという問題が発生しているわけです。

 大学など他の大学にも多数の雇い止め対象者がいます。理研のみならず、研究者のキャリア問題として、正面から解決の道を探らなければなりません。

 裁判は続いています。

雇い止め前提、研究行えず…「科学技術力は衰退する」理研の研究者、地位確認など求める 対象は400人に
https://www.saitama-np.co.jp/news/2022/10/01/03.html

 ノーベル賞の自然科学3賞の受賞者が決定しました。

https://www.nobelprize.org/

The Nobel Prize in Chemistry 2022
https://www.nobelprize.org/prizes/chemistry/2022/summary/

The Nobel Prize in Physics 2022
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/2022/summary/

The Nobel Prize in Physiology or Medicine 2022
https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/2022/summary/

 日本人が受賞する、しないはメディアにとって、一般の人にとって大きなことだとは思います。一概には否定しません。とはいえ、サイエンスの中身ではなく人に注目が集まるのみの状況はなんとかならないとな、と思います。

 そういう意味で、沖縄科学技術大学院大学(OIST)に注目が集まっているのは新しい現象だと思います。

OISTのスバンテ・ペーボ教授がノーベル賞を受賞
https://www.oist.jp/ja/news-center/press-releases/37665

ノーベル賞で注目の沖縄科学技術大学院大学ってどんな学校? 質高い論文研究機関で世界9位  - 社会 : 日刊スポーツ
https://www.nikkansports.com/m/general/nikkan/news/202210050001066_m.html

玉城知事「OISTが科学技術の発展、沖縄振興に成果もたらす」 ペーボ氏ノーベル賞受賞でコメント(琉球新報) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/d5b198a666bd2ac407655dc3509b81f3be4674f9

 サッカーなどに例えるならば、これは街のクラブチームの所属選手から、いろいろな国の代表選手が生まれた、みたいなものです。

 クラブチームとしては、そうした現役代表選手を獲得できていることを誇るべきです。OISTは現役の研究者から選ばれる研究機関ということで、沖縄の方々もそういう研究機関があることを喜んでいいと思います。

 亡き尾身さんも草葉の陰で喜んでいるでしょう。

 しかし、これを日本の研究云々を論じるだしに使ってはいけないと思います。

 あくまで実績のある研究者を呼んでくることができたということであり、OISTでの研究が対象になったわけではありません。

 またフルに沖縄に来ているわけではありません。もちろん複数にラボを持つのは当たり前の時代なのでそれはそれでいいとは思いますが…。

 去年も北大にラボを持っていたリスト博士が化学賞を取られましたが、これをもって北大がノーベル賞、ニホンスゴイ、となってはいけないと思います。

速報!北大の主任研究者がノーベル化学賞を受賞!
https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/like_hokudai/article/23714

 そのリスト氏は文科大臣と面会。

永岡大臣がベンジャミン・リスト博士(2021年ノーベル化学賞受賞)と意見交換
https://www.mext.go.jp/b_menu/activity/detail/2022/20220928_3.html

 スゴイかダメかの両極端に陥るのではなく、冷静にとらえる必要があります。

デマだらけ 中国「千人計画」脅威論
https://facta.co.jp/article/202210025.html

 FACTA誌に榎木が書いた記事。

 中国を扱う場合も、両極端に振れやすいのでとても注意が必要です。

 中国はレベルが高まり、日本でダメな研究者ざ中国に行くわけではありません。競争は日本以上に厳しいと聞きます。

 つまりレベルの高い中国で通用する研究者に活躍の場を与えられない日本の現状に大きな問題があるということです。

 メディアも一部の人も、かつての中国のイメージから抜け出せず、先進国日本と後進国中国という観点で語ろうとします。

 ノーベル賞などはその考えを増長してしまうので、本当に取扱い注意だなと思います。

 科学の中心が移ろい、その中心に人材が吸い寄せられる…。これは1世紀以上に渡り続いている現象です。

 イギリス、ドイツ、アメリカ、そして中国…。

 人材の流出にはプッシュとプルがある…。これまでも何度か触れてきました。硬直化した人事や年功序列選択と集中、経済の低迷…。

 こうした国内事情によるプッシュと、科学の中心としてヒトモノカネが集約する地域というプルが合わさり、人は移動します。

 中国が日本の下だからお金に釣られたのだろうというプルばかり触れても、問題を理解したことにはなりません。

 サッカーの例ばかりで恐縮ですが、Jリーグよりレベルの高い欧州リーグで腕試ししたいとチャレンジするのがプルで、日本国内で戦力外になったので、さまざまな国のリーグに行くというのがプッシュという感じでしょうか。人によっても何が動機なのかはまちまちで、一面的に捉えることはできません。

 単純化しようとする動きに抗い、正確で冷静な現状分析をすることが求められています。

【異相の隣国 日中国交正常化50年】5 中国の「急所」35分野の技術 - 産経ニュース
https://www.sankei.com/article/20221003-TSINKZTO5VM4LGNREUWX2T6XKU/

 解像度が高い記事。このように強み弱みを冷静に分析しなければなりません。

 
 研究者の活躍の場の確保は急務ですが、研究経験者が研究以外の道に行くことを不遇ととらえる考え方は賛同できません。

「物理の天才」でもトレーラー運転手になるしかない…日本の研究者が"食えない職業"になった根本原因(プレジデントオンライン) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/a071e085a3401a2310528c5b21a241a4cb2c6ad3

 ちょっとこれは残念な記事。トレーラー運転手を研究者の下に見ているし、多様なキャリアパスに進むことを都落ちのように考えています。

 人々の才能を活かす国にすべきという趣旨には賛同しますが…。

就職氷河期世代が日本を救う! 「人生を取り戻した」アラフォー&未経験社員が活躍できた理由 | 文春オンライン
https://bunshun.jp/articles/-/56752

 ポスドク経験者が民間企業に。こういう事例、重要です。

家族のためにキャリアは捨てた アフガニスタン避難者の今 | NHK | WEB特集
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220930/k10013841491000.html

 ウクライナと比較して支援が乏しいアフガニスタンの研究者支援。

 かつての研究職とは異なる仕事に戸惑い、ギャップなどを感じてしまうという問題は、キャリアパス多様化でも言えることだと思います。

 多様なキャリアパスを、お題目ではなく高解像度でみていく必要があります。

Violent conflict in Myanmar linked to boom in fossil amber research, study claims
https://www.science.org/content/article/violent-conflict-myanmar-linked-boom-fossil-amber-research-study-claims

 ミャンマーウクライナに比べて関心が薄いですが、研究にも大きな影響が。

NPO STS forum
https://www.stsforum.org/

岸田総理はSTSフォーラム第19回年次総会に出席しました
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202210/02sts.html

岸田首相「基礎研究力を強化」 科学技術の国際フォーラムでスピーチ(日テレNEWS) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/c4e84da1cb83a0c61426b00b28383a4a78196939

科学技術の国際会議「STSフォーラム」、京都で開幕:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF3088F0Q2A930C2000000/

岸田首相 経済安保推進へ “量子、AI、バイオなど投資加速を” | NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20221002/amp/k10013845511000.html

首相、バイオやAIへ投資 経済安保を推進 - 産経ニュース
https://www.sankei.com/article/20221002-35WN3ELB45NCLFEQK6CX4Y7LJI/

 これも亡き尾身幸次さんが始めたフォーラム。遺志を継ぎ続いていきます。

岸田総理は第210回国会における所信表明演説を行いました
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/1003shoshinhyomei.html

 科学技術についても触れられていますが…。

第4回 教育未来創造会議 配付資料|内閣官房ホームページ
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/dai4/gijisidai.html

資料1-1:
教育未来創造会議「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について
(第一次提言)」工程表 概要(PDF/336KB)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/dai4/siryou1-1.pdf

資料1-2:
教育未来創造会議「我が国の未来をけん引する大学等と社会の在り方について
(第一次提言)」工程表(PDF/533KB)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/dai4/siryou1-2.pdf

目玉政策だが…文科省予算で「総合知」の記述が4分の1になった背景|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社
https://newswitch.jp/p/33985

「研究DX」予算5割増し、文科省が量子で革新狙う|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社
https://newswitch.jp/index.php/p/33976

 理工系重視姿勢が明確になっていますが、それでいいのか…。

民間企業の研究開発関連業務における日本の大学との連携状況の分析 ―研究開発者育成を含めた工学系領域における研究開発力強化の課題検討― [DISCUSSION PAPER No.214]の公表について
https://www.nistep.go.jp/archives/52953

JAXA | 2021年度 宇宙飛行士候補者の第一次選抜結果について
https://www.jaxa.jp/press/2022/09/20220930-1_j.html

 私の同世代、50代はいなくなりました…。

大学入試の実情にそぐわないFラン大学という言葉|日刊サイゾー
https://www.cyzo.com/2022/09/post_322953_entry_2.html

 大学を一つの軸で見るのはやめるべき。

経団連:主要政党の政策評価 2022 (2022-10-03)
https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/086.html

 毎年恒例。

Don’t dodge retraction of fraudulent papers
https://www.nature.com/articles/d41586-022-03120-w

‘Honorary authors’ of scientific papers abound-but they probably shouldn’t
https://www.science.org/content/article/honorary-authors-scientific-papers-abound-they-probably-shouldn-t

The Unscientific King: Charles III’s History Promoting Homeopathy
https://www.the-scientist.com/news-opinion/the-unscientific-king-charles-iii-s-history-promoting-homeopathy-70544

 チャールズ国王、ホメオパシー推進など怪しい過去が。

Where is the UK science minister? Government’s plans worry researchers
https://www.nature.com/articles/d41586-022-03112-w

 新しい首相のもと、科学政策に懸念。


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“Science Communication News”
[SciCom News] No.991 2022年10月5日号 巻頭言
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