科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

プレプリントとオープンサイエンス

2020年5月5日~2020年5月12日
カセイケン代表 榎木英介

 最近新型コロナウイルスに関する未査読論文(プレプリント)がプレプリントサーバーに数多く掲載されています。

 こうしたプレプリントが報道されたり、あるいは政策の根拠になるといった事態が出てきています。

 もちろん、今は緊急事態ですから、査読を待っていては間に合わないというのもありますが、医学論文に関しては、まだプレプリントの利用は始まったばかりです。

 その辺りのことを日経メディカルに書きました。

プレプリントの隆盛は悪貨が良貨を駆逐するか
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/report/t344/202005/565491.html

 上記記事でも引用しましたが、プレプリントサーバー丸投げ状態の臨床研究論文には大きな問題があります。

★How swamped preprint servers are blocking bad coronavirus research
https://www.nature.com/articles/d41586-020-01394-6

 プレプリントサーバーも質の担保をしてないわけではありませんが…。

 プレプリントの現状については、以下の記事が詳しいです。

ほらいずん
MedRxiv, ChemRxivにみるプレプリントファースト
への変化の兆しとオープンサイエンス時代の研究論文
https://www.nistep.go.jp/activities/sti-horizon%e8%aa%8c/vol-06no-01/stih00205

 プレプリントに関しては、以下のような動きも。

★preLightsの若手研究者、“covidpreprints.com”を立ち上げ
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=12018

★Why open science is critical to combatting COVID-19
https://www.oecd.org/coronavirus/policy-responses/why-open-science-is-critical-to-combatting-covid-19/#boxsection-d1e11

 オープンアクセスを含めたデータのシェア等も含むオープンサイエンスは、COVID-19に対峙するために非常に重要ですが、当然課題もあります。

★In pursuit of open science, open access is not enough
https://science.sciencemag.org/content/368/6491/574.full

 論文のみならず、様々なデータの統合的かつ寡占的なポータルサイトの出現の可能性に関して、懸念の声が上がっています。

 OECDが指摘するように、現在のCOVID-19におけるオープンサイエンスが果たして今後、学術情報のあり方にどのような影響を与えていくのか、オープンサイエンスをより良いものにするために、様々なプレイヤーがどのような取り組みをすべきか、考えていく必要があります。

★新型コロナ、「素人」の物理学者たちが声を上げる理由
https://ryomakom.myportfolio.com/corona-and-physicists

 物理学者の方々の「越境」的な取り組みは賛否両論あります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について。 No.15
https://note.com/prof_a_hill/n/n269c861b78be

 ここで紹介されているK値も、物理学者の方が考えたもので、プレプリントが出ています。

 私としては、領域を超えた「越境」はあって然るべきだと思っています。ただ、質に関する厳しい目を向けるのは当然です。

 最近プレプリントにもならないトンデモ自説をメディアに公表するなどする人も現れています。それは人々を惑わすものであり、研究倫理的に大きな問題です。

 オープンサイエンスにおける研究倫理は、今後も大きな課題と言えるでしょう。

OECD Policy Brief: Providing science advice to policy makers during COVID-19
https://read.oecd-ilibrary.org/view/?ref=132_132655-cbl92gnv49&title=Providing-science-advice-to-policy-makers-during-COVID-19

 科学的助言に関するOECDの文書です。科学的助言といえば、政府の専門家会議と政権の関係について、この欄でも懸念を書きました。

新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」を公表しました
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_newlifestyle.html

新しい生活様式 介護では「ありえない」「根幹揺らぐ」
https://www.asahi.com/articles/ASN5956D8N58UTFL01G.html

 本来は専門家会議の仕事ではない生活のモデルまで提案させられている状況は、専門家に負荷をかけすぎです。

★新型コロナ、安倍政権と専門家会議の「いびつな関係」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72501

 カセイケンの春日理事の論考です。あたかも専門家会議が政策を決めているかのような演出が、政権の責任逃れにならないようにしなければなりません。

★Autopsy slowdown hinders quest to determine how coronavirus kills
https://www.nature.com/articles/d41586-020-01355-z

 病理解剖がやりにくい現状は各国とも共通です。

★Coronavirus: share lessons on lifting lockdowns
https://www.nature.com/articles/d41586-020-01311-x

 いわゆる「出口戦略」について、各国とも模索が続いています。

★The head of Sweden's no-lockdown coronavirus plan said the country's heavy death toll 'came as a surprise'
https://www.businessinsider.com.au/coronavirus-sweden-lockdown-chief-says-high-death-toll-was-surprise-2020-5

 スウェーデンのノーロックダウン戦略。分かってやっているのかと思っていましたが、高齢者施設の死者は想定外だったということです。

 正解などないわけですし、専門家の意見も異なるわけですから、どういう戦略をとるかは政治が決めるべきことということです。

★緊急事態宣言延長で問われる「日本モデル」その強みと弱み
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72367

★日本のコロナ対策、結局「何に成功し、何に成功していないのか」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72340

★#saveMLAK 都道府県立図書館の施設再開と資料の消毒問題
https://togetter.com/li/1506110

★大学サーバーダウンの投稿相次ぐ 遠隔授業開始の影響か
https://www.chunichi.co.jp/s/article/2020051101001544.html

★「学費減額」に慎重な検討が必要な理由と、今後求められる学生への支援
https://news.yahoo.co.jp/byline/murohashiyuki/20200506-00174541/

★Going viral: how to boost the spread of coronavirus science on social media
https://www.nature.com/articles/d41586-020-01356-y

 ソーシャルメディアを使った戦略について。今日本でも、医師や識者がソーシャルメディアを使って正しい情報をつたえようと奮闘しています。上記記事も参考になるでしょう。

★Fact-checking Judy Mikovits, the controversial virologist attacking Anthony Fauci in a viral conspiracy video
https://www.sciencemag.org/news/2020/05/fact-checking-judy-mikovits-controversial-virologist-attacking-anthony-fauci-viral

 ソーシャルメディア上でトンデモ説を振りまく人もいます。

★Let COVID-19 expand awareness of disability tech
https://www.nature.com/articles/d41586-020-01312-w

★‘It will not be easy.’ As labs begin to reopen, enormous challenges remain
https://www.sciencemag.org/news/2020/05/it-will-not-be-easy-labs-begin-reopen-enormous-challenges-remain

★NIH move to ax bat coronavirus grant draws fire
https://science.sciencemag.org/content/368/6491/561

 先週既報。

 以下その他のニュース、重要情報。

独立行政法人日本学生支援機構奨学金事業における保証制度の在り方についての中間報告まとめ
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/097/1406203_00001.htm

★東北メディカル・メガバンク計画の今後のあり方について
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/103/toushin/1420987_00001.htm

★-The Beyond Disciplines Collection- デジタルトランスフォーメーションに伴う科学技術・イノベーションの変容/CRDS-FY2020-RR-01
https://www.jst.go.jp/crds/report/report04/CRDS-FY2020-RR-01.html

CRDS報告書(電子書籍版):「-The Beyond Disciplines Collection- 異分野融合を促し,研究力向上を支える土壌を育む」(2019年7月発行)の電子書籍版(Amazon Kindle)を公開しました。
https://www.amazon.co.jp/dp/B086C4DP5B

CRDS研究開発の俯瞰報告書(電子書籍版):「統合版(2019年)~俯瞰と潮流~」(2019年7月発行)の電子書籍版(Amazon Kindle)を公開しました。
https://www.amazon.co.jp/dp/B086BS63NH

CRDS報告書(電子書籍版):「-The Beyond Disciplines Collection- 科学技術イノベーション政策における社会との関係深化に向けて 我が国におけるELSI/RRIの構築と定着」(2019年11月発行)の電子書籍版(Amazon Kindle)を公開しました。
https://www.amazon.co.jp/dp/B086BQ2GM9

 JSTの報告書がKindleに大量に出てきました。なかなか良いアイディアかも。

★研究力ランキング、日本勢初のトップ10陥落…中国勢が躍進
https://www.yomiuri.co.jp/science/20200511-OYT1T50080/

 先週既報のNature index。
https://www.natureindex.com/annual-tables/2020/institution/all/all

 その研究力ですが、単純ではありません。

★研究力の測り方 ─「質」、「量」、そして「厚み」
https://note.com/amacrinecell/n/n2477e70c1f5d

★Paperwork mistakes ensnare health data expert
https://science.sciencemag.org/content/368/6491/567

 全米科学財団(NSF)の助成金の規則に従わなかった研究者が解雇の危機に。

富士通、「ジョブ型」人事制度を導入 幹部社員から
高度IT人材、年収2500万~3500万円想定
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58915330Z00C20A5EA5000/

 ジョブ型が広がりつつあります。

★コロナに負けずに研究に励む理系院生・博士・ポスドクたちへ 研究室の常識「キムワイプ」への感謝を集めた「#キムワイプありがとう」特設サイト公開!
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000021.000017667.html

★博士課程の人材育成後押し 北大大学院と24社連携
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200504-00010002-doshin-hok

 北大のウェブマガジン Ph.Discover
https://phdiscover.jp/phd/