科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

第三期科学技術基本計画案を読む〜その一

 現在『「科学技術に関する基本政策について」
http://www8.cao.go.jp/cstp/pubcomme/kihon/tousinan.pdf

を読み進めている。なかなか長いので、ご紹介するにも難儀するのだが、お約束なのでやっていこう。

 全体を見通すには目次から。というわけで、まず目次をご紹介しよう。目次だけでも長大だ。

目次
はじめに
第1章 基本理念
1.科学技術をめぐる諸情勢
(1)科学技術施策の進捗状況
? 政府研究開発投資総額
? 科学技術の戦略的重点化
? 競争的な研究開発環境の整備等研究開発システムの改革
? 産学官連携その他の科学技術システムの改革
(2)科学技術施策の成果
(3)科学技術をめぐる内外の環境変化と科学技術の役割
2.第3期基本計画における基本姿勢
(1)社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術
(2)人材育成と競争的環境の重視 〜 モノから人へ、機関における個人の重視
3.科学技術政策の理念と政策目標
(1)第3期基本計画の理念と政策目標
(2)科学技術による世界・社会・国民への貢献
4.政府研究開発投資の目標

第2章 科学技術の戦略的重点化
1.基礎研究の推進
2.政策課題対応型研究開発における重点化
(1)「重点推進4分野」及び「推進4分野」
(2)分野別推進戦略の策定
(3)「戦略重点科学技術」の選定
3.分野別推進戦略の策定及び実施に当たり考慮すべき事項
(1)新興領域・融合領域への対応
(2)政策目標との関係の明確化及び研究開発目標の設定
(3)戦略重点科学技術に係る横断的な配慮事項
? 社会的課題を早急に解決するために選定されるもの
? 国際的な科学技術競争を勝ち抜くために選定されるもの
? 国家的な基幹技術として選定されるもの
(4)分野別推進戦略の効果的な実施 〜 「活きた戦略」の実現

第3章 科学技術システム改革
1.人材の育成、確保、活躍の促進
(1)個々の人材が活きる環境の形成
? 公正で透明性の高い人事システムの徹底
? 若手研究者の自立支援
? 人材の流動性の向上
? 自校出身者比率の抑制
? 多様で優れた研究者の活躍の促進
(2)大学における人材育成機能の強化
? 大学における人材育成
? 大学院教育の抜本的強化
? 大学院教育の改革に係る取組計画の策定
? 博士課程在学者への経済的支援の拡充
(3)社会のニーズに応える人材の育成
? 産学が協働した人材育成
? 博士号取得者の産業界等での活躍促進
? 知の活用や社会還元を担う多様な人材の養成
(4)次代の科学技術を担う人材の裾野の拡大
? 知的好奇心に溢れた子どもの育成
? 才能ある子どもの個性・能力の伸長
2.科学の発展と絶えざるイノベーションの創出
(1)競争的環境の醸成
? 競争的資金及び間接経費の拡充
? 組織における競争的環境の醸成
? 競争的資金に係る制度改革の推進
(2)大学の競争力の強化
? 世界の科学技術をリードする大学の形成
? 個性・特色を活かした大学の活性化
(3)イノベーションを生み出すシステムの強化
? 研究開発の発展段階に応じた多様な研究費制度の整備
? 産学官の持続的・発展的な連携システムの構築
? 公的部門における新技術の活用促進
? 研究開発型ベンチャー等の起業活動の振興
? 民間企業による研究開発の促進
(4)地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり
? 地域クラスターの形成
? 地域における科学技術施策の円滑な展開
(5)研究開発の効果的・効率的推進
? 研究費の有効活用
? 研究費における人材の育成・活用の重視
? 評価システムの改革
(6)円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消

3.科学技術振興のための基盤の強化
(1)施設・設備の計画的・重点的整備
? 国立大学法人、公的研究機関等の施設の整備
? 国立大学法人、公的研究機関等の設備の整備
? 公立大学の施設・設備の整備
? 私立大学の施設・設備の整備
? 先端大型共用研究設備の整備・共用の促進
(2)知的基盤の整備
? 知的基盤の戦略的な重点整備
? 効率的な整備・利用を促進するための体制構築
(3)知的財産の創造・保護・活用
(4)標準化への積極的対応
(5)研究情報基盤の整備
(6)学協会の活動の促進
(7)公的研究機関における研究開発の推進

4.国際活動の戦略的推進
(1)国際活動の体系的な取組
(2)アジア諸国との協力
(3)国際活動強化のための環境整備と優れた外国人研究者受入れの促進

第4章 社会・国民に支持される科学技術
1.科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への責任ある取組
2.科学技術に関する説明責任と情報発信の強化
3.科学技術に関する国民意識の醸成
4.国民の科学技術への主体的な参加の促進

第5章 総合科学技術会議の役割
1.運営の基本
2.具体的取組
? 政府研究開発の効果的・効率的推進
? 科学技術システム改革の推進
? 社会・国民に支持される科学技術
? 国際活動の戦略的推進
? 円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消
? 科学技術基本計画の適切なフォローアップとその進捗の促進



●この基本計画の目的とは?

 政府がどのような目的で第三期計画を立てているのか、まずそこから考えみてる。

 1ページ目には、ずばり、以下のように書かれている。

資源に乏しい日本が人類社会の中で名誉ある地位を占めていくことは決して容易なことではない。日本の未来を切り拓く途は、独自の優れた科学技術を築くことにかかっている−こうした考えの下、我が国は「科学技術創造立国」を国家戦略として打ち立てた。

 国家戦略として、科学技術により産業や基礎研究を強化することにより、国際競争力を得るのが目的だ、ということだ。この方針の下、第一期、第二期の基本計画が打ち立てられ、実行されてきた。

 第三期計画のポイントは以下である。

第1期、第2期基本計画期間中を通じた投資の累積を活かし、様々な面で強まる社会的・経済的要請に応えていくためには、第3期基本計画は、社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術を目指し、説明責任と戦略性を一層強化していくことが求められる。その戦略の基本は、質の高い研究を層厚く生み出す人材育成と競争的環境の醸成、科学の発展と絶えざるイノベーションの創出に向けた戦略的投資及びそれらの成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消であり、このような多様な政策課題への挑戦が今後5年間の科学技術の使命である。基本計画はこうした基本認識に基づき、総合科学技術会議の主導の下、政府全体で着実に実行すべき主要施策を提示するものである。

 ちょっと分かりにくいので、具体的なところを見ていこう。

 5ページの「2.第3期基本計画における基本姿勢」では、以下の点が強調されている。

(1)社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術
(2)人材育成と競争的環境の重視 〜 モノから人へ、機関における個人の重視

 ずばりこれが基本計画の骨である。成果の社会還元と研究者の個の力を生かすことを主眼においているということだ。これを実行にうつすために、6ページの「3.科学技術政策の理念と政策目標」では、第二期から続く3つの理念を基盤におきつつ、より詳しい目標を掲げている。

理念1 人類の英知を生む
〜知の創造と活用により世界に貢献できる国の実現に向けて〜
◆目標1 飛躍知の発見・発明 − 未来を切り拓く多様な知識の蓄積・創造
(1) 新しい原理・現象の発見・解明
(2) 非連続な技術革新の源泉となる知識の創造
◆目標2 科学技術の限界突破 − 人類の夢への挑戦と実現
(3) 世界最高水準のプロジェクトによる科学技術の牽引

理念2 国力の源泉を創る
〜国際競争力があり持続的発展ができる国の実現に向けて〜
◆目標3 環境と経済の両立 − 環境と経済を両立し持続可能な発展を実現
(4) 地球温暖化・エネルギー問題の克服
(5) 環境と調和する循環型社会の実現
◆目標4 イノベーター日本 − 革新を続ける強靱な経済・産業を実現
(6) 世界を魅了するユビキタスネット社会 の実現
(7) ものづくりナンバーワン国家の実現
(8) 科学技術により世界を勝ち抜く産業競争力の強化

理念3 健康と安全を守る
〜安心・安全で質の高い生活のできる国の実現に向けて〜
◆目標5 生涯はつらつ生活 − 子どもから高齢者まで健康な日本を実現
(9) 国民を悩ます病の克服
(10) 誰もが元気に暮らせる社会の実現
◆目標6 安全が誇りとなる国 − 世界一安全な国・日本を実現
(11) 国土と社会の安全確保
(12) 暮らしの安全確保

 これらの政策目標が達成されたらどうなるのか。9ページでは以下のように述べられている。

(世界への貢献)
★ 人類共通の課題を解決
★ 国際社会の平和と繁栄を実現
(社会への貢献)
★ 日本経済の発展を牽引
★ 国際的なルール形成を先導
(国民への貢献)
★ 国民生活に安心と活力を提供
★ 質の高い雇用と生活を確保

 後者の2つが、科学技術予算がある種聖域化され、不況下でも伸び続けたゆえんである。

 ところが、科学技術の聖域化を続けられるか怪しくなってきた。

 10ページの4.政府研究開発投資の目標は
< 検 討 中 >
となっている。第一期が約17兆円、第二期が約24兆円で、第三期はどうなるだろう、ということだが、今日の朝日の記事にこんなのが出ていた。

科学技術予算増額に「黄信号」 数値目標、財務相が反対
http://www.asahi.com/science/news/TKY200511280354.html

 文部科学省財務省の間で激しい綱引きが続いているとのこと。確かに財務省の言う、「『投入総額を決めて配分しましょう』では、かつての公共事業と同じ発想だ。納税者の理解が得られない」との指摘(科学新聞などでも発言している中川主計官)は一理あると言える。

 一方アジアの諸国も含めて各国が科学予算を増額する中では、「長い目で見て、基礎研究から技術革新につなげる投資をしないと、日本の活力は維持できない」(丸山剛司科学技術・学術政策局長)という指摘も分からないではない。

 私たちのようなNPOとしては、科学予算の特定研究者への無意味な集中はよろしくない、といわざるを得ない。予算が有効に使われているのか、本当に必要な人のところにいっているのかを厳しくみつめていきたい。そのあたりのことは、基本計画案のなかにも触れられているので、また改めて紹介したい。

 とりあえず、息切れしそうなので、今日はこの辺で。