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◆◇◆ Science Communication News ◆◇◆
No.1155 2025年12月17日(発行21日) 巻頭言
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【巻頭言】 国際卓越大認定、ホライズン・ヨーロッパ参加決定
カセイケン代表 榎木英介
今週は、研究開発投資をめぐる「数字」が複数示された一方で、大学・研究現場の「摩耗」もまた、別の角度から浮かび上がった週でした。
総務省の科学技術研究調査では研究費が過去最高規模と報じられ、政府・与党は先端分野の研究開発に税制支援を厚くする動きも出ています。しかし、数字が積み上がることと、研究基盤が強くなることは同義ではありません。
大学の側では、入試の早期化や運用の抜け道、私大経営への介入強化といった話題が相次ぎました。少子化と財政制約の下で、教育・研究の土台をどう守るのか。制度設計が問われる局面が続きます。
研究公正の領域でも、東大病院の寄付金問題や、アイヌ遺骨・ヘイトをめぐる学協会声明など、「研究の正当性」を支える仕組みを改めて考えさせるニュースが続きました。
AIをめぐっては、ディープフェイク規制の動きに加え、査読へのAI利用が「指針に反してでも」進む現実、AI会議のレビュアー情報流出、AIが書きAIが査読するプレプリントサーバーなど、学術コミュニケーションの前提が揺れています。便利さと信頼性のトレードオフを、制度としてどう扱うのかが焦点です。
今週もChatGPTの協力を得て、科学技術政策、大学政策、外国ニュース、キャリア、AI、研究公正を中心に、重要ニュースを30本選び、短い解説を付しました。
同時発行のtheLetter版(深掘り)は、
科学と社会の接点を読む〜2025年12月第3週版国際卓越大認定、中国の研究優位 | 榎木英介の科学・医療ニュース深掘り https://kaseiken-enoki.theletter.jp/posts/50c52940-de1c-11f0-a6de-9f9dd70f17ba
国際卓越研究大認定のニュースは来週号の記事ですが、theLetterでお読みください。
◆今週の主要ニュース(30本)
【1】日本、EUとデジタル・宇宙・エネルギーで連携強化へ…研究開発枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」参加で実質合意 : 読売新聞
https://www.yomiuri.co.jp/politics/20251220-GYT1T00191/
12月20日、読売新聞が日本のホライズン・ヨーロッパ参加決定を報じました。これは来週号掲載の記事ですが、theLetter記事で解説しましたので、そちらをご覧ください。
報道解説 — 日本の「ホライズン・ヨーロッパ」参加決定とその意義 | 榎木英介の科学・医療ニュース深掘り https://kaseiken-enoki.theletter.jp/posts/b0bb4010-de04-11f0-b842-591a43287dbb
【2】研究開発、最大50%税控除 AIなど先端分野、支援手厚く 政府・与党(時事通信)
https://news.yahoo.co.jp/articles/e4125905d269761bc2ab3dcb519d1aec73edc238
研究投資を「補助金」だけでなく税制でも後押しする動きです。対象領域と企業規模で効果の偏りが出ないかが注目点です。
【3】24年度の科技研究費23兆円 4年連続で過去最高、総務省調査:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA1263E0S5A211C2000000/
科学技術研究調査 調査の結果(総務省)
https://www.stat.go.jp/data/kagaku/kekka/index.html
一次情報として重要です。政策議論では「総額」だけでなく、研究主体別・費目別の推移が論点になります。
【4】戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期制度中間評価ワーキンググループ(第1回)
https://www8.cao.go.jp/cstp/kaisaiannai/2025/20251216sip3_wg.html
大型プログラムの中間評価は、成果の定義次第で姿が変わります。評価の軸が「現場の学び」につながるかが鍵です。
【5】第161回生命倫理専門調査会について(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/cstp/kaisaiannai/2025/seimei161.html
12月25日開催。生命倫理は技術進展に追いつけるかが焦点です。透明性と当事者性をどう担保するかが問われます。
【6】第1回日・チリ共和国科学技術協力合同委員会の開催|外務省
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/pressit_000001_03092.html
二国間協力は「外交」と「研究現場」の接続が要です。共同研究の継続性や成果の社会実装が課題になります。
【7】大学向けの研究開発予算「この20年で中国は24.5倍、韓国は5.3倍、日本は0.9倍」(ABEMA TIMES)
https://news.yahoo.co.jp/articles/31dfbb7e81a3d658b9f7ab2cb14f6864f036f7ca
象徴的な比較が提示されています。国内議論では「総額」よりも、大学に届く資金と人材の厚みが問題です。
【8】文科省、経営悪化した私大への指導を強化 急速な少子化踏まえ(毎日新聞)
https://news.yahoo.co.jp/articles/aed91512ae713f21f4d082413afd4fe05fb28093
淘汰と支援の線引きが難しくなっています。地域の教育機会をどう守るかが政策の核心です。
【9】「理工農系人材」育成大学に重点支援など今後の対策“とりまとめ”(FNN)
https://www.fnn.jp/articles/-/975129
重点支援は分かりやすい反面、基礎研究や文理横断の力を削る危険もあります。制度の副作用に注意が必要です。
【10】私大の年内学力入試に「抜け道」…文科省がルール再検討へ(読売新聞)
https://topics.smt.docomo.ne.jp/article/yomiuri/life/20251214-567-OYT1T00030
制度の趣旨と運用の乖離が問題化しています。受験生の負担と教育の質保証の両面から見直しが必要です。
【11】総合型選抜に有利だから?…探究学習で大学の研究者たちが疲弊(AERA DIGITAL)
https://news.yahoo.co.jp/articles/778c3b5340a647494ea2d92f0b1c294b99924994
「良いこと」を現場に押し付けると疲弊が起きます。学校・大学・自治体の役割分担の設計が欠かせません。
【12】高校の文理分け、大学は反対でも高校は 朝日新聞・河合塾調査
https://www.asahi.com/articles/ASTDD1RZMTDDUTIL021M.html
人材育成の入口での分岐が、将来の選択肢を狭める可能性があります。AI時代の基礎学力像とも関わります。
【13】本学教員の起訴を受けて | 東京大学
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/articles/z0508_00125.html
国際卓越大の選定にも影響を与えた大事件。大学の説明責任とガバナンスが問われています。研究・医療・寄付金の制度設計にも波及し得ます。
【14】東大病院めぐる贈収賄事件、寄付金が「賄賂」 使い勝手のよさ裏目か(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASTDD2HQSTDDUTIL025M.html
上記とからみますが、奨学寄付金の「便利さ」が不正の温床になり得る構造が露呈しました。透明性と監査の仕組みが焦点です。
【15】Science sleuths raise concerns about scores of bioengineering papers(Nature)
https://www.nature.com/articles/d41586-025-03870-3
論文群の質と査読の限界が問題化しています。出版モデルと研究評価の関係も含めた議論が必要です。
【16】Dana-Farberがん研究所、助成金不正疑惑の和解(米司法省)
https://www.justice.gov/opa/pr/dana-farber-cancer-institute-agrees-pay-15m-settle-fraud-allegations-related-scientific
研究助成金と成果の整合性が問われる事案です。制度としての再発防止が焦点になります。
【17】Harvard-affiliated Dana-Farber to pay $15 million…(Reuters)
https://www.reuters.com/legal/litigation/harvard-affiliated-dana-farber-pay-15-million-settle-us-claims-over-flawed-2025-12-16/
外部報道の視点からも整理されました。個別組織の問題にとどまらず、研究監督の仕組みが論点です。
これらのニュースに関しては、noteに記事を書いています。
「ネカトハンター」に約4億円が支払われた理由──NIH研究助成金不正とクイ・タム条項が示す"実効性"|榎木英介(フリーランス病理医・科学ジャーナリスト賞受賞者) https://note.com/enodon/n/nf37740633616
【18】アイヌ遺骨に関する日本人類学会の声明(PDF)
https://anthropology.jp/assets/docs/Ainu_Remains_JP_251215.pdf
「研究の歴史」と向き合う動きです。学術の正当性を社会の中で再構築する試みでもあります。
【19】アイヌヘイトに対する3学協会共同会長声明(PDF)
https://anthropology.jp/assets/docs/Ainu_Hate_Speech_JP_251215.pdf
研究と差別の問題が切り離せないことを示します。学術団体の社会的責任が問われています。
これらはnote記事で解説しました。
帝国主義時代の遺産と向き合う──日本人類学会の声明が示した一歩と、残された課題|榎木英介(フリーランス病理医・科学ジャーナリスト賞受賞者) https://note.com/enodon/n/nb6a3a63e1ee4
【20】OpenAI、新型AI「GPT-5.2」発表 数学や資料作成能力が向上:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN098UI0Z01C25A2000000/
性能向上は研究・事務の効率化を進めますが、依存と検証の問題も強まります。運用ルールが重要です。
【21】自民 生成AI「ディープフェイク」の規制 来月にも政府に提言へ(NHK)
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015005301000
選挙・報道・名誉毀損の領域と直結します。表現の自由と被害防止のバランス設計が難所です。
【22】More than half of researchers now use AI for peer review - often against guidance(Nature)
https://www.nature.com/articles/d41586-025-04066-5
「現場は使っている」が先行しています。禁止・容認の二択ではなく、透明性の制度化が焦点です。
note記事で解説しました。
倫理の本に倫理違反か? 学術界に忍び寄る「AI汚染」|榎木英介(フリーランス病理医・科学ジャーナリスト賞受賞者) https://note.com/enodon/n/nad32a5415144
【23】Hack reveals reviewer identities for huge AI conference(Science)
https://www.science.org/content/article/hack-reveals-reviewer-identities-huge-ai-conference
査読の匿名性と安全性が揺らぎます。研究コミュニティの信頼インフラとしての査読が問われます。
【24】A new preprint server welcomes papers written and reviewed by AI(Science)
https://www.science.org/content/article/new-preprint-server-welcomes-papers-written-and-reviewed-ai
学術の「誰が責任を負うのか」を突きつけます。出版と評価のルールが根本から再考されます。
【25】Artificial intelligence research has a slop problem…(The Guardian)
https://www.theguardian.com/technology/2025/dec/06/ai-research-papers
量産される論文の質管理が問題化しています。研究評価が「量」を過度に押す構造ともつながります。
【26】AIは数学者になれるか 証明検証ソフトLean登場(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASTD333PNTD3DIFI004M.html
数学の営みが変わりつつあります。研究者の役割は「発見」だけでなく「検証設計」へも広がります。
【27】AIがひらめき、証明し、検証する時代 数学者の役割はどう変わるか(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASTD3342PTD3DIFI008M.html
研究の自動化が進むほど、問いの設定と価値判断が重要になります。教育にも直結する論点です。
【28】博士進学に迷っている人に見てほしい。名古屋大学で、アツい話がありました | ギズモード・ジャパン
https://www.gizmodo.jp/2025/12/nagoya-university-phd-career.html
博士進学の意思決定は、制度とロールモデルの提示が鍵です。現場の言葉をどう広げるかが問われます。
【29】学問の自由にも地政学リスク:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO93128280Q5A211C2TCR000/
研究と国際政治の接点が拡大しています。研究セキュリティと国際共同研究の両立が難題です。
【30】 Grant cuts, arrests, lay-offs: Trump made 2025 a tumultuous year for science
https://www.nature.com/articles/d41586-025-04051-y
トランプ政権誕生に振り回されたアメリカを振り返る記事。アメリカのみならず世界の研究に大きな影響を与えています。
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“Science Communication News”
[SciCom News] No.1155 2025年12月17日(発行21日) 巻頭言
【発行】一般社団法人科学・政策と社会研究室
【制作・編集】サイエンス・サポート・エージェンシー合同会社
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【Web Site】 https://www.kaseiken.org/
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