科学・政策と社会ニュースクリップ

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「大型船」科学政策を動かすには

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★発行部数 2,567部(12月22日現在)
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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.901 2020年12月22日号 巻頭言
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【巻頭言】
★「大型船」科学政策を動かすには
2020年12月15日~2020年12月22日
カセイケン代表 榎木英介

 若手研究者重視の姿勢はかつてないほど強まっているように見えます。

★井上科学技術政策担当大臣から日本の未来を担う研究者の皆さまへのメッセージ
https://www8.cao.go.jp/cstp/stmain/20201215.html

文部科学大臣メッセージ(博士を目指す学生の皆さんへ)
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00418.html

 先週予算案決定を受けて、科学技術担当大臣や文科大臣がメッセージを相次いで出しました。

 メッセージくらいなんなんだ、ということではありますが、それでも一つのイシューに対して大臣クラスが公式に発言することには重みがあります。

★令和3年度政府予算案
https://www.mof.go.jp/budget/budger_workflow/budget/fy2021/seifuan2021/index.html

令和3年度予算(文科省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/r01/1420672_00002.htm

 博士課程学生の経済的問題は、私自身20年前からいろいろな場で言ってきました。

Japan's funding cuts hit the future of science
Eisuke Enoki
Nature volume 414, page485(2001)
https://www.nature.com/articles/35107230

 このメルマガも2003年から発行し続け900号になりました。上記のNature投書の3年後からやっています。

 そして必ずしも経済問題ばかり言っていたわけではありません。

科学・技術ミーティングin大阪について
【平成22年3月20日
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/syutyo/100320osaka.html

 本も書きましたし、会議にも出ました。政府に直接意見を言ったこともあります。

 たくさんの人が声をあげ、行動しました。時に悲惨な目に遭うこともありました。

 私自身は学位取得すらままならない状態に追い込まれ、10年前活発に発言していたTJO氏はアカデミアに居場所を失いました。

研究者を辞めた時のこと、そしてその後のこと
https://tjo.hatenablog.com/entry/2019/01/31/190000

 長い時間の間に若手は若手ではなくなっていきました。アカデミアを去り、距離をおいた人たちも数知れず。

NHKスペシャル パンデミック 激動の世界(6)「“科学立国” 再生への道」
https://plus.nhk.jp/watch/st/g1_2020122032575

 20日には若手研究者の苦境が「またも」メディアに取り上げられましたが、こうした苦境は過去何度も放送されてきています。

博士課程学生支援 約7000人対象 1人年間290万円ほど支給へ
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201220/k10012774591000.html

 記事の中で若手の公務員の方々が動き出したことが取り上げられています。私も交流があり、大いに期待しています。

 しかし、こうした若手の動きも過去繰り返され、時に「鎮圧」されました。

 日本の政策は大きな船のようなもので、なかなか進路が変わりません。それは多くの人たちの思いが交錯しているからで、台湾やシンガポールなど人口規模の異なる国と比較することはなかなか難しいものがあります。

 だから、たとえ一人が体当たりしても簡単には進路変更しないし、したとして曲がっているようには見えません。

 しかし、繰り返し無数の人たちが思いを伝えた結果今回のような大臣のメッセージに繋がったようにも思います。目には見えなくても確実に曲がっていたのです。

 それはあたかも今流行りの鬼滅の刃のストーリーのようです。

 数百年に渡り剣士たちが闘いに挑み、おびただしい犠牲を払った末に…おっとネタバレなのでこれ以上は言いませんが。

 もちろん、ボリュームゾーン団塊世代の完全引退や少子化、抜き差しならない「研究力」の低下など大きな流れがあってのことではあり、個々の力は微々たるものですが、それでも積み重なった「屍」は無駄ではなかったと信じたいです。

 夜は明ける。思いは不滅…


 しかし、もう少し効果的な方法もあったかもとも思います。

 「屍」と書きましたが、たとえ研究者生命が失われても、人生は続いていきます。

Chemist Nancy Goroff eyes national stage despite losing race for Congress
https://www.sciencemag.org/news/2020/12/chemist-nancy-goroff-eyes-national-stage-despite-losing-race-congress

 アメリカではトランプ政権の誕生で研究者が政治に挑みました。

 議席を得られた人はごく僅かですが、それでもこうした当事者意識をもって何かを変えようと行動する人がいます。

 ロビー活動、アドボカシーも日本よりは積極的で洗練されています。

 日本にもより具体的効果的にアドボカシーを行おうとするグループが誕生しました。

 日本版AAAS準備委員会です。
https://jaas.group/

 私も裏方で関わる予定ですが、ようやく日本にもこうした動きが具体的に出てきたことに希望を感じます。

 科学政策という名の大型船を曲げる方法は、小型船で体当たりするだけではないということです。

 船の乗組員になるという方法もあるし、乗組員に意中の人を選ぶという方法もあります。船の会社と交渉することもあれば、中型船くらいでぶつかっていくという方法もあるでしょう。

 「屍」となった私は、一人乗りボートではなく、もうちょっと大きな船(NPO法人)を仲間と作りました。船員の選び方や船が今どこを航行しているのかはウォッチし続けてきました。

 科学政策という名の船が運んでいるものは、私たち一人一人の国民にとっても重要なものです。その船が目的地につけるようにすることは、誰にとっても重要なのです。

URA、産学つなげる「第3の職種」
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67341300V11C20A2TCN000/

有望人材、獲得のチャンス
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67358510V11C20A2TJ1000/

安定雇用など処遇に課題
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67341340V11C20A2TCN000/

 URAも非常に重要な役割を果たす職種ですが、雇用問題は大きいですね。

★科学と政治、問われた1年 語りたい理想 神里達博さん
https://www.asahi.com/articles/ASNDK53YGNDKUPQJ002.html

 神里さんはアメリカの政治学者ペルキーのモデル、政治との距離の4つの分類を紹介しています

 一つは政治と距離を置く「純粋科学者」。二つ目は問われれば応える「科学の権威者」。三つ目が特定の政策を推進する「代弁者」で四つ目が「誠実な仲介者(オネストブローカー)」だ。

 オネストブローカーは「実行可能な複数の選択肢を政治に対して示す」。

「代弁者」と違い、選択肢をむしろ広げる。政治の側は価値の議論を踏まえた上で、複数の可能性から一つの選択肢を選び、政治責任を負うのだ。
 当然、四つ目の助言者こそが科学的助言のあるべき姿だろう。このモデルによれば、専門的知識と、民主的な決定の両方を十全に活用することができるはずだ。象牙の塔にこもることなく、また単なる御用学者でもない。何よりも、政治の側が科学者に責任を押しつけて、判断を放棄することを防止できる。

 まさに今求められている存在だと言えます。

 日本版AAASが果たして代弁者ではなくオネストブローカーになれるかが勝負ですね。

 さて、神里さんの文章の中でも紹介されているバネバーブッシュが「The Endless Frontier」を出して75年。アメリカの科学アカデミー(科学・工学・医学)から文章が出されています。

The Endless Frontier: The Next 75 Years in Science (2020)
https://www.nap.edu/read/25990/chapter/1

 まだ未読ですが、75年で科学と政治のあり方がどのように「進化(深化)」したでしょうか。

菅総理新型コロナウイルス感染症の現状等について会見を行いました
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1216kaiken.html

「死者の一層の増加を懸念」 新型コロナ専門家組織が医療体制に強い危機感
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20201218_n01/

 新型コロナウイルスはまさに科学的助言、オネストブローカーの働く場であったはずですが…。

★総合科学技術・イノベーション会議 第11回基本計画専門調査会 - 総合科学技術・イノベーション会議 - 内閣府
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kihon6/11kai/11kai.html

議題

(1)科学技術・イノベーション基本計画について(答申素案)
(2)科学技術・イノベーション基本計画の進捗状況の把握・評価について
(3)全国キャラバンの実施状況報告
(4)その他

日本学術会議のより良い役割発揮に向けて (中間報告)
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf25/siryo305-tyukanhoukoku.pdf

井上科技相、日本学術会議の梶田会長と面会へ…改革の基本方針を伝達
https://www.yomiuri.co.jp/science/20201221-OYT1T50195/

学術会議の「問題」は設置形態ではない - 高橋真理子
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020121600007.html

日本におけるアカデミー機能の分散——なぜ日本学術会議日本学士院は分かれているのか
https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/78353/d1beb33aaca23caf715e532569b56971

 日本学術会議問題は、論点がずらされたまま民営化に向かっているようです。来年度の予算に関しては据え置きではありますが…。

 本来ならオネストブローカーの役割を果たす学術会議のこの有様に、科学と政治の関係の難しさが凝集されているように思います。

日本学士院の新会員に吉野彰氏ら10人
https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20201216_n01/index.html

 もう一つの科学アカデミー、日本学士院ですが、新会員発表。

「科学技術への顕著な貢献2020(ナイスステップな研究者)」の選定について
https://www.nistep.go.jp/archives/46302

医師の働き方改革の推進に関する検討会 中間とりまとめの公表について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15655.html

宇宙基本計画 - 内閣府
https://www8.cao.go.jp/space/plan/keikaku.html

工程表(令和2年12月15日 宇宙開発戦略本部決定) 
https://www8.cao.go.jp/space/plan/plan2/kaitei_fy02/kaitei_fy02.pdf

オープンサイエンス
専門外から研究に参加
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67477660Y0A211C2MY1000/

市民参加によってイノベーション拠点ドイツを強化
https://crds.jst.go.jp/dw/20201216/2020121625192/

Elsevier社、DORAに署名
https://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=12460

Opinion: Being Scientists Doesn’t Make Us Science Communicators
https://bit.ly/3hbU3x3

もしあなたが科学者で、これらの科学コミュニケーションスキルをまだ磨いていないのであれば、最初の試みとしてツイッターに飛びつくのはやめましょう。それよりも、プロからのフィードバックを受けられるような低ステークス環境で、科学コミュニケーションを実践する機会を探してみてください。

Researchers retract controversial female mentorship paper
https://www.sciencemag.org/news/2020/12/researchers-retract-controversial-female-mentorship-paper

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.901 2020年12月22日号 巻頭言
【発行者】一般社団法人科学・政策と社会研究室(担当 榎木英介)
【編集者】Science Communication News編集部
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