科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

博士が少ないのはなぜか、平成のネカト事件第1位

2019年8月6日~2019年8月13日

 日本ではお盆休みに入り、ニュースはやや少なめですが、重要ニュースがあります。

★「科学技術指標2019(調査資料-283)」及び「科学研究のベンチマーキング2019(調査資料-284)」の公表について
https://www.nistep.go.jp/archives/41356

 今年の調査ですが、かねがね言われていたように、日本の科学の「凋落」傾向が止まっていないことが示されています。

 「科学技術指標2019」から見た日本の状況を見ると、日本の研究開発費、研究者数は共に主要国(日米独仏英中韓の7か国)中第3位、論文数(分数カウント)は世界第4位、注目度の高い論文数(分数カウント)では世界第9位、パテントファミリー(2か国以上への特許出願)数では世界第1位です。これらは昨年と同じ順位です。
 日本の産業において、研究者に占める博士号保持者の割合(高度研究人材の活用度)は産業分類によって異なり、米国と比較すると高度研究人材の活用度が低い傾向にあります。また、日本の人口100万人当たりの博士号取得者数は、主要国と比べて少なく、日本のみ減少傾向が続いています。

 以下報道です。

アメリカの相手国、トップは中国 共同研究した科学論文
https://www.asahi.com/articles/ASM8864SRM88ULBJ011.html

注目論文シェア、日本9位 「お家芸」の化学・物理低迷
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48446000Z00C19A8EA4000/

国際共著論文:米中が急増 中国の研究力台頭、協力関係が緊密に
https://mainichi.jp/articles/20190811/ddm/002/040/127000c

 私(カセイケン代表榎木)は共同通信配信の記事にコメントしています。

 博士号取得者の割合が減少傾向にある理由は明白だと思います。

ノーベル賞・野依さん、大学院教育に「憲法の精神が守られていない」
https://mainichi.jp/articles/20190809/k00/00m/040/146000c

 野依さんが上記記事で言っているように、博士課程の学生がお金を払わないといけない状況が博士課程進学を躊躇させているというのもあるとは思います。

 しかし、理由はそれだけではありません。

★研究現場は今:第1部 博士/4 「足の裏の米粒」と皮肉 企業が敬遠、就職先少なく /京都
https://mainichi.jp/articles/20190806/ddl/k26/040/434000c

 博士課程に進んでも将来展望が描けないというのが、大きな影響を与えています。

 就職状況は多少改善はしています。

★令和元年度学校基本調査速報の公表について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/08/1420008.htm

修了者に占める就職者の割合は6年連続で上昇し,69.1%(前年度より1.4ポイント上昇)とな り,過去最高。

 とはいえ、博士号取得者の能力が十分活用されているかは疑問が残ります。

安倍総理日本学術会議によるGサイエンス学術会議共同声明を受け取りました
https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201908/08shukou.html

Gサイエンス学術会議
http://www.scj.go.jp/ja/int/g8/index.html

研究評価が出版、引用、インパクトファクターの数ではなく、質、再現性、独創性、関連性 といった基準によって実施されることを徹底し、研究の価値を貶めて科学的公正性における違反に発展するような過度な競争を回避すること。

 歪んだ過度な競争は研究現場に影を落としており、教員の採用プロセスが公正なものか疑問が投げかけられています。

★大学教員の真の公募制のために
http://university.main.jp/blog/bunsyo/20190806.pdf

日本には 800 近い大学があるが、博士課程までそなえている大学は東京などの都市圏に偏っている。それゆえ博士課程を修了した者は、たやすく地方の大学にポストを得られそうにみえる。しかし事実はそうではない。すべての大学が公募をおこなうわけではないし、たと え公募が行われていても、その公正をチェックできるCNUのような組織がない。
そこでは「採用の自由」がものをいう。公募が中教審文科省によって推奨されるなか、私立大学においても公募による採用は増えたけれども、公募における選考のプロセスは不透明なままである。こうして日本にもフランスと同じように、大学教員の採用における「不公正と怨恨の連鎖」が生じてしまう。

早稲田大学教員公募事件
http://university.main.jp/blog/bunsyo/20190807.pdf

全国の「教員市場」を真の意味で「流動化」させるためには、私立大学を含めたすべての大学に公募を義務づけるとともに、公募の公正と透明性を確保するための全国的な仕組みが必要です。バランスを欠いた文科省の「ガバナンス」によって苦しめられているのは、テニュア(終身)職のないすべてのポスドク、非常勤講師、教員、研究者です。応募のたび に膨大な資料を作成する時間と労力を要求され、論文のコピーや面接の移動に多額の出費を強いられ、ふつうは落選してしまいます。多くの研究者の時間、労力、意欲を無駄にし、疲弊させているのがいまの公募の実態なのです。

 こうした状況が、博士号取得の意欲を奪い、博士号取得者の能力を発揮できる場を奪っています。

★令和元年度「卓越大学院プログラム」の選定結果
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/08/1420053.htm

★令和元(2019)年度「卓越大学院プログラム」審査結果
https://www.jsps.go.jp/j-takuetsu-pro/data/r1_takuetsupro_kekka.pdf

 卓越大学院プログラムでは、さまざまな取り組みがあり、ベンチャー企業も生まれています

QBキャピタル、九大のプロジェクトに資金提供
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO48330760X00C19A8LX0000/

 しかし、こうした取り組みの結果優れた人材が生まれたとしても、その能力を発揮できる場がなければ、「宝の持ち腐れ」になってしまいます。

★令和元年度国立大学法人運営費交付金の重点支援の評価結果について
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/houjin/1417263.htm

若手比率評価、24大学で増額 運営費交付金の傾斜配分
https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019081001001716.html

 若手研究者を評価しようという動きがあるのは望ましいことだと思います。ただ、

★今なお続く「ロスジェネ」の苦境、貧困連鎖と支援不足の実態
https://diamond.jp/articles/-/210874

 もはや若手ではない世代の置かれた現状は非常に厳しいものがあります。

ブラタモリに学ぶ「文理協働」
https://blogos.com/outline/397120/

★文系・理系に高い壁 専攻外だと学べない…大学生の嘆き
https://www.asahi.com/articles/ASM7L3QN5M7LUPQJ006.html

 文理の壁という日本特有の大きな問題も、人材の育成や活用にとってマイナスです。

 課題が多すぎてどれから手をつけてよいものかと思いますが、とにかく出来ることをやっていくしかありません。同じことばかり言っていますが…。

 政治に訴えることも重要ですが…。

 今号にも科学への政治的関与に関する記事をいくつか掲載しました。

★UK Announces Fast-Track Visa to Recruit Top Scientists
https://www.the-scientist.com/news-opinion/uk-announces-fast-track-visa-to-recruit-top-scientists-66252

Boris Johnson pledges to ease U.K. research visas, but plows ahead toward Brexit
https://www.sciencemag.org/news/2019/08/boris-johnson-pledges-ease-uk-research-visas-plows-ahead-toward-brexit

★Syriza may have lost the election, but Greece’s research reforms deserve to stay
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02323-y

★Mexican science suffers under debilitating budget cuts
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02332-x

★ブラジル:アマゾン熱帯雨林、危機 破壊面積、先月4倍増 温暖化、大統領軽視
https://mainichi.jp/articles/20190811/ddm/007/030/109000c

 日本では、経済成長を促す技術が必要とされており、それゆえ「科学技術」が重視されているようにみえますが、科学と技術を文理してみれば、各国と共通する課題もあるように思います。

★Scientists must rise above politics — and restate their value to society
多くの国々で政治からの圧力が強まる中、科学者や有識者は、専門家の声の重要性を政治とは切り離して訴え掛けていく必要がある。
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02379-w

 Nature巻頭言。バグウォッシュ会議を引き合いに出しています。

 現在では科学者だけでなく市民の関与も不可欠であり、パグウォッシュ会議式アプローチをそのまま現在に復活することはできないものの、

As with Pugwash, crucial to any effort to give scientists a bigger voice will be the ability of international researchers to stand apart from political arguments, and to assert that support for scholarship is not an issue of left versus right, but of the very survival and prosperity of humanity itself.

 と述べ、左右の対立を超えた意見を出していくべきだとしています。

 日本はここが弱いですね。研究者は自分の分野こそ重要と主張する人ばかりのようで、政治家もうんざりしているようです。日本の科学アカデミーである日本学術会議の役割は大きいですが、トップサイエンティストしか入れない団体なので、限界があります。

 そこで、日本にも全米科学振興協会やEuroScienceのような団体が必要だ、という声が高まってきています。

 こうした団体は私たちも20年来必要であると考えていますが、力不足で作ることができませんでした。今度こそうまくいくでしょうか。

★「21世紀の『公共』の設計図」(報告書)をとりまとめました
https://www.meti.go.jp/press/2019/08/20190806002/20190806002.html

 最近攻めてる経産省

 民主党政権時代の「新しい公共」を思い起こさせますが、分野横断的な科学に関する団体も、公共を担う団体になるはずであり、日本が弱い部分です。

 私たちもNPO法人サイコムジャパンや現在のカセイケンなど、この部分を担えないかトライし続けています。力不足を痛感しつつも諦めず…。

★科学技術社会連携委員会(第9回) 配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/092/shiryo/1419887.htm

議題

主査代理指名及び議事運営について(非公開)
第6期科学技術基本計画に向けた検討について

★令和2(2020)年度科学研究費助成事業(科研費)の公募に係る制度改善等について
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/06_jsps_info/g_190809/index.html

★Communicating science at a music festival — with 135,000 attendees
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02423-9

 科学フェスティバルを開くのも重要ですが、別のフェスティバルに出向くのも重要だなあと思います。

★Unethical work must be filtered out or flagged
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02378-x

★UC Faculty Protest Elsevier by Suspending Work for Cell Press
https://www.the-scientist.com/news-opinion/uc-faculty-protest-elsevier-by-suspending-work-for-cell-press-66251

UC faculty members quit Cell Press editorial boards over impasse with publisher
https://www.sciencemag.org/news/2019/08/uc-faculty-members-quit-cell-press-editorial-boards-over-impasse-publisher

 エルゼビアVSカリフォルニア大。Cell Pressのエディター辞任という手に出ました。

★Tribute to Suzanne Eaton, from her lab members
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02371-4

Plant Biologist Killed on Solo Camping Trip in British Columbia
https://www.the-scientist.com/news-opinion/plant-biologist-killed-on-solo-camping-trip-in-british-columbia-66250

 事件に巻き込まれた研究者。あまりに突然なので、残された研究室メンバーへの影響を考えると辛いです。

★平成の5大ネカト事件:東大分生研・加藤事件(第1位)
https://haklak.com/page_FFP_heisei-1.html

 世界変動展望の著者の方による力作。必読です。

がん診療連携拠点病院等院内がん登録2012年3年生存率、2009年から10年5年生存率公表
喉頭・胆嚢・腎・腎盂尿管癌3年初集計
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0808_1/index.html

がん5年生存率、前立腺は約99%だが膵臓は10%未満 部位により大きな差
https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2019/08/20190809_01.html

がん5年相対生存率は66.1%、膵臓は依然10%未満-国がん発表
https://www.cbnews.jp/news/entry/20190808135528

がん3年生存率72% 初公表の胆のうがんは33% 国立がん研
https://mainichi.jp/articles/20190807/k00/00m/040/263000c

がん:3年生存率72% 2012年診断、ほぼ前年並み 初公表、胆のうがん33%
https://mainichi.jp/articles/20190808/ddm/012/040/050000c

がん診療連携拠点病院等院内がん登録
2017年全国集計報告書公表
WHO血液がん分類初集計、院内がん登録全国集計結果閲覧システムで施設別の治療方法別登録数が検索可能に
https://www.ncc.go.jp/jp/information/pr_release/2019/0808_2/index.html

がん:競泳・池江選手公表の血液がん 4分類→13分類に
https://mainichi.jp/articles/20190808/ddm/012/040/060000c

血液がん最多は「成熟B細胞腫瘍」17年、国立がん研
https://mainichi.jp/articles/20190807/k00/00m/040/276000c

 私榎木はがん診療連携拠点病院に勤務していますので、密接に関わりがあります。

 がんとの闘いは、アメリカでムーンショット(アースショット)が行われていますが、未だ道半ばです。それでも改善傾向がみられ、ちょっとずつ前進はしています。

★DNAの大量・高速増幅法開発、マリス氏死去
https://www.yomiuri.co.jp/science/20190811-OYT1T50126/

Kary Mullis, Inventor of the PCR Technique, Dies
http://bit.ly/2Z1pdwx

 著書がヒットしたマリス氏。ご冥福をお祈りします。

★US trust in scientists is now on par with the military
https://www.nature.com/articles/d41586-019-02389-8

The Public’s Trust in Scientists Rises, Pew Poll Shows
http://bit.ly/2Z1ZF2r

 軍と同じくらい科学者への信頼が高まったとのことですが、政府との関係は厳しいものがあります。

★「党派的な脳:耳障りな科学のメッセージはどのようにリベラルと保守を科学不信にするか」Nisbet et al. 2015
https://blogos.com/outline/397222/

★図鑑「はたらくくるま」問題の本質 〜 誰が言論の自由の脅威者か
http://agora-web.jp/archives/2040906.html

 あいちトリエンナーレの問題の逆と言いますか、右派からの言論の自由の問題提起。言論の事由は左右を超えた問題として考えていかねばなりません…。