メールマガジンの巻頭言より
総選挙が終わった。
大方の予想通り、民主党を中心とする政権が誕生する。第一党が変わることによる政権交代は62年ぶりだという。
新政権は科学技術に対し、どのように取り組むのだろうか。
私たちの公開質問状に対する回答から、あらためて考えてみたい。
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20090808/p1
マニフェストにもあったが、
というのが、新政権の大きな目玉となる。
- 「科学技術政策の基本戦略並びに予算方針を策定し、省庁横断的な研究プロジェクトや基礎研究と実用化の一体的な推進を図り、プロジェクトの評価を国会に報告する」
としている。
省庁の枠に縛られているといわれる科学技術予算を、トップダウンでもっと柔軟なものにするということだろう。
先週も述べたが、この「科学技術戦略本部(仮称)」がどのようなものになるのか、注目したい。
民主党にはたして科学技術に精通する議員はいるのか、という疑問が文部科学省から呈されているが*1、博士号をもつ鳩山代表、弁理士である管直人代表代行など、理工系出身者が要所にいる同党、民間や学界も含めて、人材の登用を柔軟に行えば、活路は開かれるかもしれない。
- 民間セクターの投資が期待しにくい分野の増加に伴い、科学技術予算は、今後いっそう増額していく必要がある
と述べている。しかし、自公政権下でも科学技術予算は増額されていたので、どのように予算を配分するのか、ということになるだろう。「科学技術戦略本部(仮称)」にどのような人材を採用するのかが大きなカギを握るだろう。
さて、私たちが最も関心が深いのは、科学技術を担う人材の育成である。
これに関して民主党は
- 幅広く研究者や各研究機関の意欲を高め、研究の質の向上させていくためには、組織単位の補助金を増やすのではなく、研究内容そのものに着目し、研究者単位で資金を配分すべきである。
- こうした施策を展開していく中で、若手の博士号取得者、研究者の雇用の確保、生活の向上に資する環境を整備していく。
と述べている。やや具体性に乏しいものの、研究費の過度な集中を改め、研究のすそ野を広げると方向に向かうと解釈する。また、ポストドクター問題とは明記していないものの、博士の雇用問題にも取り組むと明記している。
こうした施策の元になるのが、自公民の超党派で成立した議員立法「研究開発力強化法案」
正式名称
研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20HO063.html
だ。第二節 若年研究者等の能力の活用等で、「若年研究者等の能力の活用を図る」「若年研究者等の能力の活用の促進に必要な施策を講ずる」と明記されている。
与野党で相違点はすくない課題なので、具体的施策の実行を望む。
その他、国立大学法人化の見直しや、最先端研究開発支援プログラムがどうなるかという問題があるが*2、今後の動きに注目したい。
さて、方法論はさておき、民主党政権が取り組んでもらいたい課題は、個々の研究者の才能がのびのびと発揮される研究システムの構築だ。
自公政権下の科学は、予算の増加が継続的になされ、プロジェクト中心型の研究が行われた。小泉首相は科学の応援団と言われ、第3期科学技術基本計画でも25兆円の資金が投入される。
ノーベル賞受賞者が誕生し、iPSなど大きな成果も生まれている。
しかし、特定の研究者に過剰な資金が投入され、使わない研究機材が多数購入されるという弊害も生じた。また、プロジェクト終了後に、ポスドクが大量解雇されるという人材の問題も生じている。
経済界の論理が優先されているとの批判もなされている*3。
民主党政権には、こうした前政権が残した課題に取り組んでほしい。
ノーベル賞は、数10年前の成果であるし、iPSは山中教授のアイディアを発掘した目利きである岸本忠三氏がいたからと言われている。将来の成果のためには、ある程度のばら撒き的な予算も必要だろう。少額でも、個の研究者が自由に使える研究費の増額が望まれる。
また、ポスドクなど、博士号を取得した人々の才能を有効に使うシステムを構築してほしい。
自らの政策秘書としてポスドクを登用するなど、具体先を進めてほしい。
最後に、私たち自身も、変わらなければならない。
●●してほしい、と上では書いたが、それだけではだめだ。
現場で何が課題であり、どうすればよいのか、私たち自身が声をあげていかなければ、政策課題として認識されない。博士号取得者に税金を投入することに反対の声は多く、待っているだけでは何も解決しない。
自らの主張を政策に反映させていく、したたかな姿勢を持つことも重要だろう。
政策提言を作り、支持を増やし、それを背景に政権と交渉する、マスコミも含め様々な手段を用いるといった姿勢だ。
前政権と違うと思わせるのは、民主党がNPOなどとの対話の姿勢を見せているところだ。
選挙前に私たちが参加した「市民パワーと民主党の懇談会」*4など、「聞く耳」を持っている印象を受ける。
これが人気取りの単なるパフォーマンスでないことを願いたい。
ダメ、と一言で嘆くのではなく、妄信するのではなく、適度な距離を置き、したたかに政権に向き合う、こうした成熟した科学コミュニティ、NPOを作ることができるか、私たちが問われているのだ。
選挙というお祭りは終わった。これからは日常で、科学政策に向き合っていこう。