科学・政策と社会ニュースクリップ

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参院選政策比較その3 科学・技術政策を比較する

参院選まで一週間を切った。

先週送付した公開質問状は、たちあがれ日本日本共産党よりご回答をいただいている。

たちあがれ日本
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20100627/p1

日本共産党
http://d.hatena.ne.jp/scicom/20100702/p1

返答があり次第またご紹介する。

さて今回は、各党の参院選の公約から、科学・技術政策を比較したい。

環境、エネルギー、医療は専門のNPOなどがあるため、主にそれ以外の、基礎科学、イノベーション等についてみていきたい。

【重点分野】
各党の重点分野を見てみよう。

与党民主党は、ライフイノベーションを掲げ、再生医療、介護ロボットの実用化を支援すると述べる。また、宇宙産業の活性化を図ると述べる。しかし、これしか記述がない。科学・技術政策の優先順位が高くないのか。
http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2010/index.html

国民新党は医療、エネルギー以外、科学・技術について触れていない。
http://www.kokumin.or.jp/seiken-seisaku2010/index.shtml

自民党再生医療、宇宙、海洋、ICT、知的財産について述べる。宇宙に関する記述は多く、「JAXAを全府省の宇宙利用政策などを実施する機関としても再編成」すると述べている。また、「基幹となる産業や技術の中から日本が有利に世界と戦える10分野を戦略的に選び、集中投資」するとのこと。
http://www.ldplab.jp/vote2010/economic.php

公明党は「次世代太陽光パネルスマートグリッド、電気自動車、燃料電池、介護ロボット、ナノテクノロジー、ICT、高度医療など」「宇宙・海洋・生命科学脳科学など先端分野の基礎研究を強力に推進」と述べている。この他、iPS細胞、基礎科学の強化と述べる。
http://www.komei.or.jp/campaign/sanin10/manifest/

日本共産党は、人文・社会科学も含めた基礎科学の重視を述べ、軍事、原子力などは削減すると述べている。宇宙の軍事利用に反対している。
http://www.jcp.or.jp/seisaku/2010_1/sanin_bunya/2010-00-17.html

社会民主党は「生物多様性保全、化学物質対策の強化、環境アセスメント」と、環境政策について触れる部分はあるが、その他の記載は乏しい。
http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2010/manifesto2010_01.htm

みんなの党は「バイオ、エレクトロニクス、新素材、環境、エネルギー等の将来成長分野へシフト」と述べている。アジェンダ成長戦略では、10年以内に植物が行う光合成を人工的につくる、「iPS細胞の研究を進め10年以内に自分の細胞から遺伝子情報の全く同一な臓器を造り、移植治療が可能になるようにする」と述べている。
http://www.your-party.jp/policy/

新党改革は、具体的分野には触れていない。
http://shintokaikaku.jp/manifesto2010.html

たちあがれ日本は、高速鉄道原発スマートグリッド、次世代配送電システムと述べている(私達の公開質問状の回答ではより詳細に述べているが、ここでは触れない)。
http://www.tachiagare.jp/pdf/newsrelease_100622_4.pdf

その他の政党は、日本創新党が「リニア、新幹線、発電所、インフラ」「環境貢献型システム・製品(太陽光発電など自然エネルギー・新エネルギー技術、原子力発電、高効率石炭火力発電、高効率高炉、各種の生産システム、次世代自動車、省エネ家電等)」と述べた。

【科学・技術政策に対する姿勢】
民主、国民新党は記載なし。

自民党は「第4期科学技術基本計画で25兆円を上回る政府研究開発投資総額を目指す」「科学研究費補助金を大幅に拡充」、戦略的創造研究推進事業等の競争的資金の大幅拡充、競争的資金の間接経費30%確保を述べる。そして、国立大学法人の民営化、スーパー・ユニバーシティ化を目指すと述べる。

また、「オープン・イノベーションに対応した「競争」と「協調」による世界最先端の研究開発拠点」「世界トップレベル研究拠点(WPI)」の拡充に触れ、科学技術外交の強化について触れる。

公明党研究開発力強化法に基づき研究者の養成・確保を図る、「成長力を強化するため、イノベーションの源泉となる基礎科学力の強化に取り組みます」と述べている。

日本共産党は、基盤的経費の増額、私立大学の「経常費の2分の1助成」、公立大学への国の財政支援強化、大学教員の増員、研究支援者の増員、科学技術政策をボトムアップで立案すること、科研費の大幅増額、研究費の審査体制の充実化、COEやGPといった一部の研究機関に与えられる研究費の見直しなどについて触れる。

社民党は「いわゆる「骨太方針」にもとづく国立大学・高専運営交付金、私学助成費のシーリング・マイナスの方針を転換し、義務的経費の減額は行いません」と述べている。

みんなの党は、「前年比較での予算配分方式から目標設定方式へ」、寄付税制を拡充して「全額税額控除」の導入、研究開発減税の拡充、基礎科学研究費用は増加させると述べている。ただ増加させるだけではなく、大学の民営化などを通して、「自律的に資金を集め、厳しい競争の中で成果を競う研究機関に脱皮させる」と述べる。

新党改革は政治主導による科学技術の司令塔組織(科学技術局)を創設し、今後の成長が見込める産業には、重点的に研究開発予算を投じると述べている。

たちあがれ日本は、「国家戦略として「研究開発大国」を死守すべく、「税制・予算」で世界最高の対策を講じ」ると述べる。寄付優遇のための「学術団体法」(仮称)の制定、国の研究開発投資の目標をGDP比1%以上に設定するとしている。また、魅力的な研究拠点を整備すると述べている。

【講評】
各党の科学・技術政策を概観した。ここで私の独断と偏見を含めて講評してみたい。

例年通りではあるが、政策の一貫性や完成度の高さでは、自民党共産党が頭一つ抜けているように思う。これにみんなの党たちあがれ日本公明党が続き、三番手に新党改革がつけるといった構図だ。

たちあがれ日本については、新党のなかでは科学・技術に記述を多く割いているのが目を引く。

社民党国民新党が科学・技術にふれないのは毎回だが、与党民主党はどうしてしまったのか。民主党政権は、事業仕分けのあと、科学・技術を軽視しているわけではないと述べ、私もそうだと理解したが、マニフェストがこれでは、その姿勢を疑わざるを得ない。

各党の科学・技術政策に対するスタンスの違いは、割とはっきりとみえた。

共産党の徹底的なボトムアップ重視は、これまでの選挙で一貫している。ひとつの対立軸となりうる。人文・社会科学に触れたのは共産党だけだ。

もうひとつの対立軸は、みんなの党自民党だ。重点分野を定め、競争を重視する。トップダウン志向だ。

また、両党とも、国立大学法人の民営化にも触れる。違いは、自民党科研費を「大幅」に増やすと述べているが、みんなの党は競争前提で増やすと述べている点だ。

公明党は、重点分野を述べつつ、基礎科学にも触れ、共産党とみんな、自民の中間(ややみんな、自民より)のスタンスをとる。

たちあがれ日本は、研究費の増額(GDP比1%)、研究に対する寄付優遇について触れる。公明党より若干共産党に近いか。新党改革は記載が乏しいので分かりにくいが、科学技術局の設立、成長産業への投資と述べているので、みんな、自民に近いか。

以上、まとめてみる。図が崩れてしまっていたらご容赦を。

マニフェストの充実度(科学・技術政策に対する姿勢?)

共産
 自民
   みんな         創新
     たちあがれ              社民
       公明    改革    民主  国民
充実<------------------------------>乏しい

各党の科学・技術に対するスタンス

               産業、応用重視
_______________↑______改革?______
_______________↑__________みんな__
_______________↑_________自民____
_______________↑___公明党_________
_______________↑_(民主)__________
_______________↑たちあがれ?_________
ボトムアップ<_________________>トップダウン
_______________↓_______________
_______________↓_______________
_______________↓_______________
_______________↓_______________
_______________↓_______________
____共産党________↓_______________
             基礎科学重視


ラフな図で異論もあろうと思うが、大まかにまとめてみた。民主党に関しては、現政権の科学・技術政策からスタンスを類推した。

共産党の独自スタンスが目立つが、みんな、自民の二党と、たちあがれ、公明、そして現政権から類推する民主とのあいだにも違いがあるように思われる。

これはあくまで思考実験だが、例えば基礎研究と応用研究のバランスを取り、かつ研究者の自主性により重点をおく政治勢力が出現したら、独自の位置を獲得するかもしれない。

事業仕分け以来、科学・技術政策に対する関心が高まった。はやぶさの帰還なども影響を与えているだろう。

こうした背景のなか、参院選が行われる。

毎回のことではあるが、科学・技術政策は争点となっていない印象で、各党の政策もまだまだ乏しいと言わざるを得ない。しかし、それでも各党の違いが少し見えてきたように思う。多少は関心の高まりが影響を与えているのかもしれない。

科学・技術は私達の生活に大きな影響を与える。もっと関心を持たれていい課題だ。

あと一週間、みなさんも今回の選挙で、科学・技術政策にあれこれ発言していただきたい。異論、反論もふくめ、この文章がそのきっかけとなれば幸いだ。