日本の科学技術政策は、科学技術基本法に基づき、5年ごとの科学技術基本計画を指針として運営されています。
第3期基本計画で、25兆円の財政投資に関して議論があったことは記憶にあたらしいことですが、基本記計画では、研究者の人材育成についてもふれられています。ここで、第一期から第三期まで簡単に振り返ります。
第一期は、いわゆる「ポストドクター等一万人支援計画」が盛り込まれたとされますが、本文からさぐってみます。
大学院等の教育研究の充実、若手研究者に対するフェローシップ等の支援の拡大、充実や、大学・高等専門学校等における自然科学系教育の改善・充実を進める。
また、欧米に比べて手薄なポストドクトラル研究者層を充実・強化し、その研究歴を研究者のキャリア・パスの重要なステップとして確立することに努め、もって、研究者としての能力の涵養と、これらの研究者層が研究開発の重要な一翼を担う体制の実現を図り、我が国の研究開発能力を強化する。さらに、研究者が研究開発活動に専念できる環境を整備することとし、研究開発を支援する人材を養成・確保するとともに、外部の支援機能を活用し得る制度を整備する。
若手研究者層の養成、拡充等を図る「ポストドクター等1万人支援計画」を平成12年度までに達成するなどの施策により、支援の充実を図る。また、その研究歴を常勤研究者と同等に評価するなど、引き続き適切に取り扱うよう努めるとともに、産業界における処遇の改善を期待しつつ、博士課程修了者に対する評価の定着と併せて、我が国における研究者のキャリア・パスとしてのポストドクトラル制度の整備・確立を図る。
第一期では、当時まだ確立されていなかったポスドクを位置づけることに主眼がおかれています。この段階では、ポスドク後のことについては、あまり触れられていません。
ポストドクター等一万人支援計画は、2000年に達成されました。それを受けて、2001年から始まる第二期では、以下のように述べられています。
第1期基本計画の期間中の施策の進捗状況及び課題は以下のとおりである。
競争的かつ流動性のある研究開発環境の整備については、競争的資金はほぼ倍増し、若手研究 者を対象とした研究資金も大幅に増加した。ポストドクター等1万人支援計画は、数値目標が4年目において達成され、我が国の若手研究者の層を厚くし、研究現場の活性化に貢献したが、ポストドクター期間中の研究指導者との関係、期間終了後の進路等に課題が残った。また、任期付任用制度、産学官連携の促進のための国家公務員の兼業緩和等の制度改善を行ったが、現在までの人材の流動性の向上は必ずしも十分ではない。
ここで、ポスドク後の進路の問題がとりあげられています。そして以下のように述べています。
また、研究指導者の下で研究を行うポストドクター等についても、独立して研究できる能力の向上を図るため、ポストドクター等1万人支援計画が策定され、これによりポストドクターが研究に専念できる環境が構築されてきた。今後は、研究指導者が明確な責任を負うことができるよう研究費でポストドクターを確保する機会の拡充や、能力に応じた処遇を行うとともに、ポストドクターの行政・企業等への派遣や優秀な博士課程学生への支援充実等を図り、ポストドクトラル制度等の質的充実を図るとともに、その効果を評価する。
多様なキャリア・パスの開拓
研究者が、適性に応じて、研究開発の企画・管理等のマネジメント、研究開発評価、知的財産権等研究開発にかかわる幅広い業務に携わることができるよう、多様なキャリア・パスの開拓が必要である。
若手研究者が将来の可能性を幅広く選択できるよう、行政機関等での採用の機会を拡大する。特に、競争的資金の配分機関などでは、研究経験のある人材の雇用を進める。さらに、民間においても、博士課程修了者やポストドクター経験者等の能力のある若手研究者の採用に積極的に取り組むことが期待される。
ここで、現在にもつながる多様なキャリアパスという言葉が出てきています。
現在進行中の第三期ですが、第二期より踏み込んだ表現をしています。
なお、ポストドクター等1万人支援計画が達成され、ポストドクターは今や我が国の研究活動の活発な展開に大きく寄与しているが、ポストドクター後のキャリアパスが不透明であるとの指摘がある。このため、研究者を志すポストドクターは自立して研究が行える若手研究者の前段階と位置付け、若手研究者の採用過程の透明化や自立支援を推進する中でポストドクター支援を行う。また、ポストドクターに対するアカデミックな研究職以外の進路も含めたキャリアサポートを推進するため、大学や公的研究機関の取組を促進するとともに、民間企業等とポストドクターの接する機会の充実を図る。
また、若手研究者やポストドクターの時期から国際経験を積み海外研究者と切磋琢磨できるよう、海外の優れた研究機関での研究機会や海外研究者との交流機会を拡大すべく引き続き施策の充実を図る。
博士号取得者の産業界等での活躍促進
博士号取得者は、社会の多様な場で、高度な知識基盤社会をリードし、支え、活躍すべき存在であるとの観点から、大学院教育の改革や人材育成面での産学連携を推進し、社会の多様な場で活躍しうる博士号取得者の育成を強化する。産業界においては、優れた博士号取得者に対し、弾力的で一律でない処遇を積極的に講じることが求められる。
また、学生はもとより、大学、産業界等が、博士号取得者はアカデミックな研究職のみならず社会の多様な場で活躍することが望ましいとの共通認識を持つことを期待する。
なお、各大学が、博士課程修了者の進路等の情報を把握し自らの教育の質の向上に活かすことが極めて重要であるため、各大学がこれら情報の継続的な把握に努めることが望まれる。
以上、簡単にまとめてみました。
現在この方針に基づき、さまざまな施策が行われているわけです。
ポスドク問題は、政府の科学政策の基本方針にも盛り込まれた問題であるので、現在の政策をチェックし、より効果的な対策をたてることを促すことは、根拠のあることだと言えます。