科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

第4期科学技術基本計画、内容固まる

12月15日に開催された総合科学技術会議 基本政策専門調査会第12回
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seisaku/haihu12/haihu-si12.html

において、第4期科学技術基本計画の内容が固まった。

資料2−1 科学技術に関する基本政策について(答申案)(概要)(PDF)
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seisaku/haihu12/siryo2-1.pdf

資料2−2 科学技術に関する基本政策について(答申案)(PDF:481KB)
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/seisaku/haihu12/siryo2-2.pdf

すでに以下のような報道がされているように、政府研究開発投資がGDP比1%になったこと、ノーベル賞の獲得目標が盛り込まれなかったことが話題になった。

●第4期科学技術基本計画の政府研究開発投資25兆円
http://scienceportal.jp/news/daily/1012/1012162.html

●科学技術基本計画:予算、5年で25兆円 GDP比1%−−答申案
http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2010/12/16/20101216ddm002010075000c.html

ノーベル賞50年で30人…基本計画盛り込まず
http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20101216-OYT1T00095.htm

ノーベル賞目標30人「品なし」 科技基本計画から削除
http://www.47news.jp/CN/201012/CN2010121501000619.html

●環境・エネルギーと医療介護=第4期科技計画案の重点―政府調査会
http://www.asahi.com/politics/jiji/JJT201012150094.html

●政府「科学技術を一層重視」 投資計画5年で25兆円
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819481E3E7E2E0EA8DE3E7E3E0E0E2E3E29797E0E2E2E2

議論があったGDP比1%および25兆円は、直前に出された公明党の提言に沿った形になっている。

●5年で25兆円超の投資を
党科学技術委 第4期基本計画で提言
http://www.komei.or.jp/news/detail/20101210_3993

宮田満氏がブログに書いているように、問題はこの目標が実行されるかだ。

●BTJブログWmの憂鬱2010年12月20日、第4期の科学技術基本計画で来年こそ科学復権の年に
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/miyata/2010/12/206720.html

厳しい財政事情、事業仕分けや元気な日本特別復活枠等を見ていると、政府投資がすんなりと増額されるとは思えない。

科学コミュニティ側も、成果の社会へのアピールなどがこれまで以上に問われることになるだろう。決して安穏としてはいられない。

さて、第4期基本計画の中身だが、様々な論点があり、一言で述べるのは簡単ではない。ここでは、私が最も関心のある人材育成や人材の活用等についてみてみたい。

人材に関する記述は、p26ページ以降に書かれている。

3.科学技術を担う人材の育成
(1)多様な場で活躍できる人材の育成
1 大学院教育の抜本的強化

国は、新たな成長分野で世界を牽引するリーダーの育成を目指し、国際的なネットワークと産業界との連携の下、一貫性のある博士課程教育を実施する「リーディング大学院」の形成を促進する。

先日の事業再仕分けにおいて、これに関連すると思われる「博士課程教育リーディングプログラム」が、見直しの評価をうけている。
http://www.cao.go.jp/sasshin/shiwake3/details/pdf/1118/kekka/A25.pdf

ビジョンが見えないとの意見だが、名前だけでない、中身を伴った制度を設計することが求められている。

2 博士課程における進学支援及びキャリアパスの多様化

国は、大学が、産業界と協働し、博士課程学生に対して産業界で必要とされるマネジメント能力や複数の専門分野にまたがる基礎的な能力を育成するよう求める。また、産業界は、博士課程修了者やポストドクターの能力を評価し、研究職以外でもその登用を進めていくことが期待される。

国、地方自治体、大学、公的研究機関及び産業界は、互いに協力して、博士課程の学生や修了者、ポストドクターの適性や希望、専門分野に応じて、企業等における長期インターンシップの機会の充実を図るなど、キャリア開発の支援を一層推進する。

第3期計画でも盛り込まれたキャリアパスの多様化だが、ポスドク問題の現状を見れば、あまり進んでいるとは思えない。

拙書「博士漂流時代」

博士漂流時代  「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

博士漂流時代 「余った博士」はどうなるか? (DISCOVERサイエンス)

で触れたように、問題の根本は、若手研究者だけが過度に流動化してしまったことであり、この問題を解決しない限り、小手先だけの対応になってしまうだろう。

3 技術者の養成及び能力開発

国、大学、高等専門学校及び産業界は、相互に連携、協力して、実践的な技術者養
成に向けた分野別到達目標の策定、教材作成、インターンシップ、産学双方向の人材交流を推進する。また、国は、大学が、大学院において、実践的な技術者を目指す学生に対し、複線的で多様なカリキュラム設定を検討するとともに、組織的、体系的な教育体制を整備することを期待する。

 科学者より技術者の需要が高いことは、データでも示されている。技術者養成に力をいれることは重要であると考える。

(2)独創的で優れた研究者の養成
3 女性研究者の活躍の促進

国は、現在の博士課程(後期)の女性比率も考慮した上で、自然科学系全体で25%という第3期基本計画における女性研究者の採用割合に関する数値目標を早期に達成するとともに、さらに30%まで高めることを目指し、関連する取組を促進する。
特に、理学系20%、工学系15%、農学系30%の早期達成及び医学・歯学・薬学系あわせて30%の達成を目指す。

国は、女性研究者が出産、育児と研究を両立できるよう、研究サポート体制の整備等を行う大学や公的研究機関を支援する。また、大学や公的研究機関に対し、柔軟な雇用形態や人事及び評価制度の確立、在宅勤務や短時間勤務、研究サポート体制の整備等を進めることを期待する。

国は、大学及び公的研究機関が、上記目標の達成に向けて、女性研究者の活躍促進に関する取り組み状況、女性研究者に関する数値目標について具体的な計画を策定し、積極的な登用を図るとともに、部局毎に女性研究者の職階別の在籍割合を公表することを期待する。また、指導的な立場にある女性研究者、自然科学系の女子学生、研究職を目指す優秀な女性を増やすための取組を進めることを期待する。

女性研究者の採用割合に数値目標が設けられたことは大きい。ただ、上でも述べられているように、第3期の目標25%が達成できていないのが現状だ。目標を達成するための取り組みが必要だ。

「優秀な女性を増やすための取り組み」が明記されたことも大きいといえる。

私自身が関わっている「女子中高生の理系進路選択支援事業」
http://rikai.jst.go.jp/jyoshi/

のような取り組みが必要だ。

【科学技術政策ニュース】女子をもっと理系へ!女性研究者の卵を育てる
http://sc-smn.jst.go.jp/sciencenews/policy.html

もう一点とりあげたいのが、科学技術コミュニケーションに関する部分だ。

p33以降に書かれている。

2.社会と科学技術イノベーションとの関係深化
(1)国民の視点に基づく科学技術イノベーション政策の推進
1政策の企画立案及び推進への国民参画の促進

国は、科学技術イノベーション政策で対応すべき課題や社会的ニーズ、成果の社会還元の方策等について、広く国民が議論に参画できる場の形成など、新たな仕組みを整備する。

国は、政策、施策、さらには大規模研究開発プロジェクトの企画立案及び推進に際し、国民の幅広い意見を取り入れるための取組を進める。また、国は、大学や公的研究機関が、同様の取組を積極的に進めていくことを期待する。

国は、国民の政策への関与を高める観点から、例えば、NPO法人等による科学技術活動、社会的課題に関する調査及び分析に関する取組などを支援する。

国は、科学技術に関する政策の立案を担う側と研究開発を担う側の連携を深めるため、国会議員や政策担当者と研究者の対話の場づくりを進める。

国は、政策、施策等の目的、達成目標、達成時期、実施主体、予算等について可能な限りの明確化を図り、これら及びその進捗状況を広く国民に発信するとともに、得られた国民の意見を政策等の見直しに反映する取組を進める。

第3期よりやや踏み込んで、科学技術政策における市民参加について記載している。行政と市民の双方向性を書いている点は評価できる。私達のようなNPOにとっては、大いに期待したい内容だ。

ただ、現在のようなパブリックコメントだけでは疲れてしまう。

熟議、コンセンサス会議といった市民参加の手法をどこまで取り入れるかが重要だ。

2 倫理的・法的・社会的課題への対応

国は、科学技術を担う者が倫理的・法的・社会的課題を的確に捉えて行動していくための指針を、国際動向も踏まえ、策定する。その際、学協会等において、主体的にこれらの指針等の策定を念頭に置いた取組を進めることを期待する。

国は、倫理的・法的・社会的課題への取組を促進するため、研究資金制度の目的や特性に応じて、これらの取組に研究資金の一部を充当することを促進する。

国は、科学的合理性と社会的正当性に関する根拠に基づいた審査指針や基準の策定に向けて、レギュラトリーサイエンスを充実する。

国は、テクノロジーアセスメントの在り方について検討するとともに、政策等の意思決定に際し、テクノロジーアセスメント等に基づく幅広い合意形成を図るための取組を進める

ここではテクノロジーアセスメントを念頭におき、合意形成を図る取り組みをすすめると記載している。こうした分野にどの程度資金と人材が投入されることになるのか、注目したい。

3 社会と科学技術イノベーション政策をつなぐ人材の養成及び確保

国は、戦略協議会を主導する「戦略マネージャー(仮称)」、関係府省や資金配分機
関におけるPD(プログラムディレクター)、PO(プログラムオフィサー)など、社会や国民からの要請等を踏まえつつ、科学技術イノベーションに関する研究開発等のマネジメントを担う人材を養成、確保する。

国は、専門知識を活かして研究開発活動全体のマネジメントを担う研究管理専門職(リサーチアドミニストレーター)、研究に関わる技術的業務や知的基盤整備を担う研究技術専門職(サイエンステクニシャン)、知的財産専門家等を養成、確保する。

国は、テクノロジーアセスメントをはじめ、社会と科学技術イノベーションとの関わりについて専門的な知識を有する人材を養成、確保する。

国は、国民と政策担当者や研究者との橋渡しを行い、研究活動や得られた成果等を分かりやすく国民に伝える役割を担う科学技術コミュニケーターを養成、確保する

「博士漂流時代」で「コサイエンティスト」として取り上げた様々な職種が挙げられている。

現代の科学はチームで行うものであり、ストライカーだけのサッカーチームが勝てないように、様々な役割の人材がいなければ、科学は進まない。そういう意味で、こうした職種の人材に関して記載したことは評価したい。

(2)科学技術コミュニケーション活動の推進

国は、大学や公的研究機関における科学技術コミュニケーション活動に係る組織的な取組を支援する。また、一定額以上の国の研究資金を得た研究者に対し、研究活動の内容や成果について国民との対話を行う活動を積極的に行うよう求める。

これが研究者のあいだで評判がよくないアウトリーチの部分だ。義務化ではなく「積極的に行うよう求める」と表現が弱められているのは、研究者の反発に配慮したのだろう。

国は、大学及び公的研究機関が、科学技術コミュニケーション活動の普及、定着を図るため、個々の活動によって培われたノウハウを蓄積するとともに、これらの活動を担う専門人材の養成と確保を進めることを期待する。また、研究者の科学技術コミュニケーション活動参加を促進するとともに、その実績を業績評価に反映していくことを期待する。

研究体制の中に科学技術コミュニケーションが組み込まれていくことが求められている。こうしたことが現実になったときに、批判を含む在野の科学技術コミュニケーションも頑張らないければならないと思う。

以上、簡単ではあるが、私の関心のある部分だけをピックアップしてみた。

今後5年間はこれに基づいて科学技術政策が動いていく。

この文章を絵に書いた餅で終わらせるのか否かは、国だけでなく、私達一人ひとりが関心を持ち、政策を厳しい目で監視し、行動していくことにかかっている。

パブリックコメントを出された方も多いと思うが、ぜひ今一度、この答申を読んで、これからの科学のあり方を考えてほしい。