科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

科学コミュニケーション、ドキュメントから

 今の日本の科学コミュニケーションブームは勢いがある。

 たとえば、今年の科学技術週間(4月)では、全国でいっせいにサイエンスカフェが開催されるという。各カフェ団体には打診がいっているようだ。

 楽しみといえば楽しみだが、一方で批判の声も高まっている。

 この前の総研大でご一緒させていただいた毎日新聞の元村記者は、社会人としてのお作法であるコミュニケーション能力をつけるために国費を投入するのは納得がいかないと述べていた(詳しくは理系白書ブログのこの記事を)。

 まあ、科学コミュニケーションは多義であり、コミュニケーション能力をつけるだけが科学コミュニケーションではないが(というか、そちらは科学コミュニケーションとしてはマイナーな使われ方)、最もな意見である。これは大学院教育に突きつけられた強烈な批判だといえよう。



 ぽっと出のような日本の科学コミュニケーションだが、遡ると、以下のような文章を見つけた。

科学技術に関する社会的コミュニケーションの在り方の研究(要旨/全文

この文章が公表されたのは15年前、1991年だ。

 文章を読んでいただければ分かるが、この時期で既に科学技術の関心低下を憂い、科学コミュニケーションが必要であると述べている。一部引用。

「科学技術トライアングル」関係からの視点から見れば、個々の「生活者」にとってのこれらの問題はあまりにも大きく、「組織(企業、国家、国際機関等)」がリーダーシップをとって組織的に対応しなければならない問題である。そして、「科学者・技術者」の冷静で着実な調査・研究活動の成果を効果的に生かしていくことがこの問題の解決への最短距離であろう。その際、具体的な“生きた科学技術情報”を正しく「生活者」や「組織」に伝達し、コミュニケートしていくという関係が保たれることが必要である。

このケーススタディを「科学技術トライアングル」の視点からみると、「生活者(勤労者や家族、子供達)」を「組織企業や行政、学校」」や「科学者・技術者(医師やシステム管理者、教師)」が援助・助言をあたえながら自立させていくという個別的でかつ総合的な対応をせまられていることとなる。

今読むと、非常にパターなりスティックな表現をしている。そして

「科学者・技術者」と「生活者」およびそのアシスタントの接点としての地域における「科学技術コミュニケーション・センター(STCC:仮称)」と「センター・オブ・シンパシー(COS)」の構想

を提案している。シンパシーなんていう表現から分かるように、要は科学技術への支援拡大が目的であるということだ。

 科学コミュニケーション関係の文書としては、同じく科学技術政策研究所の渡辺正隆さんが関与した「科学技術理解増進と科学コミュニケーションの活性化について」(要約/全文)、「我が国の科学雑誌に関する調査」(要約/全文)が、科学コミュニケーションを考える上で重要な資料である。

 また、政府文書関連では、文部科学省科学技術理解増進政策に関する懇談会が出した「人々とともにある科学技術を目指して−3つのビジョンと7つのメッセージ−(概要)(PDF:37KB) 」「人々とともにある科学技術を目指して−3つのビジョンと7つのメッセージ−(報告書)(PDF:1,802KB) 」も欠かせない。

 理解増進やアウトリーチという言葉が示すように、今の科学コミュニケーションは、科学技術への支持拡大という側面が強い。科学技術への関心、理解が低い→それはまずいことだ→科学を分かりやすく伝える人を増やしましょう、ということだろう。

 それは悪いことではないが、今の科学コミュニケーションは、発信者ばかり盛り上がっていて、受けて側の意識やニーズをとらえていないような感じがする。

 また今の科学コミュニケーションが「新幹線方式」(在来線を無視してすぐ横に新たな路線をつくる)なのも気になる。

 ただ、まだまだ始まったばかりだし、これからがすべてだ。実践を通じて不安を払拭するしかない。我々もこの分野に手を染めた人間として、この状況を冷静にながめ、よい方向にいくように考えていきたい。