科学・政策と社会ニュースクリップ

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AAAS 年会に行ってきました(その2)

横山 雅俊(NPO 法人市民科学研究室・理事)
    CQD01677@nifty.ne.jp

AAAS 年会に行ってきました(その2)

 先般のメールマガジンサイコムニュース '14 年 1/27 付号)で述べた通り、さ
る 2/13〜17 にわたって米国シカゴで開催された全米科学振興協会(AAAS;American
Association for the Advancement of Science)の年次総会に行って来ました。
http://meetings.aaas.org/

 その模様を4回の連載でお送りしています。
 第2回の今回は、開会式典と各種学術セッションの模様をお伝えします。

 開会式典は、会期初日の夜でした。
 司会者を除き、5人が登壇して挨拶や講演などをしていましたが、その1人目がシ
カゴ市長の R. Emanuel さん。なかなか印象的で、楽しませてくれるご挨拶でした。
5人目が開会式典の演者で、AAAS の「会長」 P.A.Sharp さん。今回の年会のメイン
テーマ「Meeting Grobal Challenges: Discovery and Innovation」(→拙訳「世界
中の挑戦に遭遇する-発見と革新-」)に沿って、シカゴ大学出身者の J. ワトソンが
英国の F. クリックと共に DNA 2重らせんモデルを提唱して以降の生命科学、とく
分子生物学の発展の推移を述べてから、「これからの生命科学は、数理科学や物理
学、情報理論などを取りこんで、オーダーメイド医療や食糧安全保障の問題へと結び
ついていくような革新的な知の流れが出てくるだろう」...という結語で締める、割
と壮大な話でした。
 筆者はたまたま生物物理学が専攻ということもあって、Jacob と Monod のオペロ
ン説が遺伝子発現調節のある種の原型であることは割とすぐ分かりましたが、違う背
景の人にそれがどこまで通じたか...。でも、きっとそんな事とは関係なく、大きな
流れのある話なら、聴く人は引きこまれてしまうのでしょう。

 会期初日から各種の学術セッションは多々行われてきましたが、筆者が本格的にこ
れらに参加したのは会期2日目からです。実に沢山のセッションがありましたが、参
加ないし入場したものを一通り列挙してみます。

2/14:
Section Business Meeting;Pharmaceutical Sciences
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7444.html
 一見、学術界と商業界の交流であるかのように見えますが、実際には「AAAS 薬学
部会(薬学委員会)」の運営会議で、討議されていた内容は次回の年会(2015 年サ
ンホセ大会)で持つ予定のシンポジウムの内容検討や、部会の財政状況報告などでし
た。

Symposium Track: Public Policy
Transplant Organ Shortage: Informing National Policies Using Management
Sciences
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session6807.html
 移植用臓器の不足の問題に関するセッション。ちょうど聞いた発表
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Paper10835.html
...の内容は、移植臓器の国内での配分に関する最適解をそれがしの数理モデル(詳
細不明)で求めて議論するといった話でした。

Symposium Track: Education and Human Resources
Building National Capacity in Science Communication for STEM Graduate Students
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7108.html
 理工系学生向けの科学コミュニケーションに関するセッションで、実に3時間にわ
たる長丁場の企画だったようです。ちょうど会場入りしたときの内容は Compass
いう教育プログラムの紹介などでした。

Symposium Track: Computer Science, Mathematics, and Statistics
The Importance of Recreational Mathematics in Solving Practical Problems
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session6933.html
 数学教育の発表でした。
 2件の発表を聞きましたが、1つめは日本の数独に類するパズルの解探索アルゴリ
ズム checker の紹介、2つめは「ケーキの分割から数理経済学へ」なる演題の、実
非線形数学の話で、不動点定理や経済学のナッシュ均衡が話題に出てきました。

Symposium Track: Computer Science, Mathematics, and Statistics
Virtual Humans: Helping Facilitate Breakthroughs in Medicine
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7006.html
 平たく言って、計算機上に人体のモデルを作ってシミュレーションや模擬観察など
をするというテーマでした。
 時間の都合で最後の演者の発表しか観覧出来ませんでしたが、CT 等で撮影した人
体の断層画像を3次元的に再構成して、そこに生理的機能をおよそ再現するような動
画機能を持たせたという、そうした医学教材の紹介でした。
 生体機能の計算機シミュレーションには、まだ臨床医療や実験生物学の仮説検証な
どに広く応用できるほど完成度の高いものはないと思われるので、この手のツールは
今のところ教育用か、良くて限られた用途の研究用(特に初期段階)が関の山かなと思
います。いや、時代はだいぶ進んでいるので、今はかなりの程度まで出来るのかも知
れませんが...。

2/15:
Symposium Track: Engineering, Industry and Technology
The Future of Cities: Dense or Dispersed?
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session6890.html
 都市計画論のセッション。会場到着の都合で3人目、4人目の演者の話を聞いただ
けですが、3人目はスマートシティの話、4人目は高い職業能力を持たない者の就業
可能性の問題(貧困問題の一部)を扱っていました。

Symposium Track: Behavioral and Social Sciences
Building Babies: Development, Evolution, and Human Health
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session6907.html
 育児に関する諸問題のセッション。やはり同様の理由で5人目、6人目の演者の話
をかじった位でしたが、その5人目は家庭における父親の役割に関する種間比較から
の洞察の話、6人目はジャマイカの出産事情の話でした。

Symposium Track: Behavioral and Social Sciences
How to Rebuild Informed Trust in Science: Insights from Social Sciences
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7009.html
 いわゆる STS の王道としての"科学者の社会的責任"に関する話で、会場入りした
時にはすべての演者が講演したあとの討論の時間でした。ちょうどその場にいた時の
当座の議論は、相手の科学的知識が不確かだったり、異なる見解を持つ一般庶民を相
手にしたりする際に、専門家やコミュニケータはどう振る舞うべきなのか...みたい
なものだったと思います。

Symposium Track: Biology and Neuroscience
Video Games, Brains, and Society
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session6990.html
 入場した時には討論の時間で、会場内の聴衆には若い人や小中学生と思しき方々が
かなり沢山いました。公式サイトの要旨を見る限り、コン ピュータゲームに対する
賛否を視野に入れつつも、演者らの立場は、教育や脳科学研究への有用性の観点に立
脚している感じを受けます。
 昨年のサイエンスアゴラでも、みけねこサイエンスプロジェクトさんによるゲーム
脳問題のセッションがありましたが、ちゃんとそういう題材を研究テーマとして取り
扱う実績があるようです。

Career Development Workshop: Communication Skills
Have You Heard About the Higgs? How to Share Your Science Globally
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7367.html
 主に広報担当者や科学ライター向けのワークショップで、キャリア開発の一環とし
て行われていたものです。演者の一人は OIST の森田さん、他はイタリアとカナダの
素粒子理研究施設(INFN と TRIUMF)の関係者で、内容は「素粒子物理のプレスリリ
ースをどうする?」的なものでした。
 実際のワークセッションでは、近くにいた男性と二人で議論などしたのですが、な
んとその相手がよりによって日本の理研和光に在職の方でした。世の中狭い...。

Symposium Track: Biology and Neuroscience
Synthetic Biology Approaches to New Chemistry
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session6917.html
 本格的な生命科学の研究発表で、3人目と4人目の講演を聴きました。内容は、3
人目が植物の窒素固定における内部改変の話で、農業への応用を視野に入れたもの。
4人目が触媒的化学発光(例えばホタルのルシフェリンみたいなもの)を細胞に導入す
る話でした。
 前者はなかなか面白いテーマでしたが、後者は GFP 等のある昨今にあってどんな
意義があるのかがあまりピンと来ず...

Symposium Track: Behavioral and Social Sciences
Rhythmic Entrainment in Non-Human Animals: An Evolutionary Trail of Time
Perception
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7071.html
 内容的には面白そうでしたが、聴衆が少なく、一瞬だけ見やって終わりにしてしま
いました...。当座で見た講演そのものの内容は、「さまざまな動物の鳴き声を解析
することで音楽の進化的な起源を探る」というなかなか挑戦的な題材で、日本では岡
野谷さん(鳥の歌の解析で著名)がその方面の第一人者ですかね。

Symposium Track: Public Policy
Science Policy-Making that Meets Social Challenges and Motivates Scientists
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7010.html
 科学技術政策に関するセッションで、「さすがアメリカ」と思って見に行って見る
と、司会者が日本の総合科学技術会議の有本さん、登壇者のひとりが JST-CRDS の笠
木さん...という、なんとも日本的?なセッションでした。
 会場入りした時の当座では、すでに討論の時間になっており、会場は立ち見も居る
ほどの満席で、かなり熱い場だったと思います。

2/16:
Symposium Track: Biology and Neuroscience
Inventing New Ways To Understand the Human Brain
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7225.html
 読んで字の如く神経科学のセッションです。
 会場到着時には既に質疑討論の時間でしたが、各演題と内容を見る限り数理モデル
の構築や大規模データ解析の重要性を訴えるという感じで、生物物理学や神経科学の
専門家たちにとっては新鮮な心証は無かったでしょう。とはいえ、それを他分野の専
門家に知らしめるセッションとしては、有意義だったのだろうと思います。

Symposium Track: Communication and Public Programs
Science Festivals as Regional Collaborations: Extending Resources by Working
Together
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7254.html
 筆者が昨年のサイエンスアゴラで扱ったような科学祭主催者のネットワーキングの
話でした。1人目、2人目の演者の話だけ聴きましたが、どこも苦労のほどは同様の
ようで...。なお、科学祭ネットワークの形成に関しては、当セッション主催者が既
にかなり先んじており、去り際にそれがしの案内冊子を頂きました。

Symposium Track: Physics and Astronomy
Quantum Information Technologies
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7072.html
 量子情報技術のセッション。筆者は量子ドット法や分光学の応用くらいしか知らな
いのですが、この技術の幅広い応用可能性を包括的に議論するセッションだったよう
です。会場到着時には既に討論の時間でした。

Symposium Track: Computer Science, Mathematics, and Statistics
Advances in Citizen Science: Large-Scale Community Engagement for Sensing
and Analysis
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7199.html
 「市民科学」という語に引かれて、何となく見に行ってみて、その内容の質の高さ
に喫驚...。研究歴のある一般市民のボランティアにより調査や研究が進められて、
それなりの成果を挙げているという事実に、まず驚きました。
 筆者が理事をしている「市民科学研究室」もそれなりの成果を出し続けてきてはい
ますが、ちょっとお話にならない感じです。

2/17:
Symposium Track: Sustainability and Resource Management
New Modeling Approaches to Inform Climate Change Understanding and
Decision-Making
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7265.html

Symposium Track: Communication and Public Programs
Science, Religion, and Modern Physicists: New Studies
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7322.html

Symposium Track: Medical Sciences and Public Health
Artificial Tissues Engineered To Improve Patient Well-being
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7074.html
 だいぶ長くなってきたので簡潔に済ませますが、第1者は気候変動と意志決定の問
題、第2者は科学と宗教の問題、第3者は人工臓器の問題でした。

 最終日のメモは日和った短いものになり恐縮ですが、それはさておいても、一見し
て分かる通り、各セッションの内容の多様さと、そのオープンさには目を見張るもの
があります。
 詳しくは連載第4回にて述べますが、演題とその内容を見て容易に分かる通り、
AAAS 年会は基本的には学会です。なのですが、その内容は、基礎科学や応用科学に
おける学術研究発表もあれば、科学と社会の接点にある問題群に関する問題提起及び
討論、社会科学や人文学のセッション、初中等教育や高等教育のセッション、研究者
や研究関連人材及び何かの専門家のための能力開発を志向したワークショップ、学術
界と商業界及び政財界との接点に関するセッションなど、実に多岐にわたります。
 それら全てが、必ずしも研究者とは限らない一般の来場者全てに開かれており、誰
でもそれらに参加して、発表や議論、提案などすることが出来るのです。

 次回の第3回では、ポスター発表やプレスゾーンの模様、一般向け企画のファミリ
ーサイエンスデイの模様をお伝えします。