科学・政策と社会ニュースクリップ

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明日、貧困の拡大を食い止めるために、今日の私にできること

明日、貧困の拡大を食い止めるために、今日の私にできること 
                           みわ よしこ

 今日は、社会保障問題も守備範囲の一つとするライターとして、本メルマガの読者の皆様にお願いしたいことがあり、寄稿させていただいております。
 まず、生活保護基準引き下げに反対する署名をお願いしたいのです。もちろん「無理に」とは申し上げません。しかし、貧困の拡大や格差化の進行は、科学界に身を置く人々にとって、まさに「我が身のこと」ではないでしょうか。
 なにより私は、取材等を通じて知り合った日本の貧困層の方々・生活保護受給者の方々に、
「こんなにもたくさんの科学界の方々が、あなた方の問題に、誠実な関心を向けています」
と知ってほしいのです。
 文字通り、全国民の生活に影響する問題であるにもかかわらず、署名は低調です。10日あいだで、500筆にも達していません。反原発脱原発アクションとの違いに、溜息が漏れてしまいます。北海道や関東以南では、福島第一原発は遠く離れた地域の問題なのに、それでも多くの方々が想像力を及ぼして関心を示し、何らかのアクションを行なっています。なぜ、同じ想像力が、貧困問題や貧困の当事者には及ばないのでしょうか?

・「STOP! 生活保護基準引き下げ」アクションのサイト
http://nationalminimum.xrea.jp/

・同アクション ネット署名ページ
http://www.shomei.tv/project-2015.html

 生活保護受給を余儀なくされる理由や経緯は、人によりさまざまですが、受給が可能になる条件はただ一つ、「資産がなく収入が生活保護基準以下である」のみです。あったはずの資産を失ったり、収入が得られなくなったりする可能性は、誰にでもあります。私の知る生活保護受給者の方々が経験されたことがらは、失業・事業の失敗・病気・事故・負傷・家庭内暴力・相続争いなどのトラブル……など、誰にでも起こりうることばかりです。ほとんどは、「自己責任」と当事者を責めては酷すぎるケースです。

 生活保護基準は、生活保護世帯に生まれた子どもたち・親が生活保護受給者になった未成年の子どもたちに対しては、

・適切に養育される機会
・人生の基盤となる子ども時代に必要な経験をする機会
・社会人として自立生活を送るために最低限必要な教育を受ける機会

などを、極めて不完全ながら保証しています。しかし、生活保護世帯の経済的にゆとりのない生活は、親から精神的なゆとりを奪うことが少なくありません。生活保護基準の引き下げは、何よりもまず、生活保護世帯で育つ20万人以上の子どもたちの現在と将来を直撃します。

 「署名なんて絶対イヤ」と思われる方も、どうか、拙稿を最後までお読みください。

 本年8月10日に「税と社会保障の一体改革法案」が可決されて以後、特に生活保護制度に関する動きが活発になっています。一言でいえば、現在でも充分とはいえない生活保護基準(≒最低生活費)の引き下げが検討されているわけです。生活保護費の増大を食い止めようとする財務省方針に、厚生労働省をはじめとする各省庁・一部野党を除く各政党が引きずられてしまっている格好です。
 妥当な現状認識の上に、妥当な論拠によって、「生活保護基準引き下げやむなし」という結論に至るのであれば、是が非でも反対しなくてはならないとは思っていません。しかし、政策検討のプロセスを追っている一ライターとして、現状認識も論拠も、到底「妥当」とは思えないのです。少なくとも、今、
「近々行われそうな総選挙の前に、駆け込みで」
という形で生活保護基準が引き下げられることは、なんとしても阻止しなくてはならないと確信しています。本当に生活保護基準の引き下げが必要なのであれば、せめてエネルギー政策と同じ程度の幅と広がりをもった、生活保護受給当事者も含めた多様な人々の熟議の後で行うべきではないでしょうか。
 本年5月に始まった「生活保護バッシング」というべき一連のTV・週刊誌を主とした報道や、政府・各省庁による検討には、欠落している視点・不足している現状認識が数多く存在します。何が欠落していたり不足していたりするのかについては、拙記事で恐縮ですが、「ダイヤモンド・オンライン」に連載しております「生活保護のリアル」をご参照ください。連載はいったん終了しましたが、「政策ウォッチ編」として再開しております。
生活保護のリアル
http://diamond.jp/category/s-seikatsuhogo

 「ポスドク問題」「博士の就職難」といった問題の当事者である本メルマガ読者の皆様には、冒頭で紹介した署名運動へのご協力の他に、
生活保護に関する政策検討の妥当性を検証する」
をお願いできればと思います。

 たとえば、2012年11月9日に開催された、厚生労働省・第11回社会保障審議会生活保護基準部会では、5年に1回の生活保護基準(*)の検討に際し、厚生労働省より、分散分析・回帰分析による検討が提案されました。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002o1og-att/2r9852000002o1so.pdf


(*)
この基準を前提に、生活保護費は毎年見直されます。デフレで消費者物価が下がれば、生活保護費も引き下げられています。

 この部会を私は傍聴していましたが、頭の中が「?」で一杯になりました。私は統計学にそれほど詳しいわけではありませんが、
「説明変数(X軸)に何を取るつもり? 世帯人数と級地はまだ分かるけど、年齢がX軸で、それでもって回帰分析?」
「なんでY軸(生活費)の対数を取るの? 対数の底は書いてないけど、10? 桁が問題になるわけないのに? ばらつきを抑制するためというけど、だったら普通に分散を計算して外れ値を除外すればいいんじゃないの?」
という感じです。
 もっと統計的手法にお詳しい方々の目から見て、いかがでしょうか。ぜひ、チェックしてみていただけないでしょうか。チェックして意見を表明する方、それも学術的バックグラウンドを持つ方が増えれば、「いいかげんな検討はできないし、国民を半ば騙すようにして結論を出すこともできない」というプレッシャーが、各政党・各省庁・各部会委員にかかるでしょう。そこに私は、一縷の望みを託したいと思っています。

 本稿だけでも、

生活保護基準には、5年毎と1年毎の2つの基準があるらしい
・「級地」って、なにそれ?

など、この「業界」の常識やジャーゴンに頭痛を覚えられた方もおられることでしょう。そこは私がサポートいたします。納得するまで、Twitterの @miwa_chan にご質問ください。可能な限り対応いたします。もちろん、社会保障を専門とされる方のご協力は、大歓迎です。

 他にも、皆様に知っていただきたいことは数多く存在します。生活保護水準が切り下げられれば、影響は次に医療・年金・介護へと及ぶ可能性が高いこと。特に医療では、国民皆保険の切り崩しへの引き金になりかねないこと。生活保護受給者の生活が危機に瀕するだけではなく、いわゆる「ワーキングプア」にも多大な影響が及ぶこと。非正規雇用・不安定就労の問題が、さらに拡大しかねないこと。もちろん、それらの問題が、特に科学界の若手の生活とこれからを脅かす可能性が大きいこと。しかし、それら全部について説明しようとすると、書籍一冊でも充分ではありません。

 まずは、あなたの「我が身」にも振りかかる可能性の高い問題として、目を向けはじめてください。目をそらさないでください。他人事だと思わないでください。

 もう一度、署名サイトのURLを紹介して、本稿の結びとします。
 どうか、署名をご検討ください。

・「STOP! 生活保護基準引き下げ」アクション ネット署名ページ
http://www.shomei.tv/project-2015.html

編集部補足
みわよしこさんの記事です。

国際学会でも“独島はわが領土”とアピール!
科学技術団体までが繰り広げる韓国のしたたかな外交
http://diamond.jp/articles/-/27275