毎年この時期になると、何かそわそわする。
そう、ノーベル賞の季節。
このメルマガが発行される今週は、ノーベル賞の各賞が次々と発表される。
毎年この時期の巻頭言には、ノーベル賞にちなんだことを書いてきた。今年も書こうと思う。
毎年書いているとだいたい言いつくした。ノーベル賞を過大評価しすぎるな、という意見。いやいやそれでも一般の人が科学に関心を持つ最大のお祭りではないか、という意見。いろいろあるけれど、私はお祭りだ、という意見で、悪い面もあるけど、良い面も多いでしょう、と考え、比較的ポジティブにとらえてきた
とらえてきた、と過去形で書いたのには、理由がある。
というのも、どうもノーベル賞は、科学を知ってもらう劇薬だけど、副作用も結構強いな、と思い始めているからだ。
そのきっかけは、昨年11月の事業仕分けだ。
様々な事業が縮減、削減の判定を受け、科学界から多くの声明が出た。そんななか、一番インパクトがあったのが、ノーベル賞、フィールズ賞受賞者の方々の緊急声明だった。
11/25 声明文(ノーベル賞・フィールズ賞受賞者による事業仕分けに対する緊急声明と科学技術予算をめぐる緊急討論会)
今読んでみると、声明そのものはそんなに過激なものではない。その当時発表された各種団体のものとそう変わりはない。
そう、インパクトがあったのは、討論会(集会)だ。
記者会見の映像がニコニコ動画に残されている。
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8919708
http://www.nicovideo.jp/watch/sm8926437
Nature記事
日本の科学者、政府の科学技術予算削減への抗議に結集
この集会には、いまだに賛否がある。
賛成の人たちは、ノーベル賞受賞者たちが若手研究者に勇気を与えてくれた、日本の科学のために立ちあがってくれた、と称賛する。実際当時も、会場は拍手喝さいだったようだ。
いっぽうで、これを冷ややかに見る人もいる。
いわく、野依氏は理研理事長だ、要は自分の組織が関わる予算を増やせと言っているだけだ、狂信的に科学万歳を叫んでいる科学教信者だと…
内田麻理香さんは、その著書「科学との正しい付き合い方」
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ブログに一部抜粋がある。
新著「疑う力を阻害するもの『科学教の狂信が思考停止に』」掲載
私もこの賛否の波に巻き込まれた。
twitter上で、内田さんほどではないが、ちょっとやりすぎではないかと疑問を呈したところ、激しい反発を受けた。
その後も、主に科学コミュニティに属している人たちが、内田さんに反発している現場に遭遇したりもした。「ノーベル賞受賞者が自らを捨てて科学のために立ちあがったのに何をいうのか!けしからん!」と…
いっぽう、4月に行われた東京財団のシンポジウムでは、この集会に批判的な人たちが集まっていた。
この集会を司会した横山広美さん、内田さんはじめ、集会を批判した人にも、集会を批判した人を批判した人にも、そして集会に出て傷ついたというマスコミ関係者にも友人知人がいて、正直言って戸惑ってしまった。
私は内田さんに近い意見を持っているが、集会に出た人たちや科学コミュニティが事業仕分けに受けた衝撃も、ノーベル賞受賞者に喝さいを送りたくなる気持ちもわかる。
だから、その意見の違いをもとに、対話(ダイアローグ)が始まれば、科学と社会のよりよい関係を築く第一歩になるのではないかと思っている。
しかし、「けしからん」という反応が多く、どうも感情的対立のきっかけになってしまっているようにみえる。それは残念だ。
これが「ノーベル賞」という権威によるものだったとしたら…そう考えると、ノーベル賞と騒ぎ過ぎるのも考えものだ。
今年、ノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんにお会いする機会があったが、権威とはかけはなれた、優しい方だった。どうやら私も、ノーベル賞の魔法にかかり、受賞者にレッテルをはっていたようだ。
ノーベル賞はすごい、素直に認める。けれど、それはそれだけのこと(といってはおこがましいが)。受賞者だって人間なのだ。
今年は、ノーベル賞と少し距離を置いた付き合いができればと、少し思っている。
まあ、それでもノーベル財団のページをリロードしまくり、日本人の受賞に期待するのだろうけれど…