科学・政策と社会ニュースクリップ

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科学者と技術者

今年は国勢調査の年だ。

国勢調査では職業も調査される。研究者も職業として認められている。

前回2005年の国勢調査の結果を少しみてみよう。

よく見ると、科学研究者と技術者が別項目になっているのが分かる。

専門的・技術的職業従事者の中に

(1) 科学研究者
1 自然科学系研究者
2 人文・社会科学系研究者
(2) 技術者
3 農林水産業・食品技術者
4 金属製錬技術者
5 機械・航空機・造船技術者
6 電気・電子技術者
7 化学技術者
8 建築技術者
9 土木・測量技術者
10 システムエンジニア
11 プログラマー
12 その他の技術者

と分かれている。なお、別項目に39 大学教員があるので、大学所属の科学研究者はこちらに分類される。

科学研究者は148,460人、技術者は2,140,612人と、まったく数が違う。

科学研究者のうち、自然科学系研究者は142,485人、人文・社会科学系研究者は5,975人だ。大学教員が171,662人なので、研究を行っていると思われる人は合わせても320,122人だ。

技術者は、システムエンジニアで745,153人、土木・測量技術者で306,797人、電気・電子技術者で303,710人もいる。

いったい、科学研究者と技術者の違いは何だろうか。

定義(2005年時点での日本標準職業分類(平成9年12月改定))

によれば、科学研究者は

 研究所・試験所・研究室などの試験・研究施設において、自然科学、人文・社会科学の分野の基礎的又は応用的な学問上・技術上の問題を解明するため、専門的・科学的な仕事に従事するものをいう。
 この仕事を遂行するには、通例、大学(短期大学を除く)の課程を修了したか又はこれと同程度以上の専門的知識を必要とする。  ただし、大学附置研究所などの研究者のうち、講座を有するものは中分類〔15〕(注:大学教員)に分類される。

技術者の定義は、個別の分野ごとに分かれており、たとえば農林水産業・食品技術者は

 科学的・専門的知識と手段を生産に応用し、農林水産業及び食品製造における企画・管理・監督・研究開発などの科学的・技術的な仕事に従事するものをいう。  この仕事を遂行するには、通例、大学などにおける自然科学に関する専門的訓練又はこれと同程度以上の知識と実務的経験を必要とする。
 ただし、試験場・研究所などの試験・研究施設で、自然科学に関する専門的・科学的知識を必要とする研究の仕事に従事するものは中分類〔01(注:科学研究者)〕に分類される。

とされる。

大まかに言ってしまうと、科学的知識の探求をするのが科学研究者、知識を応用するのが技術者ということになる。ただ、一部重なる部分もあるように思う。

ここで、あることに気がつく。

博士の就職問題、ポスドク問題が深刻化している分野とそうでない分野を比較すると、技術者が多い分野では、博士ポスドクも比較的就職が容易だということだ。

工学と理学は博士終了時点での民間企業への就職率がかなり異なるのは周知の通りだ。

大学院の現状 中央教育審議会大学分科会. 大学院部会(第48回)資料より作成

さらに、同じ理学のなかでも、たとえば化学と生物では、民間企業への就職率がかなり異なり、生物学の苦戦が目立つ。

科学技術政策研究所調査資料-184 「-博士人材の将来像を考える- 理学系博士課程修了者のキャリアパス」より

工学と理学の違いは、工学は技術者と関連の深い分野が多く、理学は遠いということ、また、化学と生物の違いは、化学には「化学技術者」という関連職種があるが、生物に関する技術者の数はまだ少ないということだ。

もちろん、技術者の多さというのは産業規模を反映しているので、要はバイオ産業が雇用を生み出していないということでもあるが、博士の就職を考える上で示唆的だ。

つまり、博士号取得者が専門性を活かした技術者としてやっていくスキルを、何らかの形で身につけたら、民間企業への就職の道が開けるかもしれないということだ。

大学院での講座、あるいはリカレント教育などによって、比較的近い領域の技術者としてのスキルを身に付けさせるといったことが考えられる。

もちろん、雇用情勢の厳しさや、雇用慣習などいろいろな問題はあるが、「コミュニケーション能力」や「課題解決能力」といった抽象的なことを議論するだけでなく、「どう飯を食わせるか」という現実的な解決を考えると、技術者の道を考えることはかなり現実的なのではないかと思う。