事業仕分け第2弾、前半戦が終わった。
研究開発法人が取り上げられ、どうなるかと思ったが、前回ほどのセンセーションは呼び起こさなかったように思う。仕分け人サイドも私達も、仕分けとは何かについて知識と経験を蓄積したからかもしれない。
ともあれ、まずは公式ページ
http://www.shiwake.go.jp/
に掲載された記録から振り返ってみる。今回は4月26日に行われた仕分けのみみてみたい。
http://www.shiwake.go.jp/shiwake/detail/2010-04-26.html
ワーキンググループBだが、まず、理化学研究所が取り上げられた。
俎上に載せられたのは[1]新たな研究領域を開拓し科学技術に飛躍的進歩をもたらす先端的融合研究の推進, [2]国家的・社会的ニーズを踏まえた戦略的・重点的な研究開発の推進, [3]委託業務関係の3事業。
結果は [1][2]ガバナンスに大きな問題、国を含めた研究実施体制のあり方について抜本的見直し [3]事業規模は縮減、コスト意識をもった取組みが必要となった。
物質・材料研究機構 (文部科学省)は以下の事業が対象になった。
[1]ナノテクノロジーを活用する新物質・新材料の創成のための研究の推進, [2]社会的ニーズに応える材料の高度化のための研究開発の推進, [3]研究成果の普及とその活用の促進、及び物質・材料研究の中核機関としての活動。
結果は独立行政法人、研究開発法人全体の抜本的見直しの中で、当該法人のあり方を検討。
日本学術振興会 (文部科学省)は[1]学術の振興に関する調査及び研究(学術システム研究センター), [2]科学研究費補助金。結果は [1]ガバナンス・透明性の強化に努めることを前提に当該法人が実施 [2]ガバナンスの強化(他機関との協調、コスト削減、独立性強化)。
科学技術振興機構(1) (文部科学省)は[1]新技術創出研究(競争的資金関係), [2]新技術の企業化開発(競争的資金関係), [3]国際研究交流(競争的資金関係)がとりあげられ、結果は総合科学技術会議のあり方を中心に科学技術政策を抜本的見直し。
[1]科学技術情報流通促進事業(科学技術情報連携活用推進事業), [2]同(電子情報発信・流通促進事業), [3]同(科学技術文献情報提供事業), [4]同(技術者継続的能力開発事業), [5]同(研究者人材データベース構築事業), [6]同(バイオインフォマティクス推進センター事業), [7]都内事務所の運営。
結果は[1][2][4][5][6]当該法人が実施するが、一層の効率化を図り、事業規模は縮減 [3]事業の実施は民間の判断に任せる [7]事業規模は縮小 更なる整理統合。
宇宙航空研究開発機構 (文部科学省)は[1]航空科学技術事業, [2]宇宙航空技術基盤の強化, [3]JAXAi(広報施設)の運営。結果は[1][2]ガバナンスの一層の強化、民間資金のより一層の活用 [3]事業の廃止。
新エネルギー・産業技術総合開発機構 (経済産業省)は[1]研究開発関連業務(ナショナルプロジェクト事業), [2]鉱工業承継業務。結果は[1]事業規模を縮減し、当該法人が実施、特定法人との取引関係の見直し、研究開発独法全体の見直しの中で特に国・産総研との関係を含めて抜本的なあり方の見直し [2]当該法人で実施 ただし、不要資産は早急に国庫返納。
結果のみざっと見てみると、廃止はJAXAiの一事業のみで、あとは法人のガバナンスや、総合科学技術会議のあり方について注文を付けるという格好になっている。一部にはJAXAiはトカゲのしっぽで、本体が逃げ切るために切られたとの声も聞かれるが…
これを「仕分人のツッコミ不足」と捉えるか、まずまずの結果と捉えるかは、立場によって異なるだろう。事業仕分けとは
国や自治体が行なっている事業を、
- 予算項目ごとに、
- 「そもそも」必要かどうか、必要ならばどこがやるか(官か民か、国か地方か)について、
- 外部の視点で、
- 公開の場において、
- 担当職員と議論して最終的に「不要」「民間」「国」「都道府県」「市町村」などに仕分けていく作業。
とされている。
http://www.kosonippon.org/shiwake/about/index.php
その観点からすると、今回俎上に乗った多くの研究開発関連事業が「そもそも必要」であり、国がやるものということに仕分けされたということになる。
それはそれで事業仕分けとして問題ないと言えるが、それならば多くの事業が最初から仕分けの対象外だったのではないかと思ってしまう。
それゆえ、今回の仕分けでは、国の科学技術戦略に対し、仕分けサイドからなんとかしろ、とメッセージを送っているようにみえる。
仕分けする側もされる側も国ではないか、と言えなくもないが、仕分け側は民間人や民主党の政府入りしていない議員が関わっている。今回の仕分けでは、そうした仕分け人サイドから、研究開発法人の在り方は仕分けだけではどうにもならないのだから、そっちでなんとかしてくださいよ、と言いたかったのかもしれない。
見ている側も、国家戦略として科学技術をどうするのだ、と思った人も多かったように感じたので、その点は仕分けで議論されたことのプラス面だと思う。
打ち返されたボールは、政府も受け止めているようだ。
なんとかしろ、と言われている総合科学技術会議や文科省では、同時に研究開発法人の在り方を議論しており、第7回 研究開発システムWG 議事次第
http://www8.cao.go.jp/cstp/project/kenkyu/haihu7/index.html
には、研究開発を担う法人の機能強化検討チーム 中間報告(PDF:317KB)
http://www8.cao.go.jp/cstp/project/kenkyu/haihu7/siryo1-2.pdf
という資料が出ている。今後はこちらの議論を見ていくことが必要だ。
二度目の仕分ということで、仕分けサイドは「科学技術を軽視しているわけではない」というメッセージを強調していた点が目を惹く。また、仕分をされる法人側も、資料を用意したり、あるいは独自の経費削減を行うなど、対策を講じていた。これは、議論が誰でも見るところで行われていることによる効果の一つとみてよいだろう。
ただ、議論はかみ合っていない部分や、明らかな知識不足の面もあったように思う。
それを「仕分け人に専門家がいないから」ととるか、準備不足と取るかは意見が分かれるかもしれない。そのあたりの仕分けの在り方については、前回同様議論が必要だと思う。
小林傳司氏(大阪大学コミュニケーションデザインセンター教授)は、
事業仕分けを、さらに踏み込んで市民参加の仕組みを導入する方向にもっていくことも選択肢としては残るように思われる
と述べている。
「参加」する市民は誰か(以下収録)
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ただ、政策が市民によって決定されることに懸念を示す人も多い。
小林氏は以下のように述べる。
私はむしろ、ここで新たな専門家の養成を提案したい。市民参加型会議を企画運営し、そこから取り出した「市民の声」を知的に加工し、広く社会や議会に対して媒介することを任務とするような専門家が必要ではないかと思う。
事業仕分けをきっかけに、科学技術政策における市民参加も含め、さらに議論が深まることを望みたい。