科学・政策と社会ニュースクリップ

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女性研究者からの声

メールマガジンに掲載した文章を転載する。

【寄稿:女性研究者支援システム改革プログラム(事業番号3-39)1/3縮減について 】

大坪 久子
日本大学・総合科学研究所・教授
女性研究者支援推進ユニット長

標題の事業には、「女性研究者支援育成モデル事業(通称モデル事業)」と「女性研究者要請システム改革加速(通称加速プログラム)」の二つが含まれます。
私は平成21年という年は、次の3つの意味で、将来、日本の女性研究者の歴史の中でも、大きなターニングポイントとなるのではないかと思います。

第1に、行政刷新会議で、女性研究者支援システム改革プログラム(事業番号3-39)が1/3縮減されたこと、第2に、平成18年度にこの事業をスタートした10大学が、振興調整費による支援期間を終了し、それぞれの組織が自前で「女性研究者支援」に取り組み始めた年であること、第3に、新たに女性研究者リーダーを育成するための、「加速プログラム」が北海道大学東北大学東京農工大学京都大学、、九州大学の5大学によってスタートしたことです。

「女性研究者支援育成モデル事業」には、特にアカデミアにおいてなかなか進出の進んでいない女性研究者・教員をふやすとともに、リーダーとなる女性研究者を育てるための画期的な事業であります。スタートしてわずか3年を過ぎたところですが、この事業のおかげで、どれだけ女性研究者が希望を得たことか、事例を挙げればきりがありません。支援事業によって、研究支援員が配置され、子育てをしていても、論文発表や外国での学会発表等、研究業績が上がり、より責任ある地位に昇進できた女性研究者の例、支援室やメンターを利用できることで、二人目、三人目の子供を出産できた例、保育園があることで教育研究をやめなくても済む例等々枚挙にいとまがありません。

女性研究者が出産・育児と仕事の二者択一を迫られる現状を改善するには、出産・育児と仕事(研究)との両立が可能になるよう、上司、研究室の同僚、組織などが、女性研究者を支援することが必要で、そのための意識改革と具体的な支援制度の整備(基盤整備)が必要なのです。それが事業番号39「女性研究者支援システム改革」事業の目的なのです。
今、女性研究者の持てる子供の数は、平均で0.67人です(男性は二人弱:男女共同参画学協会連絡会大規模アンケート

http://annex.jsap.or.jp/renrakukai/2007enquete/h19enquete_report_v2.pdf,

理工系男女研究者の実態調査報告書)。この報告書にもでていますが、二人以上、子どもをもちたいと思っていても、持てない事情があるのです。この支援事業は、女性研究者が、当たり前のように家庭と仕事を両立できるようにするための制度整備が目的なのです。

また、「女性研究者要請システム改革加速」の方は、基盤整備が整ったなかから、リーダーとなる人を育てて行く「人財育成」のステップなのです。小中高校までの子育ての支援を厚くすることも、その先のあらゆる科学技術の分野で必要な専門職を育てることも、人材育成としては、同じように重要なのです。女性研究者の場合、諸外国に比べて特に進出が遅れており、先進国のなかで研究者の女性比率は最低です(女性研究者比率13%)。これから、人口減に向かう日本の場合、特に人材は男女を問わず大切な資産であり、なかでも今は活かしきれていない女性の活力を活かしきってこそ、世界のなかで生き残れると思うのです。

女性研究者支援事業の中でも、仕分け人によって、今回比較的好意的に受け止められていたのは、基盤整備の側面であったと思われます。諸外国に比べて圧倒的に女性比率の低い女性研究者の場合、数を増やすことは、当然重要ですが、女性研究者が上位職に進出することは、それ以上に重要と考えます。

なぜならば、上位職に進まない限り、研究者として指導的立場には立てないわけであり、人事・運営にかかわり現状を改善してゆくことも不可能なわけです。したがって、特に女性研究者の少ない理工系分野においては、女性研究者が上位職へ進むための教育・訓練の場が必要であり、それを可能にするのも、「女性研究者養成システム改革加速」であると、私は理解しております。あまりに女性比率が低い分野の人事公募に女性専用枠をもうけることは、雇用機会均等法および男女共同参画基本法の定める範囲ならば法的にも認められていることです。私はある大学の女性枠公募の審査に外部評価委員として参加しましたが、最終審査に残った女性研究者はどなたも素晴らしい研究者でした。これだけの人材群を目の当たりにすれば、男性教授も「女性には人材がいない、誰も応募してこない」などと言い逃れは出来なくなります。女性枠人事公募には、このような積極的な面、人事の透明性を高める側面もあります。

各学部教授会の中で女性はいつでもどこでも一人しかいないというのは、どう考えてもおかしな話です。「女性研究者養成システム改革加速」プログラムは、この現状を変え、女性研究者リーダーの育成のために必要不可欠な試みです。継続すべきです。

ところで、11月25日・26日の二日間にわたって、日本大学において、振興調整費による女性研究者支援事業(3-39 に相当)を受けている45大学・研究機関が、その成果を発表しました。

http://www.nihon-u.ac.jp/research/careerway/index.php

その際、会場の有志の研究者が、意見表明を行いましたが、そのニュースが読売新聞ONLINEにでています。短くはありますが、ご紹介します。

http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20091126-OYT1T00960.htm

各大学・研究機関の発表を聞いてわかったことは、事業開始後3年半経過して、今、ようやく女性研究者育成の何処に問題があり、どうすれば改善されるかが、実際に目に見える形で明らかになってきた、ようやくノウハウの情報交換ができるようになったということです。はじめは手探りでスタートした多様な支援制度が、徐々に大学の制度の中に組み込まれて運用され始めたことは、今年の参加者にいくつもの大学や研究機関の男性の事務関係者(人事、総務、経理等)が多かったことからも伺えます。

つまり、実際に成果が出てきて、ようやく大学・研究機関が女性研究者支援のシステムを各機関の中に確立しようとし始めたと思われます。ここでこの事業を切ることは、折角動き出した新たな方向性を元の黙阿弥にしてしまうことを意味します。

また、平成18年度スタートの第1期生10大学では、事業終了後、大学、研究機関が自前で事業を継続し始めたが、その結果、大学・研究所執行部に理解とその意志がなければ、事業継続は不可能ということが徐々にわかってきていいます。換言すれば、この振興調整費があったからこそ、「女性研究者支援」事業がスタートできたわけで、なかったらいつまで経っても旧態依然とした現実は変わらなかったと思われます。その意味でもこの事業の継続は絶対に必要であると声を大にして、主張したいと思います。