科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

公開質問状に対する日本共産党の回答

以下回答をいただきましたので、掲載いたします。

a)科学技術研究全般について

日本の科学研究は1995年に制定された科学技術基本法、および5年ごとに策定される科学技術基本計画により重点分野が明確に示され、競争的資金が投入されるようになりました。

しかし一方で、応用研究と基礎科学の峻別がうまくなされておらず、巨大プロジェクトの実用化へのロードマップが不明確であったり、多様性を重視する基礎研究の基盤が弱体化するといった事態への懸念が聞かれます。

社会的イノベーションを目的とする応用研究と、知の多様性を確保するための基礎研究ではおのずとマネジメント方針が異なると考えられますが、この点に関して貴党の考えをお聞かせください。

回答
 科学、技術は、その多面的な発展をうながす見地から、研究の自由を保障し、長期的視野から基礎研究と応用研究のつりあいのとれた振興をはかってこそ、社会の進歩に貢献できます。とりわけ、基礎研究は、ただちに経済的価値を生まなくとも、科学、技術の全体が発展する土台であり、国の十分な支援が必要です。

 自民・公明政権による科学技術政策は、大企業が求める技術開発につながる分野に重点的に投資し、それ以外の分野、とりわけ基礎科学への支援を弱めてきました。また、業績至上主義による競争を研究現場に押し付けたことから、ただちに成果のあがる研究や外部資金をとれる研究が偏重されようになり、基礎研究の基盤が崩れるなど、少なくない分野で学問の継承さえ危ぶまれる事態がうまれています。

 日本共産党は、こうした経済効率優先の科学技術政策を転換し、科学、技術の調和のとれた多面的な発展をうながすための振興策と、研究者が自由な発想でじっくりと研究にとりくめる環境づくりのために力をつくします。

b)科学技術コミュニケーションについて

第三期科学技術基本計画には国民の意見を聞きながら研究を進めるアウトリーチ活動が盛り込まれるなど、科学技術コミュニケーションの重要性が認識されるようになっており、各地の大学院で人材育成が始まっています。

しかし、若手研究者を政策フェローとして雇用するアメリカ、大学・メディア・NGOが合同でナノテクノロジーに関する市民陪審を開くイギリスなど、制度として参加型テクノロジーアセスメント機関を持つ欧米に比べ、真に「双方向で参加型」のコミュニケーションが図られているという状況ではありません。

また育成した科学コミュニケーターの雇用も、2ー3年の短期のものがほとんどで、極めて不安定なものとなっています。

今後の科学技術コミュニケーション政策は、具体的な制度や人員配置も含めて、どのようなものであるべきだとお考えか、お聞かせ下さい。また、科学技術政策の意思決定に、こうした人材を活用する考えがあるかをお聞かせください。

回答
 科学者、技術者が科学、技術に対する国民の意見、考えを尊重し、自らの社会的責任への自覚を高めることは社会の発展にとって重要なことです。また、科学、技術が高度に発展し、その成果を国民が享受するうえで、国民が自らの科学リテラシーを高めることも必要になっています。こうした点から、科学者と国民の相互のコミュニケーションを深めること、いわゆる「科学技術コミュニケーション」を促進することは必要だと考えます。

 そのために、この役割を直接になう人材として「科学・技術コミュニケーター」を大学などで育成するとともに、その社会的地位の確立をはかることが重要です。科学・技術コミュニケーターは、大学や研究機関において教育や研究にも従事する専門職であり、競争的資金による短期雇用ではなく、安定した雇用を保障すべきです。

c)高等教育政策について

日本は世界でただ2か国、国連人権条約の高等教育無償化条項を批准していない国の一つだといわれています。

このことには、高等教育は社会的な権利ではなく「受益者負担」であるという、日本政府の(世界的に見れば特殊な)見解が反映されていると思われます。

確かに日本の実情として、たとえば国立大学が無償化されれば、多くの私立大学が深刻な経営難に陥るでしょう。

アメリカでは安い州立大学が貧困層、低学力層の教育を担い、私立名門校が奨学金を集められる優秀な学生と富裕層の教育を担っていますが、日本ではこの構造が逆転しており、東京大学の学生の世帯所得が統計的に優位に高い一方、地方の貧困家庭が子どもを私学に入れることを余儀なくされる、という状況が見られます。

これらの状況をふまえた上で、高等教育無償化条項についてどうお考えか、また日本の高等教育に対する包括的な改善案をお持ちであるか、お聞かせ下さい。

回答
 日本政府は、国際人権規約に加わりながらこの条項について「留保」したままです。無償化条項を留保している国は、条約加盟国160カ国中、日本とマダガスカルの2カ国だけです。教育を受けることは基本的人権の一つであり、経済的理由で妨げられるべきではありません。若い世代が高校や大学で新しい知識や技術、理想を身につけることは、社会の発展にとって不可欠ないとなみであり、それは社会全体にとっての貴重な財産となります。それだからこそ、学費をできるかぎり低額にとどめ、無償に近づけてゆくことが世界の大勢になっているのです。ただちに「留保」を撤回し、「世界一高い学費」の負担軽減をすすめる姿勢を明確にすべきです。

 また、誰もがお金の心配なしに教育を受けられる条件を整えることは、若者に安心と希望をもたらし、日本の未来を支える安定した基盤となります。困難なもとでも真面目に学ぼうとしている若者の努力に応えることこそ政治の責任です。国公立と私立との格差が大きく、私学に学ぶ学生の負担が重いわが国の現状では、とくに私立大学生への支援に力をいれるべきです。

 日本共産党は、経済的理由で学業を断念する若者をこれ以上出さないために、以下の提言をおこなうとともに、「世界一高い学費」を軽減させるための国民的な運動をよびかけています。

(1)高校授業料の無償化をすすめる

(2)国公立大学の授業料減免を広げる。私立大学の授業料負担を減らす「直接助成制度」をつくる

(3)国の奨学金をすべて無利子に戻し、返済猶予を拡大する。経済的困難をかかえる生徒・学生への「給付制奨学金制度」をつくる

(4)国際人権規約の「学費の段階的無償化」を定めた条項の留保を撤回する

d)研究者の雇用問題について

1990年代からはじまった大学院重点化とポストドクター等一万人支援計画によって、若手の博士号取得者や研究者がこの10年で大幅に増員されました。

しかし特に重点的に育成されたバイオなどの分野は社会インフラの意味合いが強く、医療、農業、資源、教育など政策的な事業の中で活かされるべきスキルがほとんどです。現在その多くは年収200ー
400万円での不安定雇用に従事し、将来不安を抱えています。またワークライフバランスの悪さから、未婚・子供なしの率が高いという調査もあります。

科学技術に対する投資は微増しているにもかかわらず、科学技術人材の雇用環境はそれに反し悪化の一途をたどっているといえます。このため博士課程志望者も減少しています。

この状況は新産業育成やイノベーション創生においても大きな問題だと思われます。貴党は、こうした問題にどのような対策を考えているのかお聞かせください。

回答
 今日の事態を生んだ要因は、(1)自民党政治が、財界の要求をうけて1990年代以降の「大学院生の倍加」政策をすすめながら、博士の活躍できる場を大学・研究機関や民間企業など、ひろく社会につくりだす施策を怠ったこと、(2)小泉内閣以来の「構造改革」路線が、大学・研究機関の予算削減、人件費削減と、研究費の競争的資金化を推進したこと、(3)大企業が、博士課程修了者を専ら契約社員派遣社員などの非正規で働かせ、正規雇用を怠ってきたことです。

 若手研究者の「使い捨て」といえる事態を生んだ自民党政治の責任を明確にし、解決をはかるべきです。日本共産党は、国の責任で若手研究者の劣悪な待遇と深刻な就職難の解決をはかるために、昨年2月に関係者によびかけてシンポジウムを開催し、国会で繰り返しとりあげるなど、力をつくしてきました。総選挙の政策でも、以下の公約をかかげています。若手研究者が研究に夢をもてる環境を確保するために、新しい国会で全力をつくします。

(1)若手研究者の就職難の解決をはかります

 大学・研究機関による博士の就職支援、ポスドクの転職支援が充実するように政府の対策を抜本的に強化すべきです。文科省の「キャリアパス多様化促進事業」を継続・拡充し、人文・社会科学系にもひろげ、採択機関を増やすとともに、機関間の情報交換、連携を強化します。大学・研究機関がポスドクなどを研究費で雇用する場合に、期間終了後の就職先を確保するよううながします。博士が広く社会で活躍できるように、大学院教育を充実させるとともに、博士の社会的地位と待遇を高め、民間企業、教師、公務員などへの採用の道をひろげます。博士を派遣社員でうけいれている企業には、直接雇用へ切り替えるよう指導を強めます。

 日本の大学の本務教員1人当たりの学生数は、イギリスの1.4倍、ドイツの1.7倍であり、大学教員の増員は必要です。大学教員の多忙化や後継者不足を解消するために若手教員を増員し、研究者の非正規雇用の拡大をおさえます。

 大学院を学生定員充足率で評価することや、画一的な大学院博士課程の定員削減はやめ、大学院の定員制度の柔軟化をはかります。

(2)若手研究者の劣悪な待遇を改善し、じっくりと研究できる環境をつくります

 院生やオーバードクターへの研究奨励制度の抜本的拡充、ポスドクの職場の社会保険への加入を促進します。日本共産党は政府に働きかけて、独立研究機関が雇用するポスドクの公務員宿舎への入居を実現しました。国立大学法人の宿舎整備をすすめ、ポスドクの入居をひろげます。

 大学非常勤講師で主な生計を立てている「専業非常勤講師」の処遇を抜本的に改善するため、専任教員との「同一労働同一賃金」の原則にもとづく賃金の引き上げ、社会保険への加入の拡大など、均等待遇の実現をはかります。また、一方的な雇い止めを禁止するなど安定した雇用を保障させます。

 大学院生が経済的理由で研究を断念しなくてすむように、無利子奨学金の拡充と返還免除枠の拡大、給付制奨学金の導入を実現します。卒業後、低賃金などの事情で返済が困難な研究者を救済するため、日本学生支援機構奨学金の返済猶予事由を弾力的に運用し、年収300万円に達しない場合に返済を猶予する期限(5年)をなくし、広く適用させます。

e)リスク管理と科学について

内閣府食品安全委員会の委員人事に関して、吉川泰弘・東京大教授を起用する人事案が国会に提示されたが、6月5日、参院にて野党の反対多数で不同意となりました。この件に関して、日本学術会議の金澤一郎会長が、リスクの概念が理解されていないと、異例の会長談話を公表し、懸念を表明しています。

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d4.pdf

この件に関する貴党の見解をお聞かせください。

回答
国会同意人事について、日本共産党は、案件となる審議会や委員会の任務と役割にてらして、ふさわしい人選かどうか、利害関係はないか、再任の場合であれば、これまでの活動ぶりなどもみたうえで、国民の立場にたって職務を遂行していくことができる人事かどうかを総合的に審査し、賛否を判断しています。

 内閣府食品安全委員会は、厚生労働省農林水産省などのリスク管理機関から、リスク評価機関を独立させる必要性から設けられたものです。しかし、そのリスク評価機関の「独立性と中立性」に疑いが生じれば、これを黙過することはできません。リスク評価機関である食品安全委員会の存在理由にもかかわることとなります。

 吉川泰弘氏は、政府のBSE対策が焦点となっていた時期、内閣府食品安全委員会の下に設けられたプリオン専門調査会の座長として、さまざまな報告書の取りまとめを行いましたが、取りまとめられた報告書やその議論の過程で示された行政よりの姿勢は、委員の批判の対象になってきました。吉川泰弘氏の姿勢は、他の委員らの批判により報告書の取りまとめ段階では修正されるなどの経緯もありましたが、その後、専門調査会の半数の委員が辞任する事態にも至っています。

 こうしたことは、専門調査委員として持つべき科学性と座長としての運営手法の両面から、吉川泰弘氏の適格性に疑義が提出されたものといわざるを得ません。

 日本共産党は、以上の点をふまえて、吉川泰弘氏を食品安全委員会委員に任命する政府の人事案に不同意の態度をとりました。

f)大学政策について
1)国立大学の法人化がスタートして5年が経過しました。この間、東大など一部の「勝ち組」をのぞいて多くの大学が疲弊した、また本来の意図とは逆に中央省庁の影響力が強まった、など、問題点も指摘されています。貴党における、国立大学法人化制度の評価と、今後の国立大学の役割について、お聞かせください。

回答
 自民・公明の政権は、国立大学法人化によって運営費交付金を毎年1%削減し、一方で競争的資金(評価によって配分する研究費)を旧帝大系大学に集中させました。その結果、各大学の財政ひっ迫による教育・研究基盤の弱体化、基礎研究の衰退、大学間格差の拡大と地方大学、人文系、教育系大学の経営危機など、極めて深刻な事態をもたらしました。また、国が各大学の中期目標を決め、それに基づく各大学の業績評価を行い、その結果による組織の再編を決めるという世界に例がない制度のもとで、「学問の自由」を保障する「大学の自治」が脅かされています。こうしたもとで、多くの大学教員は研究費獲得とそのための業績競争にかりたてられ、長期的視野にたって自由に、腰をすえた研究や教育にとりくむことが困難になっています。

 わが国の大学・大学院は、学術の中心を担い、地域の教育、文化、産業の基盤をささえるという大事な役割をはたしている、国民の大切な共通財産です。大学改革はこうした大学の役割を尊重し、その発展を応援する方向ですすめるべきです。日本共産党は、「今日の国立大学の深刻な事態をうみだした「大学の構造改革」路線に終止符をうち、国立大学法人制度の抜本的見直しを行います。

運営費交付金を毎年削減する方針を廃止し、基盤的経費として十分に保障します。法人化後に削減した720億円は直ちに復活させます。国立大学法人の施設整備補助金を大幅に増やし、老朽施設を改修します。

国が各大学の目標を定め、その達成度を評価し、組織を再編するなど、大学の国家統制を強めるしくみを廃止し、大学の自主性を尊重した制度に改めます。教授会を基礎にした大学運営と教職員による学長選挙を尊重する制度を確立します。

2)また米国の州立大学をみれば分かるように、地方分権の観点からは地方大学は地域の知的拠点としてますます大きな役割をになうと考えられます。そこで、分権における地方大学の役割についてもうかがいます。地方大学の復興を必要と考えるのか。もしそうならどのような対策を考えておられるのか、お聞かせください。

 地方の大学は、国立、公立、私立の違いを問わず、それぞれが地域の教育、文化や経済の発展に大きな寄与をしています。そうした役割を尊重し、国の支援を以下のように強めるべきです。

国立大学は、運営費交付金を増額するとともに、政府が検討している競争的資金化を中止し、財政力の弱い地方の大学に厚く配分するなど、大学間格差を是正する調整機能をもった算定ルールに改めます。また、地方の国立大学の地域貢献をきめ細かく支援するとともに、国による一方的な再編・統合や地方移管には反対します。

公立大学については、地方交付税交付金における大学運営費の算定を増やし、公立大学予算の増額をうながします。

地方の私立大学は、多くが中小規模で経営が困難であり、国の支援を強めるべきです。私大助成を大幅に増額し、定員割れ大学・短大への補助金カットをやめるとともに、定員確保の努力を支援する助成事業を私学の自主性を尊重しつつ抜本的に拡充します。