サイエンス・サポート・アソシエーションでは、衆院選に際し、科学技術政策に関する公開質問状を作成し、各党に発送しました。
送付方向としては、意見募集のウェブページやFAXなどを用いました。現在公明党、自由民主党、日本共産党、国民新党、緑の党からご回答をいただいています。
回答はこちらに掲載しています。
https://docs.google.com/spreadsheet/pub?key=0AkNK9F_18-hqdFYwaEdNSHhuaW8zc3pFU3I0YTRHRVE&single=true&gid=0&output=html
上記をテキストにしてほしいとの要望がありましたので、ここに公開させていただきます。
問1
国際的な潮流にあわせて、日本でも90年代から、大学・研究機関における応用研究の重要性が増してきており、企業との共同研究や、国策的に目標を定めたトップダウン型の資金の配分が増してきています。しかし、近年これが行きすぎではないかという批判も出てきており、ある程度の金額を広く薄く配分し、短期的な社会評価を気にせずに基礎研究を行える仕組みの重要性が再評価されてきています。この点を踏まえて研究資金のあり方について、貴党のお考えをお聞かせください。
a. 近年の既定路線通り、産業応用や雇用創出の可能性の高い課題を研究する競争的資金を増額していく
b. 産業応用にすぐにはつながらない基礎研究への配分を増やしていく方針転換を行う
c. どちらともいえない
d. その他(具体的に )
●回答
公明党:a
自由民主党:b
日本共産党:b
国民新党:d(我が国のおかれている状況を考えた)場合、先端技術の研究開発とその実用化との関連において、特に実用化は、スピード感をもって進めるべきものと考えます。)
緑の党:b(どちらかと言えば:自由記載欄参照)
●自由記載
公明党
科学、技術は、国がその多面的な発展をうながす見地から、研究の自由を保障し、長期的視野からのつりあいのとれた振興をはかってこそ、社会の進歩に貢献できます。とりわけ、基礎研究は、ただちに経済的価値を生まなくとも、科学、技術の全体が発展する根幹であり、国の十分な支援が必要です。基礎研究が枯れてしまえば、政府がいうイノベーション(新しい社会的価値や技術の創造)も望むことができません。
わが国の研究開発費(民間を含む)にしめる基礎研究の割合は14.7%と、欧米諸国に比べてもかなり低く、しかも低下傾向をつづけています。また、業績至上主義による競争を研究現場に押し付けたことから、ただちに成果のあがる研究や外部資金をとれる研究が偏重されるようになり、基礎研究の基盤が崩れるなど、少なくない分野で学問の継承さえ危ぶまれる事態がうまれています。
日本の研究者が相次いでノーベル賞を受賞したことは、日本の基礎研究の国際的な水準の高さを示しています。この水準をさらに高め、わが国が「科学立国」として発展するために、日本共産党は、経済効率優先の科学技術政策を転換し、科学、技術の多面的な発展をうながすための振興策と、研究者が自由な発想でじっくりと研究にとりくめる環境づくりのために力をつくします。
どちらかと言えばbだが、「産業応用」分野か「基礎研究」分野かといった二項論だけでは必ずしも語れないと考える。たとえば、「産業応用」的な分野の中でも、新自由主義的な市場経済の進む中で、短期的な利益をより多く期待できる分野に資金が集中している現状がある。中長期的な研究開発期間が必要なものや、より多くの市民が成果を享受できる可能性のある分野への配分について十分考慮することも必要と考える。
また、問5で触れられているiPS細胞の臨床応用を本格化させるためには、当面は多くの人員、高度な施設、巨額の資金が必要となり、それらの投資を市場経済の中で回収するためには、治療費もきわめて高額とならざるを得ない。先端技術の開発は歓迎されるべき側面がある一方で、その成果の享受における「格差」(国内のみならず国際的にも)という課題や矛盾を関係者は認識し、広く社会全体が利益や成果を享受できる仕組みを検討する必要があると考える。
財政的・政策的資源の振り分けについては、こうした課題やその背景にある経済・社会のあり方も含め、関係者のみならず、広く国民的な熟議が必要。
問2
近年、競争的資金の多様化・複雑化、特許の取得に関わる業務、大学・研究機関のコンプライアンスの問題などで、大学教員の事務作業負担が増えている、という指摘があります。
一部に、科学技術コミュニケーターや研究マネージメントなどの職を雇用する動きもありますが、任期付きにせざるを得ないことや、本来研究者を採用すべき人員の枠を圧迫するなどの問題がでています。こういった問題の解決策について、貴党のお考えをお聞かせください
(複数回答可)。
a. 大学教員の増員を行う
b. 事務と教員(研究者)との中間形態として、科学や法律などの専門知識を持った研究支援職を大学が雇用できるようにする
c. ITなどを利用した申請や報告の簡易化、公的な研究資金における規格の共通化などを推
進する
d. 実質的に役にたっていないムダな事務手続・書類を削減する。
e. 特に対策は取らない
f. その他(具体的に )
●回答
公明党:b,d
自由民主党:b,c,d
日本共産党:a,b, f(自由記載欄参照)
国民新党:c,d
緑の党:a,b,c,d
●自由記載
公明党
加えて、研究開発力強化法に基づき、研究者の養成・確保を図り、ポストドクターや女性研究者、外国人研究者等の処遇の改善を進めるなど、研究者が安心して充実した研究を囲内で継続できるよう支揮の強化に取り組むべきと考えています。
ご指摘の通り、大学は、教員だけでなく、テクニシャンなどの研究支援者、事務職員などによって支えられています。さらに近年、競争的資金の獲得、特許申請のための事務作業などが増大しています。ところが「ノーベル賞を受賞した山中伸弥氏のiPS細胞研究所でも9割が非正規雇用」に象徴されるとおり、研究支援者の雇用はきわめて不安定です。研究支援者は欧米に比べても極端に少なく、本来、高度な知識が必要な事務職員の非正規雇用化も進んでいます。そのため大学教員の研究時間が減少するなど、学術の発展にとって危機的な状況となっています。 こうした現状を改善するために、研究支援者を増員するとともに、その劣悪な待遇を改善しる必要があります。職員を増員するとともに、雇用は正規が基本となるよう促します。 科学・技術コミュニケーターは、大学や研究機関において教育や研究にも従事する専門職であり、競争的資金による短期雇用ではなく、安定した雇用を保障すべきです。 こうしたことを実現するために、大学や独立行政法人研究機関の基盤的経費を増額します。その財源は、日本共産党が2月に発表した「消費税大増税ストップ! 社会保障充実、財政危機打開の提言」で明らかにしています。第1段階で「大型開発や軍事費をはじめ税金のムダづかいの一掃と、富裕層・大企業優遇の不公平税制を見直すとともに、新たに富裕税、為替投機課税、環境税などを導入する」、第2段階で「負担能力に応じた負担の原則にもとづき、累進課税を強化する所得税の税制改革によってまかなう」、同時に「国民の所得を増やし、経済を内需主導で安定した成長の軌道に乗せる民主的経済改革によって税収増をうみだす」というものです。これによって、大学の漸進的無償化や教育・研究への国のとりくみの抜本的強化が可能となります。
問3
博士号の取得者数は政策的に増やされてきた一方で、それらの人々の就職難が問題となっています。ポストドクター(ポスドク)と呼ばれる3〜5年程度の任期の職を転々とせざるをえないのが一般的になり、かつ40歳をこえるとこうした職に就くのも難しくなっています。また、労働契約法の改正によって、一大学と五年以上の契約を結べなくなり、ポスドクを継続的に行うことの困難は増しています。一方で国立大学法人の常勤職定員は削減の一途であり、この問題は大学・研究機関の自助努力では解決しづらいのが現状です。この問題の解決策について、貴党のお考えをお聞かせください(複数回答可)。
a. 大学教員の増員を行う
b. ポスドクを民間企業に転身させるための職業訓練や企業に対する助成措置を行う
c. 大学・研究機関を労働契約法の例外にする法改正を行う
d. 政府機関(学術振興会や科学技術振興機構など)で研究者を常勤で一括雇用し、各機関
に派遣する形式のポストをつくる。
e. 特に対策は取らない
f. その他(具体的に )
●回答
公明党:大学教員等に若手・女性研究者の積極的な採用を回るほか、大学と産業界との連携強化などにより、ポストドクターの就労支控をいっそう拡充すべきであると考えています。
自由民主党:b
日本共産党:a,b
国民新党:b
緑の党:a,b,c,c
●自由記載
日本共産党
●大学・研究機関の人件費支出を増やし、若手研究者の採用を広げる
大学教員にしめる35歳以下の割合は13%に低下し、将来の学術の担い手が不足しています。国立大学法人が「総人件費改革」で5年間に削減した人件費だけで、若手教員1万5千人以上の給与に相当します。国立大学や独法研究機関が削減した人件費分を回復するために、国から国立大学や独法研究機関への運営費交付金を大幅に増額し、若手教員・研究者の採用を大きくひろげます。
●任期制教員の無限定な導入や成果主義賃金に歯止めをかける
大学教職員への無限定な有期雇用や成果主義賃金の導入は、教育研究や支援業務の健全な発展を妨げています。国による誘導策をやめさせ、導入に歯止めをかけます。大学教員、研究員の任期制は任期制法に規定された3類型に限定するとともに、大学においては正規雇用を基本にすべきです。今年改正された労働契約法の実施(来年4月)にあたって、大学における有期雇用の実態と法改正の影響について国による調査を行います。有期雇用の大学教職員、研究者、非常勤講師の不当な雇い止めが広がらないようにするため、有期契約が1回以上反復されて5年経過したものを無期契約に転換した場合に、国が大学に対して財政支援する奨励制度をつくります。
●博士が能力をいかし活躍できる多様な場を社会にひろげる
公務員の大学院卒採用枠を新設し、学校の教師や科学に関わる行政職、司書や学芸員などに博士を積極的に採用します。博士を派遣や期間社員で雇用する企業に対して正規職への採用を促すとともに、大企業に対して博士の採用枠の設定を求めるなど、社会的責任をはたさせます。
●若手研究者の待遇改善をはかる
大学や独法研究機関が、期限付きで研究者を雇用する場合に、テニュアトラック制(期限終了時の審査をへて正規職に就ける制度)をさらに発展させ、期限終了後の雇用先の確保を予め義務づける制度を確立します。ポスドクの賃金の引き上げ、社会保険加入の拡大をはかります。
研究費支援では、若手研究者に一定額の研究費を国が支給する特別研究員制度を大幅に拡充します。とくに、博士課程院生には6.4%しか適用されていない現状を改善し、院生には20%まで採用を増やします。また、大学院生に給費制奨学金を創設します。
大学非常勤講師で主な生計を立てている「専業非常勤講師」の処遇を抜本的に改善するため、専任教員との「同一労働同一賃金」の原則にもとづく賃金の引き上げ、社会保険への加入の拡大など、均等待遇の実現をはかります。また、一方的な雇い止めを禁止するなど安定した雇用を保障させます。
こうしたことを実現するための財源については、問2で答えたとおりです。
a〜dに加え、十分な能力を持った研究者を育成する仕組みや学位の基準などについて、再検討も必要ではないかと考える。
問4
研究業界は、大学・研究機関や一部の企業による閉じられた環境の中で行われ、その事情が外部からは見えにくいという側面があります。しかし、近年、政府の政策や資金の配分の仕方と大学の研究の関連性は増しており、政策的な決断が大学における研究の方向性を大きく左右することもまれではありません。こうした中で、研究者の意見や要望をどのように政治の現場に伝えるべきか、研究者の多くが悩んでおります。このことについて、貴党のお考えをお聞かせください(複数回答可)。
a. 日本学術会議や主要な学協会などが一般研究者からの意見を集約して政府に伝える仕組みを作ったり充実させることを奨励する。
b. 研究者は広く有権者に対して状況を説明し、有権者が投票活動によって研究を重視する政党に投票すると決断するのが望ましい
c. 政府が一般研究者の意見や要望を集約する仕組みをより充実させるのが望ましい。
d. 各党が窓口をつくって、そこに各政党の政策に近い意見をもつ研究者が意見をよせる等
の協力をする
e. その他(具体的に )
●回答
公明党:a,c
自由民主党:a,c
日本共産党:a,b,c,d
国民新党:c
緑の党:a,c
●自由記載
日本共産党
意見や要望がなぜ政治に反映しないのかについて、考える必要があると思います。
2009年総選挙で民主党は、「世界的にも低い高等教育予算の水準見直し」「産業振興的な側面ばかりでなく、学問・教育的な価値にも十分に配慮を」「国立大学の運営費交付金の削減方針を見直す」「国立大学病院運営費交付金は…法人化直後の水準まで引上げる」(「民主党政策集INDEX2009」)など、大学関係者、研究者の要求を一定反映させた公約をかかげていました。しかしこうした公約のほとんどは投げ捨てられました。
なぜ、民主党政権は研究者の期待を裏切ったのでしょうか。自民・公明政権が推進してきた「大学の構造改革」路線を、財界に言われるがままに引き継いだからです。研究者の意見や要望が反映する政治に改革するには、財界いいなりの「大学の構造改革」路線を転換し、国民の立場から「学問の府」にふさわしい改革をかかげる政党を大きくする必要があります。日本共産党はその実現のために全力をあげています。研究者の意見、要望を大学改革、科学・技術政策に反映させるには、政府のトップダウンによる大学改革、科学・技術政策を次のような方向で是正する必要があります。
(1)世界で形成されてきた「大学改革の原則」は、「支援すれども統制せず(サポート・バット・ノットコントロール)」であり、「大学の自治」を尊重して大学への財政支援を行うことです。わが国でも、国公私立の違いを問わず、大学に資金を提供する側と、教育・研究をになう大学との関係を律する基本的なルールとして、この原則を確立するべきです。具体的には、以下のとおりです。
・文科省が決定した「大学改革策定プラン」を中止し、国民の立場にたった大学改革プランを確立する。
・大学の現状と問題点を分析し、改革の方向を検討します。そのさい、大学関係者の意見を尊重するとともに、ひろく国民各層の意見を反映させます。
・国立大学法人化がもたらした現状と問題点を検証し、大学関係者の意見を尊重して、法改正を含む制度の抜本的見直しを行います。
(2)科学技術基本計画を政府がトップダウンで策定するやり方をあらため、日本学術会議をはじめひろく学術団体の意見を尊重して、科学、技術の調和のとれた発展をはかる総合的な振興計画を確立するべきです。
科学、技術の研究、開発、利用への国の支援は、「公開、自主、民主」の原則にたっておこなうとともに、大企業優遇ではなく、平和と福祉、安全、環境保全、地域振興など、ひろく国民の利益のためになされるべきです。憲法の平和原則に反する科学、技術の軍事利用に踏み込むべきではありません。
公正で民主的な研究費配分を行い、研究における不正行為の根絶をはかるべきです。
(3)科学研究費補助金を大幅に増額し、採択率を高めます。競争的資金は、この10年で倍増し、新技術に直結する研究支援や一部の大学への巨額の資金投入が大幅に増えました。しかし、科学研究費補助金は2500億円にとどまったままです。
研究費の配分がより公正で民主的になるように、審査の在り方を改革します。とくに、科学者で常勤の審査員を大幅に増員し、将来性のある研究、萌芽的な研究を見極める「目利き」のある審査、公正な審査を充実させます。
(4)産学連携の健全な発展をうながします。福島原発事故で明るみにでた原子力産業と一部大学との癒着にみられるように、大企業の利潤追求に大学が追随するような連携は、大学本来の役割が弱められ、研究成果の秘匿や企業との癒着などの弊害がうまれるため、抑制すべきです。
産学連携の健全な発展のために、国からの一方的な産学連携のおしつけでなく、大学の自主性を尊重し、基礎研究や教育など大学の本来の役割が犠牲にされないようにします。
詳しくは、日本共産党の総選挙政策各分野政策の大学改革・科学・技術を参照してください。
aもしくはc。意見集約について学術会議経由が望ましいか政府へ直接がよいか、研究者たちの判断にゆだねたい。また、dの回答については各党が窓口を作るかどうかは自由意思にゆだねられると考えるので、回答としては選択しないが、われわれとしては当面の窓口を次項「問4-2に回答する。
問4−2
dとお答えの場合、すでにそういった連絡窓口があれば、電話番号やメールアドレス等を
お書きください。
日本共産党
日本共産党中央委員会のメールアドレス(info@jcp.or.jp)にご意見をいただければ、担当部局である学術・文化委員会が対応いたします。
緑の党
(dは選択していないが、上記に回答した通り当面の窓口は、中山均nakayama@jca.apc.org とする )
問5
科学技術の発展が人々の生活に大きな影響を及ぼす、という場合はますます多くなっており、それと共に研究開発に伴う倫理的な問題も重要性を増しています。iPS細胞について、ノーベル医学生理学賞を受賞される山中伸弥教授が述べたように、これを「研究者だけ」が決めて良いのかという点に、研究者自身も悩みや恐れを抱いているというのが現状です。そこで、科学技術研究の方向性や優先順位、また研究や応用における規制の問題等について、誰が議論に参加するべきか、該当するカテゴリーをすべてお答えください(複数回答可)。
●回答
a. 実際に研究を行う自然科学の専門家
b. 法律、哲学、社会、宗教等についての人文・社会科学の専門家
c. 国民の代表たる議員
d. 科学技術の応用に携わる産業の専門家
e. 患者団体など、広い意味での「ステークホルダー」
f. その他、この社会を形成する全ての人々
公明党:a,b,c,d,e
自由民主党:a,b,c,d,e,f
日本共産党:a,b,c,d,e,f
国民新党:a,b
緑の党:a,b,c,d,e,f
●自由記載
公明党
例えば、国が再生医療の施策を推進するに当たっては、再生医療の特性にかんがみ、安全の確保、生命倫理、最新の研究開発および技術開発の動向等について、その有識者、医療従事者、研費者、技術者、その他の関係者の意見を聞くとともに、国民の理解を得るととを基本とすべきと考えています。
科学・技術の研究、開発、利用は「公開、自主、民主」の原則のもとに平和と福祉、安全、環境保全、地域振興など広く国民の利益のために行わなければなりません。倫理問題など新しい問題も多くなってきているだけに、問4でのべたような方向の改革を基本に、研究者の自主性を尊重しつつ、できるだけ広範な関係者の論議を尽くすことが必要だと考えます。
なお、この問題に関連し、問1の回答も参照願いたい。