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財務省、財政健全化計画等に関する建議、科学技術に厳しい見方、文科省は反論

2015年6月1日〜2015年6月7日

先週の記事ピックアップ。

財務省  財政制度等審議会財政制度分科会が発表した財政健全化計画等に関する建議(平成27年6月1日)が、科学技術に厳しい指摘をしています。

https://www.mof.go.jp/about_mof/councils/fiscal_system_council/sub-of_fiscal_system/report/zaiseia270601/index.htm

P49〜

(2)国立大学運営費交付金

(1) 国立大学の現状
我が国の大学進学者の大宗を占める 18 歳人口は、平成4年度をピークに減少に転じ、今後も減少傾向が続くと予想されている。他方、国立大学の在籍者数は、近年横ばいで推移しており、教員数は平成 18 年度の60,712 人から平成 26 年度の 64,252 人へと年々増加している63。
一方、国立大学の財務基盤については、平成 16 年度の法人化以降、運営費交付金が約 1,470 億円減額されており64、これにより硬直化が進んでいるとの指摘がある。しかし、国立大学全体の収入額・事業規模は年々増加しており、このうち国費負担額(運営費交付金補助金等収入の合計)だけを見ても、平成 16 年度に比べて約 1,500 億円も増加している65。
法人化により、民間同等の経営手腕の発揮による効率的・効果的な大学運営が求められていることも踏まえれば、国からの財源措置については、厳しい財政事情の中で十分に手厚く行われていると見るべきである。
大学全入時代と言われ、高等教育の水準低下に懸念が示されている中、国立大学の研究力、教育水準の維持・向上を図っていくためには、大学間・大学内における大胆な再編・統合、重点化による入学定員の見直し、教員規模の適正化、大学教育内容の質的転換等の取組を行うとともに、学内資源の再配分、収入源の多様化による一層の効率的・効果的な大学運営が求められる。

(2) 収入源の多様化による財務基盤の強化
国立大学全体の収入構成を見ると、運営費交付金補助金等収入による国費負担が総収入の半分程度を占めている。研究収入、寄附金について、法人化以降一定の増収は見られるものの、世界トップレベルの大学において研究受託収入、資産運用益、学納金収入などにより収入源の多様化を図っていることと比較すれば、我が国の国立大学は大学として成し得る財務基盤強化を十分に進めているとは言い難い66。学生への支援を含め、今後、更に教育研究環境の改善を進めるためには、国費に依存しない財務基盤の強化が必要である。〔資料II−3−6参照〕
具体的には、まずは研究収入の積極的な獲得を進めることが考えられる。諸外国における大学への交付金制度の中には、研究成果・獲得研究収入等に応じた重点配分を行うことにより、大学の自主的な取組を促す制度がみられる67。現在、国立大学法人改革を進める中で、運営費交付金について3つの重点支援の枠組みを設け、客観的評価に基づくメリハリある配分により重点支援を行う方向で検討が進められているところであり68、こうした諸外国の取組も参考にしながら具体化を図る必要がある。
また、国立大学の基盤を支える重要な収入の一つである授業料の引上げについても積極的に検討すべきである。大学が学生に対して提供する教育によって、その卒業生は高度な専門知識を活用して、平均的により高い賃金を得ることが可能となっている。在学中に要する費用と比して、生涯を通して大学教育から受ける恩恵は大きく69、特に、国立大学の場合
は私立大学に比べて授業料の水準が6割程度となっている70。〔資料II−3−7参照〕
一方、教育の機会均等は国の基であり、大学教育についても「教育格差」が拡大してはならない。そのためには、授業料を引き上げて収入の増加を図りつつも、その収入を財源として、意欲と能力がありながらも経済的に困難な学生層に対しては現在の水準よりも負担を軽減するような経済的配慮が必要である。さらには、特に卓越した学生に対する戦略的な投資、学生の多様なニーズ・価値観に応えた教育・研究環境の一層の整備を進めていく必要もある。所得と能力に応じて教育費負担の調整を行うメリハリの利いた学生支援が重要であると考える71。同時に、学生に対しては、学生支援制度のきめ細かな周知等により、その不安を無くしていくことが必要であり、大学においては、奨学金や授業料減免等の支援制度の周知体制や相談体制の徹底を図る等の取組が求められる。〔資料II−3−8参照〕


63 出典:平成 18 年度在籍者数・教員数「平成 18 年度学校基本調査」、平成 26 年度在籍者数・教員数「平成 26 年度学校基本調査」
教員数は、当該学校に常勤として勤務する「本務教員」であり、学長の他、副学長、教授、准教授、講師、助教、助手の合計である。
64 平成 16 年度の国立大学法人運営費交付金算額は1兆 2,415 億円、平成 27 年度の国立大学法人運営費交付金算額は1兆 945 億円であり、その差額が約▲1,470 億円である。
65 平成 16 年度の国からの支出額 13,818 億円(運営費交付金 12,421 億円、補助金等収入 1,397億円)、平成 25 年度の国からの支出額 15,322 億円(運営費交付金 11,774 億円、補助金等収入3,548 億円)。出典:決算報告書、財務諸表附属明細書。補助金等収入は「大学改革等推進等補助金」等の機関補助及び、「科学研究費補助金」等の個人補助の合計値であり、施設整備費補助金、船舶建造費補助金、出資金等の所要により一時的に増減額する補助金の類は含んでいない。
66 運営費交付金の交付を受けていないカリフォルニア工科大学ハーバード大学では、研究受託収入、資産運用益、学納金収入の合計は収入全体の約8割を占めており、日本の国立大学同様、運営費交付金の交付を受けているオックスフォード大学、カリフォルニア大学バークレー校では収入全体の約6割を占めている。
67 イギリスでは、政府から独立した機関の高等教育財政審議会(HEFCs)が各大学に交付金を配分。全体の7割を占める教育補助金は、学生数等に応じて機械的に配分されており、全体の1/4を占める研究補助金は、研究成果・獲得研究収入等に基づき配分されている。
68 重点支援の方向性:(1)地域のニーズに応える人材育成・研究を推進、(2)分野毎の優れた教育研究拠点やネットワークの形成を推進、(3)世界トップ大学と伍して卓越した教育研究を推進(「産業競争力会議課題別会合(第5回)」(平成 27 年4月 15 日)下村文部科学大臣提出資料から抜粋)
69 出典:(株)日本政策金融公庫「教育費負担の実態調査結果(平成 26 年度)」、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、(独)労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計 2014」。高校から大学卒業までの所要額は、国公立大学 7.2 百万円、私立大学(文系)9.0 百万円、私立大学(理系)10.0 百万円であり、いずれも高校の費用 2.1 百万円の他、受験費用等の入学費用、授業料・教科書代・家庭教育費等の在学費用の合算。大学・大学院を卒業し就職した場合の生涯年収は男性 254.4 百万円、女性 197.5 百万円。高校を卒業し就職した場合は男性 192.4 百万円、女性 125.5百万円。
70 国立大学の授業料の標準額は 535,800 円、私立大学の授業料は 860,072 円(文部科学省「私立大学等の平成 25 年度入学者に係る学生納付金調査」全国平均)
71 イギリスでは、大学独自の授業料設定を可能とするとともに、学生に対する支援策として、受益者負担及び機会均等確保の観点から、政府関係機関(SLC)が授業料を立て替えた後、卒業後に年間所得に応じた返金を求める「所得連動型授業料返還方式による授業料納付制度」を導入し、大学の授業料設定額に応じて奨学金に充てる「大学独自の低所得者向け奨学金制度」を義務化している。

P53〜
4.科学技術

科学技術立国を目指している我が国にとって、科学技術投資を充実させることは重要な課題であるが、累次の答申でも指摘しているように、PDCA を通じて、その「質」の向上が求められていることは論を俟たない。
官民あわせた総研究開発費(対 GDP 比)は主要先進国の中で最も大きく、中国と比べてもほぼ倍の水準となっている72。その特徴としては、民間研究費の割合が高く、これは我が国のイノベーションシステムにおける民間部門の重要性を示している。
一方、政府部門の科学技術振興費についても、予算額は平成元年度比で約3倍と社会保障費をも超える大きな伸びとなっており、一般会計(国債費及び社会保障関係費除く)に占める割合も約3倍に増加している。
他主要国に比べ政府債務が大きく積み上がる中、こうした「投資」を着実に行ってきており、それに相応して何を社会に還元しているか、もしくは、還元し得るのか、経済社会へのインパクトも含め、具体的に説明する必要がある。例えば、過去の科学技術基本計画ではインプット目標のみを掲げている73が、明確な成果目標を設定するスタイルへの転換が必
要なのではないか。また、今後一層財政状況が厳しくなる中、「財政健全化計画」との整合性を図り、重複や無駄の排除、設備の共用化などの徹底した効率化も不可欠である74。〔資料II−4−1参照〕
こうした中、我が国の研究開発効率75は低下傾向にあり、近年では主要先進国の中で最も低い状況にあるとの指摘もある。厳しい財政状況を踏まえれば、科学技術予算の費用対効果の向上が急務であり、「量」にこだわるのではなく、企業・大学間の連携促進などのシステム改革を通じ、まずは全体の「質」を高める努力が喫緊の課題である。研究開発に係る資金の流れを見ても、我が国は「企業」部門が大きいが、その研究開発費のほとんどが「企業」部門に流れるクローズドな状態である一方、諸外国は「大学」「公的機関」部門にも流れ、オープン・イノベーションを図るシステムが構築されている。今後政府部門の負担能力が伸びない中、システムの効率を高めるためにも、「大学」・「公的機関」部門が「企業」部門の研究開発資金との組み合わせによる共同研究を拡大することが質の高いイノベーションにとって重要であろう。〔資料II−4−2、3参照〕


72 日本 3.67%、米 2.76%、独 2.89%、仏 2.25%、英 1.78%、中国 1.84%(いずれも 2011 年度)。「平成 26 年版科学技術要覧」から試算。
73 他分野の基本計画ではインプット目標を掲げているものはない。また、他主要国(米、英、EU、中)でも、政府研究開発投資のインプット目標を設定している国はない。
74 1論文当たりの科学技術関係予算額は、日本の 0.48 億円に対して、米 0.35 億円、独 0.27 億円、仏 0.24 億円、英 0.13 億円(いずれも 2012 年度)。「平成 26 年版科学技術要覧」から試算。
75 過去における研究開発費の支出の累計に対する現在の企業部門の付加価値(後方5年移動平均)。

日経BPの宮田満氏は上記の指摘を批判しています。

Wmの憂鬱、科学研究費の伸び率は社会保障費を上回る? 財務省の姑息なキャンペーン【日経バイオテクONLINE Vol.2262】
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/news/20150604/185416/

文科省は反論しています。

★教員数削減案に「教育課題は増加」 文科省、財制審に反論
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG05HDF_V00C15A6CR8000/

科学技術予算削減策に反論-文科省が意見書
http://www.nikkan.co.jp/news/nkx1520150608eaaf.html

財政制度等審議会の「財政健全化計画等に関する建議」に対する文部科学省としての考え方
http://www.mext.go.jp/a_menu/kaikei/sonota/1358553.htm

これも大学がらみのニュースです。

★第7回 産業競争力会議課題別会合 配布資料
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/kadaibetu/dai7/siryou.html

資料1 目指すべき雇用・人材政策の方向性
(金丸恭文主査提出資料)
資料2 未来を支える人材力強化(雇用・教育施策)パッケージ
(塩崎厚生労働大臣・下村文部科学大臣提出資料)
資料3 日本創生のための教育改革
(下村文部科学大臣提出資料)

「即戦力」機関を創設 職業教育 社会人入学も
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2015060502000133.html

大学を「職業教育学校」に…19年度実施方針
http://www.yomiuri.co.jp/politics/20150603-OYT1T50150.html

★競争的研究費改革に関する検討会(第6回) 配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/039/shiryo/1358470.htm

議題

間接経費の充実について
研究人材の育成について
研究施設・設備の共用促進について
その他

★第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方に関する検討会(第9回) 配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/062/gijiroku/1358532.htm

資料1 第3期中期目標期間における国立大学法人運営費交付金の在り方について審議まとめ(案) (PDF:431KB)
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/062/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/06/04/1358532_1_1.pdf

★第8期研究費部会(第2回) 配付資料
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/037/shiryo/1358507.htm

資料1 若手研究者支援と研究費:若手アカデミー委員からの一視点(東京大学 吉田丈人准教授御説明資料) (PDF:3336KB) PDF
資料1 若手研究者支援と研究費:若手アカデミー委員からの一視点(東京大学 吉田丈人准教授御説明資料)(別添1) (PDF:1862KB) PDF
資料1 若手研究者支援と研究費:若手アカデミー委員からの一視点(東京大学 吉田丈人准教授御説明資料)(別添2) (PDF:1409KB) PDF
資料1 若手研究者支援と研究費:若手アカデミー委員からの一視点(東京大学 吉田丈人准教授御説明資料)(別添3)(PDF:960KB)(※日本学術会議ウェブサイトの該当ページへリンク)
資料2 研究費獲得とキャリア構築(北海道大学 平田拓教授御説明資料) (PDF:828KB) PDF
資料3 若手研究者をめぐる状況について (PDF:1523KB) PDF
資料4 大学等教員の職務活動の変化 (PDF:1479KB) PDF
資料5‐1 科研費における若手研究者を巡る状況 (PDF:1557KB) PDF
資料5‐2 若手研究者の育成のための科研費改革について(論点)
資料6 科研費の審査方式の抜本改革イメージ(検討状況) (PDF:178KB) PDF

★第25回世界博物館大会の開催地の決定について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/06/1358562.htm

京都にて。

平成26年度 諸外国における教育財政に関する状況調査
http://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/chousa/1358243.htm

★「日本の約束草案(政府原案)」に対する意見の募集(パブリックコメント)について(お知らせ)
http://www.env.go.jp/press/101079.html

温室効果ガス26%削減 政府原案パブリックコメント
http://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2015/06/20150605_01.html

平成27年版環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書について(お知らせ)
http://www.env.go.jp/press/101036.html

★研究不正、14年度12件報告 文科省が初の集計
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG06H2R_W5A600C1CR8000/

研究不正、昨年度12件 文科省まとめ
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2015060601001651.html

★研究不正問題――誠実な研究者が損をしないシステムに向けて
片瀬久美子 / 分子生物学
http://synodos.jp/science/14270

厚労省専門家会合の委員8人辞任 - 製薬企業などから報酬
http://news.mynavi.jp/news/2015/06/05/614/

医薬品承認の国委員 規定違反で全員辞任
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150606/k10010104991000.html

★Sluggish data sharing hampers reproducibility effort
http://www.nature.com/doifinder/10.1038/nature.2015.17694

★「科学の健全な発展のために-誠実な科学者の心得-」の英語版 「For the Sound Development of Science -The Attitude of a Conscientious Scientist-」を丸善出版株式会社から出版しました。
http://www.jsps.go.jp/information/index4.html#20150601_2

★Misplaced faith
The public trusts scientists much more than scientists think. But should it?
http://www.nature.com/doifinder/10.1038/522006a

★European Union rejects plea to end animal research
http://news.sciencemag.org/europe/2015/06/european-union-rejects-plea-end-animal-research

EUの国別イノベーション成果報告書の概要
http://crds.jst.go.jp/dw/20150602/201506025805/

★CRISPR: THE GOOD, THE BAD AND THE UNKNOWN
http://www.nature.com/news/crispr-1.17547

Natureの特設ページ

★CRISPR, the disruptor
A powerful gene-editing technology is the biggest game changer to hit biology since PCR. But with its huge potential come pressing concerns.
http://www.nature.com/doifinder/10.1038/522020a

なるほドリ・ワイド:研究進む「ゲノム編集」=回答・須田桃子
http://mainichi.jp/shimen/news/20150601ddm003070062000c.html

★大学が率先して競争すべきなのか
広島大学が導入する「教員ポイント制」への違和感
http://webronza.asahi.com/science/articles/2015052800002.html

★プロポーズに学術論文を使った事案が研究者界隈で話題に
http://fm7.hatenablog.com/entry/2015/06/05/102531

生命倫理を公共政策に―サロン4年間の成果と課題―
http://www.tkfd.or.jp/research/project/news.php?id=1437

★日本の論文は科研費頼みの傾向へ、それでも世界に存在感を示せていない
http://www.editage.jp/insights/public-research-fund-in-japan

★【第3回 学術シンポジウム】研究力強化に向けた戦略的研究マネジメント
〜戦略立案のための情報活用〜
http://ip-science.thomsonreuters.jp/event/ra-symposium/

日 時 2015年6月24日(水) 10:00〜16:20 (受付9:00より)
※16:20 より情報交換会を開催
主 催 トムソン・ロイター
後 援 慶應義塾大学
開催場所 〒108-8345 東京都港区三田2-15-45
慶應義塾大学 三田キャンパス 北館ホール