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研究者への倫理教育〜何をどうやって?

2014年3月28日付の日経新聞によると、STAP細胞の問題を受けて、文部科学省は大学院生に対する倫理教育を充実させることを決めたそうです。

研究者・学生に倫理教育 文科省が義務化、STAP問題受け

研究論文の不正に絡む問題では、論文が正しいかどうかを審査する機関を新設する案も出ている。ただ米国の不正を調査する研究公正局は調査する件数は限られ実効性に疑問の声が出ている。そのため同省は倫理教育の充実を図る方針を決めた。

これに対するTwitterFacebook上の反応は、教育など無意味であるという意見、教員の負担が大きくなるという意見、必要だけど、実効性のあるものにすべきであるという意見などまちまちでした。

私自身は、倫理教育は必要であると考えます。それ以前に、たとえ研究者サイドが否定的な考えを持ったところで、世論は納得しないのではないかと考えます。そんな当たり前のことを教えるなんて、と嘆いていていもはじまりません。

ただ、SNS上の意見と同じで、どのような倫理教育ならいいのか、形式だけにならないようにするためにはどうすればよいか、考えなければならないと思います。

今回問題となった早稲田大学でも、倫理研究オフィスで倫理教育を行っていました。

鎌田薫総長は以下のように述べています。

研究活動の社会に与える影響が極めて大きいことを認識し、本学では2007年に研究者に係る倫理的な姿勢と行動の規範を「学術研究倫理憲章」に唱え、同憲章の精神に則り、「学術研究倫理に係るガイドライン」および「研究活動に係る不正防止に関する規程」を制定しました。
これらに基づき、常設の学術研究倫理委員会を設置するとともに、研究者や学生を対象とした研究倫理の研修、教育を実施しています。特に研究者を目指す学部 3年生以上を対象とした「研究倫理概論」では、研究を始める際に必要な倫理に関する基本的事項について、学内外の専門家による講義を行っています。また、 2013年度から全教職員に学術研究倫理セミナーの受講の機会を設けるなど、全学的な取り組みを始めました。

2007年といえば、松本和子理工学部教授による、研究費私的流用事件の翌年です。この事件については

などをご参照ください。

「研究倫理概論」(大学院生、学部生対象科目)では、私もよく知る白楽ロックビル氏や大須賀 壮氏をはじめとした講師陣が、おそらくしっかりとした講義を行っているようです。

けれど、必修ではなかったようです。小保方博士はこれを受講していたのでしょうか。

では、全教職員対象の学術倫理セミナーはどんな内容だったのでしょうか。

教職員対象「研究倫理」では、オンデマンドで以下の動画がみられるようです。

研究と倫理
深澤 良彰 研究推進部門統括理事
      早稲田大学理工学術院教授
知的財産権をめぐって
高林 龍  早稲田大学法学学術院教授
メンターとトレイニー,Authorshipと出版の倫理,共同研究
土田 友章 早稲田大学人間科学学術院教授

ひとりの不正行為をもって結論付けるのは乱暴だと思いますが、影響の大きさを考えると、それでも、現状の早稲田大学の倫理教育は役立っていなかったと言わざるをえません。

おそらく研究者の倫理観に頼るだけでは捏造はなくならないと思いますし、捏造を誘発する構造にもメスを入れて行かなければならないとは思いますが、少なくとも「悪いことと知らなかった」と言わせない教育はしなければなりません。

果たしてどのような教育がよいのか…ある程度充実した早稲田大学のホームページをみながら、簡単には結論が出そうにないことを痛感する次第です。