科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

スモール(パーソナル)サイエンス・コミュニケーション

 私は病理診断医なので、他の臨床医ほどではないが、患者さんやそのご家族からセカンドオピニオンを求められることがある。

わたしの病気は何ですか?――病理診断科への招待 (岩波科学ライブラリー)

わたしの病気は何ですか?――病理診断科への招待 (岩波科学ライブラリー)


 でも少し触れたが、患者さんが自分の病気の診断結果について、病理診断医から直接話が聞きたいという要望が高まり、「病理外来」を始めた病院もある。

 こうしたとき、その病気の一般的なこととともに、患者さんの状態、病気の進行度にあわせて、診断結果、予測されることなどをお話させていただく。直接対話することで、患者さんの知りたいことを知り、それに対する回答を述べさせていただく。

 患者さんやご家族は、当事者として、ときには専門家を凌駕するほどの論文を読み、その病気に対する深い知識を有する。医療者として学ばさせていただくことも多い。

 自分が当事者として切実に関わる問題について、もっと知りたいという思い。その強さを感じるとともに、そうした知りたい、という要望に応え、支える専門家の必要性を感じる。

 その要望に応えるのは主治医であり、ときにセカンドオピニオンを受けた別の医者だ。個人情報や守秘義務、責任の所在の問題などもあり、正式な手続きをとる必要がある。

 こうした知りたいという要求に応える専門家は、なにも医者だけではなく、法律の専門家である弁護士も含まれる。

 医療や法律だけでなく、科学技術に関しても、自分たちが切実に関わる問題に対して知りたいという要求を、専門的な立場から支える専門家が必要ではないかと思う。

 たとえば、放射線の問題。自分たちの住んでいる地域はどうなのか、家族はどうなるか、といった切実な思いに、マスメディアは応えきれていない。

 自分たちの住む環境はどうなのか、食べ物はどうなのか、そういう思いに対応する専門家は少ない。

 こうしたときに、例えば弁護士のように、個別の問題についてともに考える専門家がいたらと思う。これも、サイエンス・コミュニケーションの役割の一つではないか。

 サイエンス・コミュニケーションというと、科学報道も含めて、マスに対する情報提供という意味合いが強いように思う。ブログにしても、アクセス数を競ったりするなど、やはり対象はマスだ。

 twitterなどでは、より個別なコミュニケーションが行われているが、twitterは不特定多数に対するコミュニケーションであり、対象者はヘテロな集団だ。

 地域に根ざした、少人数を対象としたサイエンス・コミュニケーション、スモールかつパーソナルなサイエンス・コミュニケーションが、今強く求められているのではないか。

 こうしたサイエンス・コミュニケーションを行う組織もある。阪大や神戸大などで行われている「サイエンス・ショップ」などだ。
http://handai.scienceshop.jp/
http://www.h.kobe-u.ac.jp/scishop/

サイエンスショップ -市民のための科学相談所
大阪大学コミュニケーションデザイン・センター 准教授 平川 秀幸 氏
http://scienceportal.jp/HotTopics/opinion/86.html

 日本においてサイエンス・ショップは、病院はおろか、弁護士事務所の数にも遠く及ばないわけで、現段階では小さな動きでしかない。

 しかし、この数十年でたくさん輩出された博士号取得者や修士号取得者などは、パーソナルな専門家として活躍できる素地はあるのではないか。

 震災後に被災地に飛び込んでいった専門家の方々の行動をみると、可能性はあるのではないかと思う。

 自宅に科学事務所を開設した博士が街にいる、そんな未来を見てみたい。