科学・政策と社会ニュースクリップ

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当事者の言葉

メールマガジンの巻頭言に、日本学術振興会特別研究員(DC1)の内内定をもらっているという修士の学生さんに寄稿していただいた。

仕分けに巻き込まれた当事者の声は貴重だ。

こちらでお読みいただきたい。

追記:許可をいただき、全文を掲載します。

みなさま、はじめまして。

都内大学院修士2年学生の者です。
昨日榎木様よりご依頼を受け、今回このメールマガジンへ原稿を書かせていただきました。

僕は10月28日付で独立行政法人日本学術振興会から、
「書類選考の結果、特別研究員へ面接を免除して採用する予定」という旨の通知を受けました。
つまり、来年度からの学振採用予定者です。(1月上旬に正式に内定を受けるはずでした。)
当事者の現在の心境を少しでも知っていただくため、今回の件に関して僕が感じていることを以下にまとめます。

学振DC採用内定予定通知を受けて、僕は家族、友人そして恋人と喜び合っていました。
それもつかの間、この特別研究員制度が事業仕分けの対象になっていることを知りました。
僕はいてもたってもいられず、11月13日の事業仕分けを会場へ傍聴に行きました。
皆さまもご存じのとおり、仕分け人たちが『ポスドクがあまっている』だとか『ポスドクの生活支援などやめるべき』という発言に収支していたのをこの目で見てきました。
僕に関連する学振DCに関しては議論にさえ上りませんでした。

それなのに結果は予算の縮減。
目の前であの議論と予算縮減要求を見て、本当に悔しかったです。
短時間で、しかも瑣末な議論の末、予算の縮減が要求されたのですから。
あの瞬間、悔しくて身体がガタガタと震えていたのを今でも確かに覚えています。
「当事者なのに意見も言えず、あんな短絡的な議論で僕の人生が変わるかもしれない。」
大げさに感じるかもしれませんが、これがその時僕が思った正直な感想です。

翌週に、日本学術振興会に問い合わせたところ、
「(正式内定に関しては)予算が確定するまではわからない。内定を取り消すかどうかについても現時点ではコメントできません。」とのこと。
このあまりにも突然すぎる状況の変化、現在おかれている不安定な状況に戸惑っています。
予算が縮減された場合、真っ先に切られるのは来年度から採用される予定の僕なのではないかと不安な気持ちが頭をよぎるのです。
毎日不安な気持ちに襲われ、非常に苦しいです。

今回の件で「僕は内定切りに合うかもしれない。国がこんな採用切りをしていいの?」と疑問に思っています。
しかし、ある方によると特別研究員制度の場合、日本学術振興会と特別研究員の間に雇用契約はないそうなのです。
つまり、内定や採用を突然打ち切ったとしても法律的には問題がないとのこと(これは、本当でしょうか?)。
これに関しては、「僕らに人権って…そんなにないのかなぁ…」と、落胆しました。

けど、そんなことで良いのでしょうか?
今回の事業仕分けで突然採用が取り消しになるということには納得がいきません。
事業仕分けによるあまりにも急な方針変更では、切り捨てられるものが大きすぎると思います。
(今回突然採用取り消しになった人が生じた場合、その人たちはその後どうすればよいのでしょうか?国はその人たちの処遇に関して、責任を取る必要は本当にないのでしょうか?)

このような不安定な状況に、日本中の特別研究員とその候補者が置かれている現在の状態は、非常に不健全だと思います。
これで研究に専心・専念しろというのは、あまりにも酷です。

もちろん、特別研究員制度自体や、そもそもの競争的資金というものに関して、賛否両論様々なご意見はあることは存じ上げています。

ただ、現在すでに存在する制度を、突然「対案なく」予算を縮減することに対しては、一致して反対することは可能ではないでしょうか?
今は、様々な立場や意見の違いを乗り越え、「大局で一致して」、この事業仕分けによる予算縮減要求という緊急事態を乗り越えるべきだと考えています。

どうか皆さまのお力をお貸しください。
いっしょに声を上げてがんばりましょう。

事業仕分けという大波を乗り越えた後、もう少しゆっくりと時間をかけて科学技術の今後や社会との関わりを多くの人々で話し合っていけたらと思っています。
この機会で繋がった仲間が、若手研究者育成の問題に関して、ポスドク問題に関して、もっと時間をかけて話合うことが大事だと思っています。
若手研究者をどのような制度の下で育成するべきか、それにむけた提言をいかにして現場から行政や社会へ伝えていくか。
科学技術に関して国はどの位そしてどのように予算を配分するべきか。(基準は?評価は?責任者は?)
そういうことを話し合える場を、社会へ発信できる場を、皆さまといっしょにがんばって作っていければと思っています。

今回をきっかけに、新しい希望の種が生まれると良いと思っています。

僕のような未熟者の文章をお読みいただき、ありがとうございました。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

24日から事業仕分けが再開される。どのような議論が交わされるのか。注目したい。