[高等教育シリーズ] 日本の大学教授市場 (高等教育シリーズ 142)
- 作者: 山野井敦徳
- 出版社/メーカー: 玉川大学出版部
- 発売日: 2007/09/30
- メディア: 単行本
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先月出た新刊。大学教授の「市場」について、歴史を追って解説している。最終章でポスドク問題、オーバードクター問題にふれている。
気になった記述を。以下著者は筑波大講師加藤毅氏。
それでは、大学教授職への競争激化が大学院進学希望者の減少をもたらす、という図式の市場調整メカニズムは働かなかったのだろうか。
(中略)オーバードクターの規模にはほとんど変化がみられないにも関わらず、翌年には増加に転じる。わずか一時点の例外を除き、市場の調整メカニズムは作動しなかったのである。
現在、優秀な学生が大学院にこなくなる、という動きがあるが、オーバードクター問題ではそうではなかったのか、と意外に思った。
若手教員の処遇をめぐる問題状況はこれまで、すでにみてきたとおり大学の大衆化に伴う教員組織の規模拡大によって先送りされてきた。今日、大学に常勤職を得る以前の不安定な一時雇用的スタッフはすでにかなりの規模に達しているけれども、これらを吸収するような教員組織の拡大を期待することはもはやできない。「問題のすべてを若手研究者に押し付け、その部分だけ流動化させ」ることで問題を先送りする手法は、既に限界に達したと言ってよい。
最近では、研究開発のマネジメントや評価など科学技術システムの運営に関わる多様なキャリアパス(ノンアカデミック・キャリアパス)の開拓などについて論じられているけれども、おそらくこれは解決策とはならない。
社会の負託に応えて知的基盤社会の牽引車となること。この目標を達成するためには、教育機関としての大学は、既存のニーズに応えることのできる教育コンテンツを開発するとともに新たな高度専門業務を創出していかなければならない。長い時間と高いコスト、そしてなにより多くの才能を通じて社会の活力ある発展が実現することにより、はじめて大学は社会の負託に応えることができる。
ではその高度専門業務とはいったい何なのか、気になるところだ。それが明らかにならないと困る、というのが、現場の実感。
ともかく、ブログ上での喧々諤々の議論だけでなく、高等教育の専門家がこの問題をどうとらえているのか知る上で貴重な資料だと思う。