科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

時代の変わり目と博士

★時代の変わり目と博士
2019年12月24日~2019年12月31日

カセイケン代表 榎木英介

 2019年最後の日になりました。2010年代も終わりです。

 時間は人が勝手に区切ったものですが、過去から学ぶのは重要です。今週のピックアップ記事を使って振り返ります。

 個人的には、近畿大学を退職し、地方の公立病院に異動し、環境は大きく変わりました。

 この異動には、在野で活動したいという思いがあったわけですが、在野研究は今年大きな話題となりました。

★文系大学院生から、民間企業の研究職になった1年を振り返る。
https://note.com/fujikkko/n/n124df093b697

 研究職以外の仕事をしながらでも研究はできる…。私自身もそれは感じますし、流れが来ているようにも思います。

 こうした流れの背景には、就職氷河期世代を中心とする世代が直面する厳しい現状があると思います。

★40代ロスジェネの年収は10年前のバブル世代より50万円も低い
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/12/401050.php

 もちろん、アカデミアへの就職が難しいから在野というネガティヴな発想は慎むべきで、活躍の場は世の中にたくさんあるというポジティブな発信をしたいとの思いで記事を執筆しました。

 博士号取得者を中心とする高度知識人材に対する見方は、少しずつ変わっきているようにも思います。

★時代の大きな変わり目が来てます
https://chikirin.hatenablog.com/entry/2019/12/25/%E6%99%82%E4%BB%A3%E3%81%AE%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%E5%A4%89%E3%82%8F%E3%82%8A%E7%9B%AE%E3%81%8C%E6%9D%A5%E3%81%A6%E3%81%BE%E3%81%99

 人気ブロガーちきりんさんが見抜いているように、時代が変わりつつある今、博士号取得レベルの専門知を持つことの重要性が高まっています。

★2020年先端IT人材不足の深刻化で博士・ポスドク人材需要が急拡大か!
http://acaric.co.jp/news/2019/12/2019-report/

アカリク、大学院生の採用・展望に関するレポートを発表
https://www.work-master.net/2019175819

 分野にもよるとは思いますが、博士号取得者の需要の拡大も予想されるなど、社会の様々な場で活躍できる可能性が広がっています。

 いまだ博士は使えない云々という人がいますが、そういう人がいたら、その方の所属先の業績などをみたらいいと思います。多くがたとえ大企業であっても革新的な新規事業ができず、業績が低迷しているのではないでしょうか。

 もちろんアカデミアと在野に明確な境界を設けることには意味がありません。そもそも在野という言葉は在朝との対比で語られる言葉なので、境界を含んだ言葉ではありますが、そのような境界は乗り越えて行き来したらいいと思います。

 今年出した本

「研究不正と歪んだ科学 STAP細胞事件を超えて」
日本評論社 税込 2,530円
https://nippyo.co.jp/shop/book/8178.html
https://amzn.to/2NEWFVR

 の共著者である粥川準二さんは、ライターや非常勤講師をご経験ののち、来年開設予定の叡啓大学(仮称)
https://www.pu-hiroshima.ac.jp/site/eikei-univ/

の准教授となられています。ご専門は生命倫理学です。

★遺伝情報による差別をどう防止するか
https://project.nikkeibp.co.jp/behealth/atcl/feature/00022/122600005/

 在野であらねばならないとか、評価されないことを恨み、アカデミアへ復讐してやるとか、そうした固執は意味がなく、自分のやりたいことをやりやすいのがたまたま在野だった、というような感じがいいなあと思います。

 大学を離れたことであらためて実感しますが、大学というのはサンクチュアリのようなところだなと思います。言論の自由、学問の自由、時間、資料へのアクセスその他様々な利点があります。

 こうした利点は確かに在野では享受することができません。

★図書館、起業の強い味方 専門家の相談会も
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53689750T21C19A2EAC000/

★九州の博物館、シニアの健康守れ 学芸員や医師ら連携
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53719890T21C19A2ACYZ00/

 図書館や博物館が在野の人たちのプラットフォームになればいいと強く思います。

★700万円、10年の若手研究者支援策に望むこと
世界ではとっくに同様の制度あり、何より継続が大事
https://webronza.asahi.com/science/articles/2019121700004.html

 若手支援が大きな政策課題になっています。そうしないともうどうしようもないところまで追い込まれているということかも知れませんが、それでも前向きに評価はしたいと思います。

 ただ、10年支援が終わり、次にアカデミア内でのポストがない、という事態も想定されます。ポスドク後の職がないポストポスドク問題と同じ構造ですね。

 そのためにも、アカデミア以外の活躍の場が重要になります。

 先日、実家の近所にある旧東海道を歩きました。一里塚にはえのきの木が植えられていました。

 そんなことは小学生のときに教わって常識だったのですが、あらためてえのきの木を見上げてハッとなりました。

 旅人に木陰を提供するえのきの木のように、私カセイケン代表榎木も、人生を旅する人が休める木陰を提供することがミッションなのではないか…。

 カセイケンは「知を駆動力とする社会をつくる」ことをミッションに活動しています。そのなかには、知を担う高度知識人材の活躍を支援することも入っています。

 キャリアに迷う人たちが、カセイケンを通じて次の行き先を見つける。

 カセイケンをえのきの木にしたいなと思ったりする年の瀬です。

★2020年度の科学技術振興費は1兆3565億円 共創の場形成支援予算は138億円
https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2019/12/20191225_01.html

東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ
https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/pdf/20191227.pdf

 ロードマップ改訂版。困難な廃炉作業は次の10年も続いていきます。

★大学入試のあり方に関する検討会議の設置について
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/mext_00063.html

★令和3年度からの大学入試サイトを開設しました
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/koudai/index.htm

 大学入試の混乱は2019年の大きな話題でした。身内に高校2年生がいるので、当事者としてこの問題を眺めています。

★大学の保管するアイヌ遺骨等の出土地域への返還に係る他の団体からの申請等の有無の確認について
https://www.mext.go.jp/mext_00085.html

 アイヌ遺骨問題は、大学が直視しなければならない負の歴史です。

★新しい時代の初等中等教育の在り方 論点取りまとめ(令和元年12月 初等中等教育分科会)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo4/houkoku/1382996_00003.htm

★大学における看護系人材養成の在り方に関する検討会第一次報告
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/098/gaiyou/mext_00099.html

★2019年12月25日
「我が国における学術研究課題の最前線(令和元(2019)年度)」を作成しました
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/30_front/index.html

★第16回(令和元年度)日本学術振興会賞の受賞者決定について
https://www.jsps.go.jp/jsps-prize/kettei.html

★「GOVERNANCE INNOVATION: Society5.0の時代における法とアーキテクチャのリ・デザイン」報告書(案)の意見公募手続パブリックコメント)を開始しました
https://www.meti.go.jp/press/2019/12/20191226001/20191226001.html

★応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf

★大学院入試問題の漏えい等及び教員の懲戒処分について
https://www.tmu.ac.jp/extra/download.html?d=assets/files/download/auth/press/press_20191224.pdf

飲み会の場で入試問題漏えい 首都大東京 教授を懲戒解雇
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191224/k10012226761000.html

★当研究所教員による公的研究費の不正使用について
https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20191225.html

当機構教員による公的研究費の不正使用について
https://www.rois.ac.jp/info/20191225.html

極地研助教が研究費など130万円不正使用 懲戒解雇に
https://www.asahi.com/articles/ASMDT5HCBMDTULBJ00L.html

極地研助教を不正受給で懲戒解雇 旅費など132万円
https://www.chunichi.co.jp/s/article/2019122501001646.html

 年末にいくつかの不正事件が明らかになりました。

 極地研の研究者の方は、メディアに出演するなど有名な方だったので、衝撃が広がっています。

★北海道教育大教授 中国帰国し連絡途絶「情報提供を」同僚
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191227/k10012230861000.html

緊急アピール
私たち研究仲間と友人一同は、袁克勤・北海道教育大学教授の中国での安否について憂慮しています
http://university.main.jp/blog/bunsyo/20191224.pdf

 今年は中国で研究者が拘束されるという事件も目立ちました。

旭川医大教授、製薬会社から不正報酬で停職
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191227-00000193-kyodonews-soci

旭川医大教授が製薬会社から不正報酬 停職12カ月
https://mainichi.jp/articles/20191227/k00/00m/040/434000c

 妻を社長とする会社を立ち上げそこに入金させるという手口でした。

★「人生会議」炎上騒動 その後に何が?
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20191225/k10012227761000.html

★ゲノム編集で双子誕生、中国研究者に懲役3年判決…「倫理違反知っていた」と断定
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191230-00050110-yom-hlth

ゲノム編集した子ども誕生 中国の科学者に懲役3年判決
https://www.asahi.com/articles/ASMDZ4WTTMDZUHBI00K.html

Chinese scientist who produced genetically altered babies sentenced to 3 years in jail
https://www.sciencemag.org/news/2019/12/chinese-scientist-who-produced-genetically-altered-babies-sentenced-3-years-jail

 ゲノム編集は2010年代が生み出した大きな成果です。2020年代はどこまで医療や食料増産にこの技術が使われるのかをみていかなければなりません。

★【呼びかけ】ゲノム編集技術の拙速な推進を憂慮する学者声明への賛同お願い
http://nishoren.net/new-information/11685

 急速に広がるゲノム編集に懸念の声も出ています。

 こうした「エマージングテクノロジー」に対して、法的、倫理的、社会的な課題を考えることはELSIと呼ばれます。

ELSIってなに?
http://platform.umin.jp/elsi/elsi.html

 ELSIは在野の人たちが取り組むことができる領域ではないかと思います。

★135以上の米国の組織、米国当局による査読済み論文の即時かつ無償公開を義務化する政策案に強い反対を表明
http://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=11713

 先週既報です。

 政府にはっきりと意見を言うことは、日本ではあまり活発ではありません。

 ELSIも含めて、なにかの問題点を指摘したり、批判をしたりすることは、研究の邪魔をする、輪を乱すと言われてしまいがちなのが日本の特徴です。

 私が関心があるテーマである研究公正もELSIに含まれると思いますが、批判的な言動を行なっているとみなされがちで、なかなか評価されません。

 もちろん評価を求めてやっている活動ではないので、評価などいらないと思うのですが、研究公正を推進することなどアカデミアは求めていないのではないかと不安に思うことがあります。

 本にも書きましたが、研究公正推進には相互批判が重要です。

 批判を非難ととらえ、批判をする人を排除する組織に未来はありません。

 2020年代には相互批判ができるより風通しのよいアカデミアをみてみたいと心より願います。

★国立大新入生に特例適用せず 修学支援制度で文科相
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO53729800U9A221C1CR0000/

信じられない萩生田発言 池上彰さん「報じぬ記者鈍い」
https://www.asahi.com/articles/ASMDV2JNTMDVUPQJ001.html

萩生田光一文部科学大臣記者会見録(令和元年12月23日)
https://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/detail/mext_00020.html

 萩生田大臣の発言に対して池上彰さんが厳しく批判。問題の発言は

 制度の分かれ目というのは、いつもこういう課題が出てくると思います。国会の中でも私は答弁してまいりましたけれども、真に支援が必要かどうかではなくてあらかじめ各大学が持った予算の中から割り戻して支援をしていたので、本来、他所の大学に行けば支援対象じゃない人も、Aという大学では支援をしていたと、こういうことだったと思いますので、今回、統一基準を作りましたから、これを新たなルールとして是非ご理解いただいて、端境期にたまたまあの先輩はこういう家庭環境でこうだったのに俺はという不満がもしかしたらあるかもしれないです。これは制度の端境期なので是非ご理解いただいて、逆にこう手厚くですね、しっかりやっていきたいなと思っていますので、これは御理解いただくしかないと思っています。

★検証
ヒアリ阻止、正念場 環境省、毒餌4万個を設置/自治体、チラシで注意喚起
https://mainichi.jp/articles/20191231/ddm/012/040/044000c

 今年は女王アリが見つかり、定着の可能性が取り沙汰されました。来年も正念場という意識をもって取り組んでいかなければなりません。