科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

参院選が終わって

参院選民主党の大敗で終わった。

あくまで政策だけについて短く振り返りたいと思う。

今回も、科学技術政策が前面で語られることはなかった。しかし、いつもの選挙と少し異なっていた部分もあったと思う。

それは、わずかながら、科学技術政策に関心がある人が増えているということだ。

定量的に何人、と言いがたいのだが、twitter上で政策について語る人が増えた。

これは、昨晩から今朝にかけて、ハッシュタグ#kagakusenkyoで行った「科学技術政策を語る会 on Twitter」にたくさんの方々がご参加くださったことからも、間接的に分かる。

また、選挙に際し、科学技術政策の比較を行う報道機関も増えてきた(といっても見つけた範囲でまだ二つだが)。

選択の手引:'10参院選 科学技術政策アンケート 投資の集中巡り、政党の意見割れ

参院選マニフェストの科学技術政策

Natureの表紙を飾るアメリカ大統領選に比べればまだまだだが、それでも関心を持ってくださる方々が増えてきたから、こうして取り上げられるのだろう。

その一因は、事業仕分けだと思っている。

逆説的ではあるが、事業仕分けが科学技術政策への関心を高めたといえる。

多くの党が、マニフェスト、公約(みんなの党アジェンダ)に、以前よりは詳しく科学技術政策を書き込んでいる印象だ。

ただ、まだまだ「総論賛成、各論反対」のような内容だ。

どの政党も、科学技術を重視するとは言っている。正面きって反対できない課題だからだ。

しかし、その中身は、iPSなど見栄えのするメニューを並べてあるだけのような感じもする。具体像の書き込みはまだ甘い印象だ。

争点にならないのは、私達が争点を作らないからであり、以前より前進しつつあると思うが、他の政策に比べるとまだまだだと言わざるを得ない。

研究者や関係者に限らない。国民がもっと科学技術政策に関心を持たなければ、科学技術をめぐって各党が論戦するということも少ないだろう。

そういう意味で、課題は多い。

今回私達が出した公開質問状には、たちあがれ日本日本共産党の二党から回答をいただいた。

両党の担当者の方には御礼申し上げたい。

多くの党から回答をいただけなかったことについて、私達の力不足を率直に反省したい。普段から政党の方々と交流すること、答えやすい質問を作ること、団体として信用を高めること(法人化も含めて)など、みえてきた多くの課題について、これからより一層取り組んでいかなければならない。

選挙は国民が政策に影響を与えるための一つの手段でしかない。

確かに大きな手段だが、選挙と選挙のあいだこそ、関心を持って情報を収集し、関係者と意見を交換し、問題提起していかなければならない。ちょうど選挙の翌日に終わったワールドカップのように、普段の取り組みが重要なのだと思う。

選挙の結果にかかわらず、民主党政権は続いていく。今回のマニフェストに科学技術政策は乏しかったが、新成長戦略や第4期科学技術基本計画が、この政権の科学技術政策の方針といえる。

政策に問題点はないか、ちゃんと実行されるのか、多彩な意見が反映されているのか、きっちりと見ていかなければならない。

特に、民主党が昨年のマニフェストに掲げた、総合科学技術会議を改組して、科学技術戦略本部を作るという公約が、まだ実現のめどがみえてこない。

総合科学技術会議の改組は来年7-9月

との報道もあるが、政権内でこの公約の実現が、あまり優先順位上位に位置づけられていないことが伺い知れる。

こうした状況をしっかり見ながら、積極的に発言していきたい。

野党の科学技術政策もみていきたい。

かつての与党、自民党が何を目指すのか。また、躍進したみんなの党の科学技術政策はどうなるのか、科学技術に詳しいたちあがれ日本、現場の声によく耳を傾ける共産党ポスドク問題をマニフェストに書いた公明党、あまり科学技術には紙面を割かなかった国民新党社民党新党改革の動向にも注目していきたい。

最後に、twitter上でも意見が出たが、政治と科学技術の関わり方について考えてみたい。

科学技術は、国の成長戦略にも書かれるなど、国の行末を左右するとして期待が集まっている。しかし、その割に関心が少ない。

研究者自身のなかにも、科学技術政策なんかより大切な政策があるだろう、と考えている人がいる。

でも、国の、世界の行末を左右するかもしれない科学技術が、人々の関心から外れたままでいいのか。

生命科学原子力ナノテクノロジーなどは、私達の生命に直接的に影響を及ぼす可能性もある。何より、国家予算が投じられている。

1999年のブダペスト宣言(「科学と科学的知識の利用に関する世界宣言」)では、科学のあり方として、「知識のための科学(進歩のための知識)」だけでなく、「平和のための科学」「開発のための科学」「社会における科学と社会のための科学」が挙げられた。

科学は一部の人たちのものだけではないのだ。

だからこそ、選挙もふくめ、科学技術政策に普段から関心を持ち、意見を言う人が増えるべきだし、現場の専門家をふくめ、国民など様々な立場の人が関わるべきだと思っている。

ではどうすればよいか。特定の研究分野に偏らない専門家が科学技術政策に対し助言を与えられるような仕組みを作りたい。客観的なデータを提供するという形が、関わりやすい形なのかもしれない。

しかし、食品安全委員会などみると、なかなかそれも難しいことではある。

それと同時に、国民が科学技術政策に主体的に関与するような仕組みも必要だ*1

業界団体の代表のような形で、科学者の利害を代表する議員が必要なのかは、正直言って分からない。ただ、多彩な立場の人が政治に関与することが重要だという意味で、科学者出身の国会議員がいたほうがいいと思う。スポーツ界など特定の業界に偏るのではなく、多彩なバックグラウンドを持った人が、とくに参院には必要に思う。

研究歴の有無にかかわらず、科学技術に関心を持ち、現場の現場の声に耳を傾ける議員を増やしていくことのほうが重要かもしれない。

科学技術と政治の関わり方について、まだ考えがまとまっていないが、これからも地道に情報を集め、意見を言っていきたい。皆さんも、どのような立場であろうとも、今後とも科学技術政策に関心を継続して持ち続けていきただきたい。

*1:これに関し、以下のような本が先週発売された。参考になるかもしれない。

科学技術政策に市民の声をどう届けるか (科学コミュニケーション叢書)

科学技術政策に市民の声をどう届けるか (科学コミュニケーション叢書)