科学・政策と社会ニュースクリップ

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ファンディングエージェンシーに人材を

先週お伝えしたとおり、6月3日、文部科学省で開催された、研究費に関する意見交換会に出席した。

「研究費を効果的に使用するための予算制度の在り方に関する「熟議」の実施及び若手研究者による意見交換会の開催について
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/22/05/1294374.htm

大変貴重な機会をいただいたことを感謝したい。

ただ、私は現役の研究者ではない。大学の助教の経験はあり、科研費に一回応募し落選した経験はあるものの、活動の主体はNPO、つまり市民の立場で科学コミュニティを眺めてきた。科学技術政策全般に関心があるが、もっとも関心が深いのは、研究者のキャリアパス問題だ。

そういう意味で、この会の趣旨「研究費を効果的に使用するための予算制度の在り方について〜我が国の研究費を使いにくくしている問題点は何か?〜」にはややそぐわないかもしれない。そういう思いもあった。

しかし、せっかくいただいた機会。あえて「空気を読まない」ことにした。

何を述べたか。

当日の資料は以下に公開されている。
http://jukugi.mext.go.jp/library_view?library_id=157

私の資料はこちら
http://jukugi.mext.go.jp/archive/160.pdf

私が述べたのは、予算配分の際に、研究歴を持った博士人材をプログラムオフィサーとして多数雇い、充実した予算審査体制を築くべきだということだ。

アメリカの予算審査については、

で語られているように、プログラムオフィサー(PO)、プログラムディレクター(PD)といった多数の専門職員が関わり、分厚い申請書と手厚いフィードバックを伴う綿密な審査を行う。

白楽氏には、2000年3月のシンポジウムでそのあたりのことを語っていただいた。
http://bit.ly/cAfpYx

NIHではPOと言わず、サイエンティフィック・レビュー・アドミニストレーター(SRA)という名前のPhDを持った科学管理官が、研究費の審査に従事している。SRAは1100人もいるという。

NSFなど他の機関にもこうした役割を持つスタッフが多数勤務している。詳しくは
プログラムオフィサー及びプログラムディレクター制度について
http://www.jst.go.jp/po_seminar/seido.html

などをご覧いただきたい。

日本にも、PO、PDが導入された。しかし、総合科学技術会議の意見
http://www8.cao.go.jp/cstp/output/iken030421_1.pdf

が指摘ているように、まだまだ不十分だ。この意見から7年たっても変わらない。

日本学術振興会の学術システム研究センター
http://www.jsps.go.jp/j-center/index.html

にいる、POと同様の役割を果たす専門研究員は、すべて大学などの研究者の兼任、非常勤だ。
http://www.jsps.go.jp/j-center/04_meibo_h16.html

なぜ非常勤なのか。日本学術振興会は以下のように答えている。
http://www.jsps.go.jp/j-center/06_qa.html

「しかしながら、研究者が常勤職のセンター研究員として業務に従事することは、第一線の研究者が大学等の研究機関の現場を3年間離れることであり、研究機関にとっても研究者にとっても大きな損失です。
 他方で、センター研究員が行っている業務は、日本学術振興会の業務のうち、専門的観点を要するものに絞られており、平均して週1日〜2日程度で履行できるものとなっています。
 これらの状況を踏まえ、センター研究員を常勤職としていません。」

なお、科学技術振興機構JST)の科学技術振興調整費にはPO、PDがおり、その一部は常勤だ。
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/chousei/1268851.htm

アメリカが多数のPO、PDを使い予算配分しているのに、日本では非常勤中心でよいのか。非常勤で収まるような仕事しかしないというのか。

正確なデータがないので、あくまで感想だが(日本の科研費は公平であるとの評価もある)、このような部分に人とカネを投じていない状況が、日本と欧米各国との「研究力」の差にあらわれているのではないだろうか。

白楽ロックビル氏は、PO、PDを導入すると、研究者の研究レベルをアップすることにつながると述べている。

PO、PDは、幅広い研究分野を担当することになり、研究の状況を熟知している。こうした人たちが、申請された研究費に対し、よかったね、悪かったね、というだけではなく、改善点などをアドバイスする。これが研究の質のレベルアップにつながるというのだ。

もちろん、日本にアメリカの制度を導入すればよくなる、というものではない。いろいろ改善点も必要だろう。

しかし、不採用通知が紙切れ一枚(一応点数などが書かれているが)で、毎回落ち続ける徒労よりは、フィードバックがあったほうが、無駄な労力は減るのではないか。

アメリカでは、POなどに限らず、科学研究の管理業務は、博士のキャリアとして認識されているようだ。

Alternative Careers in Science, Second Edition: Leaving the Ivory Tower (Scientific Survival Skills)

Alternative Careers in Science, Second Edition: Leaving the Ivory Tower (Scientific Survival Skills)

The Chicago Guide to Your Career in Science: A Toolkit for Students and Postdocs (Chicago Guides to Academic Life)

The Chicago Guide to Your Career in Science: A Toolkit for Students and Postdocs (Chicago Guides to Academic Life)

には、博士のキャリアとして、政府をはじめとするさまざまな機関で研究管理業務に就く道が紹介されている。

政府はさまざまな場面で博士やポスドクのキャリア問題について触れているが、自らが率先して博士の能力を活用せず、民間企業の努力のみに押し付けるようでは、説得力がないのではないか。

そういう意味でも、こうした職種への道を真剣に検討していただきたいと思う。

もちろん、POや政府の業務にすぐに就くのは難しい。そのため、AAAS(全米科学振興協会)が行っている、政府機関等へのフェローシップ制度の導入は検討に値する。実際上で紹介した本の中に登場する方も、こうしたフェローシップ制度を利用して、政府機関に勤務する道を切り開いていた。

以上、ファンディングエージェンシーに人財を投入すべき理由を述べた。

これは今回の研究費の使い方の効率化にはややそぐわなかったと思うが(第4期科学技術基本計画のパブリックコメントにこの内容を書いた)、効率化の前に、適切な人財に適切な資金を配分することが重要なのではないかと考えている。

これは、ファンディングに限らない問題ではないか。日本の科学の問題点は、研究以外の部分に人もカネも使っていないことではないかと思う。

研究者が雑事に追われ疲弊するのも、研究周辺人材がいないから。

発表資料にも書いたが、ストライカーだけのチームは勝てない。

一見遠回りに見えるかもしれないが、ストライカーだけでなく、ディフェンス、キーパー、チームスタッフ、そして観客や地域住民(代表なら国民)にいたるまで、すべてが積み重なって勝利がある。

本当の効率化とは何か、根本から見つめなおせば、答えはでてくるのではないか。