文章のアウトラインはこんな感じ。
1)きっかけ
Natureの2001年の記事「小泉内閣の科学技術政策の基本方針は、基礎研究を失速させると科学者が懸念
」だ。
私は以下の記述を読んでショックを受けた。
堀田氏によれば、公開状を提出したのは(日本人の基準からすれば、かなり思い切った行動と言える)科学者の意見を政府に伝える適当な手段がないからだという。多くの科学者が、総合科学技術会議には自分たちの意見が反映されないと不満を訴えている。会議の主なメンバーは閣僚や産業界の代表者で、学界代表が3人では影響力は限られていると科学者たちは言う。
堀田凱樹氏といえば、ハエの発生の分野では著名な研究者だ。その堀田氏をして、「意見を適当に伝える手段がない」とはいったいどういうことなのか…しばし考えさせられた。
そんな折、科学技術白書にある以下の記述に目が止まった。
我が国においても、科学技術にかかわる活動を行うNPOやNGOがその活動を活発化し国民生活に密着した科学技術活動を行っていくことによって、科学技術に対する国民の意見の集約を図り、科学技術行政における意思決定に対してそのような意見を反映させていくことが期待される。
(平成12年度科学技術白書 第4節 国民の手にある科学技術より)
果たして日本においてNPOが科学技術政策に意見を反映させることができるのか、そう考えたことから私はNPOを立ち上げることを決意した。
2)日本の現状
日本には、本年6月現在で27807のNPO法人がある。しかし、そのなかで特定非営利活動法人の活動分野として科学技術の振興を図る活動を掲げているのは僅か1055法人、全体の3.8%にすぎない。
もちろん、科学技術を活動分野に掲げているNPOは昔からあった。2001年に科学技術政策研が出した「科学技術と NPO の関係についての調査
」には、科学技術政策提言や、科学技術政策制定の市民参加を促す法人が挙げられていた。なお、この調査の時点では、科学技術の振興が活動分野には入っていなかった。これは2003年に加えられた。
日本で具体的に科学技術政策を扱っているNPOとしては、原子力資料室
、市民科学研究室
などが挙げられる。隣接分野の環境を含めれば数は増えるが、科学技術政策そのものに向き合うNPOは少ない。
3)アメリカ事情
欧米では事情が異なる。アメリカではNPOも含めたさまざまな団体がロビー活動などをしており、科学技術政策に影響を与えている(たとえば米国の科学政策:政策形成における研究者の役割
)。
ここでいくつかの団体を例に挙げたい。ブッシュ政権を批判することで有名な「憂慮する科学者同盟 UCS; Union of Concerned Scientists
」。「ブッシュ政権は科学研究を歪曲」科学者団体が批判
という記事も出ている。
その他
Research America
http://www.researchamerica.org/
IEEE USA
http://www.ieeeusa.org/
といった団体も科学技術政策に影響を与えている。
学生、ポスドク団体も負けていない。
US National Postdoc Association
やNAGPS(the National Association of Graduate-Professional Students)
といった団体がロビー活動や活発なシンポジウムを行っている。
何より、AAAS(American Association for the Advancement of Science)
を忘れてはいけない。著名なサイエンス誌を発行するこの団体もNPOだ。
AAASとは以下のような団体だ。
The American Association for the Advancement of Science, ”Triple A-S” (AAAS), is an international non-profit organization dedicated to advancing science around the world by serving as an educator, leader, spokesperson and professional association. In addition to organizing membership activities, AAAS publishes the journal Science, as well as many scientific newsletters, books and reports, and spearheads programs that raise the bar of understanding for science worldwide.
この団体は科学技術政策を分析したり、あるいは若手研究者をインターンシップとして議会に送り出したりと多彩な活動をしている。
4)ヨーロッパ事情
その他、イタリアのNPOオブザーバー
、イギリスのCaSE
、ポスドク団体のEurodoc
などが挙げられる。このあたり要調査。
5)その他の地区
Kerala Science Literature Association (インドケララ州)の活動が興味深い。以下、春日氏報告
。
6)日本でNPOが活躍できる条件。
情報の公開が必要だろう。
政策市場のない日本で(つまり官僚が政策を独占)している中で、どうすれば政策を動かすことができるか。
ロビー活動をする、マスコミを使う…
7)サイコムジャパンの目指すもの
私たちは、将来的にはAAASを目指したいが、その前段階として、オブザーバー、憂慮する科学者同盟のようなものを目指すべきかも。
いずれにせよ、多彩な団体が活動すべきだ。
最後に平成16年度の科学技術白書の第1部 これからの科学技術と社会
第3章 社会とのコミュニケーションのあり方
第3節 科学技術と社会の新たな関係
2. 国民との対話に関する新たな展開
から引用したい。
科学技術はこれまで政府を中心にその方向性に関する議論がなされ,科学者等の科学技術に対して高度な専門知識を有する主体の中において発展し,その成果が結果として社会に受け入れられてきた。これは,政府や専門家が科学技術に関する情報を十分に,そして容易に収集できたとともに,それに基づく分析や判断が社会的にも妥当とみなされてきたからであると考えられる。いわば,社会が科学技術の成果を受け取ることに終始するといった受動的な態度であったと考えられる。
しかし,現在,生命倫理問題等に見られるように,社会的課題を有する科学技術について,それを積極的に活用しようとする意見と容認できないとする意見が社会に並存するなど,社会を構成する個別の主体間の認識や価値観が異なったり,また,それに伴って主体間で利害関係の差が生じたりしており,社会の内部に様々な軋轢を招く可能性が生じている。このように,近年の科学技術と社会の関係の複雑化は,一部の主体の判断による社会全体における合理性や妥当性の確保を困難にしている。
したがって,政府による一元的な判断だけでは調整が困難であり,広く社会的な合意形成が必要な政策については,国民等の各主体からの意思を的確にくみ取ることも必要になると考えられる。多くの主体が科学技術の政策形成に関与することは,その過程の透明性が増すこと,政策の社会的妥当性や社会的合意が確保しやすくなること,また,政府と各主体間における信頼感の醸成,各主体による科学技術に対する認識の深まりや専門家では見えなかった新たな社会的課題の発見等,様々な側面で利する点があると考えられる。
科学技術の振興を目的とするNPO法人(特定非営利活動法人)については,他のNPO法人と比較してもその数は依然として少ない状況にあるが,NPO法人は,地域社会と密接にした活動や,個々の国民の要望に対応してきめの細かい対応も可能であるなど,新たな科学技術活動の担い手として期待されている。我が国の科学技術の方向性や社会的活動を評価し,又は,国民参加型の議論を活性化する等の役割を果たしていくことが考えられる。