科学・政策と社会ニュースクリップ

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研究勝ち組負け組?〜意見募集

2005年10月6日付の日経新聞一面の特集
「人口減と生きる」第一部 たそがれる社会5
諸君、きちんと勉強しよう

に、ポスドク問題が取り上げられていた。

山本弘(41、仮名)は十数年前に大阪大で理学博士号を取った。国などから手当てをもらい研究機関に任期付で雇われる博士研究員(ポストドクター)を続けてきたが、三月に任期が切れた。いまは大学教員の妻が頼りの失業者だ。
 科学技術立国のかけ声で政府が博士の大量養成に乗り出したのが一九九六年。山本はポスドクの第一世代。しかし、企業は実社会での経験に乏しい人材の採用に二の足を踏んでいる。一万人いるポスドクの四人に一人は三十五歳以上。ポスドク問題に詳しい東大教授の澤昭裕は言う。「出口を考えずに数だけ増やした結果だ。博士がフリーターと同じ境遇とは税金の無駄だ」」

 私たちも長年こうした問題に取り組んできたが、その中でさまざまな声を聞く。

 「どうせ好きなことやっているんだから、自業自得だろう」
 「アカデミックポストにこだわったのがいけない」
 「世の中にはフリーターやニート問題、そのほか失業問題などある。高々数万人のポスドク問題など些細な問題で、国に何とかしてもらおうなんて甘ったれるな!」
 「博士のキャリアパスなんていうけれど、博士がいることが世の中に何の役にたってるの?それを示さないと、誰もポスドクなんか使わないよ」


 厳しい指摘だ。当たっている面もあり、反論しにくく、もどかしい。

 まあ、言ってしまえば、国が国策として税金を使ってポスドクを増やして、とくに基礎研究の場合は、市場から資金を得ることができないのだから、研究者は完全自由競争ではない。なのに、世間の目は、スポーツなどと同様の、市場の自由主義的な目でポスドク問題を見ている。存在証明も自分たちに課されてしまっている。

 それは、社会に依存した存在にも関わらず、社会から超越し、自らの閉じた楽園を作ってしまった研究者への世間の不信の目をあらわしているようにも思う。


 記事であげられたような人を「負け組」とみなす向きもある。確かにポジションを得られず無職になった人を「勝っている」というのは無理があるのかも知れない。

 けれど、研究における「勝ち」「負け」って何だろう。

 修士課程くらいで論文を書き、学振を取り論文を書き続け、博士終了直後もしくは在学中に助手くらいになり、30代前半までには助教授クラスのポジションを得て、そのまま次々と論文を書き続け、30代で教授になり、ノーベル賞候補になったりする。こんな人が「勝ち組」のイメージだろう。

 こんな人はわずかしかいない。とすると、研究者のほとんどが「負け組」になってしまう。

 金銭的に言えば、教授になっても「負け」かも知れない。

 要は勝ち負けはきわめて主観的なものだということだろう。

 ただ、多くの人の勝ち負けの分水嶺は、「研究を続けられるか」かも知れない。地位は高くなくても、好きな研究を続けられる、そんなポストにい続けることを幸せと感じる人は多いだろう。


 ポスドク問題の解決策のひとつは、人生の価値基準、座標軸を複数持つことだと思う。研究が続けられない状態になったとき、別の道で生きることを選択しても、それは人生の「負け」ではないということだ。

 もちろん口先だけで言うことは容易いが、実際はやはり挫折感を感じることも多いだろう。

 サイコムジャパンとしては、多彩な生き方を提示し、人生の多様な座標軸を提案していきたい。


 ただ、まだ別の道があるのに選んでない、ということは、ましな状態なのかも知れない。

 選ばなければ道はある、というのはその通りだけれど、選ぶことのできる選択肢は限られてくる。

 上の記事では、研究職にこだわって職探しをしていないのか、それともハローワークに行ったりして探しているのに見つからないのか不明だ。多分前者だと思うが…どこまでの職が許容範囲かという問題もある。

 このあたり、職業差別に近くなるので、表現に苦しむが、澤氏の言うように、博士まで行った人間が職がないのが税金の無駄なのか、個人の問題だからハローワークでも何でも仕事を見つければいいではないか、というべきなのか…

 多額の税金を投入された博士が自分で道を切り開けないことが問題なのか…


 だんだんぐちゃぐちゃになってきたので、そろそろまとめよう。

 
 確かに使えない博士を作った大学、国も責任がある。
 視野が狭いポスドク、博士にも問題がある。

 いずれにせよ、ポスドク自身が思っていること、訴えたいことを率直に社会に問いかけ、社会のさまざまな層と議論することが必要なのではないのか。社会からの厳しい反発にあうのも、この問題を考える上で重要だろう。


 自分の今の状況を世間に訴えたい、物申したい、こんなことが問題だ、こうすればよくなる、といった意見をお持ちの方、よろしければ下記までご連絡いただきたい。

mfuka@scicom.jp

 ここには詳しくは書けないが、あるルートで、世間に訴える手段がある。詳細はお問い合わせ頂きたい。