科学・政策と社会ニュースクリップ

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有馬朗人氏の死去と日本版AAAS

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★発行部数 2,565部(12月8日現在)
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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.899 2020年12月8日号 巻頭言
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【巻頭言】
有馬朗人氏の死去と日本版AAAS
2020年12月1日~2020年12月18日
カセイケン代表 榎木英介

 東大の総長や文部大臣等を歴任された有馬朗人氏が亡くなられました。ご冥福をお祈りします。

有馬朗人氏死去 元東大学長・文相、90歳
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODG074HG0X01C20A2000000/

豊かな知識、俳句に結晶 有馬朗人さん死去
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67094440X01C20A2CC1000/

東大元学長の有馬朗人さん死去 90歳
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201207/k10012750731000.html

有馬朗人さん死去、90歳 原子核物理学者・元東大総長
https://www.asahi.com/articles/ASND762P4ND7UTIL033.html

 NHKのニュースには、亡くなる数日前に撮影されたインタビューが放映されていました。突然のことだったのでしょう。

亡くなる一週間ほど前の記事では、日本学術会議について発言されていました。

学術会議の人選は身内重視の「インブリーディング」 有馬元文相
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00005/113000165/

 有馬氏は日本の学術行政、大学行政等では「戦犯」のように思われており、SNS上でも厳しい言葉が出ていました。

 東大総長として大学院重点化を導き、文部大臣としては国立大学の法人化を容認しました。

 晩年は反省の弁も述べていましたが、「今更」というシニカルな声が起こっていました。

国立大学法人化は失敗だった」 有馬朗人元東大総長・文相の悔恨
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00158/051900003/

 90年台から2000年台にかけて、大学院重点化や大学院生を増やす計画等を端緒に、科学技術基本法の制定、ポスドク一万人計画、国立大学法人化など、さまざまな計画が実行されていきました。

 2020年の今、これらは日本の「研究力」を奪い、若手研究者を苦境に陥らせた原因ではないかと厳しい目で見られています。

 こうした政策決定の渦中に有馬氏は身を投じたわけです。

 後年本人にとって、こうした政策に関わったことはあまり良い記憶ではなかったようです。

 有馬氏がこうした政策にどの程度影響を与えたのかについては、検証が必要でしょう。こうした政策の背後には、減少する人口、落ちる国際競争力といった問題があり、決して大学や学術政策だけが突出していたわけではないからです。

 とはいえ、国会議員になり、文部大臣になり、こうした政策の責任を担う立場にいたわけで、有馬氏が無謬などというつもりはありません。

 問題は2020年現在、こうした政策の課題が明らかになっても、方向性が変わることはなく、むしろ「まだ改革が足りない」という捉え方さえあります。

 この政策の渦中に研究者を志し、翻弄された私としては、非常に複雑な思いを抱くと同時に、これからどうするのかが問題だと思っています。

 私たちはまだ生きていかなければならないのですから。

 これからどうするのか。その一つの道が、「日本版AAAS」です。

日本版AAAS設立準備委員会
https://jaas.group/

日本の科学が危機に瀕しています。日本の科学の凋落をくい止め、復活させ、明るい未来の礎を築くためには、科学の振興に意欲を持つ多様な立場の人々が対話・協力し、科学がこれまでに果たしてきた役割を分析・理解し、その理想的なあり方を検討し実現する必要があります。しかしながら、現在、日本にはそのようなことを行うことのできる場や組織が存在しません。私たちは、分野、組織、職種・職階、世代の垣根を超え、科学の振興に意欲を持つすべての人々が参加することのできる組織の設立を提案しています。

 私や仲間は、日本にも分野や立場を問わない科学を考える組織が必要だということをもう20年近く考えてきたわけですが、組織を作ったり、運営したりする難しさに直面し、なかなか実現に向けて動き出せませんでした。

 こうしたなか、若手研究者の中に、全米科学振興協会(AAAS)のような組織を日本でも作りたいという人たちが現れ、かつてあれこれ発言などしていた私達にもお声がかかりました。

 私たちカセイケンのメンバーも準備委員会に入っています。私たちは主に、この組織をNPO法人化し、組織を運営していくという裏方で関わろうと思っています。

 理想は誰でも言えます。評論家には誰でもなれます。

 しかし、組織を立ち上げ、お金を集め、各方面と交渉するなど、泥臭く地味な仕事を誰かが行わないと、利害が錯綜する社会の中で何も動きません。

 この30年、政策の問題を自分ごとと考え、キレイゴトの言葉だけでなく、汚れ仕事を厭わず現実を動かしていこうとする人がほとんど現れなかったことが、今の事態を招いているのではないでしょうか。

河野太郎大臣の行革スピード 迅速さに研究者から絶大な支持
https://www.excite.co.jp/news/article/Jisin_1919755/

 河野氏への研究者の支持は高いですが、一人の政治家に依存するのは危うい気もします。

 有馬氏は功罪ありつつも、選挙(参院比例ですが)に出て大臣をやるなど、少なくとも手を動かし汚名を被ることはしたわけです。晩年後悔したそうですが、後悔する必要はなかったと思っています。

★「学術会議、23年に独立を」自民PT、政府に提言へ
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67093150X01C20A2PP8000/

 日本学術会議の「完全敗北」を見ると、「政治」にコミットする人がいなかったことの大きさを感じます。

 違法状態が完全に無視され、世論すら味方にできませんでした。

菅首相の学術会議つぶしは「計算ずく」だったと言えるワケ
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20201129-00077809-gendaibiz-pol

★科学と政治は切り離せない
https://www.natureasia.com/ja-jp/ndigest/v17/n12/%E7%A7%91%E5%AD%A6%E3%81%A8%E6%94%BF%E6%B2%BB%E3%81%AF%E5%88%87%E3%82%8A%E9%9B%A2%E3%81%9B%E3%81%AA%E3%81%84/105643

菅総理は記者会見を行いました
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1204kaiken.html

 菅総理が会見で、学術会議に言及する際笑っていたことに批判が出ています。しかし、いかに悔しくても、現状では批判以外できない状態です。

 日本版AAASの設立の動きは、日本学術会議の問題の前から進んでいたことですが、まさにこのタイミングでオープンになったことは偶然ではないと思います。

 現場の声などを考慮しない上からの政策が続いた30年間の帰結として、日本学術会議の任命拒否や民間組織化があり、ボトムアップの組織の設立の機運につながったわけです。

 この30年の政策の象徴的存在だった有馬氏の死去と学術会議の問題、そして日本版AAASの動きがほぼ同時期に起こった意味は後世の歴史家が判断することになるでしょう。

 新型コロナウイルスの感染拡大は深刻な事態が続き、私の近隣の病院でもクラスターが発生するなど、厳しい状況です。

★医療従事者をはじめ身近な人に「ありがとう」をSNSで~感染拡大及び差別・偏見防止を図るため、官民が一丸となった対話型情報発信プロジェクト「#広がれありがとうの輪」を12月4日から開始します~
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_15257.html

 ありがとうというのならカネをくれという声がSNS上に…。もちろん差別偏見の防止は極めて重要です。

★議事次第 令和2年12月3日 - 総合科学技術・イノベーション会議
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20201203.html

議題

1.米国新政権における科学技術政策動向について

 アメリカの状況がまとまった資料が公開されています。

米国の科学技術政策動向とバイデン新政権
2020年12月3日
国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20201203/siryo1.pdf

TSCトレンド
バイデン次期大統領で変わる米国の 技術イノベーション・気候変動政策
海外技術情報ユニット 技術戦略研究センター 国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20201203/siryo2.pdf

菅総理は第5回成長戦略会議に出席しました
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/actions/202012/01seicho.html

実行計画
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/seicho/pdf/jikkoukeikaku_set.pdf

医療・介護分野のデータ利活用など推進-政府、成長戦略実行計画
https://www.cbnews.jp/news/entry/20201201203149

★大学研究、巨額ファンド構想への甘い期待
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO66955120T01C20A2EE8000/

★大学の新基金、初年度4.5兆円規模 運用益で研究支援
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE061GR0W0A201C2000000/

 大学のファンドに期待と懸念の声が出ています。

スーパーサイエンスハイスクールSSH)支援事業の今後の方向性等に関する有識者会議 第二次報告書に向けた論点整理
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/gijyutu/031/houkoku/1409229_00001.htm

★令和2(2020)年度科研費等の審査に係る総括について
https://www.jsps.go.jp/j-grantsinaid/01_seido/03_shinsa/data/r02/R2_shinsa_soukatsu.pdf

★「日本の気候変動2020」を公表しました
https://www.jma.go.jp/jma/press/2012/04a/ccjapan2020.html?16

★教授社員、企業に知の刺激 人脈も共有し産学連携深く
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGG274SX0X21C20A1000000/

 クロスアポイントメント制度。

★eLife、2021年7月より公開されたプレプリントのみを査読対象とすると発表
https://jipsti.jst.go.jp/johokanri/sti_updates/?id=12431

In biology publishing shakeup, eLife will require submissions to be posted as preprints
https://www.sciencemag.org/news/2020/12/biology-publishing-shakeup-elife-will-require-submissions-be-posted-preprints

 プレプリントの存在感が増しています。

★9割の人が知らない再現性の危機
https://honeshabri.hatenablog.com/entry/replication_crisis

 よくまとまった資料。

★グーグルがAIの倫理を専門とする研究者を解雇、業界に広がる波紋の理由
https://wired.jp/2020/12/07/prominent-ai-ethics-researcher-says-google-fired-her/

We read the paper that forced Timnit Gebru out of Google. Here’s what it says
https://www.technologyreview.com/2020/12/04/1013294/google-ai-ethics-research-paper-forced-out-timnit-gebru/

 優れた研究者ならすぐにでも職はみつかるとは思いますが、組織と個人の衝突でいかに研究者を守るのかは、大きな課題だと思います。

★Famous Arecibo Radio Telescope in Puerto Rico Collapses
https://www.the-scientist.com/news-opinion/famous-arecibo-radio-telescope-in-puerto-rico-collapses-68219

Arecibo Observatory’s 305-meter telescope suffers collapse
https://www.nsf.gov/news/news_summ.jsp?cntn_id=301737&WT.mc_id=USNSF_51&WT.mc_ev=click

Arecibo telescope collapses, ending 57-year run
https://www.sciencemag.org/news/2020/12/arecibo-telescope-collapses-ending-57-year-run

 ついに崩壊。

★Scientists fear no-deal Brexit as deadline looms
https://science.sciencemag.org/content/370/6521/1146.full
https://www.sciencemag.org/news/2020/12/scientists-fear-no-deal-brexit-deadline-looms

 EU離脱問題。研究への影響は必至のようです。

★やっぱり悩み深き『研究者の子育て』
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020120200001.html

★女性教授が指導すると女性研究者は伸びない?
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020112900003.html

Paper Recommends Women Avoid Female Mentors, Drawing Outrage
https://www.the-scientist.com/news-opinion/paper-recommends-women-avoid-female-mentors-drawing-outrage-68185

★Planning a postdoc before moving to industry? Think again
https://www.nature.com/articles/d41586-020-03109-3

 この記事と直接関係があるわけではないですが、natureや scienceがこうしたキャリアに関する記事を取り扱う一方、日本では研究以外のキャリアを考えることは悪と思われ、なんらキャリアに関する情報を与えられないまま研究歴のある人たちが労働市場に放り出されています。現状をなんとかしたいと思っています。

★81医学科の男女別合格率、毎年公表へ 文科省が調査
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20201203-00000066-asahi-soci

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.899 2020年12月8日号 巻頭言
【発行者】一般社団法人科学・政策と社会研究室(担当 榎木英介)
【編集者】Science Communication News編集部
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