科学・政策と社会ニュースクリップ

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科学技術政策公開質問状、緑の党からの回答

問1 改正労働契約法について

b. 労働契約法を再改正すべきである
e. その他(具体的に)

bまたはe
研究者にとって研究の継続性・長期性が保障されることも必要不可欠であり、短期的あるいは経済的な利益等の成果で業績が判断されるべきではないと考えます。
ご指摘の改正労働契約法の本来の趣旨は、有期契約で働く労働者が「雇い止め」によって失業するおそれなくし、安心して働けるようにするということにありました。しかしこの導入によって、雇い主側が5年を超えないように契約期間を短くしたり更新回数を制限する、あるいは5年直前の「雇い止め」するという問題も、すでにチェーン店や国立大学法人等で出ており、私たちも重要な問題であると認識しています。これは、新しいルールをどのように適用するかが、もっぱら雇い主の裁量に委ねられていることに大きな問題があると考えます。任期制の導入とも連動して、「5年ルール」の導入が研究者や教員の「雇い止め」を頻発させるおそれがあることを私たちも強く懸念しています。
私たちは、「5年ルール」が本来の趣旨に反して「雇い止め」を増やすことがないように、研究分野にとどまらず全ての労働分野において政府による監視の強化、雇い主側との交渉・協定が必要だと考えます。さらに、非正規労働者の生活や雇用を安定させるために、「正規雇用」化の推進に加えて、同一価値労働同一賃金の実現、社会保険への加入の義務化の促進、「雇い止め」の制限などによって、正社員との格差や差別をなくすことがまずは急がれると考えています。特に現実問題として、非常に不安定な状況に置かれている若い研究者層の安定化は急務と考えます。
その上で、研究分野においては、継続的・安定的・均質的な労働が求められる公共インフラ・サービス関連分野の就業形態や条件と一律の論理や考え方ではなく、「成果」も考慮されるべきだという議論も、一定の合理性があると考えます。しかしその「成果」や評価については、日本学術会議が昨年報告しているように「教員や研究者の個人業績評価については、評価の実施目的や評価結果の活用方策が明示されておらず、教員・研究者の多様な活動内容や属性に配慮した評価項目・基準の設定に適切さを欠く。研究課題評価については、研究活動や成果・インパクトの多様性に配慮した評価基準となっていない。大型の研究課題等の評価者の選定も透明性・公平性の点で課題が残されている。さらに、各種の研究資金制度や研究開発プログラムに対する評価はいまだ十分に行われておらず、競争的資金制度の全体構成や基盤的資金とのバランスの適切性の検証といった施策・政策レベルの評価も、今後の課題」(「我が国の研究評価システムの在り方〜研究者を育成・支援する評価システムへの転換〜」2012.10)との指摘もあり、現行の評価制度に大きな問題があることを私たちも認識しており、特に安易に短期的・経済的利益等が重視されることも大きな問題だと考えています。
私たちとしては、研究者の安定した労働条件・環境を確保したうえで、創造性豊かな研究が確保・発展されるための制度・体制づくりについて、特に当事者の皆さんの声を踏まえた上で、成果の受益者である市民も含めた広い議論や理解が必要だと考えます。

問2 大学院博士号取得者の数について

d.回答保留

 数については明確な回答を持ち合わせていません。
 この設問の趣旨から考えれば、やはり問1の回答で述べた点も含め、研究機関のあり方も含めた議論が必要だと考えます。博士号の授与の基準が現行のまま各大学等の自由裁量の要素を維持するべきか標準化すべきなのか、そもそも社会として博士号に何を期待するのか、その質はどうあるべきか、等広い議論が必要であり、それを抜きにして数を論じることはできないと思います。

問3 「日本版NIH(仮称)」構想について

d. 反対である

社会制度や考え方が根本的に違うところに、アメリカの制度を単純に導入することはそもそも無理があると考えます。また、この発想はやはり「成果」を重視した考えに裏打ちされていると考えますが、研究者や研究機関のあるべき姿やその成果や評価の考え方の本質的合意や議論の無いまま、安易な基準による成果主義を導入すれば、基礎的研究や時間のかかる研究が軽視され、さらには大学の格差や二極化も広がり、「淘汰」の名の下で日本の研究体制の崩壊や若手研究者の労働環境のさらなる深刻化を招くことになりかねないと考えます。