科学・政策と社会ニュースクリップ

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エジプト、チュニジア、ウィキリークス〜時代の転換点に

 今、世界史が作られる瞬間を目撃していると言ってもいいだろう。

 チュニジアの一人の若者が自らに火をつけるという痛ましい出来事から1ヶ月半。北アフリカで二つの政権が倒れた。

 長い間虐げられてきた人々の怒りが、猛烈な勢いで広がっていった。この勢いは、まだ収まらないかもしれない。

 これを「革命」と呼ぶべきかはまだ分からないが、何かが変わったのを、遠い日本でも感じる。

 いったい何が変わったのか。

 それは情報のあり方だろう。ウィキリークスが象徴するように、良い、悪いにかかわらず、国家機密さえ暴露される時代。そして、ソーシャルネットワークを使い、情報が拡散する時代。チュニジア、エジプトの「革命」はフェースブック革命とも呼ばれる。

 もちろん、過大視するのは問題だ。ベンアリ大統領の不正はウィキリークスが暴露しなくても国民は知っていたという。ソーシャルメディアは体制側も利用するという。TwitterFacebookが「革命」を引き起こしたのではなく、「革命」がTwitterFacebookを利用したということだろう。

 しかし、一般の市民が、大きな手段を手にしたのは事実だ。ソーシャルメディアを駆使して当事者が動けば、世の中が変わるということだ。

 非常にローカルでミクロな視点ではあるが、こうした状況の中、日本の科学コミュニティはどうなるのか、考えてみたい。

 エジプトでデモが行われていた同じ日。大阪大学から不正事件の顛末が明らかされた。

医学系研究科における研究費の不正使用に関する調査結果について

 4000万円もの研究費の不正使用。一部は私的流用もしていた。

 そして、「特任研究員等5人が、支払われた給与から 少なくとも合計3,781,057円を研究室に 戻している 」という。

 ポスドクに給料を返還させるという、立場の弱さに付け込んだ行為。

 この他、獨協医科大学で、研究データの捏造疑惑が報道されている。

「独協医大で論文不正」と告発文…調査委設置

 これらはいずれも、匿名の告発によって明らかになった。

 また、2月10日に最先端研究開発支援プログラム、若手、女性研究者の課題が決定したが、政府のサイトには掲載されていなかった採択者リストが、匿名の誰かによって、ウェブにアップされ、twitter上でまたたく間に広まった。
http://www1.gigafile.nu/v3/?1d30700333c2a2e37c838b4cfbd01a17#download

 もちろん、このリストは14日には政府のサイトに公開されており、そういう意味で、インパクトには乏しいが、このことは、研究不正も含め、情報はもはや隠せず、そして拡散するということを表しているように思う。

 これから何が言えるのか。

 部下や院生に行った理不尽な扱い、研究費の不正使用やデータ捏造はいずれ発覚しうるということだ。

 また、政府の持つ情報も同様に、明らかにされうるということだ。

 これは、良い、悪いで語ることは難しい。既得権益を持った人には脅威、そして個々は力のない院生、ポスドク、一般市民にとっては希望かもしれないからだ。

 私はここに、チュニジア、エジプトと同じものをみる。

 ただ、政権が倒れたり、研究不正が明らかになるのは、いわば破壊であって何かが作られるわけではない。そこから何か新しいものがつくられるのか。

 佐々木俊尚氏は、ソーシャルメデイアが発達しつつある今、「キュレーター」が重要な役割を果たす、キュレーションの時代が来ていると述べている。

 キュレーターの定義とは、収集し、選別し、そこに新たな意味付けを与えて、共有すること。
 収集される以前は膨大なノイズの海の中に漂う情報の断片でしかなかった存在が、キュレーターに拾い上げられることによって新たな意味を与えられ、別の価値をもって光り輝き始めます。
 ソーシャルメディアには、無数のキュレーターが存在する。そしてわれわれはそのキュレーターの多層構造の中で生きています。(「キュレーションの時代」佐々木俊尚著 ちくま新書p252-253)

 課題ごとに、キュレーターを介して集う人達。そこから、破壊でなく創造が生まれるかもしれない。まだ考えがまとまっていないが、たとえば私達の目指す、全米科学振興協会(AAAS)のような組織も、ひとつの巨大な組織ではなく、ソーシャルメディアを通じた緩やかなネットワークを通じて、同じことが行えるのかも知れない。

 そして、博士号取得者は、キュレーターとして重要な役割を果たしううかもしれない。

 チュニジア、エジプト、ウィキリークスソーシャルメディア

 この大きな流れの前に、私達も無縁ではいられない。日本とエジプトは、ウェブでは距離などない。

 私達一人ひとりの行動が、世の中を動かし、変える、そんな時代が来ている、と言ったら楽観のしすぎだろうか。

参考
秩序なき“無極化世界”を呼び込む時代の申し子 チュニジア、エジプト、国際情勢に合わせて秘密公電を公開

エジプト騒乱は「フェイスブック革命」ではない 体制側の抑圧行為にも貢献するネットの二面性

「革命2.0」:エジプトとソーシャルメディア

日本人が知らないウィキリークス (新書y)

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