科学・政策と社会ニュースクリップ

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経団連の提言

「希望の国、日本」の実現に向けて 〜監査懇話会における御手洗会長講演〜

 イノベーションと科学技術基本計画についても触れられている。以下引用。

イノベーションの推進
さて、日本型成長モデルの確立に向けた、一番目のポイントは、科学技術を中心とするイノベーションの加速であります。
人口の減少が今後も続いていくとしても、労働生産性が向上すれば、経済全体の成長を実現していくことは、十分可能と考えられます。
実際に、わが国の生産年齢人口は、すでに10年以上前から、減り始めており、現下の経済成長は、それに打ち勝って、実現してきているのであります。
イノベーションが、経済にいかにプラスの影響をもたらすかという点につきましては、現在、経団連でも検討を進めており、近々、報告書をまとめる予定としております。
今のところ、イノベーション活動を強化することにより、企業の競争力が強化され、また、設備投資などの需要面にも波及効果が及ぶことから、全体として、経済成長率を引き上げる効果があるという、分析結果が得られております。

経済の成長力を高めていく上で、イノベーションの強化が欠かせない一方で、イノベーションのための投資は、当然のことながら失敗の可能性も大きく、かなりのリスクをはらんでおります。
このため、イノベーションの加速に向けては、これを政策的に後押ししていくことが欠かせません。
諸外国におきましても、いかにして、イノベーションを継続的に生み出していくかが、重要な政策課題と認識されております。

たとえば、米国では、大統領の競争力イニシアチブにおきまして、米国の競争力の基盤は科学技術にあるとの認識のもとに、連邦政府の研究開発投資の拡大、民間研究開発投資の促進、教育・人材育成政策の強化などが、進められております。
また、EUでは、2010年までの包括的政策として、リスボン戦略が策定されるとともに、EU各国におきましても、それぞれ、イノベーション政策が強化されております。
こうした先進諸国だけでなく、中国や韓国なども、長期的な国家計画を作って強力な取り組みを進めております。

この点、わが国におきましても、1995年に科学技術基本法が制定され、これに基づく科学技術基本計画が策定されております。
現在、第3期目の基本計画が推進されており、ライフサイエンスやIT、環境やナノテクノロジーなどの重点分野を中心に、政府の研究開発施策の充実が図られていることは、経済界と致しましても、大いに評価しているところであります。
こうした中で、とりわけ、宇宙開発や海洋開発などの分野は、新素材やライフサイエンスなどへの波及も大きく、政府の研究開発プロジェクトとして、今後、より一層、力を入れていくことが重要と考えられます。
米国におきましては、宇宙開発はNASA、ライフサイエンスはNIHというように、分野の中核をなす世界的な研究機関が、重要な役割を果たしております。
わが国では、第3期科学技術基本計画におきまして、5年間で25兆円の政府研究開発投資を確保することを目指しております。
厳しい財政状況の中ではありますが、この目標を着実に達成することが期待されます。
それと同時に重要なことは、予算を細切れに配分するのではなく、米国の例を見習いつつ、中核となる拠点を作って資金を重点的に投入し、成果につなげていくことが、予算確保にも増して重要と考えられます。

さて、わが国のイノベーションの特徴は、研究開発費全体におきまして、民間研究開発が約80%と、高い割合を占めていることであります。
逆に、政府が負担する割合は20%に過ぎません。
米国や欧州主要国では、政府負担が30%から40%と高い水準であります。
こうしたこともあり、先ほど申し上げましたように、わが国では、政府研究開発投資のさらなる充実が求められるわけですが、同時に、全体の80%を占める民間研究開発投資を、いかに促進していくかということが、わが国にとってとりわけ、重要な課題であります。
そこで重要となってまいりますのが、民間の研究開発を促進する税制の強化であります。
科学技術創造立国を国是とするわが国では、研究開発税制の分野でも、世界的にみた場合、パイオニアであります。
以前のわが国は、研究開発費が過去の額を上回った分の一定割合を、税額から差し引くという仕組みを持っておりました。
その後、研究開発費に対して、安定的に税制上の優遇措置を与えるよう、2003年度の見直しで、研究開発費の総額の一定割合、現在の制度では最大10%を控除して、企業の研究開発活動を全体的に下支えする制度を作りました。
これにならうように、米国や欧州諸国、中国などでも、相次いで研究開発促進税制の見直しや拡充が行われまして、いまや多くの国が、わが国と同様に、研究開発費の総額を対象とする税制を持つに至っているのであります。
それどころか、わが国の研究開発税制が、各国と比べ劣る部分も出てまいりました。
例えば、わが国の場合、その年に支払う税額の20%までしか、税額の控除を行うことができません。
これに対し、英国や中国、韓国などの研究開発税制には、その上限がなく、青天井で税額の控除を行うことができるのであります。
この点は、研究開発が企業の死命を制するようなハイテク型の産業にとりましては、競争力を維持する上で、大きな差となります。
そこで、研究開発税制の先達であるわが国としましては、競争優位を維持する観点から、現行の研究開発税制の仕組みは維持した上で、税額控除の上限を撤廃ないし引き上げる必要があります。中小企業や地方の活性化を図る観点からも、本年末の税制改正の議論において、最も重要な課題であると考えております。