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問われるのは論文のオーサーシップ

2014年4月1日、理化学研究所STAP細胞論文に関する最終調査報告を発表し、記者会見を行いました。

研究論文(STAP細胞)の疑義に関する調査報告について(その2)

 メディアでさんざん取り上げられており、また、SNS上でもいろいろ述べられている話題ですが、一つだけ、私が感じたことを述べたいと思います。

 それは、論文の著者というのが、結構いい加減かということがバレてしまったということです。

 大隅典子先生が、ブログで詳細な解説をしていますが(小保方さん関係(その5):いまどきの生命科学研究は(たいてい)チームで行う)、Natureの2つの論文(ArticleとLetter)における著者は以下のようになっています。

Article
Stimulus-triggered fate conversion of somatic cells into pluripotency.
Obokata H, Wakayama T, Sasai Y, Kojima K, Vacanti MP, Niwa H, Yamato M, Vacanti CA.
Nature. 2014 Jan 30;505(7485):641-7. doi: 10.1038/nature12968.

Letter
Bidirectional developmental potential in reprogrammed cells with acquired pluripotency.
Obokata H, Sasai Y, Niwa H, Kadota M, Andrabi M, Takata N, Tokoro M, Terashita Y, Yonemura S, Vacanti CA, Wakayama T.
Nature. 2014 Jan 30;505(7485):676-80. doi: 10.1038/nature12969.

 大隅先生は著者の役割を以下のように解説しています。

どちらも小保方さんは筆頭著者であり、main contributorですが、Articleの方のlast authorはVacanti先生、Letterの方が若山先生ですね。
ただし、「責任著者corresponding author」としては、Articleでは小保方さん「かor」Vacanti教授、Letterでは小保方さん、若山さん、もしくは笹井さんとなっています。
若山先生はArticleの方では第二著者、第三著者に入っているのが笹井芳樹先生(理化学研究所発生再生総合研究センター<CDB>副センター長)、さらに丹羽仁史先生(同CDBのチームリーダー)と前述の大和先生のお名前も見えます。
Letterの方は、笹井先生が2番目、丹羽先生が3番目、その他、CDBの電子顕微鏡室の米村信重室長も加わっています。

Article

論文を執筆したのは、小保方さんと笹井さん、実験は小保方さん、若山さん、笹井さんが行い、小保方さんの実験補助をされたのがK.K.さん、プロジェクトをデザインされたのは、小保方さん、若山さん、笹井さん、丹羽さん、Vacanti教授で、Vacanti教授の弟さんと大和さんがプロジェクトのデザインや評価を助けた、とされています。

Letter

論文を執筆したのは、小保方さんと笹井さん、M.T.さんとY.T.さんは小保方さんの実験補助で、さらにVacanti教授以外が実験に加わったこと、プロジェクトのデザイン、つまり方向性などの方針を決めたのは小保方さん、笹井さん、丹羽さん、Vacanti教授、若山さん、ということになっています。

 このように、論文に誰がどのような役割を果たしたのかが明記されているわけです。

 論文の共著者の重みには差があります。こちらによると

ファーストオーサー(第一著者)


 研究を主に行い、論文を主に書いた人がなる。複数の人がこの定義にあてはまる場合、equally contributed authorとして複数の人がファーストオーサーとなる。ファーストオーサーは、論文内容のすべてを完全に理解し、説明できることが必要である。Corresponding authorとともに論文についてもっとも大きな責任をもつ。

Corresponding Author (連絡著者)


 当該研究に関して対外的にその責任者として連絡を受ける立場の著者であり、当該研究の発想、研究計画の作成、研究結果の解釈、論文執筆について、もっとも主体的にとりおこなった人がなることが原則である。ただし、Corresponding authorは、共著者の合意によって決める(共著者の合意なしに特定の人が勝手にcorresponding authorを名乗ることはできない)。Corresponding authorは、その後送られてくる論文査読結果を共著者に知らせることが必要であり、また、改訂稿を提出する際には、その作成の中心となり、共著者全員の了承のもとに最終稿を提出する。共著者の同意無しに改訂稿を提出することはできない。

ラストオーサー(シニアオーサー)


 著者リストの最後に来る著者のことで、原則として、当該研究の考案、実施について管轄し、リードする人がなるが、そうでない場合もある。Corresponding authorと同一人である場合と異なる場合がある。また、共著者間でトラブルがある時には、corresponding authorとともに調停役となる。

 今回の件でいうと、筆頭著者の小保方博士の責任は一番重いものの、Corresponding Authorである笹井、若山両博士の責任も非常に重いということです。だから、今回の調査でも笹井、若山両博士に言及しています。

 笹井博士は以下のようなコメントをしています(こちら)。

私は、これらの論文においては、既に作成された図表データを元に、文章を書き上げる面で他の共著者に教授・助言をする役割を主に担っており、今回問題となりました図表データの過誤は論文発表前に全く認識せずにおりました。このことには忸怩たる思いでございますが、これらは自らの研究室以外で既に実験され、まとめられていた図表データであり、他の実験結果との整合性が高いものであったため、画像の取り違えやデータの処理上の不適切な過程について気付き、それを事前に正すことには限界がありました。そのため、報告書では、私個人の関与については研究不正を認められないとのご判断を受けました。

 笹井博士は、今回の件の責任を認めていますが、「既に作成された」「自らの研究室以外で既に実験され、まとめられていた図表データ」を元に文章を書き上げることで、果たしてCorresponding Authorになってよいものなのか、疑問を感じてしまいます。


 今回の件に限らず、日本発の論文の著者に関しては、以前から疑問の声があがっています。

 先ほど紹介したページでは以下のように述べています。

論文の著者となるためには次のことが必要です。

1.当該研究の発想、研究計画の作成、その計画に基づいた研究(特に実験)の実施、得られた研究結果の解釈、研究論文の執筆、のいずれかのプロセスに主体的に携わること。

2.当該論文内容について、特に自分が担当したところについて責任をもって説明できること。

3.論文の最終稿において、投稿前にその内容、投稿について合意を得ること。必ず、本人の了承を得ることとし、了承無しに勝手に著者リストに加えることをしないこと。

 これらの(1)〜(3)のすべてを満たして初めて論文著者としての資格が得られる。単に同じような研究を思いついていたとか、研究の場を貸したとか、手伝 いをしたとか、研究費の一部を出している、というだけでは著者になることはできない。

 以前から、日本の論文の著者数は多いことが知られています(論文の共同執筆についての一考察)。

 もちろん、近年共同研究が増えているので、日本に限らず、また分野に限らず論文の著者数は増加しているようです(こちらこちら参照)。

 論文の著者がけっこういい加減であるという指摘は、以前からなされてきました(こちら参照)。

 知らない間に勝手に論文に名前を入れられてしまったり、あるいは上記の要件を満たさないで、いわば接待、ギフトのような感じで、著者に加えるということが常態化しているのではないかと言われています。 29%の論文にオーサーシップの不適切使用があるとの報告もあります

 ギフトオーサーシップという言葉があります(wikipediaより)。「論文の成立に直接貢献していない者が、あたかも論文の共同執筆者であるかのように名を連ねるという不正行為」で、最高記録は「露・モスクワの有機元素化合物研究所(IOC)の研究員ユーリ・ストルチコフが10年間で948本もの論文の共著になっ」たことだそうです。

 しかし、日本の医学部などでは、3年間に300もの論文の著者になっている教授もいるそうです

 論文数を増やしたいという誘惑に勝つのは容易ではありません。

研究者は,論文の数でなく質で評価されるべきであるが,現実には,論文の数が多い方が高く評価されがちである.従って,ポスドクや任期付きの研究者などが,内容に責任を持てないからといって共著者になるのを辞退するよりは,実績を増やすために名を連ねることを選ぶことを非難するのは難しい.

(出典はこちら

 STAP細胞の論文がギフトオーサーシップとは言いませんが、論文の著者とは何か、その責任とは何か、大きな問題点を提起しているように思います。

共著者は一方で,論文の内容についての共同責任を負う.実験結果の捏造などの不正行為はともかく,筆頭著者のミスや未熟による誤りに,共著者がどこまで責任を負うのか,というのは難しい問題である.特に明記されてない限り,共著者全員が論文の内容全て(不正やミスも含めて)に責任を負うのというのが国際的なルールだ.

こちらより)

 STAP細胞論文における共著者の責任をどうとらせるのか。法廷闘争もささやかれる中、今後の処分も含めた動向をみていかなければなりません。