科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

公開質問状に対する民主党からの回答

民主党から以下のような回答をいただきましたので、ここに掲載させていただきます。

質問内容に関しては、こちらをご覧ください。

【2009年8月11日追記】

質問内容も同時に掲載したほうがよいとの意見がございましたので、以下修正させていただきました。

a)科学技術研究全般について

日本の科学研究は1995年に制定された科学技術基本法、および5年ごとに策定される科学技術基本計画により重点分野が明確に示され、競争的資金が投入されるようになりました。

しかし一方で、応用研究と基礎科学の峻別がうまくなされておらず、巨大プロジェクトの実用化へのロードマップが不明確であったり、多様性を重視する基礎研究の基盤が弱体化するといった事態への懸念が聞かれます。

社会的イノベーションを目的とする応用研究と、知の多様性を確保するための基礎研究ではおのずとマネジメント方針が異なると考えられますが、この点に関して貴党の考えをお聞かせください。

回答
産学官が協力し、新しい科学技術を社会・産業で活用できるよう、規制の見直しや社会インフラ整備などを推進する「科学技術戦略本部(仮称)」を、現在の総合科学技術会議を改組して内閣総理大臣のもとに設置する。同戦略本部では、科学技術政策の基本戦略並びに予算方針を策定し、省庁横断的な研究プロジェクトや基礎研究と実用化の一体的な推進を図り、プロジェクトの評価を国会に報告する。
わが国の研究開発費は高いが、研究開発費総額に占める政府支出の割合は低水準にある。わが国は重要政策として、研究者などの育成を強力に進める必要がある。独創的研究や基礎研究には、必ずしも投下資金の回収が見込めないもの、あるいは大規模な研究投資を要するものが多く含まれる。加えて、実用化レベルにある技術の中にも、一企業では負担し得ないような巨額の投資を要し、政府主導のプロジェクトが必要となる技術が出現している。これら、民間セクターの投資が期待しにくい分野の増加に伴い、科学技術予算は、今後いっそう増額していく必要がある。

b)科学技術コミュニケーションについて

第三期科学技術基本計画には国民の意見を聞きながら研究を進めるアウトリーチ活動が盛り込まれるなど、科学技術コミュニケーションの重要性が認識されるようになっており、各地の大学院で人材育成が始まっています。

しかし、若手研究者を政策フェローとして雇用するアメリカ、大学・メディア・NGOが合同でナノテクノロジーに関する市民陪審を開くイギリスなど、制度として参加型テクノロジーアセスメント機関を持つ欧米に比べ、真に「双方向で参加型」のコミュニケーションが図られているという状況ではありません。

また育成した科学コミュニケーターの雇用も、2ー3年の短期のものがほとんどで、極めて不安定なものとなっています。

今後の科学技術コミュニケーション政策は、具体的な制度や人員配置も含めて、どのようなものであるべきだとお考えか、お聞かせ下さい。また、科学技術政策の意思決定に、こうした人材を活用する考えがあるかをお聞かせください。

回答
この問題については、今後さらに検討していく。

c)高等教育政策について

日本は世界でただ2か国、国連人権条約の高等教育無償化条項を批准していない国の一つだといわれています。

このことには、高等教育は社会的な権利ではなく「受益者負担」であるという、日本政府の(世界的に見れば特殊な)見解が反映されていると思われます。

確かに日本の実情として、たとえば国立大学が無償化されれば、多くの私立大学が深刻な経営難に陥るでしょう。

アメリカでは安い州立大学が貧困層、低学力層の教育を担い、私立名門校が奨学金を集められる優秀な学生と富裕層の教育を担っていますが、日本ではこの構造が逆転しており、東京大学の学生の世帯所得が統計的に有意に高い一方、地方の貧困家庭が子どもを私学に入れることを余儀なくされる、という状況が見られます。

これらの状況をふまえた上で、高等教育無償化条項についてどうお考えか、また日本の高等教育に対する包括的な改善案をお持ちであるか、お聞かせ下さい。

回答
すべての人が、生まれた環境に関わりなく、意欲と能力に応じて大学などの高等教育を受けられるようにする。現在、日本とマダガスカルのみが留保している国際人権A規約(締約国160カ国)の13条における「高等教育無償化条項」の留保を撤回し、漸進的に高等教育の無償化を進める。
学生・生徒に対する奨学金制度を大幅に改め、希望する人なら誰でもいつでも利用できるようにし、学費のみならず最低限の生活費も貸与する。親の支援を受けなくても、いったん社会人となった人でも、意欲があれば学ぶことができる仕組みをつくります。具体的には、所得800万円以下の世帯の学生に対し、国公私立大学それぞれの授業料に見合う無利子奨学金の交付を可能にする。また、所得400万円以下の世帯の学生については、生活費相当額についても奨学金の対象とします。今後は、諸外国の例を参考に、給付型の奨学金についても検討を進める。

d)研究者の雇用問題について

1990年代からはじまった大学院重点化とポストドクター等一万人支援計画によって、若手の博士号取得者や研究者がこの10年で大幅に増員されました。

しかし特に重点的に育成されたバイオなどの分野は社会インフラの意味合いが強く、医療、農業、資源、教育など政策的な事業の中で活かされるべきスキルがほとんどです。現在その多くは年収200ー
400万円での不安定雇用に従事し、将来不安を抱えています。またワークライフバランスの悪さから、未婚・子供なしの率が高いという調査もあります。

科学技術に対する投資は微増しているにもかかわらず、科学技術人材の雇用環境はそれに反し悪化の一途をたどっているといえます。このため博士課程志望者も減少しています。

この状況は新産業育成やイノベーション創生においても大きな問題だと思われます。貴党は、こうした問題にどのような対策を考えているのかお聞かせください。

回答
2008年の169回通常国会超党派で成立させた研究開発力強化法の趣旨を踏まえ、今後とも科学技術を一層発展させ、その成果をイノベーション(技術革新)につなげていく。
幅広く研究者や各研究機関の意欲を高め、研究の質の向上させていくためには、組織単位の補助金を増やすのではなく、研究内容そのものに着目し、研究者単位で資金を配分すべきである。
こうした施策を展開していく中で、若手の博士号取得者、研究者の雇用の確保、生活の向上に資する環境を整備していく。

e)リスク管理と科学について

内閣府食品安全委員会の委員人事に関して、吉川泰弘・東京大教授を起用する人事案が国会に提示されたが、6月5日、参院にて野党の反対多数で不同意となりました。この件に関して、日本学術会議の金澤一郎会長が、リスクの概念が理解されていないと、異例の会長談話を公表し、懸念を表明しています。

http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-d4.pdf

この件に関する貴党の見解をお聞かせください。

回答
民主党は、政府が提示した国会同意人事案のうち、食品安全委員会委員に、プリオン専門調査会の座長であった吉川泰弘氏を起用する案に不同意とした。
吉川氏を座長とするプリオン専門調査会は、平成17年10月、米国・カナダについてのデータが「質・量ともに不明な点が多い」ことや両国のリスク管理措置の「遵守を前提に評価せざるを得なかった」ことを理由に、BSEリスクの「科学的同等性を評価することは困難と言わざるを得ない」と結論づけた。しかし、その一方で、日本向けの輸出プログラムが遵守される、すなわち、リスク管理措置が遵守されると仮定した上で、両国の牛肉と国産牛肉のリスクレベルの「差は非常に小さい」と報告した。
民主党は、そもそも当該専門調査会が、こうした「科学的同等性の判断」について、?「科学的に評価することは困難」と結論づけ、明確な結論を放棄したこと、?「評価することは困難」と結論づけたにもかかわらず、両国のリスク管理措置が遵守されることを前提として、両国の牛肉と国産牛肉のリスクの「差は非常に小さい」と判断したことに重大な問題があると考えている。
まず、?「科学的同等性の判断」は不可能としたことについては、リスク評価のためのデータが少なければ少ないなりに、その少なさを考慮してリスク評価を行い、また、データが少ないためにリスク推定値が大きくなるのであれば、更にデータを収集し、少しでも確実な結論を得る努力をする必要があったのであり、こうした努力を怠った当該専門調査会には、リスク評価に対する正しい理解が不足していたものとしか到底考えられない(※)。
つぎに、?両国のリスク管理措置の「遵守を前提に評価せざるを得なかった」こと等を理由に、「科学的同等性の判断」を放棄しておきながら、リスク管理措置が遵守されるという仮定の上で、両国の牛肉と国産牛肉のリスクレベルの「差は非常に小さい」と判断したこと自体、当該専門調査会は科学的態度を欠いているものと言わざるをえない。
以上のことから、吉川氏を座長とするプリオン専門調査会は、厳密な科学的観点からのみリスク評価を行ったと主張しながら、結局、リスク評価を放棄したに過ぎず、リスク評価のあるべき姿を理解していなかった点で、吉川氏はプリオン専門調査会の座長として適格性を欠いており、一刻も早く辞任すべきであったと考える。よって、吉川氏については、食品安全委員会委員として選任することについて、不同意とすることとしたところである。

f)大学政策について

1)国立大学の法人化がスタートして5年が経過しました。この間、東大など一部の「勝ち組」をのぞいて多くの大学が疲弊した、また本来の意図とは逆に中央省庁の影響力が強まった、など、問題点も指摘されています。貴党における、国立大学法人化制度の評価と、今後の国立大学の役割について、お聞かせください。

回答
「学生・研究者本位の大学」「創意ある不断の改革を現場から創発する大学」「社会に開かれ、社会と連携・協働する大学」を目指し、「象牙の塔」から「時代が求める人づくり・知恵づくりの拠点」として大学改革を進める。その際、世界的にも低い高等教育予算の水準見直しは不可欠である。また、産業振興的な側面ばかりでなく、学問・教育的な価値にも十分に配慮を行う。
自公政権が削減し続けてきた国公立大学法人に対する運営費交付金の削減方針を見直す。また、大幅に削減されてきた国立大学病院運営費交付金については、地域高度医療の最後の砦であることや、医療人材養成の拠点、研究機関としての機能を勘案し、速やかに国立大学法人化直後の水準まで引き上げるとともに、今後十分な額を確保していく。
なお、大学入試のあり方については、大学センター試験・大学入試そのものの抜本的な検討を進める。

2)また米国の州立大学をみれば分かるように、地方分権の観点からは地方大学は地域の知的拠点としてますます大きな役割をになうと考えられます。そこで、分権における地方大学の役割についてもうかがいます。地方大学の復興を必要と考えるのか。もしそうならどのような対策を考えておられるのか、お聞かせください。

回答
地方分権を進めていく中で、地方大学の役割を高めていきたい。地方における雇用不安が高まる中で、地方の大学を先端技術・ベンチャーの拠点にするなど支援策を講じていく。