科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

松本事件にこだわる理由

 早稲田大学松本教授の研究費不正使用事件は、ようやくここにきて報道も下火になってきた。

 一応、Googleで「早稲田 松本」のキーワードで検索したニュースを載せておく。

 ともかく、私はこの問題を、日本の科学にとってエポックメーキングになるくらい大きな事件だと思い続けている。

 確かにこの手の事件は数多い。叩けば出てくる感じで、たとえば「国立天文台教授が科研費で「神頼み」、お札購入に流用」といったニュースも出てきた。

 内部告発を否定するつもりはさらさらないが、感情的なトラブルや権力をめぐる争いがきっかけになって、内部告発によって事件が明らかになるというパターンが多いように思う。松本事件が明らかになったきっかけはなんだったか。

 松本事件もそのひとつなのだ、という見方もできる。

 ただ、他の事件にない重大な点は、松本教授が総合科学技術会議の議員であり、文部科学省の不正防止委員だったということだ。

 つまり、研究費を蓄財してしまうような人を科学政策決定や予算配分の重要な地位にあててしまった科学コミュニティ、政府の責任は重大なのではないか。

 任命したのは政府だから、政府の責任を追及すればすむ、と思われるかもしれない。しかし、松本教授は科学コミュニティの代表だったわけだ。その「顔」の不正は、科学コミュニティの不信につながる。知らぬ存ぜぬで通る問題じゃない。

 「幸い」にも人の関心は移ろう。しばらくすれば人々この問題を話題にしなくなるだろう…

 甘い。人々の記憶には「研究者って、悪いことをする人なのね」という認識が生まれているはずだ。子供たちは「あんな悪い人にはならない」と思い始めているかもしれない。

 そして政府は…

 「聖域」を削ろうとしている財務省を「科学応援団」小泉首相が鶴の一声で抑えた話は第3期基本計画の投入目標25兆円のところで書いた。

 今回の事件で、財務省は巻きかえしをはかっているように思える。この事件をとらえて、電光石火で科学技術振興調整費が凍結された。

 応援団小泉首相はもうすぐいなくなる。文部科学省財務省を防ぎきれない。


 人々は、政府はもう研究者を信用しない。


 風がやむのを首をすくめてまっていても、風が収まったあとに残るのは荒野でしかない。

 今突きつけられているのは「どうせ誰でもやってるんでしょ」「あなたたちにはまかせられない」という不信だ。そしてその不信は科学コミュニティ全体に向かっているのだ。被告は研究者のあなただ。

 違うというのなら、声を大にして説明しなければならない。沈黙は上の不信を間接的に肯定したことになる。

 言い訳でもなんでもいい。研究費が使いにくいなら、この機会に言おう。みんなやっているなら、どうしてみんなやらざるを得ないか言おう。とにかく何か反応をみせるべきではないか。

 科学コミュニケーターはこの機会に情報や議論の場を提供すべきではないか。守るのではなく攻めるべきではないか。

 当然のことながら、その批判は私たちにも向く。

 このブログも含めて、この問題にこわだりつづけていきたい。