科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

科学コミュニケーションを考えた2日間

 2月14〜15日にかけて、東京方面に出張してきましたので、ご報告させていただきます。

1)2月14日

総合研究大学院大学 科学コミュニケーターワークショップ立花会員とともに参加してきました。

 立花さんは前日より懇親会も含めてご参加だったのですが、私は仕事の関係で朝神戸を出て、10時40分ごろにようやく現地着でした。到着したときは、国立天文台の縣さんが話していて、そのあと東大の高梨さんの天プラの話、京大の加藤和人さんの活動、竹沢さんのNPO法人サイエンスステーションのカフェの話などを聞きました。

 この話のなかで面白かったのが、天プラが地域の教育や高齢者NPOのネットワークのなかに混じって活動をおこなっているということで、地域に根ざしたやり方のひとつだなあと関心しました。

 そこで食事を挟んだのですが、休憩時間にサイコムニュースの読者の方から、メルマガの感想を聞かせていただき、とてもうれしかったです。

 午後からは各科学コミュニケーション講座を持つ大学の報告で、北大、阪大、日本科学未来館から発表がありました。

 北大CoSTEPは着々と活動が進んでいるようで何よりでした。来月発表会に出席させていただきますが、今から楽しみです。阪大はCSCDの小林さんが科学コミュニケーションと科学技術コミュニケーションは違う、科学コミュニケーションの多義性、研究者同士のコミュニケーションの重要性などを話されていました。また、各研究科から院生を集めて、専門家と素人という役割を解体させてしまう話は、研究者の意識を変える上で重要な手段だなと思いました。

 科学コミュニケーションの多義性の話は、小林さんから何度か聞いていますが、ここにメモしておきます。

●理科ばなれ対策としての(小林さんはこれはあまり問題ない、問題は知離れだとおっしゃっていました)
●純粋科学が社会から支持をえるための
●科学技術に関係した社会の問題を考えるための
●産学連携のための
ポスドク対策としての

 この多義性の分類は重要だなと思いました。このシンポジウムも含めて、最初の二つが語られることが多いですが、サイコムジャパンとしては、科学コミュニケーターのなかには社会問題のための科学コミュニケーションにもっと取り組む人が出てほしいと思っています。

 未来館は来年から科学コミュニケーターのプロを養成するようで、そのカリキュラムの話でした。

 最後にパネルディスカッションで、私が出席したのはここです。

 議論は結構錯綜し、やはり科学コミュニケーションは多義なのだなと痛感しました。

 出た話題は、科学コミュニケーションの評価をどうするのか、今の科学コミュニケーションは奇麗事すぎる、負の話題は扱わないのか、広報の位置づけ、科学コミュニケーターは中立であるべきか、科学コミュニケーションは事実だけでなく概念や考え方を伝えるべきだ…といったことでした。

 私が発言する機会は少なかったのですが、以下のような発言をしました。

 「科学コミュニケーションの評価で思い出すのは、今の科学コミュニケーションブームの前に、既存の科学コミュニケーションをきちんと評価したのか、そうでなければ今の科学コミュニケーションはうまくいかないのではないか」

 「広報はやはり限界があるから、一部マスコミと重なるけれど、研究機関から独立して専門性を持つコミュニケーターがもっと増えるべきではないか」

 「科学コミュニケーターは中立である必要は全然ない。悪いのは中立を装うべきだ、もっと負の話題も扱う悪の科学コミュニケーションが必要だ」


 遅く行ったということもあり、ちょっと不完全燃焼でしたね。前日から言っていろいろな方と議論したかったです。

 感想ですが、平日の昼間開催ということで、参加者が理系(工学系除く)の大学関係者が多く、企業人は立花さんくらい、技術に関係する人も少なかったなと思います。小林分類でいうと、最初の2つばかり(林さんいうところの狭義の科学コミュニケーション)ばかりが話題になってたかなと思います。それならそれでそういう話題に絞ったほうが深い議論ができたかもしれないかなと思います。

 この科学コミュニケーションが含む曖昧さは、初期段階ではいい面もあるけれど、いずれきちんと分けて議論する必要があるのかなと思いました。

 とは言うものの、問題意識をある程度共有する方々と議論をすることは楽しかったですね。

2)2月15日
 10時半から東大駒場の林さんの研究室にて、市民科学研究室の上田さん、尾内さんから、ニュースレターの記事用の取材を受けました。サイコムジャパン側は榎木、林、富田の3人が出席しました。

 最初にサイコムジャパン結成にいたるいきさつを話し(なぜ科学研究の知が行かされる社会つくりというミッションに至ったのか)、そのあとはざっくばらん、悪い言い方をすれば錯綜した議論を展開しました。個人としてインタビューを受けているのか、サイコムジャパンとして受けているのか、もうちょっと意識すべきでした。反省しています。

 話した内容は、サイコムジャパンは研究者として競争に勝ち抜いた人は対象にしてなくて、研究のポジションを得られなかったけれど、さまざまな能力を持った博士や院生に活躍の場を提供したい、市民や問題意識を持った者が研究を自らの手でできるようなインフラ整備がほしい、たとえば大学や科学館はそういう場であるべきなのではないか、専門家対市民という関係性をとっぱらってしまい、専門家にも素人という役割を経験させれば研究者の意識も変わるのではないか、サイエンスライティング講座はそういう役割もあるのではないか、市民は「生活専門家」としてとらえなすべきではないか、科学カフェは、専門家と素人の役割が固定しているからよくないのではないか、サイコムとしては、研究業界の中にいて悶々としている若手に、多彩なキャリアを含めた情報提供と、若手の独立といった政策を提言することで支援していきたい、そのために大学院進学本を作成中である、科学技術政策の問題点は、トップダウンに対するボトムアップが弱いことにあるのではないか、もっと科学政策に突っ込みを入れるNPOなどがあってもいいのではないか…といったことでした。

 頭の回転が鈍くて、質問者(上田さん)の意図を正確に理解していたか心もとないところがありましたが、楽しいひと時を過ごすことができました。

 というわけで、仕事を休んでいく価値のあった2日間でした。