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果てしなく遠いが地続き〜山中教授と小保方博士の間

この一週間は、2つの「疑義」に揺れた一週間でした。

一つは、理化学研究所上級研究員の石井俊輔博士の疑義、そしてもう1つは、京都大学山中伸弥教授の疑義でした。

石井俊輔氏が責任著者となっている論文に関する疑義を頂きました(片瀬久美子氏のサイト)
2000年にThe EMBO Journalに掲載された論文について京都大学iPS細胞研究所

山中伸弥氏の論文画像類似事案(捏造指摘ではない)

この2つの疑義に、科学コミュニティは戸惑っているように見えました。これらの疑義を小保方博士の件と比較されてはたまらない、小保方博士の疑惑とはぜんぜん違う、こんな「些細なこと」で騒がれたらたまったものじゃない…というような戸惑いです。

山中教授にいたっては、報道も及び腰のような印象を受けました。ノーベル賞を受賞した日本の宝である山中教授を批判したくないのでしょうか。

それは私とて同じです。山中教授は私が卒業した(2つ目の大学である)神戸大学医学部医学科の大先輩でもあり、iPS細胞の研究にますます邁進していただきたいという気持ちは変わりません。

けれど、ここでは事実だけでみてみます。

小保方博士も含め、3人の疑義を比較します。
小保方晴子のSTAP細胞論文の疑惑

名前 元データ 再現性 被引用数
小保方 ☓(現時点) ☓(現時点)
山中 ○(53)
石井 ○(Oncogene 46、JBC 16)

(被引用数はGooglescholarによる)

小保方博士と石井、山中両博士の疑義の間には、果てしない違いがあります。疑義の量も、質もまったく違いますし、何より両博士の論文は歴史の審判をうけ、多数の論文に引用されてきました。小保方博士と両博士との間には明らかに「境界線」があります。

小保方博士と石井博士の違いについては、中川真一博士の説明が非常にわかりやすいです。
https://twitter.com/smoltblue/status/459806755287875584

しかし、その「境界線」は曖昧です。山中博士の場合、15年近く前という、いわば「時効」を超えた疑義であるので、生データがでなくても仕方ない気もします。けれど、類似データはあれど生データがなかったのは事実です。

小保方博士と両博士の距離は果てしなく遠い。けれど地続きであると思います。

バイオ研究の現場で、画像やデータをいじってしまうということが、もしかして広く行われているのかもしれないと疑われても仕方ありません。

こうした疑義について、医療現場の「ヒヤリ・ハット」報告のように、事例を集めて検証していくことが必要に思います。たとえば、1年と期間を限定して、罪は問わないかわりに、画像の切り貼りを自己申告させる、その後は厳しく対処するという方法で、「膿を出し切る」必要があると思います。

ここは、魔女狩りのように誰かを取り上げるというのではなく、こうしたことが起きる可能性があるということを前提に、バイオ研究の現場の構造を問題にしていく必要があると思います。