科学・政策と社会ニュースクリップ

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【科学と軍事】 榎木英介

 科学技術の発展に、戦争が関わっていることは、疑う余地がないようだ。

(たとえば「戦争の科学」
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4072350168?tag=nposciencec0d-22
など)

 最近でも、たとえばGPSが軍事衛星によって成り立っているなど、軍事技術が民生化するという形で、私たちの生活に役立っているものが多い。

 そして、何より、原爆をはじめとする大量破壊兵器を作り出したのは、科学の成果だ。原爆を作り出したマンハッタン計画には、多くの科学者が関わった。

 伊東 乾氏によれば、ノーベル賞受賞者の決定も、原爆の投下に大きな影響を受けているという。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20070619/127758/

 科学が軍事にかかわったことの反省から、「科学は平和のために」という意識が科学者の中に生まれた。これが、パグウォッシュ会議ラッセル・アインシュタイン宣言につながった。
(日本パグウォッシュ会議 http://www.pugwashjapan.jp/ )

 そして、前号でご紹介したブダペスト宣言で、「平和のための科学」がうたわれる。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/11/10/991004a.htm

 戦後、日本は例外的に、軍事に関する科学が発展する余地がなかった。このため、科学が軍事、戦争と関わっていることをあまり意識することはない。多くの科学者は、いわば軍事と科学の関係について他人ごととしてとらえているように思う。

 しかし、今後はそうも言っていられないかもしれない。

愛国心の経済学―無国籍化する日本への処方箋 (扶桑社新書)
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で、もと文部科学省の官僚で、名城大学教授の磯前秀二氏は、博士号取得者の就職問題にからめて、以下のように述べている。

「例えば、国立物理学総合研究所とか国立総合防衛研究所といった大規模研究機関を創設し、そこで、人格・研究能力ともにしっかりした若手博士号取得者に、国防に沿った研究を伸び伸びとさせてはいかがでしょう。」(P131ページ)

 磯前氏は、核兵器を無力化する兵器を開発することを例に、身分を保障した上で、職に困っている若手研究者に、国防研究をさせたらよい、と述べている。

 また、別の部分では、マンハッタン計画に集い、原爆を完成させたアメリカの研究者の愛国心をたたえ、海軍から委託された原爆研究に興味を示さなかった湯川秀樹博士を、「研究費流用の疑いがある」「なんて自分本位なのでしょう。なんて愛国心が弱いのでしょう」ときびしく批判している(P152-155)。

 国防は、他国を攻撃するためではなく、国を守るためである、といえるかも知れない。抑止力として、平和維持にかかわるという人がいるだろう。

 しかし、軍事に関わることであるのは間違いない。今後、科学と軍事との関わりが増えていく可能性は高いのではないか。

 ここで問われるのは、科学者自身、科学コミュニティが、軍事技術研究にどのような態度をとるべきか、ということだ。

 もしあなたがポスドクで、任期も切れそうだ、しかし、次の職がない、という状況だったとする。そうした中、軍事研究をしてみないか、身分は保障するし高給も出す、と言われたとき、どうするか。

 ポスドクの就職対策として喜ぶか、平和のための科学と異なるので、誘いを断るか…

 以前、読売新聞の日曜科学欄にも、論説委員の方が、大学生相手の授業で、教授から秘密兵器の研究をしろ、と言われたときどうするか、という題材を提示された、という記事が掲載されていた(掲載日は失念した)。

 それのみならず、国防、軍事研究に、科学コミュニティはどういうスタンスをとるのかを考える必要がある。

 科学と軍事について、タブー視することなく、考え、議論することがいま求められているのではないだろうか。

 問題提起させていただいた。