科学・政策と社会ニュースクリップ

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未熟で自己流の研究者を生み出した構造

 昨日(2014年4月9日)の小保方晴子博士の記者会見に関して、私もいくつか取材を受けました。

 私の考えは以下です。

  • 小保方博士が勇気を振り絞って自分の言葉で語ったのは高く評価する。理研に一方的に罪をなすりつけられたようになっているので、反論は権利として不可欠。
  • その上で、発言内容には疑問が残る。
  • STAP現象があると断言したが、それは涙や言葉でいくら言ったところでだめで、科学的にきちんと検証するしかない。証拠、データ等があるなら、提示すべき。
  • あるデータを加工することは、たとえ「ねつ造」と呼ばなくても「misconduct」ではあり、重大な過失であると考える。その責任をどう取るのか。
  • 論文に問題があるなら撤回すべき。また、データに自信があるのなら撤回してやり直せるはず。
  • STAP現象200回確認は本当か。
  • 「未熟」「自己流」「不勉強」を強調していたが、そう強調すればするほど、「ユニットリーダー」の重責を担えるのか疑問が残る。
  • 「-100からの出発」というのであるならば、「未熟」「自己流」「不勉強」を修正するためにも、大学院からやり直すのが筋ではないか。
  • 共著者との日常的な関係は?共著者の方々とどのような議論をしたのか。「未熟」「不勉強」が放置された理由は?

 涙を交え、きちんと自分の言葉で語ったことで、好感が持てると感じた人は多かったと思いますが、小保方博士の人物像と、この事件をどう評価するかという部分はわけないといけません。もし小保方博士の人物が好感が持てるから、罪は許そう、となったら、割烹着やムーミンや指輪とともに小保方博士の人物が強調された最初の会見と同じになってしまいます。


 小保方博士自身と理研がともに述べていたように、小保方博士が未熟なまま博士号を取得し、自己流のまま研究を続けたことが明らかになりました。もちろん、あくまで小保方博士、理研の言い分をそのまま受け取っただけですが、それ以上の情報がないので、ここではそのように理解します。

 そうだとすると、今回の事件は、業績を出さなければならない若手研究者があせった、という解釈は成り立たないように思います。

 では、どうして未熟な研究者が自己流のまま修正されなかったのか…

 私は、ここに日本の研究環境がおかれた構造的問題点があると感じています。

 1991年のいわゆる「博士倍増計画」(文部省 大学院の量的拡大について)により大学院生が大きく増えました。一方で、国立大学では、旧帝大を中心に大学院重点化が進み、教授が増員されると同時に助手が削減されます。

 教員一人あたりの、指導すべき学生数が増加するわけです。

 私立大学に関しては、もともと一人の教員に対する指導すべき学生数は多かったので、大学院生が増えることで状況は国立大学以上に厳しいものになったと推定できます。

 一方、1996年の第一期科学技術基本計画でポスドク等1万人計画が実施され、達成されます(2009年で1万5千人)。研究プロジェクトごとに雇われるポスドクは、いわば雇用の調整弁。減った教員にかわり研究の実行部隊として重責荷を担いますが、プロジェクトが終われば任期も終了。

 また、2000年以降、国立大学は法人化され、研究者の任期制も広がり、競争的資金獲得競争は激化。研究環境はますます競争的になります。教員は申請書等の書類書きなどの膨大な仕事に追われ、多忙を極めます。そんななか、ポスドクも院生の指導にあたります。

 しかし、院生の指導にあたる「小ボス」や「中ボス」であるポスドクや若手助教は、任期があり、自分の業績をあげなければなりません。業績につながらない院生の指導にさける時間は乏しく、また、意欲も高まりません。「大ボス」たる教授も、多忙を極め、とても指導なんかできません。博士論文だってまともに読めないのではないかと思います。

 院生はろくな指導も受けず、放置されてしまう…それが「未熟」で「自己流」の研究者を生み出す要因になったのではないか…そう感じています。

 もちろん、すべて上記ストーリーで説明できるわけではありませんが(この状況で育つ研究者の多くは「未熟」でも「自己流」でもありませんし)、小保方博士の問題がなくても、上記のような大学院の状況は指摘されています。

 早稲田大学先進理工学部の博士論文280人分を調査するとの報道がありました(こちらなど)。7年間で280人というのは、1年間に40人の博士が誕生していることになります。果たしてそれだけの博士を育成できる能力があったのか、調査が待たれますし、ほかの大学院も他人事としてすますわけにはいかないように思います。