科学・政策と社会ニュースクリップ

科学政策や科学コミュニケーション等の情報をクリップしていきます。

震災4ヶ月

 メールマガジンの巻頭言に掲載した文章です。

 震災発生から4ヶ月。

 亡くなられた方に対し心より御冥福をお祈りすると同時に、被災された皆様に心よりお見舞い申し上げる。

 いまだ生々しい被災地。避難所で過ごす方々もまだ多い。昨日もM7.3の大きな余震が発生し、津波注意報が一時出された。

 そして現在進行形の原発事故。

 初春から春、そして夏へと季節は移ろってきたが、まだ完全復旧とは言いがたい状況に、心が痛む。

 科学技術への「信頼の危機」とも言われる今回の事態。震災以来の状況が、国民の科学技術への関心にどのような影響を与えたのか。

 科学技術政策研究所の調査
http://www.nistep.go.jp/nistep/about09.html

 は、まだはっきりと影響が出ているように思われないが、4月以降どのような結果になっているのか気になる。

 この4ヶ月、科学コミュニティは、科学者は、そして我々はいったい何ができたのか、何をすべきだったのか、そして今、今後何をするべきか…様々な意見が飛び交っている。

 原発をめぐる意見の対立。意見の異なった人達への容赦ない言葉。自分が「信じる」識者の信奉者となり、異なった意見を批判する「取り巻き」と化した人々。亀裂が深まっているように感じる。

 いきなり社会との境界面に放り出されてしまい戸惑う科学者。矢のように飛んでくる生々しい批判。細分化された自分の領域を深く掘り下げるようにトレーニングされていたのに、いきなり天下国家を論じろ、口を噤むなと言われて、どうすればよいか分からない。無力感に苛まされる。

 今まで研究室にいた人達が、臨床医になったような状況。「臨床科学者」とでも言うべきか。臨床はそんな簡単じゃないと、医師として思う。戸惑うのも当たりまえかもしれない。

 こうしたなか、総合科学技術会議は二つのパブリックコメントを実施した。第4期科学技術基本計画の修正と、アクションプランに関するものだ。
http://www8.cao.go.jp/cstp/pubcomme/index.html

 6月30日の科学技術政策担当大臣と有識者議員との会合議事次第
http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20110630.html

 に、第4期科学技術基本計画修正案に寄せられた意見が掲載されてい
る。500件弱。

 アクションプランへの意見募集は先週金曜日に締め切られた。

 これらの政策には、震災の影響が大きく出ている。

 科学技術政策が、震災によって大きく揺さぶられたことがよくわかる。

 日本学術会議も提言を発表している。たまたま時期が重なっただけと思われる
が、

報告「日本学術会議の機能強化について」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-21-h128-1.pdf

が発表されている。

 ただ、事業仕分けのときにあれほど活発だった学協会の動きが乏しいのも事実
であり、それが批判の対象にもなっている。期待の裏返し…

 これだけ科学者間でさえ意見が割れているような状況で、学協会が統一見解を出すのは難しいかもしれないとは思うが、関係者は社会の期待に答えていないという失望感に直接向き合わないといけない。

 科学コミュニティから自発的に様々な動きが出ているのは、ひとつの希望だと思いたい。

東京大学緊急討論会「震災、原発、そして倫理」 実況中継 (by 石村准教授)
http://togetter.com/li/159105

若手研究者の考える、震災後の未来. ――学術に何ができるのか
http://www.scj.go.jp/ja/event/pdf/123-s-0626.pdf
http://togetter.com/li/154515

 しかし、「科学者として」「科学コミュニケーターとして」出来ることを無理やり模索するのは、建設的ではないかもしれない。

 震災後のグランドデザインを提案せよ、と言われても、そう簡単にできるものではない。そしてなにより、それは上から押し付けるものではない。

 皆が物理学者や疫学者、医師と同等の専門知識をすぐに身につけることはできないだろうし、生半可な知識を振り回すのは周囲にとって迷惑だ。

 だから、無理やり、自己満足のように「専門知識」を生かした何かをやる必要はないかもしれない。そんな専門を取り払った、一人の人としてできることは山ほどある。

 まだ先は長い。震災直後に書いた「急性期」は脱しつつあるのかもしれないが、これから何十年と続く「慢性期」が待っている。

 人々と共に、地に足をつけて、進んでいきたい。