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博士の現状と遅すぎた支援

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★発行部数 2,530部(6月30日現在)
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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.928 2021年6月30日号 巻頭言
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【巻頭言】
★博士の現状と遅すぎた支援
2021年6月23日〜6月29日
カセイケン代表 榎木英介

 文科省の「カセイケン」(科学技術・学術政策研究所)から重要な資料が公表されました。しかし我々が「カセイケン」(科学・政策と社会研究室)と略称がかぶってしまいすみません。

 ナイステップと呼ばさせていただきます。

修士課程(6年制学科を含む)在籍者を起点とした追跡調査(2020年度修了(卒業)者及び修了(卒業)予定者に関する報告)[調査資料310]の公表について
https://www.nistep.go.jp/archives/47485

大学院生16%借金3百万円以上 文科省研究所が全国アンケート
https://news.yahoo.co.jp/articles/a1b0b38943a33d79c6a9e7ed892dc3885c0ec8ab

 この資料ですが、借金のことだけではなく、博士課程に進学しない理由も考察されています。

概要7. 博士課程進学ではなく就職を選択した理由
「就職先が決定している」または「就職活動中」と回答した者に、博士課程への進学ではなく、就 職を選択した理由について複数回答可で尋ねたところ、全体では、主な理由として「経済的に自立したい」(67.9%)と「社会に出て仕事がしたい」(62.3%)であった。

また、これらに続いて、「博士課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」(38.3%)、「博士課程に進学すると修了後の就職が心配である」(32.5%)、「博士課程の進学のコストに対して生涯賃金などのパフォーマンスが 悪い」(30.6%)であった(概要図表 1-7)。

2009 年調査報告においても、就職を選択した主な理由は、「経済的な理由や就職志望等(経済 的に自立したい)」、「博士課程に進学すると修了後の就職が心配である」、「博士課程に進学すると生活の経済的見通しが立たない」で、12 年後の現在も就職を選択した理由に変化はなかった。

 ナイステップは先週、もう一つ記事を発表しています。

STI Hz Vol.7, No.2, Part.11:(レポート)博士離れの要因についての一考察 | 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)
https://www.nistep.go.jp/activities/sti-horizon%E8%AA%8C/vol-07no-02/stih00260

継続性を保証されない外部資金による不安定な有期雇用の増加、研究者市場及び我が国の労働市場における低い流動性が、「博士離れ」の要因となっていることが示唆された。

大学ファンドからのペイアウトにより、学生の経済的支援だけでなく、継続性の保証されない研究費による不安的な有期雇用ではなく安定的な雇用へとつながることによって、「博士」離れを脱し、我が国の研究力の発展につながることを願ってやまない。

 もう20年も言われていたことがまだ解決されていないことに、忸怩たる思いを抱いてしまいます。

 私がNatureに大学院生の奨学金のことを書いてから20年。

Japan's funding cuts hit the future of science
https://www.nature.com/articles/35107230

金持ちだけが大学院に行けるようになり、多くの有望な学生が排除される時代が来ることを予見しています。学生に機会が与えられないだけでなく、国が研究の質を維持できなくなってしまうのです。

 これは予言ではなくて、誰もが予想し得たことです。

 もちろん20年目の今、政府はさまざまな対策を開始し博士課程や若手研究者の学生を支援しています

研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ
https://www8.cao.go.jp/cstp/package/wakate/index.html

次世代研究者挑戦的研究プログラムにおける
令和3年度事業統括および博士後期課程学生支援プロジェクト
募集について
https://www.jst.go.jp/pr/info/info1512/index.html

 アカデミストのように、独自に若手を支援する企業も現れています。

求む、2050年のミライをつくる若手研究者! 「academist Prize supported by 日本の研究 .com」
https://bit.ly/3w5WVS6

 しかし遅すぎました。20年前の若手は中年になり、いまだ不安定な立場に苦しんでいます。

氷河期世代の44歳が公務員に 100倍超の「狭き門」と支援の限界
https://mainichi.jp/articles/20210629/k00/00m/100/130000c

厳しい氷河期世代…正社員の「椅子」、コロナ禍で再び遠く
https://www.yomiuri.co.jp/column/wideangle/20210628-OYT8T50010/

社説:大学支援基金 安定した研究環境こそ(京都新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/3e2d66b2bef7ff906d4bc8c05876ed65071d9249

社説/博士号取得者の底上げ 専門性を評価する処遇が必要だ | 日刊工業新聞 電子版
https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00603358

 色々な発言や行動があり、それが若手支援策を生み出した面はあると思います。大いに評価します。

 しかし、私(49歳)前後の世代、いわゆる「就職氷河期」世代は、結局取り残され、席がないのに席を若者に譲れと言われる立場になりました。

 つまり、一生立ってろと。

 私は先に書いたNatureの投書により、研究室を辞めさせられました。それが我々の活動の前身であるNPO法人サイエンス・コミュニケーションの設立のきっかけになっているので、広い意味で言えば良い経験、きっかけになりました。

 職業研究者をキッパリ諦めるきっかけにもなり、それが今の自分を作っています。

 しかし、同世代の苦しみを今も自分ごととして感じています。なぜなら、私が今あるのは単なる偶然でしかないと自覚しているからです。

 席がないのに席とりゲームから外された同世代をいつまでも見捨てない…。それが今の思いです。

★National Academy of Sciences ejects biologist Francisco Ayala in the wake of sexual harassment findings
https://www.sciencemag.org/news/2021/06/national-academy-sciences-ejects-biologist-francisco-ayala-wake-sexual-harassment

 アカデミアの自律。

 自分を追い出したアカデミアの自由を擁護することにどう折り合いをつけるべきかと思うことがあるのですが、その条件はアカデミアは自らの問題に自ら向き合う自律性を持つべきだと強く思います。

 そうでないと、自らの自由を謳歌するために奴隷を使っているみたいなことになり、チグハグです。

 研究不正への取り組みなどをみていると、非常に心許ないのですが…。

★Killing at Chinese university highlights tensions over tenure system
https://www.nature.com/articles/d41586-021-01716-2

 中国の復旦大学で発生した殺人事件。激しい競争的環境が生み出したものでしょうか

★雇用不安で博士インフレ、20年で2.6倍に
https://www.nna.jp/news/show/2203946

 韓国。博士号取得者をめぐる状況は世界的に厳しいものではありますが…。

イノベーションの画期性と企業成長:全国イノベーション調査を用いた分析[DISCUSSION PAPER No.196]の公表について
https://www.nistep.go.jp/archives/47668

★「STI Horizon(エスティーアイ ホライズン)」誌2021夏号公開(6月25日)について
https://www.nistep.go.jp/archives/47582

STI Hz Vol.7, No.2, Part.3:(特別インタビュー)科学技術振興機構社会技術研究開発センター(RISTEX)センター長 小林 傳司 氏インタビュー | 科学技術・学術政策研究所 (NISTEP)
https://www.nistep.go.jp/activities/sti-horizon%E8%AA%8C/vol-07no-02/stih00252

ほか。

★五輪開催中の東京で「命の選別」せざるを得ない事態も 西浦博さんが分析する医療崩壊のリスク
https://www.buzzfeed.com/amphtml/naokoiwanaga/covid-19-nishiura-20210625-1

「歴史の審判に耐えられるようにすべきだ」五輪のリスク評価発表へ、専門家は模索を続けた… メンバーが明かす舞台裏。
https://www.buzzfeed.com/amphtml/yutochiba/olympics-senmonka-teigen-muto

「おもてなしどころか、国際的に恥をかく事態も」 医療崩壊も想定される東京五輪で考えておくべきこと
https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/covid-19-nishiura-20210625-2

東京五輪の中止を求めないという選択は正解だった」逃げ続ける政治に専門家が突きつけたメッセージ
https://www.buzzfeed.com/jp/yutochiba/olympics-teigen-makihara

 西浦氏はじめ専門家が活発に発言していますが、オリンピックが近づくにつれて、感染状況は悪化することが確実です。

 後世の歴史家はこの状況をどう考えるでしょうか。

★An open letter to 2021 medical school graduates
https://www.statnews.com/2021/06/27/an-open-letter-to-2021-medical-school-graduates

 パンデミック下で医師になるアメリカの医学生に向けたメッセージ。

★コロナ禍からの復興:科学だけでは足りない | Nature ダイジェスト | Nature Portfolio
https://go.nature.com/2UWySrV

 全くその通りです。

★コロナ対応「失敗」 スウェーデン国王、異例の政策批判 [新型コロナウイルス]
https://www.asahi.com/amp/articles/ASNDL2BYGNDKUHBI044.html

 各国とも正解のない対策に試行錯誤しています。

★新型コロナ: 中国製1円マスク、米国席巻 安保コストの議論置き去り
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN25ED40V20C21A6000000/

 市場経済と安全保障の両立の難しさです。

★議事次第 令和3年6月24日 - 総合科学技術・イノベーション会議 - 内閣府
https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20210624.html

教育・人材育成について

金融庁長官に中島淳一氏昇格 初の理系出身、東大工卒
https://www.google.co.jp/amp/s/www.tokyo-np.co.jp/amp/article/112815

JST、大学ファンドの運営担当責任者に喜田理事が就任と発表
https://news.mynavi.jp/article/20210625-1910116/

日本学術会議会長談話「新型コロナウイルス感染症とワクチン接種をめぐって」
http://www.scj.go.jp/ja/head/pdf/210624.pdf

科学的助言機能・「提言」等のあり方の見直しについて
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf25/siryo313-jogen.pdf

委員会等連絡会議の設置について
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf25/siryo313-renraku.pdf

カーボンニュートラル(ネットゼロ)に関する連絡会議」 設置の背景と趣旨
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf25/siryo313-carbonneutral.pdf

我が国の学術の発展・研究力強化に関する検討委員会設置要綱
http://www.scj.go.jp/ja/member/iinkai/kanji/pdf25/siryo313-hatten-kyouka.pdf

日本学術会議 6人の任命拒否理由を開示しない決定 内閣府など
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210628/k10013108011000.html

 結局任命拒否の理由は不明のままです。

★3M、科学に対する意識調査「SOSI」2021年版の結果を発表 「科学への信頼度が向上、科学の力と明るい未来に期待」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000033.000040477.html

★When is ‘self-plagiarism’ OK? New guidelines offer researchers rules for recycling text https://www.sciencemag.org/news/2021/06/when-self-plagiarism-ok-new-guidelines-offer-researchers-rules-recycling-text

★Inclusion in citizen science: The conundrum of rebranding
https://science.sciencemag.org/content/372/6549/1386

★Impact factor abandoned by Dutch university in hiring and promotion decisions https://www.nature.com/articles/d41586-021-01759-5

 重要決定。

★Fellowship highlights need for science communicators
https://science.sciencemag.org/content/372/6549/1404.1

 「マスゴミ」と批判するのは簡単ですが、研究者とメディアの双方向コミュニケーションも重要で、AAASは長年取り組んでいるわけです。

認知症薬承認に批判の声
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO73166190T20C21A6EAF000/

FDA’s green light, science’s red light
https://science.sciencemag.org/content/372/6549/1371

★Advertisers could come for your dreams, researchers warn
https://science.sciencemag.org/content/372/6549/1380

★WHO issues first global report on Artificial Intelligence (AI) in health and six guiding principles for its design and use
https://www.who.int/news/item/28-06-2021-who-issues-first-global-report-on-ai-in-health-and-six-guiding-principles-for-its-design-and-use

★「科学・工学における女性、マイノリティ、障害者」2021年報告書の発表
https://crds.jst.go.jp/dw/20210628/2021062829098/

★科学技術の活用方針策定に向け、首相直轄の体制新設(英国) |
https://www.jetro.go.jp/biznews/2021/06/c612c6170bce783d.html

★15年後の技術覇権へ、中国政府が12大学に「未来技術学部」新設。北京、清華など(36Kr Japan) - Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/articles/5f86df7f91faec2207824e1194d4cb4677518fe3

★A 21st-birthday wish for Young Academies of science https://www.nature.com/articles/d41586-021-01677-6

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.928 2021年6月30日号 巻頭言
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