科学・政策と社会ニュースクリップ

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現状に適応することと変えることの間に

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★発行部数 2,561部(8月18日現在)
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     ◆◇◆  Science Communication News ◆◇◆
         No.883 2020年8月18日号 巻頭言
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大学のオンライン授業に関する全国大学教員アンケートを実施中(締切8月31日)
https://cactuscommunications.formstack.com/…/sciencetalks_o…
新型コロナウイルス禍で日本の多くの大学がオンライン授業を導入しました。多くの大学教員・学生の方が初めてオンライン授業を経験し、現場では様々な意見が出ています。研究者・科学政策の専門家・企業と市民を繋ぐコミュニティ、サイエンストークスでは、研究者有志により大学のオンライン授業に関するアンケートを開始しました。本アンケートをもとに、YouTubeチャンネル、ScienceTalks TVで9月に大学オンライン授業の様々な論点を語る動画を配信いたします。また、希望者の方には調査レポートを共有いたします。
オンライン授業に関わるすべての教員の方々のご協力を何卒よろしくお願いいたします。
YouTubeチャンネルへの登録もぜひおねがいします
https://www.youtube.com/c/ScienceTalksJapan/

【巻頭言】
★現状に適応することと変えることの間に
2020年8月11日~2020年8月18日
カセイケン代表 榎木英介

 お盆シーズンを挟んだので、ニュースは少なめです。

 新型コロナウイルスの拡大は頭打ちの印象もありますが、警戒を緩めてはいけません。医療が逼迫している地域もあります。

★「反自粛」クラスターフェス 自粛警察とは正反対のアピール 参加する心理とは
https://mainichi.jp/articles/20200816/k00/00m/040/125000c

 先週もお伝えしましたが、こうした反自粛の動きが出ています。

 毎日新聞の写真に「反ムーンショット計画」と書かれたプラカードが写っており、目を惹きましたが…。

 反自粛を唱えることは、言論の自由であり、それ自体は権利です。

 一方、公衆衛生学的には反自粛はマイナスに働くわけで、ジレンマですね…。自粛により不利益を被り、かつ、自分自身は感染してもそれほどダメージがないと思われている若い世代に鬱憤が高まっていると言えるでしょう。

 先週も書きましたが、「新型コロナはたたの風邪」という主張は、風邪の定義をアップデートすることで受け入れられる可能性があります。

 とは言え、研究が進んでいるとは言え、長期的な影響含め未知なことも多く、この段階で楽観も悲観もできないはずです。熱中症などと死者数を比較し、新型コロナではまだ大して死んでないと強調する人がいますが、既知のリスクと未知のリスクの安易な比較は問題です。

 人類は未知のものに長く耐えられない…。反自粛が突きつけるものは決して笑って無視できるものではありません。

★Science誌記事和訳『立ち入った個人情報の質問は、就職面接にはふさわしくない』
https://sivad.hatenablog.com/entry/2020/08/16/163850

 ネット論客のSivadさんがサイエンスキャリアが掲載した記事を和訳してくださいました。

 この記事自体はすでにSNS上で大きな話題になっていますが、改めて日本語訳を見ると、この問題がいかに深刻かわかります。

「子供を産む予定はありますか?」その質問は唐突に出てきました。ある教授のオフィスでポスドクの仕事の面接をしていたとき、話題が突然、私の研究から子宮に移ったのです。私は硬直してしまい、どう反応すればいいのか分かりませんでした。自分の私生活が教授の関心事とは思いませんでした。しかし、私はその仕事に興味があり、返事をしないと採用されないのではないかと心配でした。だから、知らない人とシェアするとは思ってもみなかった私の私生活の詳細を彼に話しました。

 この記事が世界に拡散し、日本の研究環境が世界基準からいかに遅れを取っているかが広く知られるようになりました。

 当然こうなれば、優秀な外国人女性研究者が日本に来なくなると思います。

 しかし、日本のアカデミアは、優秀な外国人研究者などもしかして求めていないのではないかという疑問を抱いてしまい、ハッとしました。

 日本語という言語に守られた閉じた環境の中で、ゆるい基準で人事を回す…。

 女性研究者に突き付けられる数々の「難癖」も、優秀な女性研究者が参入されると、自分のポストが脅かされるという男性のご都合主義なのではないか…。

 基礎研究を中心に、世界と「ガチンコ」で競っている分野もありますが、一部の分野では、日本語の論文でさえ博士論文の一部になります。

★5A 名古屋大学・博士論文の盗用疑惑事件
https://haklak.com/page_2020_Nagoya_Plagiarism.html

 日本語で書かれた一つの論文が、無許可で共著者の一人が名古屋大学の博士論文の一部にしたというもので、本当だとすると納得がいきません。

 これに加え、日本語論文が博士論文の一部になることに批判の声が出ています。

 博士号の基準はもちろん分野によって異なるわけで、何もインパクトファクターのある英文誌に発表すれば良いというものではありません。

 しかし、博士号の基準が世界に通用しない日本独特の緩い基準だとしたら…。

 日本の博士号は「ディプロマミル」(学位工場)ではないかと言われかねません。

 STAP細胞事件の時、博士論文に盗用などがあっても修正さえすれば学位を剥奪されないという事例が明らかになっています。

★福島・伊達市住民被ばく論文の撤回がもたらしたもの
同意のないデータ使用、被ばく線量過小評価のミスも
https://www.47news.jp/5132105.html

 このケースでは福島県医大が筆頭著者の学位を取り消しました。

 大学をはじめとする研究者を取り巻く状況は厳しく、研究者は政策の被害者という側面が強調されることが多々あります。そういう側面もあるでしょう。

 しかし、科学コミュニティ自身が問題を抱えているのも事実で、それは中の人も含め変えていかなければなりません。

 科学コミュニティからは、現状は仕方ないからそれに適応しよう、という声がよく聞かれます。

 女性研究者に家族や子供の有無を聞くことに対し、「それは良くないと分かっているけれど、現実は家族や子供がいることが研究にかけられる時間の減少になっているのだから、仕方ないではないか」と反論する人もいます。

 でも、それだといつまで経っても状況は変わりません。

 ただ、希望はあります。まだまだ不十分ですが、少しずつですが、状況は改善されつつあります。それは、環境への適応だけを考えるのではなく、環境を変える行動をした人たちがいたからです。

 その方々は地位を奪われ、機会を奪われ、自らは研究者として「成功」しなかったかもしれません。けれど、次の世代のために、と利他の精神で行動した人たちが何十年と活動を続けてきたから、状況は変わってきているのです。

 私たちカセイケンのメンバーは、非常勤講師で大学に勤務する者はいるものの、在野の人間が主体で、自らのポストや研究費を獲得するために活動しているわけではありません。

 あくまで国民の一人として、日本の科学が健全でかつ活力のあるものであることを願っており、それが国民の、ひいては世界のための貢献につながると思っているからです。

 ただ、私たちだけでは、外側からアプローチするだけでは、状況は変わらない…。利他の心あるアカデミア内部の人たちとも協力して、ぜひこの状況をかえていきたい…。

 新型コロナウイルスの蔓延の中なかなか難しい部分もありますが、状況を変える為の行動を企画中です。決まりましたらこのメルマガでご紹介させていただきます。

★「世界的知性」スティーブン・ピンカーが、米国「リベラル」から嫌われる理由
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74895

しかし、進化心理学で社会問題を扱うことには、「文化や社会制度が原因ではなく、生まれつきの傾向が原因であるのだから、批判しても仕方がない」と現状維持をうながしたり、「自然なことなのだから、正しいことなのだ」と正当化したりする、というイメージがつきまとう。

 この辺り、今の日本の研究環境が置かれた状況にも通じるように思ったりもします。

★Five tips for boosting diversity on campus
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02367-5

 多様性の重要性。

Identify sources of recruitment.
Consider the speaker roster.
Re-evaluate physical spaces.
Celebrate small wins of everyone in the lab.
Gather educational materials.

 の5つ。

Fed-up archaeologists aim to fix field schools’ party culture
https://science.sciencemag.org/content/369/6505/757.full

 野外で活動する考古学という分野のカルチャーに問題ありと…。酒飲み、セクハラ…。

★Coronavirus lockdown lessons from single-parent scientists
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02387-1

 一人親の研究者の苦しみ。

★‘We’re losing an entire generation of scientists.’ COVID-19’s economic toll hits Latin America hard
https://www.sciencemag.org/news/2020/08/we-re-losing-entire-generation-scientists-covid-19-s-economic-toll-hits-latin-america

★全国立大に輸出管理の専門部署 86校、先端技術の海外流出防止
https://www.chunichi.co.jp/article/102975

先端技術者の信用度に資格新設へ 中国への警戒感にじむ
https://www.asahi.com/articles/ASN8D76FBN8DUTFK003.html

研究現場は中国頼み 技術流出防止、規制強化に消極的
https://www.chunichi.co.jp/article/103173

 もはや中国の方が進んでいるのではないか、という声も聞かれますが…。

★大学入試に関するweb意見募集について
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2020/mext_00032.html

 文科省

★提言「生活習慣病予防のための良好な成育環境・生活習慣の確保に係る基盤づくりと教育の重要性」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t293-3.pdf

報告「主権者教育の理論と実践」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-h200811.pdf

提言「外国人の子どもの教育を受ける権利と修学の保障――公立高校の「入口」から「出口」まで」
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t289-4.pdf

 日本学術会議

★「エスキモー星雲」など天体の通称、NASAが見直し表明
https://scienceportal.jst.go.jp/news/newsflash_review/newsflash/2020/08/20200814_01.html

★Senior U.S. lawmaker wants National Academies to scrutinize racism in science
https://www.sciencemag.org/news/2020/08/senior-us-lawmaker-wants-national-academies-scrutinize-racism-science

★Signs of ‘citation hacking’ flagged in scientific papers
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02378-2

 査読者が自分の論文を引用文献に入れろと強要する問題。

★Universities scrub names of racist leaders — students say it’s a first step
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02393-3

★米国では大学教員が大量解雇、新型コロナが加速する大学再編
https://webronza.asahi.com/science/articles/2020080400006.html

 人文系の教員が苦境に。

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“Science Communication News”
[SciCom News] No.883 2020年8月18日号 巻頭言
【発行者】一般社団法人科学・政策と社会研究室(担当 榎木英介)
【編集者】Science Communication News編集部
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