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AAAS 年会に行ってきました(その3)

横山 雅俊(NPO 法人市民科学研究室・理事)
    CQD01677@nifty.ne.jp

AAAS 年会に行ってきました(その3)

 先般のメールマガジンサイコムニュース '14 年 1/27 付号)で述べた通り、さ
る 2/13〜17 にわたって米国シカゴで開催された全米科学振興協会(AAAS;American
Association for the Advancement of Science)の年次総会に行って来ました。
http://meetings.aaas.org/

 その模様を4回の連載でお送りしています。
 第3回の今回は、ポスター発表、プレスゾーンの様子、ファミリーサイエンスデイ
の模様をお伝えします。

 まずは、ポスター発表の様子を。
 ハイアット会場のパープルゾーン(地下3階)にて、会期中の2〜4日目に開催さ
れました。ポスターの会場とファミリーサイエンスデイの会場は隣接しています。
 会期2日目は会場内移動の都合によりパス...。
 会期3日目は、学術セッションをハシゴした後に会場へ到着したせいか、それでも
午後4時半過ぎ(プログラム編成上は午後5時まで)だったのですが、すでに撤収開始
の風情...。まだ貼られていたポスターの一部を記録に収めたり、一部で質疑や観覧
などを少しは出来ましたが、全体を存分に無る事は出来ませんでした。
 願わくば、日本の学会みたいに長く貼りっぱなしにしてもらって、プログラム上の
時間帯の一部を質疑応需義務の時間にするとか、見たい人間のために工夫してくれな
いものか...?
 それでも、1件だけ質疑らしい質疑が出来ました。ポスターの主は米国の大学の博
士課程に在籍する日本人学生の方。彼の専攻は植物の分子生物学。題材は植物のゲノ
ム研究ではおなじみのシロイヌナズナで、DNA の複製に関わる酵素(DNA ポリメラー
ゼ II)のリン酸化制御に関する研究でした。昨今はやりのオミックスもしっかり取り
込まれていて、その網羅的な解析を経てやがてはシステム生物学に行くのかな...と
いう感じでした。
 会期4日目の分は、それなりに見ることが出来ました。ただ、タイミングの関係で
日本人の関係者と話をする時間がやや多くなったかも...。
 4日目の分も、一つだけご紹介します。ウェイン州立大学医学部の方によるポスタ
ーで、(-)-エピカテキンが癌細胞の放射線に対する感受性を選択的に増すという話で
した。茶由来カテキン類の健康増進効果に関する研究は世に多々あり、分子レベルの
研究も進んでいます。ただ、MAPK の抑制から活性酸素種の産生を経て云々という仮
説は明確でありながらも、実際に(-)-エピカテキンが結合する先は、発表者曰く"
orphan receptor" だということでした。
 他、日本の国立科学博物館のポスター発表があったり、日米欧の各大学による教育
内容の自己評価の発表があったりなど、内容はまさに多様。時間と体力があれば、も
っとポスターを沢山見たかったところです。

 ついで、プレスゾーンの様子を。
 報道関係者専用のスペースが、第3会場 Swissotel(→これで正しい綴りだが、発
音すれば「スイソテル」ではなく「スイスホテル」に聞こえる)の2Fに設けられて
おりました。その全体は、関係者向けの受付、関係者の作業ゾーン及び広報誌置き場
、インタビュー室、公式会見場、会議室、そして大量のパソコンが居並ぶ作業スペー
スから成っていました。期間中、Facebook から英文で1回、和文で何度かの情報発
信をしていますが、その作業は左記のパソコン作業スペースから行っています。
 会議室では、期間5日目を除く毎朝7時半過ぎから朝食会が実施され、スポンサー
となる研究機関や AAAS の各種プレゼンが行われる中、ホテルの用意した朝食を摂る
ことが出来ました。朝食会の主催者は、初日が AAAS、2日目が EU欧州委員会)、
3日目がドイツのヘルムホルツ協会、4日目がレメルソン財団と、蒼々たる組織が並
んでいます。
 朝食会以外でも、報道関係者向けの懇親会はしばしば実施されました。初日夜には
Swissotel の地下宴会場にて交流会。2日目夜にはシカゴ Field Musiem(NFL シカ
ゴ・ベアーズの本拠地 Soldier Field に隣接)にて AAAS とカブリ財団の共催によ
るジャーナリズム賞授賞式及び懇親会。3日目夜には会場至近の別の高層ビル最上階
(→80 階! そこからミシガン湖やシカゴの市街地全体があまねく展望可能!)に
て科学ライター向けパーティー。4日目夕方には南洋理工大学シンガポール)によ
る“ワインとチーズの懇親会”...等々、実に盛り沢山。人的交流や情報交換などの
機会には事欠かないほどでした。
 なお、このプレスゾーンですが、報道関係者向けと称しつつも、大手マスコミ関係
者しか入場出来ないわけではなく、大学や研究機関の広報担当者、NPO 法人や各種公
的機関の広報担当者、フリーランスの記者や科学ライターなども事前又は当日に登録
すれば入場して利用できます。

 最後にファミリーサイエンスデイの模様を。
 日本のサイエンスアゴラがそのモデルにしたイベントというだけある、AAAS 年次
総会。そのなかで一見最も目立つところにあるのが、やはりこのファミリーサイエン
スデイ(以下 FSD と略記)と言えるでしょう。
 会場は、第1会場ハイアットの地下3階ブースゾーンの奥で、かなりのスペースが
割かれています。とはいえ、日本のサイエンスアゴラと比較すると、そのエリアの大
きさは未来館1階の“にぎわいゾーン”の3分の1程度で、ブースそのものの大きさ
アゴラのブース1〜2小間分と、比較的小じんまりした感じです。その全体は、米
国内外の大学や高校、各種学会、大学や高校の各種団体、動物園などによるブース出
展と、後述するステージ企画から成ります。
 ブース出展の箇所では、研究機関のアウトリーチやお楽しみ系出展の見せどころに
は一日の長を感じましたが、有志や草の根レベルの出展では、正直申し上げて日本の
方が内容的なレベルは高いかなと思いました。そのあたりは、日米の初中等教育の水
準の違いが反映されているのかなと。
 ブース群の奥にはステージも組まれていて、「科学者に会おう」
https://aaas.confex.com/aaas/2014/webprogram/Session7585.html
...というステージ企画が行われています。会期3日目(FSD 1日目)のステージ企
画を見に行った時には、すでに最後の登壇者の時間でしたが、一線級の素粒子物理学
者が一般の聴衆向けに科学の魅力や意義を語り、聴衆とも質疑の時間を持つという、
かなり本格的な大型サイエンスカフェという感じの企画でした。
 しかも、最前列にいたお子さんからの質問には、ステージ上から身体を屈めてその
お子さんの目線に立って受け答えするなど、その誠意ある姿勢はかなり印象的なもの
でした。
 日本の科学コミュニティでは、アウトリーチ活動や一般向けの書籍出版を疎んじる
向きがまだまだ支配的ですが、このステージ一つ見るだけで、日米の彼我の差をまざ
まざと見せつけられた感じです。

 FSD 2日目には、出展者に簡単なインタビューなど試みてみました。
 お伺いしたブースは3ヶ所。問うた内容は、大きく以下の2つです。
問1)出展に際して何か工夫していることはありますか?
問2)科学には陰と日向の両面があると思いますが、そのことについて何か考えると
ころはありますか?
 ブースの概要とともに、答えの概要(であるものとこちらが受け取った内容)を添
えておきます。こちらの理解力の問題もありますゆえ、文責は筆者にあります。
<その1:アメリカ植物学会>
 メンデル遺伝学の仕組みを、実際の植物を使って見せるような展示をしていました
。なお、展示されている生きた植物は実際に触ったり、葉や実を取ったり出来ました
。インタビューには、ブース責任者の学会の重鎮と思しき男性が応じてくれました。
答1)一般の市民に植物学の重要性をよく理解してもらえるような展示を心がけてい
ます。その一環としてメンデルの法則を体感出来るゲームや、実際の生きた植物を取
り入れています。
答2)科学には、確かに市民にとって受容出来る部分と出来ない部分があると思いま
す。ただ、それは主に大人向けにするような話で、子供向けの内容としては、今回は
理解増進や魅力を重視しました。
<その2:ミシガン工科大"Mind Treckers">
 日本でいう東大の CAST さんみたいな学生団体で、全米や世界各地で科学教室や科
学ショーをしているのだとか。空気砲や身体をくるむシャボン玉などの体験型実験シ
ョーを展開していました。インタビューには、実験をしていたスタッフの男性が気さ
くに応じてくれました。
答1)主に初中等教育を受けている子供たちに対して、科学の楽しさを実感してもら
えるような展示や演示を心がけています。
答2)大変興味深い論点ではありますが、そうした「正負」は単純な両極端でなく連
続なグレーであって、微妙なものでしょう。そうしたことに関心を持つ子供たちは、
殆ど居ないと思います。
<その3:リンカーン公園動物園>
 動物のフン(を樹脂で被覆したもの)と動物の写真を並べて、どの標本がどの動物
のものかを当てるクイズなどをしていました。インタビューを当座に居た女性スタッ
フに声をかけたら、奥から別の女性(出展責任者であり、動物園の学芸員Ph.D
有者)が出てきて、取材に応じてくれました。
答1)教育の一環として、ありのままのものを観察してもらうことを重視しています。
答2)科学とは考えることであり、学ぶことが重要だと考えています。科学のそうし
た両面性に感受性のある人は高校生以上だとわりと居ますが、低学年の子供たちでは
あまり居ないです。

 次回の最終回では、全体の総括と AAAS そのものの紹介を踏まえて少々私見を述べ
たいと思います。